ゴールデンウィークと△関係 3話
「なーおーきー!」
朝から聞きなれない声が聞こえる。
頭がズキズキして、体がすごく重く感じる。
「ったく……全然起きないわね。こうなったら……。」
すると、布団を夢華がモゾモゾとし出して妙に温もりを感じた。
でも、まだ頭が働かないので認識はできていない。
「あ〜、暖かい。」
「え?」
目を覚ますと、夢華が俺の布団の中に入っていた。
そして少し頬を赤らめていたずらするかのような顔をしていた。
「ゆ……夢華?何して……!?」
「えー、わかんなーい、直輝が寝坊助だからウチも寝ようかなと思ってね〜。」
夢華が俺の身体に手を回してほとんど密着する。
そして、たわわに実った弾力を感じて俺は抵抗できずにいた。
「ねぇ……直輝ー、デート行こーよ!」
「はぁ?今日は勉強だよ!つーか、舞衣に怒られるからそんな真似できない。」
「……はぁ。」
夢華はため息を着いて俺から離れる。
よかった、少しはわかってくれたみたいだ。
こいつ距離感近いから何しでかすか分かったもんじゃない。
「ガブッ」
「ぎゃーー!!?」
すると、右の首の根元を夢華は歯を立てて噛み付いた。
思いっきり噛むというかは……若干甘噛みのような感じだった。
「おま……はなれ……。」
「あはは!直輝面白い声出すじゃん……こっちは……!」
「ああ……くぅ……!」
くすぐったいような妙な感覚だった。
でも不思議とゾッとするような嫌悪感もなくて……全身がゾクゾクするような感じだった。
「直輝って……M?」
「んなわけないだろ!いい加減離れろ!!」
全く……心臓に悪いやつだ。
夢華はこういった搦め手を使うから何するかわからん。
中学生ながら末恐ろしいやつだ。
「ったく……。」
俺は1階に降りると母ちゃんがいた。
そして、若干頬を赤らめている。
「直輝……朝から喘がないでよ。」
「喘いでないよ!」
どうやら、致命的な勘違いをしている。
おい、母ちゃん元AV女優なのにそんなウブな反応しないで欲しい。
「全く……このゴールデンウィークどうすりゃいいんだ。」
「昨日翔子にも一応報告しておいたわ。まさか沖縄から一人で東京に行くとは思ってなくてすごく驚いていたけど。」
「だろうな。」
翔子さんは夢華の母親で、母ちゃんとは地元の友達の関係である。
喧嘩したとはいえ、行動力は桁外れだから将来大物になるかもしれない。
「直輝ー?朝ごはん食べた?」
「いや、お前に起こされてからまだ5分しか経ってないんだが?」
「もう!なにしてんのよ、これでも受験生なの?」
「いや!お前には言われたくねえよ!」
「……。」
「……。」
「夢華には言われたくないよ。」
「ごめんごめん、冗談!」
くそう!めちゃくちゃめんどくさいな!
そういえばお前禁止令が出ていて名前呼びしないとシカトされるんだった。
「なあ、母ちゃん……やっぱり夢華は帰った方が良くないか?明らかに不健全だ!未成年の男女がひとつ屋根の下にいるんだよ?」
「いや、直輝なら手を出さないから大丈夫でしょ。」
ちょっと一言多いよ。そして、母ちゃんは腕を組んで考えていた。
「いいんじゃない?」
「「え?」」
「直輝、あんたここ最近勉強頑張りすぎてない?朝早く起きては勉強して……学校から帰ってからすぐ勉強してるじゃない。頭痛いって言ってたし……ちょうどいいと思うわ。」
え、まさかの母ちゃん夢華サイド?
まあ確かに最近また勉強がしんどくなったのは事実だけど。
「やったー!直輝……どこ行く?ディズ○ーランド?横浜中華街?……あ!鎌倉もいいね!」
「……なんで東京に住んでる俺よりも観光地がスラスラ出てくるんだ。」
☆☆
こうして、俺はゴールデンウィークを夢華と過ごす事になった。
若干気乗りはしないけど、気分転換にはいいのかなと思ってしまう。
俺たちは横浜の赤レンガ倉庫に着いていた。
「うわぁー!めっちゃ街並みめっちゃ綺麗!観覧車とか……あの建物形面白い!」
夢華は横浜の湾を眺めながら子供のようにはしゃいでいた。
体は大きくなってもまだまだ中学生だから大人になりきれてないのかもしれない。
俺は缶コーヒーを飲んで少しのんびりしていた。
「すごいな〜。ねえ……あの橋はどこまで繋がってるの?」
「……ああ、あれは千葉県まで繋がってるんだ。途中であの橋は深海の道路になるんだよ。」
「へー!」
夢華は全てが新鮮な感じがしたようだった。
「……ウチもまだまだ世界知らないんだな。どうしても沖縄だと人間関係も見える景色も同じだから尚更そう感じる。」
「そうかい。」
こう感動してる時の夢華は1人の少女だった。
いつもの強気で意地悪な彼女ではなく、今見せてるのが本来の彼女なのかもしれない。
「不思議!なんか直輝といると少しだけ新しい発見があるよ。」
「そうなのか?」
「他の男の子は……ゲームとか、やってることが子どもみたいにみえて退屈なんだよ。話も自分の話しかしないから……直輝はアイツらとは違う。」
きっとこの子は年齢よりも精神が成熟してるのかもしれない。
だからこそ、こうした新しい刺激を求めているのかもしれない。
夢華を見ると、彼女はまた別のものに見とれていた。
「ねぇ、直輝……?あれって……?」
その視線の先には若い女性が路上ライブをしていた。
誰も見ていない。
その中で彼女はひとりでギターを弾いて歌っていた。
「……あれ見に行っていい?」
「ああ、いいぞ。」
歌は上手かった。
でも、世の中にはこうして夢を追って努力していても、埋もれてしまう。
世の中とはそういうものだと思いつつ、静かに歌を聴いていた。
やがて、彼女は歌を歌い終える。
パチパチパチ……!
俺と夢華の拍手だけが公園の中を響いていた。
「すごい!かっこよかったです!」
「ありがとうございます。」
「お姉さん……歌手なんですか?」
「はい!……って言っても、全然人来ないんですけどね。」
とはいえ、夢華には大きく刺さったみたいだ。
この女性と夢華の違いは……行動してるか否かだ。
夢華も歌手になりたい夢がある。
その道を踏み出してることに夢華は感動していたのだ。
「ウチも……歌手目指してるんです!だから……お姉さんみてて、やっぱり歌いたいなって思いました!」
そう言って、夢華は本来の素直な気持ちをぶつける。
しかし、そのお姉さんは夢華の様子を見て少し考えていた。
「ねえ、君歌ってみない?」
「え……えー!?」
「この通り……路上ライブはすっからかん。でもその中で見てくれない恐怖感と戦うのが歌手への近道だよ。」
すると、夢華はマイクを渡されていた。
顔は赤面している。
「んー、何にしよっか。ドライフラワー……わかる?」
「わかります……けど自信が……。」
夢華は初めて焦るところを見せる。
俺の方もチラチラと見るけど、その前にお姉さんはギターを弾き始めていた。
「あ……あわ……。」
最初、緊張してるのか夢華の声はほとんど聞こえず、たまに聞こえても彼女の良さが消えていた。
もちろん、観客は誰もみていない。
明らかに顔は青ざめていて、今にも死にそうだった。
「……頑張れ!夢華!!」
「へ?」
「いつもそんなんじゃないだろ!ミスってもいい!せっかくだし……やってみようぜ!」
そんな、根拠も無いことを言ってしまった。
俺も医者になる夢があって、その自分と重ねてしまった。
そうだ、この1歩こそが彼女に必要だと思ったからだ。
「直輝のくせに……生意気!」
そう笑うと、少しずつギターと彼女の歌声がシンクロしていく。
曲がBメロに入り、彼女の民謡特有のビブラートが響いて、あっという間に公園の雰囲気を自分のものにした。
「あ!ドライフラワーじゃん!」
「へー、高校生かな?歌上手いな。」
すると、最初は2人……3人と今まで素通りだった人たちがカメラを持ったりして夢華を囲っていた。
夢華はたまに音程ミスるし歌詞も間違えるけど、それが気にならないくらいの空気を作る力があった。
やがて、サビに入る。
お姉さんはあくまで主役は夢華だときめてたまにアカペラにさせるけど、気にならないくらい夢華は楽しくなって歌っていた。
そして、あっという間に夢華のドライフラワーは終わり、20人しないほどの人数の拍手があった。
「はあ……はあ……ありがとうございます!!」
「いいぞー!上手かった!」
夢華は凄い。
あっという間に前に進んで俺が見えないとこまで突き抜けてしまった。
俺も負けてはいられない。
少しマンネリ化していた受験への炎が……再燃されるかのような気持ちになった。




