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転生悪役令嬢は何も知らない  作者: 桜祈理
裏側 アンドレアのひたすら一途な日常

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14/16

 ステラが入学してきて、二か月が経った。


 俺とセウェルスが四六時中張りついて目を光らせているというのに、あの聖女もどきはなかなかボロを出さない。意外にしぶとい。


 陛下や宰相には、顔を合わせるたびに「やり方が手ぬるいのでは?」とか「大口を叩いたくせに不甲斐ない」などと、ちくちく小言を言われる始末。挙句の果てには、「聖女候補が魔物の王の復活を目論んでいるなどという、虚偽情報を掴まされただけでは?」なんてことも言われてしまい、本当に立つ瀬がない。


 ただ、学園では厚顔無恥女に振り回され、苛立ちをこらえつつ魔石について探り続ける一方で、学園から帰ればリーチェが「お疲れ様でしたね」と言いながら俺の疲れを隅々まで癒してくれる、夢のような毎日が続いている。なんというかまあ、控えめに言って天国である。


 いや、ほんと、俺の婚約者、マジで天使なんですが。


 しかも、リーチェが王宮に滞在するようになってから、俺たちの間にあった薄く透明な壁がいつのまにか消え失せていたのだ。


 あれほど頑なに警戒していたはずのリーチェが、気づけばやっと、ようやく、俺の想いを素直を受け止めて、心から微笑んでくれる。


 少しずつではあるけど、俺に心を開いて、俺の言葉をまっすぐ信じてくれて、安心しきったような表情を見せてくれるのだ。



 これ以上の幸せがあると思う!? いや、ないから……!!



 てか、幸せすぎて、もしや何かのフラグなのか……? と不審に思ってしまう。やばい、俺こんな幸せの絶頂で死にたくないんだけど……!!



 そんな、ある日のことである。



 ランチの時間になり、いつも通り嫌々三人でカフェへと向かう途中で、ステラがトイレに寄りたいと言い出した。


 俺とセウェルスはとにかく一瞬でも解放されたくて、「どうぞどうぞ」と言いつつ先にカフェへと向かったのだが、待てど暮らせどステラが戻ってこない。


 渋々様子を見に行ったセウェルスは、戻ってくるなり俺に耳打ちをした。


「殿下、聖女もどきが乱心した模様です」

「は? 『乱心』はいつもだろ」

「理由は不明ですが、カフェの入り口近くでベアトリーチェ嬢を呼び止め、騒ぎになっているようなのです」

「なっ――! それを早く言え!!」


 慌てて席を立って駆けつけると、そこには一見落ち着き払った様子のリーチェと、眉を吊り上げて激昂する聖女もどきステラがいた。


 ステラはなぜか自信ありげに、リーチェが俺に相応しくないとか、俺たちが結婚しても幸せになれるはずはないから婚約を解消してあげてとか、聞いているだけでぶっ飛ばしたくなるような台詞を堂々と叫んでいる。


 はっきり言って発言のすべてが見当違いなうえに筋違いだし、全体的に何を言ってるんですかね? という苛立ちと困惑しかないのだが、リーチェもそれは同じらしく、淑女然とした表情の裏側にうっすらとした不快感が見て取れる。


 と思ったら、そのリーチェが徐に口を開いた。


「私がアンドレア様に相応しいかどうかを決めるのは、あなたではないと思いますけれど?」


 そう言って、自分が常日頃からどれだけ俺に愛され、どんな愛の言葉をささやかれているのか、涼しい顔でさらりと暴露しちゃうリーチェ。


 俺がリーチェを溺愛していることは周知の事実だし、俺自身隠す気もないから別にどうということもないけど、面と向かって言われたステラにとっては思いの外ダメージが大きかったらしい。


 途端に逆上し、リーチェに向かって勢いよく吠えまくる。


「な、何よ、偉そうに! 本来殿下と結ばれるべきなのは、この私なのよ! それなのに、殿下との距離が一向に縮まらないのはあんたが邪魔立てしてるからでしょう!? あんたなんか、いずれ殿下に断罪されて捨てられて、あっけなく死ぬくせに!」

「……え?」

「あんたが婚約解消してくれなくても、こっちには切り札があるんだからね! 魔物が復活したら、一番にやられて死ねばいいのよ!」

「――――ステラ嬢」


 俺はすかさず、リーチェを守るようにして前に進み出た。


 驚いたステラは「で、殿下……!」とつぶやきながら、一、二歩後退る。


「今の話はどういうことなのか、説明してくれないかな?」

「……え? な、何がですか……?」

「リーチェに向かって、『魔物が復活したら』と言っただろう? どういう意味かと、聞いているんだよ」

「……そ、それは……」


 有無を言わさぬ俺の圧に、ステラはおろおろと目を泳がせる。


 でもようやくボロを出した愚かな獲物を、この俺が逃すわけはない。


「数百年前の聖女と剣聖が魔物の王グウェルを封印して以降、この国で魔物の存在が確認されたことは一度もない。それなのに、どうして『魔物が復活したら』なんて言葉が簡単に出てくるのかな?」

「い、いえ、それは、あの……」

「もしや君が、魔物の復活を目論んでいた張本人ということか?」


 やや強引に鎌をかけると、ステラはわかりやすく絶句した。



 奇しくもその反応が、すべてを物語っている。



 俺は内心ガッツポーズをしながら、問答無用でステラの身柄を拘束した。ステラは必死に抵抗していたけど、逃げられるはずもない。


 なんとか悪党の尻尾を掴めたことにホッとして、俺は後ろを振り返った。


 リーチェは突然の捕物劇に多少面食らった顔をしていたものの、俺が名前を呼ぶと安堵したように柔らかく微笑む。


 あれだけ手こずっていたというのに、ステラの悪事を暴くきっかけをもたらしたのは他ならぬリーチェだったなんて。



 さすがは、俺のリーチェ。俺の女神……!



 そんな想いが暴走した俺は、気づいたらリーチェにキスしまくっていた。


 おまけに、これからあのステラを徹底的に追い込むという面倒な仕事が待っているのだ。だったら、今のうちにリーチェ成分を最大限摂取しておきたい。そう思っていたのに、あっさり止められたのはちょっと納得がいかなかった。






◆・◆・◆




 


 ステラはそのまま王城に連行され、俺が直々に取り調べをすることになった。


 ステラの企みについて最初に主張したのが俺だったからというのもあるが、ステラ自身が「アンディ殿下にしかしゃべらないから!」と言って聞かないからである。めんどくさ。


 仕方なく、俺はセウェルスと一緒に王城の地下牢へと向かった。


 俺たちの顔を見た途端、ステラはパッと目を輝かせる。


「殿下! 助けにきてくれたのですね!」


 んなわけないだろ。と言いたいところだけど、なんとかぐっと我慢した。


 ここへ来るにあたり、俺とセウェルスは考えたのだ。とにかくステラには、正直にすべてを話してもらわなければならない。


 そのために必要なのは、低姿勢である、と。


「ステラ嬢」


 俺はわざとらしく険しい顔をしながら、地下牢の前に立った。


「とても信じられないことなんだけど、君には『魔物の王グウェルの復活を目論み、この国を恐怖と混乱に陥れようと画策した』という嫌疑がかけられているんだよ」


 俺の言葉に、ステラは間髪を入れず答える。


「ち、違います! 私はそんなこと企んでいません!」

「そうだよね。俺たちもそう思っている。でも実は、とある筋から秘密裏に情報提供があってね。おまけに、さっきの発言だ。陛下や宰相たちは、君がグウェル復活を目論んだ張本人だろうと決めつけているうえ、とっとと厳罰に処すべきだと主張しているんだよ」

「違うんです! 本当に、私じゃないんです!」

「うん、わかっている。だから、君の嫌疑を晴らすためにも、知っていることはすべて正直に話してほしいんだ」


 ここぞとばかりに必殺王太子スマイルを繰り出すと、今にも泣きそうに張り詰めていたステラの表情がだらしなく緩む。


 恐らく、ここで俺を味方につければ疑いを晴らすことはもちろん、俺との距離を縮めて筋書きをもとに戻すことができるのでは、とでも考えたのだろう。



 愚かすぎる。



 思わず漏れそうになったため息をすんでのところで押し留め、俺はステラを見返した。


「どうだろう? 話してくれるかな?」

「もちろんです! 知ってることは、全部話します!」


 ステラは勢いよく身を乗り出して、一息に叫んだ。


「グウェルの復活を目論んでいたのは、王都神殿の神官長です!」









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