俺の彼女が重すぎる件について 12話
その後も、私は何かと迷っている毎日が続いた。
「おはよ!直輝くん。」
「舞衣、おはよう。」
直輝くんは普段は人と目を合わせるのが苦手だけど、私との挨拶の時はちゃんと合わせてくれる。
直輝くんも不器用な人なのに……頑張ってるんだ。
「最近、勉強どう?」
「ああ……あれから苦手な問題が少しずつ解けるようになってきたんだ。同じこと繰り返せばいやでも分かってくるよ。」
直輝くんの顔をみると、いつもよりクマが濃かったのでかなり疲れてるのだろう。
それなのに、私は何も成長してない感じがした。
「そっか、直輝くんが前に進めて嬉しいよ。」
「そうなんだよ、でさ……今度水族館でもどうかな?」
また、直輝くんからのお誘いだった。
わだかまりがまだ完全に無くなってるわけじゃないから彼なりに真摯に向き合おうとしてるのかもしれない。
でも、何故だろう……今の私には逆にそれがキツく感じてしまった。
「ごめ……私、今日バイトでさ。」
「あ、そうだよな。ごめんごめん。」
「ううん、誘われたこと自体すっごく嬉しいよ。」
実際、今日バイトの出勤日なのもあるけどどんどん前に進んでる直輝くんに釣り合ってるか不安になる。
私の存在が、荷物になってるのではないかと心配してしまう。
思えば昨日は彼の声を盗み聞きするのを忘れてしまうほどに疲れていた。
「よぉ、なおっち。勉強の様子はどうだ?」
この人は虎ノ門君、直輝くんの勉強の師匠だ。
今日も気崩した制服と人付き合いが悪いのが、学生として相応しくない香水と煙の臭いがした。
「龍!何とか前回の模試を繰り返して満点は取れたよ。」
「ははっ、いいじゃん!今日は勉強教えてやろっか!」
「いいのか?是非お願いしたいよ。」
「あはは……。」
「お?なんだ虎ノ門……久しぶりに直輝の家で勉強か?」
「あ?そうに決まってんだろ。飯田も来たらどうだ?今回赤点ギリギリだろ?」
「うっざ……まぁそうなんだけどよ。直輝、俺も来ていいか?」
「あ……ああ。」
あっという間に直輝くんの家には
飯田くん、虎ノ門くん、そして親友の彩奈が集まることになった。
「お?佐倉はどうすんの〜、彼女だろ?」
「うっ……バイトだし。」
「そっか、そりゃ残念。」
直輝くんは、静かだけど月のような存在だ。
太陽ほどは目立たないけど静かに人を集める。
それはきっと、母親の遥香さんという太陽があってそれを素直に照らしてるから人が集まるのだ。
私は……そこで輝く星にすらなれてない感じがした。
家も学校も楽しかったはずなのに、今は居場所すら感じられなかった。
☆☆
放課後になった。
私は急いで学校から出る。
せめて、メイド喫茶なら私の居場所はあるものだと思っていた。
学校も家も嫌なら第3の場所である。
とにかく、なにかに必要とされたかった。
やがてメイド喫茶に着いて私は挨拶をした。
何かにすがるように……。
「おはようございます!」
「……おはよ、舞衣ちゃん。」
メイド喫茶の私は、本来の佐倉舞衣とは違う。
まるで魔法少女のように服装も違えば、名前も変わる。
そして、その仮面を被った私に会いに来る。
「おかえりなさいませ〜!」
少し、行き場のないエネルギーを使ってる感じがしてこの時ばかりはもやもやしなかった。
「……舞衣ちゃん、あの卓にオムライスを。」
「はい!行ってきます!」
ことねさんとのコンビネーションはバッチリだし、みんなより先輩だったので比較的任させることが多い。
その環境がずっと続けば良いはずだった。
「あれ、まだ20時なのにお客さん全然来なくなりましたね。」
「……まあ、ゴールデンウィーク前だからね。申し訳ないけど出勤調整するから早上がりしてもらうかも。」
「そんな〜。」
「……舞衣ちゃんはよくやってるけど、ほかの女の子も売りたいからね。ごめんなさい、私がもう少しお金があればこんなことしないんだけど。」
この日は、かなり暇だった。
ことねさんは悪くないけど元手が少ない中でお店を作ってるのでこういう日は出勤調整をかける。
結局、私は20時を過ぎた頃に自宅に帰ることになった。
一気に現実に戻されて何者でもない私に戻る。
家には恐らくアサミさんがいる。
もういい、疲れたし顔合わせないで寝よう。
そんなこと事を思い……私は自宅に帰る。
しかし、あることに気が付いた。
「珍しい、アサミさん玄関のあかりは付けてくれてるのに。」
いつもなら私が帰る時間に合わせて玄関の電気をつけてくれるけど、この日は付けてなかった。
まあ、22時までバイトで帰るのが23時だから彼女からすると予定よりも早く帰ってるのだなら当然だろう。
こっそりと家に戻ると……私は言葉を失ってしまった。
リビングを覗くと……アサミさんが私の父と抱き合っている。
接吻を交わし、服は乱れていた。
あんなに綺麗なアサミさんが愛する私の父親の前では客観的に見て愛に飢えた獣のようだった。
なんてタイミングで……帰ってきてしまったのだろう。
「佐倉さん……愛してます。」
「ああ、アサミ……。」
特に父親に対しては気持ち悪いを通り越してグロい印象だった。
いつもつまらなそうに新聞を読んでる父もこんな感じになると思うと、本当にグロい。
愛は薄くとも、そこにいる安心感こそ父そのものだった。それが崩壊するような、そんな気分だった。
私は、口を抑えて音を立てずに玄関を出ようとする。
しかし、このタイミングで私は足を滑らせてしまった。
「……なんだ、今の音。」
「もしかして……舞衣ちゃん?」
バレた。
心拍数が酷く上がっている。
私はなりふり構わず走った。
やっぱり、どこにも居場所なんてなかったんだ。
何にも必要とされてない。
私はアサミさん達にとって邪魔なのかもしれない。
そんな感じがした。
スマホから何度も電話の着信がなる。
きっと、アサミさんからかもしれない。
確認する余裕もなく私は必死に走り続けた。
しばらくして、小さな公園を見つける。
4月といえどまだ夜は冷えてくる。
私は、しばらくベンチで頬を伝う涙を何度も拭い続けていた。
夜の公演は不気味なほど暗くて、街灯の下だけが静かに明るく照らされている。
春になったので虫が飛び交っている。
スマホをみると、アサミさんからの電話が何度も着信が入っている。
時折、長文が送られてるけど今の私には読み取る気力もなかった。
というか、目障りだから1度彼女をブロックしてしまう。
そして、しばらく無音になったスマホを地面に落とす。
もう表面は傷だらけで私のスマホはスマホとして機能してるか分からないほどになった。
「もう……誰も信じられない、信じたくない。」
そんな時だった。
またスマホに電話がなった。
恐る恐る相手を見ると……直輝くんからだった。
本当は話したい。
でも、今こんなに涙でメイクがぐしゃぐしゃな不細工な私で彼と話せるか自信がなかった。
でも彼はずっとコールをし続けるので私は諦めて電話に出ることにした。
「……もしもし舞衣。今どこ?」
直輝くんの声は、いつも通りの声だった。
どうして、こんな時間に彼は電話をかけたのだろう。
夜風はまた一段と私の足を冷やしていく。
短いスカートの下はもう既に冷めきっていて私は今どこか温もりを求めるようだった。
直輝は舞衣に何をするのか?
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