ゴールデンウィークと△関係 5話
「ただいまー。」
20時頃、俺たちはやっと横浜から帰ってこれた。
横浜から新宿まではだいたい30分弱で着くので案外そこまで遠くはなかった。
「おかえり、直輝と夢華ちゃん!」
母ちゃんが特に気にすることなく出迎えてくる。
それにしても母ちゃん、家で女の子が出入りしてると言うのにどうしてこうも鋼のメンタルを持ち合わせているのだろう。
「ご飯はどうするの?」
「あ……俺ら食ってきて。」
「え、普通にお腹空いたよね?」
「え?」
若干満腹気味な俺に対して夢華は空腹のようだった。
すごいな、10代前半と後半でこんなにも胃袋の容量が違うのか。
「今日は何作ったんですか?」
「ふふん、麻婆豆腐よ。」
「え、ウチ麻婆豆腐大好きです!」
いや、夢華よ……家への適応力あんたも高いな!
「そしたら俺は家でもーちょい勉強してるよ。」
多分、食欲がないのは他に理由があった。
今日夢華は夢への1歩を進んだ。
いつもリスクばかりを恐れる俺とは違って、リスクを飼い慣らして自分のものにしていった。
夢に近づくってそういうたまに無茶な領域に踏み込むものだと思う。
それを思い知ったら、無性に勉強したくなった。
「直輝、今日は疲れてるんじゃない?休んでからでも……。」
「いや、大丈夫だ!お気遣いサンキュー!」
俺は2人に見向きもせず自室へと進む。
夢華も母ちゃんも、何かを察したのかすんなりと引き下がってくれた。
ドアを開けて、俺は息を飲む。
「……ふう、よーし!」
俺はとにかく机に向かった。
どれだけ傷ついてもいい、とにかくたくさんの問題に触れようとわからなくても答えを見ながらでもくらいついていった。
☆☆
「……すごい。少しずつだけど確実に伸びている。」
今までとにかく色んな試験範囲を網羅していた。
点で理解していたものが一つ一つ線となって繋がるような感覚があった。
だから全然解けないわけではなく、最初はわからなくても一つ一つ紐解けば簡単な問題だった。
今まで俺は、できないと思い込みすぎていたのかもしれない。
気がついたら、ボールペンの芯を使い切っていたみたいだった。
「……ちょっと、散歩ついでに買いに行くか。」
俺はコンビニを出る。
ゴールデンウィークの東京は昼間は少し暑いけど夜となると薄暗く少し肌寒い感覚がする。
夢華と母ちゃんは既に寝ていて、俺の出る音には誰も気づくことは無かった。
それにしても、夜の街って不気味な感じがするな!なんというか、普段は人に溢れてるのに夜になると静かになって自分のものになった気分だ。
でも、こういう時に限って……何かあったり。
「みぃつけた。」
そうそう、こんな感じで声を……かけ……。
「ぎゃああああ!!?」
「きゃあああ!?」
不意に声をかけられてびっくりすると、そこには見慣れた人物がいた。
「……舞衣、なんでここに?」
彼女の舞衣がそこにいた。
いや、夜遅くにこんなところ出歩かないで欲しい。
「むー、直輝くん……今日はあいつとデートしてたでしょ!」
「え……。」
「ずーっと直輝くんの声が聞こえなくてバイト中ヤキモキしてたら気がついたらここまで来ちゃったの。」
なるほど、それにしても何で俺の声を聴いてるかは聞かない方がいいのかな?
「ねえ、直輝くん。今から私とデートしない?」
「え、今から?」
「うん!夜の西新宿を回ろう。」
なにそれ怖い。
「それとも……夢華の方がいい?」
……少しからかいつつも、自身の無さそうな表情に俺は少し困惑する。
舞衣は少なからず夢華をライバル視している。
取られるのではないかと不安なのかもしれない。
「わかったよ。ただ……1時間したら寝るからな!」
「やったー!」
こうして、俺たちは深夜の新宿駅を回る。
まずはバスタの辺りを歩いてみる。
いつもは地方からの観光客や外国人で溢れかえるこの地も夜になると大きく変わって見えた。
「あのベンチの人……朝まで過ごすのかな。」
「どうだかな、あの人もあの人で人生があるから知らぬが仏だ。」
「あはは、直輝くんまた博学になったね!」
その後も知らない世界が沢山見えた。
終電逃して会社の愚痴を叫ぶ会社員。
他にも今からホストに行くのか、はたまた風俗で働くのか服装に気合いの入った女の子……その混沌さが本当に人間社会の1部なのかとまるでひとつの肝試しのようだった。
しかし、それもまた誰かの人生の1部だと思うと……正解がわからなくなる。
「……私もいつかこういう所で働くのかな。」
「おい!なにいってんだよ!!滅多なこと言うんじゃねえ!」
冗談だとわかってるけど、俺は少し声を荒らげてしまう。
たまに舞衣は自分を大事にしない癖があるけど、流石にそれはやり過ぎだと感じてしまう。
「でも、有り得るわよ。現に直輝くんだって、そんな世界の上でたっていたんだから。」
そんな世界……というのは母ちゃんのAV女優や風俗で働いていた過去である。
それにしても、月明かりに照らされる女の子たちは美しいのだけど、どこか希望が無く……儚げでこれから嫌なことをするという絶望感が漂っていた。
それを舞衣がやると思うと……背筋がゾッとしてしまう。
そうなって欲しくないからかもしれない。
でももし舞衣が俺の元から居なくなって、悪い男に利用されるとしたら?
そう思うと……俺は舞衣への責任が足りてないこととなる。
いかん、気持ち悪くなってきた。
「なーんてね!もう〜直輝くんは……直輝くん?」
俺は頭がカッとなって、気がついたら舞衣を一心に見ていた。
離れないで欲しい、という寂しさからくる抱いたことの無い感情が頭を支配していた。
「ちょ……顔……怖い。」
そして、気がついたら俺は半ば無理やり舞衣を抱きしめていた。
俺は本当に冗談が通じないなと思ってしまった。
「頼むから……もう、これ以上傷付かないでくれ。」
「直輝くん……。」
「彼氏は俺なんだから、そういうこと……言わないでくれ。」
「……ごめん。」
俺ははっとして少しずつ離れていく。
彼女の少し高めの体温とバニラのような甘い香りが離れるに、少し躊躇いを感じながら。
……都会というのはどこまでも無機質なのは昼も夜も変わらなかった。
少し大胆な行動をしても、それを気にする人は誰もいなかった。
俺たちは少し離れて気まずそうに西新宿の当たりを歩いていた。
何を話そうか、何も思い浮かばない。
だから今日の出来事をありのままに伝えた。
「今日……夢華が路上ライブ見てたんだけど、夢華も歌ってた。」
「え、あの子……大胆というか、無謀というか……すごいわね。」
「ああ、最初は声が小さかったし誰にも見て貰えなかったけど、少しずつがむしゃらに歌ってそれが人に刺さって、気がついたらあいつ色んな人に囲まれていた。しかもあいつネットで歌い手として活動することになったんだよ。その路上ライブの人の誘いもあって。」
「すご!将来大物になりそう。」
歩幅は少しずつ合っていく。
その度に少しずつモヤモヤしてた気持ちがクリアになってくるようだった。
「俺、医者になる夢に迷ってる。アイツみたいに大胆な一歩を踏めてない。もう夢に関してはあいつの方が優等生と感じると……今日は少し複雑だったよ。」
「……別に、直輝くんは踏めてないわけじゃないと思うよ。」
「え?」
そういうと、舞衣はさっきとは違って真剣な眼差しで俺を見ていた。
いつもの依存も支配もない……真剣な顔で。
「だって、今日も勉強してんじゃん。それにさ……人と向き合うって事もしてる。だからさっき私の軽口にも本気で怒れたんじゃない?直輝くんは直輝くんなりに自分の進んだ距離が見えてないだけで、沢山進んでるよ。」
そう言って、月明かりに照らされる舞衣は他の少女らと比べて眩い光を放つ月のようだった。
「それに……私には夢があるよ!」
「え。」
「看護師!人に寄り添って何かをしたいから。今度オープンキャンパスも行く予定!」
「そっか……。」
俺は舞衣が夢がないとばかり思っていた。
だけど、彼女は静かに夢を持っていた。
また、してやられたけどどこか嫌な気持ちは無かった。
「さーて、そろそろ帰ろっか!今日は直輝くんの部屋に泊まろ〜。」
「おいおい……。」
舞衣はまたいつも通りだった。
でも、その日常は俺も知らぬ間に大好きになっていた。
俺たちは静かに夜の街へと消えていく。
明日の楽しい一日を迎えるために、静かに。
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