スケベな親友と雨のアバンチュール 8話
キーンコーンカーンコーン……
学校が終わり、俺は肩の力が大きく抜けた。
飯田の姿はもうなかった。
あいつ、俺を避けてる以前にそもそも忙しいのだから時間に余裕があるときに謝りたい。
とにかく、今日は疲れた……そう思った時にLINEの着信がなった。
相手は……水無月さんだった。
「もしもし。」
「先輩、お疲れ様です。今何してますか?」
「今は……これから帰るところだよ。」
「あの……よかったら、これから会えませんか?」
元々、俺が会いに行こうと思ったけど逆に誘われた。
そうだ、飯田以前に水無月さんに謝らなきゃいけないからちょうど良かった。
「おっけ、校門前で待ってるよ。」
その後、水無月と電話を終えて……俺はこの事態を収束へと向かうのだった。
☆☆
「よう。」
「あ!先輩!お疲れ様です。」
水無月さんは相変わらず慣れてないお辞儀をした後に近寄ってくる。
互いに視線は……別の方向を向いていた。
「ど……どこ行く?この前はすまなかったな、もしあれなら今日奢りでも……!」
「カラオケ行きましょう。」
「え?」
なんと、彼女の行先は……カラオケ店だった。
それもただのカラオケでは無い。
バリ島のリゾート雰囲気のコンセプトのカラオケでハニートーストの美味しいところだった。
「お……おう、なんかすごそうなとこだな。」
「先輩!今日はとことん付き合って下さい!」
俺は恐る恐るお店に入ると、そこそこいい値段となっていた。そして、まるでバリ島のホテルかのように内装も木々のリゾートのようになっている。
「ノンアルのみ放題で!」
「お時間は。」
「んー、4時間で!」
「4時間!!??」
え、俺は水無月とカラオケで4時間2人っきりなのか?2時間程度で考えてたんだけど……。
まあいい、きっと思うところがあるのだろう。
なーに、俺は先輩だ……とことん付き合ってやろうじゃないか。
部屋に入ると、タブレットがあり水無月さんはもう鷹の目のように鋭い目つきでたくさん注文をしていた。
「あの……水無月……さん……?」
「ここのハニートーストは美味しいんです!今日はやけ食いですよ!」
「え……ええ……。」
しばらくして、ハニートーストがドンとテーブルに置かれた。
うん、ものすごくでかい。
一斤の半分くらい……スーパーのカットしてないサイズの食パンが表面がカリッと焼き上げられていて、上にはハチミツとアイスクリームとフルーツが乗っていて、見ただけで胃が持たれそうだった。
「もぐもぐ……。」
彼女は一心不乱に食べていた。
まるでストレスを食べることで紛らわすかのように。
水無月さんも中々の胃袋をもっていてあっという間に無くなりそうだった。
「最高ぉ、幸せ……先輩も1口食べます?」
「あ……うーん……。」
「ほら、こんな可愛い子がアーンしてあげますから。」
「わ……わかったよ。」
恐る恐るハニートーストを食べると、衝撃的なうまさだった。
中がふんわりとしていて、はちみつも実はそこまでくどくない。
もう少し早めに食べればよかったと少し後悔してしまいそうだった。
「その……水無月さん、ごめん!」
「え?」
「俺、勝手に今の飯田が不幸で水無月さんとなら幸せになれると思ってかえって2人を傷つけてしまった。」
「いえ、謝るのは私の方です。私が飯田先輩を好きになってしまったから、逆に気を使わせました。」
てっきり、彼女の気持ちは落ち込んでるかと思ったら冷静だった。
「それに、俺も元々虐められてたからさ……なんというか、上手く言えないけど力になりたかった。」
「先輩……。」
水無月さんは強がってるけど、内心はぐちゃぐちゃなのかもしれない。
きっと、飯田を好きになるのもかなり彼女に取っては大きな出来事だったのだろう。
だからこそ、前を向いて欲しい。
俺ができるのは……それだけだった。
「先輩、私……やっぱり魅力無いんですかね。」
「そんなことないよ。君はまっすぐだ。」
「顔だって作り物ですよ?本当の顔はもう誰も知りません。」
「それだって努力だろ。リスクを背負って得たものだから、咎める気はない。」
すると、突然身体に強い衝撃が走った。
水無月さんは、俺に寄りかかっていた。
「え……。」
「先輩、今だけ……こうさせてください。先輩……全然否定しないし、優しいから……ちょっとだけ、甘えたいです。」
「そうか……。」
「う……うう……うえええん!!」
彼女は、表情は見えないけど泣いていた。
やっぱり傷ついていたんだ。
俺が、傷つけたんだ。
そんな罪悪感が心を蝕むようでいつもより世界の重力が重く感じた。
「水無月さん……世の中理不尽なことや、上手くいかないことは沢山ある。だけど、どうか前を向いて欲しい。」
「無理ですよ……本当に、好きだったんですから。いじめとかあったから男が大っ嫌いだったけど、やっと好きになれたんです。」
「まだ、高校生活は始まったばかりだよ。俺も沢山傷ついたし、しくじった。でもその先にあいつを始めとする親友ができたんだよ。」
「うう……うう。」
彼女はずっと泣いていた。
これもただの傷の舐め合いなのかもしれないけど、でもそれが彼女の糧になるならそれでいいと思った。
彼女が落ちつくのは……しばらく後だった。
「先輩……、人って温かいんですね。」
「まあな、人って触れ合うとエンドルフィンっていう幸福感を感じるホルモンが出るからな。」
「そっか……。先輩って博学なんですね。」
「まあ、医学部志望してるからな。」
「凄いです。私は……なんも無いです。」
「いや、目指そうと思ったのつい最近だよ?」
そういえば、俺は医者になりたいんだった。
最近勉強ばかりで目的を若干忘れてたけど彼女と話してハッとした。
もう家族を失いたくない、身近なひとの助けになりたい。
そうだ、今でもそんな気持ちで溢れてるんだ。
「ぶっちゃけ高二までは人生の目標も人間関係すらもなかった。だけど、色んな人と気持ちが重なり合って今その夢ができてる。だからさ……いつでも悩んだら言ってこいよ。相談乗るからさ、一緒にやりたいこと見つけてみようぜ!」
「は……はい。」
水無月さんは頬を赤らめて真っ直ぐこちらをみていた。
そして、少しだけ離れる。
ちょっと近すぎたかな。
「さて……そろそろ帰るか。」
「え?何言ってるんですか?先輩、まだ1時間しかいないですよ?せっかくだから……最後まで付き合ってもらいます!」
「え……。」
「ほら、歌いますよー!なんか、喉はち切れるまで歌いたくなりました!とりあえずデスボイスとかやってみますか!」
「ちょ……?まじで3時間?」
カラオケボックスにめちゃくちゃな水無月さんのデスボイスが反響する。
こうして、俺たちは夜遅くになるまでカラオケで2人歌い明かした。
☆☆
「ふー!めっちゃ歌いましたね!」
「お……おう。」
予想以上に疲れた。
曲のレパートリー全然ないのにデュエットとか仕掛けるから翻弄されっぱなしだった。
夜の歌舞伎町は人々が何度も出入りして、トラックからの広告の曲とか、様々な音で賑わっていた。
「先輩!あの……またカラオケ付き合ってくれませんか?」
そう言って、笑う水無月さんをみて俺は断る理由が見当たらなかった。
「まあ……たまにならいいぞ。」
「あ……あと!」
「え、まだあんの?」
「私の事……今度からメアって呼んでも……いいですよ?」
そう言って、水無月さん……もといメアは頬を赤らめて目を逸らしていた。
歌舞伎町は様々な明かりをてらしてまるでこの道だけで全ての色が出力されてるのかと思うほどカラフルだった。
そして、乾いた心が潤うのを表すかのように、少しだけポツポツと雨が降り始めていた。




