俺の彼女が重すぎる件について 13話
「もしもし?舞衣……今どこ?」
直輝くんからの電話だった。
嬉しいような気持ちもあったけど彼氏という義務感からなるものではと一瞬疑心暗鬼になってしまう。
「今はね〜家だよ!あー、今日もバイト疲れた……今はゆっくり休んでるよー!」
「そっか……。」
私は、精一杯のから元気で理想の彼女を演じる。
彼は受験勉強で忙しいのだから、私なんかに気力を使う余裕だって本当は無いはずなのだ。
「なあ、無理してないか?」
「え……。」
「声が震えてるし、少し掠れてる。本当は何かあったんじゃないか?」
バレてた。
電話なのに……どうして分かるんだろう。
私なんか見てないはずなのに。
「あ……ほら!最近寒くなったしー」
「今日は夜でも15℃あるぞ。」
「か……カラオケで歌いすぎて。」
「いや、今22時だからこの時間にあがってるはずじゃないか?それに舞衣の店カラオケないじゃん。」
驚いた。
直輝くんには私の心が私より筒抜けだった。
咄嗟についた嘘をあっさりと見破ってしまう。
「なあ、嘘じゃなくてさ……腹割って話そうよ。今……どこで何してる?」
ふと、肩の荷が降りた気がした。
彼にはもう理想の彼女を演じなくていい、好かれようとしなくていい、本当の私を今直輝くんが見てくれてる気がしたから。
「どうして……嘘ってわかったの?」
でも、不可解なのは私の嘘がバレてることだった。
私みたいに盗聴してないし、監視をしてるわけでもない。
もしかして、もっと高度な監視術でも身につけたのだろうか?
「まあ、もう1年も付き合うと少しは分かってくるよ。この時は嘘をついてる声だな……とか。最近無理してるなとか、間違ってたらごめんだけど。」
私は言葉が出なかった。
直輝くんは……私みたいな小手先ではなくて、私の本質を見ていたのだから。
私は全ての仮面が割れてしまった。
理想の彼女の私。
人気メイドという魅力的な私。
そして、直輝くんを支配する愛に飢えた私。
全てが割れて残った私だけが残ってしまった。
「直輝くん……あの公園、来て欲しい。」
「わかったよ。」
気がついたら私は……彼にSOSを送っていた。
直輝くんが来るのは20分後だった。
☆☆
「おー!お待たせ……って大丈夫か?靴下もろくに履いてねえじゃん!」
直輝くんは小走りできてくれた。
私なんかのために少し汗をかいて息が上がっている。
「ごめん……家を咄嗟に飛び出したからお金もろくに持ってなくて。」
「ったく、事情は後で聞くから……あそこのカラオケでいい?ついでに靴下とカイロ買ってくるわ!」
直輝くんは私の手を引いてくれた。
どうして、私が彼と付き合おうかわかった気がした。
いつもこうして、私に気にかけてくれたからだ。
彼は人のために全力になる。
この感覚が好きで、私は縛ろうとしていたのだ。
私は、彼を抱きしめてしまう。
「ちょ……動きにくいんだけど。」
「寒いから、直輝くんが温めてよ。」
「しょうがないな。」
東京は居心地がいい。
私たちの少し不穏なやり取りも誰もが無関心になってくれる。
人が沢山いるのにまるでプライベート空間にいるようだった。
彼の背中越しに少しだけ温もりを感じて、少しだけ動く気力が湧いてくる。
「ごめん、行こうか。」
「もう、いいのか?」
「うん……早くカラオケ行こ。」
私たちは、公園から出てすぐのカラオケに行く。
そして直輝くんは自分のコートを着せてくれて少しだけ温まる。
カラオケに入って、ホットココアを持ってきてくれた。
靴下もコンビニで買ってくれて、それも急いで履く。
「ふーっ……やっと座れるな。」
「勉強、しなくていいの?」
「いや!今日はもう4時間もやったからやりたくねぇよ!?」
「ふーん。」
「それにさ……みんな心配してたぞ。最近無理してないかって。」
「無理してないし。」
「いや、呼吸するように嘘つくな!?」
そんなくだらないやり取りに……少しだけ笑ってしまった。
なんで、私は怒ってたんだっけとか、なんであんな寒いベンチで何分も座り続けていたのだろうと自分の不条理さに笑ってしまいそうだった。
とはいえ、直輝くんにはもう今日は嘘はつけない。
私がいつも彼の嘘に怒ってるのだから、私も正直にならないと釣り合わないだろう。
「ごめん、直輝くん……最近ちょっと焦ってた。」
「やっぱりか。」
「お父さんが再婚するんだけど、その人が優しくて綺麗な人でさ……居場所がない気がして、その気持ちを直輝くんにぶつけてた。」
「えっ……。」
直輝くんは、少し驚くと私とお揃いのココアを飲んで少し考えていた。
「んー、俺も母ちゃんが再婚とかなるとちょっと嫌かな。」
「なんでだろうね。岩盤浴とかも言って分かろうとしてくれてたのに、私はその優しさが逆に負担に感じてた。」
「そうなんだ。素敵な人であればあるほど……自分の居心地とか悪くなるよな。それに父親が普段見せない姿とかも見せて、それがより辛くなるんじゃないか?」
ドンピシャだった。
直輝くんは私が思っている以上に理解をしている。
私のぼんやりとした悩みを一つ一つ言葉にしてくれてまるでカウンセラーの才能があるのでは無いかと感じるほどだった。
「あはは、なんか直輝くんどんどん凄くなるね。もう、私が見えないくらい遠くに感じるよ。」
でも、それを感じると余計自分が惨めに感じた。
彼は前に進んでるのに、私はこんな事でじたばたと地を這っている。
きっと、この先も私が彼の荷物になるのではないかと……少しだけ怖くなってしまった。
「なにいってんだ?」
「え?」
「舞衣のアロマがあったから最近ずっと勉強できるようになったし、朝飯が前より上手く美味しくなってた。化粧とかだって……前よりも上手になってたし、それが刺激になって今の俺がいるんだよ。」
「え……え。」
すると、直輝くんは私の肩に手を当て普段は目を見るのが苦手な彼がまっすぐ私を見ていた。
「舞衣が止まってるなんてない。どんな形であれ前に進んでるんだよ。俺には君が必要だ、だから……もっと本当の舞衣を教えてくれよ。」
あまりにもストレートだった。
普段愛情表現の疎い柴犬のような彼が、まっすぐと私の顔を見て自分の気持ちを伝えてくれる。
多分、強い束縛とかじゃなくて、時間の共有とかじゃなくて……これが一番欲しかったのかもしれない。
私を、認めて欲しかったと。
私は……頭が真っ白になった。
でも、ある事だけは確信してしまう。
それは今この瞬間、どうしようもないくらい彼の事を……好きになってしまったとだけは。
カラオケは一切曲を流さず、静かに広告映像だけが流れている。
その空虚感と、温かさと、満足感という混沌とした気持ちが静かに反響するようだった。
最後まで見ていただいてありがとうございます。
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