絵描きの彼と高飛車な私 1話
雨季も少し終わりにかかり初夏がはじまる。
私こと宮島彩乃はある事に悩んでいた。
教師をしている私は、生徒にも同僚にも自分で言うのもアレだが慕われている。
「宮島先生〜!この英文が分かりません。」
「あら……偉いわね、分からないことを認めてくる姿勢は素晴らしいわよ。英語って単語ごとで覚えるよりもフレーズで覚える方が良くってね……。」
「あ!本当だ!かなりシンプルになった気がする!先生……いつもありがとう!」
「いいのよ、また困ったら聞きなさい!」
「はい!」
可愛い生徒がニコニコしながら部屋を出ていく。
きっと、この子は期末試験でここをやっても乗り越えられるだろう。
「すごいですね、宮島先生。こんなに早く生徒の悩みを解決するなんて。」
「まあ、特徴見てですよね。」
「ほう。」
「あの子は要点をまとめると早いのですが、どうにも細かくメモを取りすぎて本質を見つけるのが少し遅れる傾向にあるんですよ。だから聞きに来るんです。私は敢えて抽象的なイメージをつけて、そこから具体的なコツを教えてあげてるんですよ。」
「へ……へえ。」
ああ、多分伝わってないな。
「まあ、パソコンで言うと1度ファイルを圧縮して、そこから解凍するようなものですかね。先生若いんで青鬼とかダウンロードした時もそんな処理しませんでした?」
「ああ!した、しました!宮島先生って頭いいですね!勉強になります。僕も生徒に試してみますね!」
「人にもよりますけどね。」
私は、学生の頃はキャバ嬢だった。
そのせいか人を見る能力に長けている。
例えば全身ブランドの男はプライドが高く、手持ちの金は少ないから承認欲求を満たした上で安めの酒でコスパ良く飲んでもらうとか。
逆に素朴なおじいちゃんは金を持っていて、何にお金を使うかすごく考える。
時間も考えるから、相手の本質を的確に見抜いてあげないといけなかったり……今でも頭に攻略情報が網羅してるくらいには人間観察は大切だと思っている。
話を戻そう。
私、宮島彩乃はどんなことに悩んでいるのか。
「明日、大介くんと会う日……か。」
私は、初恋の相手に明日会うのだった。
私は元々イギリス人のクォーターなのと、くせっ毛をネタにされる控えめな女の子だった。
そんな、芋臭かった私を真剣に絵に描く彼に気がついたら惚れていた。
でも、結局接点がないまま卒業……彼とはもう10年以上も顔を合わせていない。
百戦錬磨のキャバ嬢だったくせに、今私は彼の攻略を考えてたまにAIとかに聞いたりしては、惰性に終わる日々を送っていた。
☆☆
キーンコーンカーンコーン……
「じゃあ、先にあがります。お疲れ様です。」
返事は無かった。
いや、どちらかと言うとみんな声が小さかったのだ。
教師は声を張る仕事。
そして、生徒には毅然と手本にならなきゃいけないから、職員室はある意味回復エリアのようなものでスイッチがオフになった教師たちは黙々と作業をしていた。
雨上がりの夕陽をみて、私はコーヒーを片手に歩いていた。
それを見て、10年前を思いだす。
人は……特に日本人はある意味で村社会。
少しの違いも否定的に捉え、攻撃的になっては何かを満たしてるようだった。
髪の色が違うだけなのに、すこしくせっ毛なだけなのに、それなのにそれを異形と捉えてしまうのだから恐ろしい。
そんな私自身を好きにするきっかけをくれたのが、明日会う青木大介くんだった。
河川敷に座り込み、騒がしい風を浴びて芝生が波のようにうごめいている。
コーヒーが妙に苦味が強くて疲れた身体が癒されるようだった。
インスタを見て、彼との空白の10年をゆっくりと追う。
色んな絵があった。
これは、沖縄の海だろうか?
白い砂浜とエメラルドグリーンの海が美しい。
他にも、どこかの山での絵があり、雲から神々しい陽光を見事に描いている。
そして、昔の私の似顔絵を油絵として描いていて私はそれを見る度にドキドキしていた。
あの頃の弱々しい私だけど、どこか儚げで美しい。
私をみんなと違うの異物ではなく、人として見ていてくれたのだ。
何度も……何度も昔の私の絵を見ていた。
きっと、今は素晴らしい画家になっているのだろうか?
美術館に飾られて、何かしらの賞も取ってるのかもしれない。
それだけ大介くんの絵は生きていたのだ。
サァー……
程よく強く、涼しい風がまた河川敷の芝生を揺らす。
コーヒーの紙コップは既に逆さまにしても垂れない程に乾いていた。
私も、あれから大きく変わった。
彼は今……どこで何をしているのだろう。
風になびいた絹のような金髪を抑えて、私は夕陽を眺めていた。
何か、良い事が起こる気がする。
私は伸びをしてから芝生を立ち上がりゆっくりと歩き出していた。
そういえば……口座と連携してるポイントが溜まっていたな。
今日は、本でも買って帰ろう。
成長した彼に胸を張れるよう、心に余裕を持たせるために。




