スケベな親友と雨のアバンチュール 7話
ピロリロリン
「……。」
目覚ましの音が鳴り、俺は眠い目を擦ってスマホを閉じた。
何故だろう、たっぷり寝たはずなのに……どうにも眠い。
俺はもう一度布団にくるまって何も考えないようにした。
この感覚……とても久しぶりだった。
「超学校……行きたくねぇ。」
いつもこうだ……たまに意図しなくて人を傷つけてしまうことがある。
起きては寝てを繰り返して、妙に体力が疲れ切っていた。
雨季のはずなのに、今日に限っていい天気だ。
空は快晴……晴れ渡る大空が、今だけは鬱陶しかった。
コンコン……
「直輝ー!今日ちょっと寝坊気味じゃない?」
「一応……起きてるよ。」
「いや、起きてるんかい!具合悪いの?」
「大丈夫だよ。」
明らかに母ちゃんは怪しんでいた。
でも今の俺に母ちゃんに相談する気力はなかった。
飯田のいない朝は、静寂そのものだった。
あいつのしょーもない下ネタも大声も聞こえてこない。
聞こえてくるのは、鳥のさえずりだけだった。
「今日、飯田くん来ないわね。」
「ああ……そろそろ部活忙しくなるから朝練忙しいんだって。」
「そうなの?」
いつもより、母ちゃんの口数が多い。
今は放っておいて欲しかったから、できる限り平静を装う。
そして、身支度を整えて俺は学校へと向かった。
「じゃあ……行ってきます。」
「直輝!」
いつもより、強めの母ちゃんの声だった。
後ろを振り向くと、妙に弱々しい母ちゃんの姿があった。
「なに?」
「その……行ってらっしゃい。」
「うん、行ってきます。」
きっと、彼女なりに心配していたのかもしれない。
だけどあえて聞かなかったのかもしれない。
でも、妙に気持ちが固まりそうだった。
朝、あいつにあったら謝ろう。
天気は快晴。
昨日はたくさん雨が降ったのか道は水たまりができていて、青空と太陽を照らしていた。
☆☆
俺は教室で飯田が来るまで勉強して待っていたけど、特に内容が頭に入らなかった。
ずっと、飯田の昨日の顔がフラッシュバックして胸がくるしくなった。
そして、その時間はやってきた。
「ういーす。おはよー。」
その瞬間俺は立ち上がる。
飯田に謝るんだ。
せめて誠意だけでも……!
「飯……!」
「飯田ー、この前買ったNIKEの靴レート上がったらしいぞ?」
「あ?あーいいじゃん!」
「飯田の目付けたヤツだいたい価値上がるんだよな〜。今日、掘り出しもん探しに行こーぜ!」
「おいおい急だな……。生徒会の会議終わったらでいいか?」
さすが飯田だ。
学校に友達が多いから、あっという間に埋もれてしまった。
というか、ちょっと無視されたような気もしなくも無いけど……。
「あれ?天野どうして立ってるんだ?靴興味あんの?」
「あ……いや、ごめん……なんでもない。」
「なんだよ……はっきりしないやつだな。」
別のクラスメイトに話しかけられて、俺と飯田は目が合った。
そして、会話をしないまま俺たちは逆の方向に進んでしまう。
俺は、一人ぼっちになっていた。
懐かしい……この周りだけが時間が動いて自分は取り残されるこの感覚。
昔は気楽だった孤独が、今はこんなにも胸が張り裂けそうだ。
お昼だ……お昼休みに謝ろう。
☆☆
キーンコーンカーンコーン……。
きた!昼休み……あいつを飯に!
「飯田昼飯どうする?」
「あー、今日は生徒会室にしよっかな。」
「え、そうなん?おっけー!」
「あ……ちょ……。」
俺の声は思ったよりも小さかった。
あいつに謝りたいのに、何故かそのチャンスは訪れない。
そうか、今まで俺は飯田に対して受け身だったんだな。
あいつのいない学校生活がこんなにも孤独で……しんどいものだとは思いもしなかった。
「直輝くん?大丈夫?」
「舞衣……。」
この子は佐倉舞衣。
俺の彼女だ。艶のある黒髪とインナーカラー。
そして、少し背が高めの彼女は心配そうに見ていた。
「一緒にご飯……たべよ?」
「……。」
俺たちは久しぶりに屋上で飯を食べる。
ところどころ水溜まりはあるけど、かなり乾いていたので座っても特に不快感はなかった。
「舞衣〜。」
俺は、やっと少しだけ誰かに甘えたくなった。
この状況1人で乗り越えるにはキツすぎる。
彼女のバニラ系の香りが心地よく、リフレッシュされるようだった。
「え、ちょ……どうしたの?」
「ちょっとだけ……甘えたい。」
すると、舞衣が嬉しそうに俺の頭を撫でる。
人って触れ合いがあると少しストレスとか疲れが和らぐようだった。
「えー、どうしたの。今日の直輝くん可愛すぎない?毎日これでもいいんだけど。」
ちょっと喜び方が違う気もしたけど、気にしないようにした。
彼女の細い腕で包まれる感覚が心地よくて、もうこのまま消えてしまいたかった。
「飯田と、喧嘩しちゃった。」
「珍しいわね……よしよし。」
俺はしばらく落ち着いた後に舞衣とコーヒーを飲んで空を眺めていた。
「確かに、今日ちょっと飯田くんよそよそしい感じだったね。」
「あいつさ、なんか毎日大変そうじゃん?そんな中……あいつに好意を抱いてる女の子に会ったんだよ。」
「確かに!飯田くん笛吹さんと住んでから明らかにちょっとヤツれてるよね。」
「そうなんだよ、それよりもこの女の子と学生らしい青春を謳歌してくれた方がいいのかもってくっつけようとしたら2人とも傷つけちゃってさ……。」
舞衣は分かってくれた。
そう、俺の気持ちは紛れもない善意。
あいつが幸せになると思ってやった行動なのだ。
なのに、何が不服だったのか未だにわからなかった。
「でも、二人の関係ってそんなんだったっけ?」
「いや……俺もあいつも干渉し過ぎないでゆるい距離で……あ。」
そうだ、俺たちはなぜ親友なのか……わかった気がする。
互いに打算もない、ただ馬鹿やっている関係だった。
何か違うところがあっても、それを認めていた。
今回の俺は違った……勝手に、幸せを作ろうとしていた。
勝手に飯田が不幸だと思っていたから。
「ああ……やらかした……。全部、余計なお世話だったんだ。」
俺は頭を抱えて悶える。
勝手に親友を操って、しかも別の人まで傷つけて……最低だ。
頭がどうにかなりそうだったけど、それを舞衣が阻止する。
「大丈夫だよ……。」
「舞衣。」
「ちゃんと、謝ろ?飯田くんだって、悩んでんるんじゃないかな?」
「飯田も……?」
そうだ、居心地が悪いのもあいつも一緒だ。
中学から仲良かったんだし、あいつの家庭環境も全て知ってるほどだ。
何故友達の多いはずのあいつが俺との時間を大切にしてるのかも、この瞬間に全て理解した。
「舞衣、ありがとう!」
「うん!1人で悩んじゃダメよ。彼女なんだから、また頼って!」
俺は少しだけこの晴れやかな天気が心地よく感じた。
日光を浴びたからか、それとも心の奥のドロっとしたものが晴れたのかは分からないけど、もう日和らないできちんとあいつに謝ろう。
もう一度、あいつと親友になるために。




