俺の彼女が重すぎる件について 11話
ここは新宿の歌舞伎町。
ネズミが走っていて、警察のサイレンがなっている。
道端では中学生か高校生かもわからない男女が道で座っている。
学校から近いからこの街にしたけど、私はこの街が苦手だった。
妙に吐瀉物を彷彿とさせる匂いと車の排気ガスの匂いで気が狂いそうだった。
そんな中、一輪の白い百合の如く綺麗な女性がいた。
アサミさんだった。
最初はスマホを触っていたけど、私を見つけてすぐさま駆け寄ってくる。
「あ!舞衣ちゃん!こっちこっち〜!」
「……ども。」
「ごめんね!ちょっと私都会慣れてなくて少し迷っちゃった。じゃあ、二郎食べに行こっか!たしか……こっちね!」
「すみません、そっちだと駅に着いちゃいます。」
「え……あ!ほんとだ!ごめんなさい!」
この人は都会に慣れてない……というか若干方向音痴なところがあった。
本人なりに頑張ってるのに、少し時間を無駄にされてる気がしてしまう。
「こっちです。」
「あ、ありがとう!」
とりあえず私は最近ストレスが溜まっていたので思いっきり食べることにした。
ゴジラシネマのすぐ裏へと進み、少し歩いたところにラーメン屋さんがあった。
「わぁ〜ここが二郎……!私1度食べるの夢だったんですよね。」
「そうなんですか?」
「うん!地元の三重なんかはこんなお店なかったからね!」
「出身ここじゃないんですね。」
私たちは何となくアサミさんの過去について話をしていた。
まあ、再婚するにしても出処不明よりはマシかもしれないと思ってただけなのだけど。
「どうして、父と知り合ったのですか?」
「あー、それはね……。」
アサミさんが話そうとすると、ラーメン屋の店員さんに声をかけられる。
「あー、お二人さんですかね?こちらのカウンターでお座り下さい。」
「こっちです、アサミさん。」
「は……はい!」
「いや、なんで緊張してるんですか。」
私は何度かここには来てるので慣れていた。
私は人一倍食べるのでストレス発散にはうってつけだった。
もう苦手なこの人と飯なんて思わないで思いっきり食べよう。
「野菜ニンニクアブラ増し増しで。」
「はい、そちらのお姉さんは?」
「わ、わたしもそれで!」
「え?」
大丈夫かな?この人……二郎の増し増しは素人には殺人級なのだけど。
そして、しばらくしてラーメンが運ばれる。
豚骨と醤油の香りがする。
麺は見えないほど野菜が盛り付けられ、背脂が表面にかけられている。
そして、握り拳ほどのニンニクが固められていて2~3日は人に会えないことを約束されるかのようだった。
山のようなラーメンをすかさず私は食べる。
欲望のままに……貪るように。
多分上手いというよりかはこの満たされる感覚が癖になるのだと改めて実感するボリュームだった。
流石に……美人なアサミさんは食べきれないんじゃ。
「うわぁ……久しぶりの脂肪と糖分だ!幸せぇ。」
アサミさんは私よりも早いスピードで食べていて、野菜の山は食べ切りあとは麺をすするだけだった。
もちろん、ニンニクも全て食している。
気にしない、気にしないと心に言い聞かせるけど、ついみてしまう。
気がついたら彼女はスープまで飲み干していた。
「あー!美味しかった!」
「……すごい食べっぷりですね。」
「あ、これあげる。ブレスケアよ。」
流石はアサミさん。
二郎を食べても淑女であることを忘れていない。
私は明日明後日の休みは誰とも合わないつもりだったけど、彼女は対策までバッチリだった。
「さて……次は岩盤浴ね!都会ってなんでもあるわね〜。」
「はあ。」
私は終始冷めていた。
それにしてもアサミさんは、完璧に見えたけど結構抜けている。
「でね!私今は保険の営業やってるんだー!」
「そうなんですね!」
「いや〜それがなかなか……きゃっ!?」
足元を見てないのかたまに何も無いところでズッコケている。
他にも……
「多分ここ!」
「いや、ここラブホですよ。」
「え……あ!!もう〜歌舞伎町ごちゃごちゃし過ぎだよ〜。」
方向音痴だと思ってたけどこれは酷い。
岩盤浴場と待ち構えてラブホを案内してるのである。
父はなぜこの人のことを好きになったのか本当にわからなくなってくる。
結局、岩盤浴場も私が見つけて二人で入ることになった。
☆☆
「ふう……。」
岩盤浴ってとても気持ちがいい。
身体を優しく温めるので血行が良くなって少しだけ気が晴れるようだった。
アサミさんもご満悦のようだった。
「ごめんね……歳上のおばさんの癖にこんなに不甲斐なくて。」
「いえ、大丈夫ですよ。慣れてないなら尚更分からないですよね。」
気がついたら、少しこの人に対して優しくなっていた自分がいた。
どうやら怒っていてもそう長くは持たないようだった。
「……ねえ、舞衣ちゃんは私が来てからずっとしんどそうだけど……迷惑、かな?」
二人きりの空間で彼女はそんなことを切り出してくる。
どうやら、彼女は人を観察する目はあるらしい。
「いえ……そんなに。」
「そっか、それならいいんだけど。」
少し無言になってしまう。
何話すか考えてるのだろう。
私もなんでこんなにも彼女に刺々しいのか分からなくなってくるほどだった。
痺れを切らして、私から質問してみる。
「あの……父のどこがいいんですか?子持ちだし、アサミさんからしてもリスクがでかくないですか?もしかしたら嫌われながら血の繋がってない私と親子をしなきゃいけないんですよ。」
少し言い過ぎた気もするけど、こんなに綺麗な人なら男なんて引く手数多もいいところだ。
そんな人が子持ちの男と結婚をする。
お金もかかるし、幸せになれる気がしない。
「うーん、なんでだろうね。」
「え、何もないんですか?」
この人は少し天然なのかもしれない。
話せば話すほど自分に置かれてる状況が分からないのかも。
「これ……あの人には秘密にして欲しいんだけど、私三重県でキャバ嬢しててね。たまたま接待できてたあの人に出会ったんだ。」
キャバ嬢……ときいて少し腑に落ちる。
若干常識ないし、34歳にしては綺麗で少し派手な印象だったから驚きもしなかった。
そして、私を家に置き去りにしてキャバに行ってる父に対しても妙に嫌悪感を抱いてしまった。
「最初は、別のお客さんからのセクハラから守ってくれたのがきっかけなんだけど……そこからアフターもする事になってね!気がついたらバーとかで2人になることが多くなったの。」
「はぁ……。」
知らない世界だ。
一応メイド喫茶というコンカフェで働いてはいるものの、こっちではアフターとかの概念はないので少し新鮮には感じる。
「前話したと思うけど、その時ずっと介護してた母親が亡くなってさ……手術代とか工面するためにキャバで働いてたのに目標を失ってて……気がついたらあの人の前で泣きながら話してたの。」
私は静かに聞いている。
そっか、キャバはお金が稼げるけど……この人は人のためにやってきたんだ。
「そしたら、あの人……それを聞いて泣いてさ〜40超えた人なのにこんなに人の話で泣くんだなって。その時……舞衣ちゃんの話が出たんだ。」
「え……。」
「血が繋がってないし、どうあの子に接すれば分からない。親の愛情を知らずに育ててしまったって腹を割ってくれてね。それで……気がついたらそんなあなたのお父さんとあなたを何とかしたくて気がついたら東京に来ちゃったの。家族がいない寂しさって……2人の立場も分かるから。」
アサミさんは、少し切なそうに……それでいて決意を固めたかのように教えてくれた。
きっと、簡単な覚悟じゃないと思う。
この人は決して幸せ側の人間ではなく、どちらかと言うと私と似ているところがある。
この人も、私と一緒で居場所がない側の人間なんだ。
そう思うと少しだけ、この人の事が好きになった気がした。
「……どこまでとお人好しなんですね。」
「うん!お人好しもいい所だと私も思うよ。今は保険営業してちゃんとキャリアも積んでるから……これからも頑張りたい。」
アサミさんは……真っ直ぐ私の目を見ていた。
少し汗で虚ろになってるけど、それでも目の奥には輝きがある。
ただ依存して……目標もない私には無い目をしていた。
「さーて、そろそろ出ますか!」
「ですね。」
「なんか、舞衣ちゃんと話せてよかった!」
私たちは気がついたら汗だくになっていた。
私も気がついたら肩の荷が降りて少しだけ体が軽くなったような気がした。
「あの……アサミさん。」
「ん?どうかした?」
終始この人には塩対応でいると決めたはずなのに、岩盤浴のせいか……少しだけ判断が鈍って変なことを言ってしまった。
「また、ここに行きましょ。」
「え……。」
何言ってんだか。
嫌いなはずなのに、少しだけこの人を許してしまった自分がいた。
ハッとしてアサミさんを見ると両手で手を抑えて嬉しそうだった。
「もちろん!あ……アサミさんって呼ばなくてもお母さんでもいいのよ!」
「あ、それはまだ無理です。」
「ええー、もう……困ったなー。」
正直、この人と打ち解けるのは時間がかかるだろう。
でもゆっくりだけど氷が溶けていくようにゆっくりと私の距離は近づくようでもあった。
岩盤浴に汗の着いた足跡ができている。
しかし、ゆっくりとその跡は蒸発して何事も無かったかのように消えていった。
果たして舞衣は立ち直れるのか?
よろしければブックマーク、高評価お願いします。




