スケベな親友と雨のアバンチュール 6話
雨の中、俺はひたすら彼女を追いかける。
逃げ足は早いものの、俺はやっとのこと彼女の手を掴んでお互いずぶ濡れのまま住宅街で立っていた。
「頼む、落ち着いてくれ。」
「やめてください!私は飯田先輩に迷惑をおかけしました!もう何もしたくないんです!」
彼女はパニックだった。
住宅街に彼女の叫び声が反響してるのだが、雨のせいかそれに気がつく人はいなかった。
俺は、落ち着かせるように静かに彼女を見つめた。
「大丈夫だ。別に君を攻撃する訳じゃない!!」
「………………。」
彼女の動作が少しずつ落ち着き、俺の目を見るようになる。
きっと、彼女は俺に好意を寄せている。
そして不器用な彼女はその感情表現ができずパニックになってただけだった。
「ちょっと、雨宿りしないか?」
「はい。」
俺たちはずぶ濡れのまま公園の遊具の下にたって少し雨を凌ぐ。
いつもこうだ、俺は人のことを考えると頭がいっぱいになって、無鉄砲に走ってしまう。
「すみません、わざわざずぶ濡れになってまで追いかけてくれて。」
「いや、気にしないでくれ!俺がやらかしたようなもんだし!」
直輝にはぶっちゃけ腹が立っている。
だけど、きっと彼女を応援したかったんだろう。
俺にとっては、めちゃくちゃ余計なお世話なんだけど……とはいえ当事者は俺にある。きっちり責任を果たさないといけない。
「飯田先輩、私……先輩のことが好きなんです。」
「ああ。」
「優しいところとか、私みたいな末端の名前を覚えてくれるところとか、部活とか頑張ってるところとか……私に無いものがあってその……。」
嬉しかった。
こんな自分を好いてくれる人がいるとは。
彼女の涙目だけど、真っ直ぐ俺に好意を抱いてそれを素直に告げている。
だけど、妙に今の俺には苦しく感じてしまった。
「ありがとう、水無月はいつも生徒会頑張ってるし、努力家なのは認めてるよ。」
「な……なら、付き合って……。」
「少し、考えさせてくれないか?」
残酷だった。
今の自分を蹴り飛ばしたくてしょうがなかった。
きっと、こんな子は何年後も現れないのだろう。
「え……あ……。」
「俺は迷ってる。だけど、親友とも喧嘩しちまってさ……ちょっと今はしんどいんだ。」
流石に都合……良すぎるよな。
俺は真剣に考えたかった。
水無月は今……何を考えてるのだろう。
「飯田先輩、ものすごく難しい顔してます。」
「え?あ……ああ。」
「私、飯田先輩ってなんでも器用にこなして明るくて……そう思ってましたけど、実は色んなものを抱えてるんですね。」
彼女に、全てを悟られてしまった。
不器用な分……人のことをものすごく見るのかもしれない。
ある意味で理解者になろうとしてる彼女に……ドキッときてしまった。
雨は少し勢いが収まって、俺たちはそこで解散をした。
きっちりと答えをまた伝える約束だけを交わして。
☆☆
「ただいまー……。」
いつものボロアパートのドアを開ける。
すると、俺の布団で女性が寝っ転がっていた。
「おかえり〜れんれ……うえぇ!?」
この人は、笛吹さやかさん。
元々隣の部屋に住んでいたのだが、家賃も払えず、年金の未納で虹色の手紙が届いたりなどでかれこれ一年近く一緒に暮らしていた。
そして、今は俺のベッドで酒を飲みながら赤ら顔でタブレットをいじっていた。
「大丈夫!?ずぶ濡れじゃん……傘盗まれた?」
「盗まれませんよ。ちょっと色々あったんです。」
俺はシャツを脱ぎ、シャワーを浴びてからやっと不快感はサッパリとして俺はかなりぐったりと座椅子に座り込む。
「なんか、あった?」
いつもは泥酔してる彼女。
だけど、こうして俺が弱ってる時は気にかけてくれるようになった。
だらしない彼女で直輝を始めとするみんなからはヤバいやつだと思ってるけど、この人なりに頑張ってるのだ。
「どっから……話せばいいか。」
「お酒飲む?」
「飲まないですよ、未成年です。」
「じゃあ……えい!」
「どわあ!?」
突然、彼女に抱きしめられる。
笛吹さんは、小柄で身体が軽い。
そして身体はほっそりしていて……妙にお腹周りがぷにっとしている。
「や……やめてください!」
「どうした〜?こういう時くらいお姉さんに甘えてもいいんだぞ〜?うれうれ〜。」
ちょっと抵抗してたけど、今の疲れきった俺の身体には恐ろしいほど心地よかった。
少しずつ落ち着き、俺は彼女に甘えだしてしまう。
「どったん?おじさんが話聞こか?」
「話す気なくしました。」
「ジョーダンジョーダン!」
こういう訳の分からないユーモアでさえも心地よかった。
別に付き合ってる訳じゃないけど、父親は死去して……母親にも見捨てられた俺にとってはある意味で心の栄養みたいなものだった。
「今日……女の子に告られました。」
「え……。」
笛吹さんの顔を見ていたら青ざめていた。
「どうしよう!れんれんが取られちゃう!え、出ていった方がいい?あ……でももう賃貸の審査通らないんだよな。どうしよう!」
「落ち着いてください、立場が逆転してます。」
笛吹さんは、酒に酔っていて何考えてるか分からない。
小説を書いたりする側面もあって、これも演技なのかガチなのかは分からなかった。
「あと、直輝とも喧嘩して………。」
「え?なんで!」
「直輝が俺とその子をくっつけようとしてたんですよ。」
「ぎゃああああ!やっぱ私追い出されるフラグ!お願いれんれん!見捨てないで!もう少し家にお金入れるから!」
騒ぎ立てる彼女の口を手で抑える。
たまーに近所迷惑の対応もしてるから、これ以上揉めると俺も住所不定になりかねん。
「笛吹さん?ちょーっと静かにしましょうね?うちのアパート壁薄いんすから。」
「むぐぐ……。」
「落ち着きました?」
「ごめん。」
笛吹さんが落ち着いたので俺は抑えてる手を取ってため息を着いた。
「れんれんは……どうしたい?」
「んー、分かんないっす。流されて生徒会長やるような男ですよ。」
「あはは……そうかも!」
俺と笛吹さんは、真逆の人間だ。
笛吹さんは孤児院から出て孤独だけど、中学生の頃から小説を書いて今や売れっ子小説家だ。芯が通っている。
それに対して俺は、いつも色んな友達に流されて……自分の言葉や芯がない。
水無月が言うほど、立派じゃないんだ。
きっと、この関係はその違いが惹かれあってるのかもしれない。
「でも……やっぱり俺笛吹さんと一緒にいるのが楽しいんすよ。」
「いいの?一年一緒にいたからわかると思うけど……私手がかかるよー。」
確かに、彼女は自分で確定申告も出来ない。
お金の管理も出来ないし、年金などの仕組みも知らない。
この人は俺がいなきゃダメだ。
だけど、それと同時に……。
「俺も、ある意味で手がかかるんでお互い様……じゃないっすか。俺……笛吹さんがいいんで。」
「「…………。」」
「え?え?もっかい言ってみ?なんて言った?」
「う……うるさいっすね!もう言わないっす!」
「えーれんれんがデレるとか見たい〜。濡れるじゃん。」
「どこが!?」
結局、俺たちはいつも通り喧嘩をして、隣のアパートのおじさんに壁ドンされてしまった。
だけど、俺はこの時間で全て理解した。
やっぱり、俺にはこの人が必要だと。
たくさんリスクはあるけど、この人じゃなきゃダメだと言うことがあっという間に決まってしまった。
再び、雨は音を立てていく。
屋根の薄いアパートはポツポツと……音を立てて行く。




