絵描きの彼と高飛車な私 2話
その四角いビデオショップに行くのはかなり久しぶりだ。
いつもは、駅とか書店で買うのでここに行くのは尚更久しぶりである。
私はその店に入るとあまりの変わりように少し驚いて辺りを探す。
やっぱりビデオの割合は減っている。
これはサブスクで映画とか見れるようになったからニーズが減ってるのかも知れない。
もうこの業界で唯一見れるのはジブリくらいかもしれない。
他にも、本のコーナーもあるのだけどその他にもある売り場が目に付いた。
「俺のターン、ドロー!」
若者が集まり、昔どこかで聞いたようなセリフでカードゲームに力を入れていた。
他にも……雑貨に、プラモデルとその道具まで売っている。
何年も行かないうちに、変化し続けてる。
そして、様々なニーズに答えようとしていてこのお店が結局なんのお店か忘れてしまうほどだった。
でも妙にそれが自分自身の投影でもあるような気もして、少し居心地が悪い。
私はしばらく悩んだ後に気になってた本を買ってレジに並んだ。
……?
男性の店員さんがいるのだけど、私に気が付かない。
なにやら、なにかの入力作業を頑張ってるようだけど、声掛けちゃまずいかな。
少し待っているのだが、その人は私に一切気が付かない。
さすがに痺れを切らして声を変えた。
「あの……レジ……いいですか?」
「あ!す……すみません。」
男は猫背でどこかひ弱で自信がないように感じた。
年齢は……同い年くらいだろうか?
そして、慣れない手つきでレジを操作して進める。
「あの……ポイントカード使いたいんですけど。」
「え……やべ、これどうするんだっけ?しょ……少々お待ちください!」
…………。
どうしよう、流石にイライラしてきた。
仕事なのにいい加減すぎないかしら?こういうのって接客マニュアルとかあるでしょ!
そして、私たちよりはるかに若い女性を連れてきて、操作を代わってもらっていた。
な……情けない。
もう怒るにも怒れなかった。
「ごめんなさい!お待たせしました!」
「あ……はい。大丈夫です。」
怒るな。
怒るな私、そう……些細なことだこれは。
無事に決済を終えて溜まったポイントを綺麗に使い切ってから、私はこの男に見向きもせずに出ていった。
「あの……ありがとう……ね?」
「もう!何回目なんですか、社会人なんですからメモくらい取って下さいよ!あと敬語くらい使いましょ!」
「すみません……。」
多分20位の女の子に怒られてる様子を見て、芯のない男ってこうにもなるのかと少し見下したように見てしまった。
でも、怒らずによく耐えたと思う。
怒りを抑えるアンガーマネジメントみたいな本も買えば良かったけど、私にはもうそんな気力は無かった。
もうここに来ることはないだろう、情報量とやる気のなさでどうにかなりそうだった。
☆☆
お風呂に入り、今日は昨日作ったカレーをドリアにアレンジする。
そして、リラックスした私は本を読んでいた。
内容は面白い。
小説なのだけど、その中にビジネスの理論などが書いてあって仕事でも活かせそうなテクニックばかりだ。
特に私は仕事中はいつも神経を張り巡らされてるから、時に逆波の時には力を抜き、追い波の時にヒレを泳ぐアオウミガメの話には感銘を受けた。
そうだ、今日は何故あの青年にヤキモキしていたのだろう。そこに対しての感情はまさに逆波そのものだ。
明日、この言葉を意識して一日を過ごそう。
そう思って、静かに私は眠りについた。
少しだけ暑くなってきたのでほんの少しだけ、クーラーを使って部屋が冷え込むと。
ぐっすりと心地よく安らいでいくようだった。
☆☆
そして、今日私は初恋の人に会う。
青木大介くん。
あの絵だけに全力を注いで、目の前のものを見ていた彼は素敵だった。
彼がどんなに素敵になってるのだろう。
少し有名な画家になっていて、もしかしたら賞を撮ってるのかもしれない。
外国の街のど真ん中で描いてるのも似合ってそうだ。
私は、待ち合わせ場所に立っている数分でもめちゃくちゃ緊張していた。
あったら何話そう。
あの素敵な彼に見合う私になってるのだろうか?
そんな期待に胸を馳せているのだが、待ち合わせを過ぎても彼は来ることはなかった。
「え?遅刻?」
少し……私は肩をすくめる。
まさかドタキャンなんてことはないだろうか?
しばらくするが、大介くんらしき人は居なかった。
しばらくすると……
「ごめん、お待たせしました!」
という連絡だけが来る。
良かった、少しだけ安堵して辺りを見渡すが……やはり彼は見当たらない。
その代わり、ある人物がいた。
「あれ……いない。」
こ……この人は……!
ビデオショップの店員だ!!
私に気が付かず、レジの対応ができなくて20の女の子に怒られてた人が何故かここにいた。
そして……
「ん〜、違うな。」
私を目にしても臆することはなかった。
というか、気にすらしてない。
そう……昨日のことなのだが覚えていなかったようだった。
そして、彼から連絡が来る。
「ごめん……見当たらない。特徴を教えて欲しい。」
私は、気がどうにかなりそうだった。
そう……ミステリアスでひとつのキャンバスに向き合う彼は紆余曲折を経て今目の前にいる男に変身していたのだ。
う……うそ……でしょ。
私の青春が床に落としたステンドグラスのごとく崩壊する。
まだ確信ではないが、声をかけてみる、
「青木……大介くんですか……?」
「え……。」
男は、まっすぐこちらを向いていた。
「僕が青木大介ですけど……宮島さん……ですか?」
男の顔をよく見たら、間違いなく大介くんだった。
私は、突然きた逆波に大きく流されそうだった。
どこまでも……遙か果てまで。




