春と挫折と宮古島 11話
コンコン!
ホテルの部屋をノックする音がする。
俺は時計を見ると……まだ6時くらいだった。
ホテルの朝というのも少し慣れてくると快適そのものだ。
新鮮な空気とかこのツルツルのシーツとか心地よい。
これだけでも非日常の朝が始まる気がしてウキウキしていた。
コンコンコン……ドンドン!
ドアを叩く音がでかくなるので急いでドアに向かい開けると夢華が頬をプクーっと膨らませた状態で待っていた。
「遅い!」
「いや早えよ、何時だと思ってるんだよ。」
夢華が腕を組んでそっぽを向く。
ぐぬぬ……1日置くとやっぱり思春期の女の子って難しい。
俺の主張が全く通らない。
「ほら、行くわよ。」
「ええ!?ちょ……せめて母ちゃん起こしてからでいいか?」
「仕方ないわね……ホテルのロビーで待ってるから。」
そう言って、夢華が大股で歩いてエレベーターへと向かう。俺3個下の女の子に敷かれてるとか……この先の人生が思いやられそうだった。
俺はため息を着いて母ちゃんを起こす。
「母ちゃん、起きて〜。」
「……うう。」
「旅行二日目ですよ。」
「ごめん、今日……うごけない。」
「え?」
……マジか。
母ちゃんは昨日は結局シャワーを浴びないまま寝ていたけど、それほどまでに酔っていて今日も動けなさそうだった。
母ちゃん……そんな酒強くないもんな。
「直輝……今日はずっと横になりたいから自由に遊んできていいよ。」
「いや、ここ宮古島ですよ!?」
せっかくビジネスクラスの飛行機も予約して、この母はホテルで1日を過ごすだと……あまりにも勿体なさに俺は唖然としてしまった。
「とにかく……ねる……。」
そう言い残し、最愛の母は深い眠りへと着く。
いや、生きてるんだけどね。
俺は顔を洗ってどうしようか悩みつつ、身支度を済ませてロビーへと向かった。
「……ったく。」
母ちゃん大丈夫かな、一緒にいた方がいいけど本人は行ってきてって行ってるし、夢華が怒りそうで怖い。
不安な中ロビーに着くと夢華が足を組んでスマホをいじりつまらなさそうにスワイプをしていた。
「お待たせ。」
「……遅い。」
「ごめん……母ちゃんが二日酔いで動けないみたいで、今日はレンタカーも使えないらしい。」
すると、夢華は少し考えてから立ち上がり、俺のすぐ前へと距離を詰めてくる。
彼女の顔はつり目で少し怒ってるようにも見える。
肌は健康的な褐色をしていて、オレンジのリップグロスとか少し化粧に力を入れているのがわかった。
そして回れ右をしてフロントの方へとむかった。
「すみません、今日自転車のレンタルいいですか?」
「はい、2名様でよろしいですか?」
「お願いします。」
そういって、少しニヤリとしてこちらを向く。
「じゃあ、今日はサイクリングデートにしてあげるよ。」
あくまで主導権は向こうにあるらしい。
俺はため息を着いて彼女について行った。
朝の宮古島は港には船が並んでいる。
たまにランニングをしてる人もいたり、外国人が歩いていたりとリゾート地ならではの関連性のないカオスさが垣間見えている。
その中を俺たちはチャリを漕いでいた。
それにしても、久しぶりすぎて息が切れそうだった。
その中を夢華は容赦なく進んでいく。
「ちょ……夢華、早いよ。」
「へへーん!ほら……置いてくよ!」
「チャリは普段乗るのか?」
「そりゃそうよ、沖縄は電車はあるけど基本そんなに走ってないからね!」
なるほど、都会で電車を乗り回す俺が叶わないわけだ。
よく見たら彼女の足はしなやかな筋肉になっていてふくらはぎは膨張していた。
そして、しばらくするとカフェに着いた。
夢華はそこでチャリを停めて、俺もチャリから降りる。
「ここで朝ごはんにしましょ!」
「そうだな、俺も腹減った。」
俺たちはカフェに入店する。
すると、ギターとかサーフボードが飾ってあって以下にも南国な感じがして新鮮だった。
そして、テーブルについてサンドイッチとコーヒーを頼んで俺たちは食事をする。
野菜の入ったミックスサンドにポテトやサラダと健康的な朝だった。
というか……昨日はあんまり食事してなかったからこの時初めてお腹が空いてることに気がついた。
「あはは、めっちゃお腹すいてんじゃん直輝。」
「まあな……昨日なんだかんだ夕飯食い忘れてたからな。」
「あ……そっか。」
すると、夢華はサンドイッチを1個俺のお皿に乗せる。
そしてつり目がにっこりと笑っていてチャーミングな笑顔を見せていた。
「これ、あげるよ!成長期だろうし。」
「いや……夢華のほうが成長期じゃないのか?」
「うっさいわね!食べるの?食べないの?」
「……食べます。」
とはいえ、少し物足りない朝食が満たされそうで俺は少しだけ嬉しかった。
朝のコーヒーで少しだけ疲れが和らぐ感じがして、少しだけ二人でくつろぐことにした。
夢華は言葉はキツめだけど、本人なりの気を許した証拠らしくとても楽しそうに話していた。
「へぇ……夢華って歌も得意なんだ。」
「そうなの!民謡の習い事もしてて、カラオケとかも得意なんだ!」
「そうなんだ、聞いてみたいな。」
「多分直輝、感動して泣いちゃうんじゃない?直輝は歌得意?」
「いや……からっきしだ。」
「ふーん、でしょうね。」
「おい!?お前先入観でそれは酷くないか?」
「お前じゃない、夢華って呼んでよ。」
「ぐぬぬ……。」
一見喧嘩してるようなやり取りだけど夢華は終始笑っていた。まるでここ数年こんなに笑ったことがないのではないだろうかと思いつつも、彼女の太陽のような笑顔を見るとどうにも遮ろうとは思えなかった。
「さーてと、そろそろ行くか。」
「次はどこ行くんだ?」
「神社でも行く?お互い受験生なんだし合格祈願しよーよ!」
「え、沖縄にも神社ってあんの?」
「失礼ね!あるに決まってるじゃない!」
そう言い、ドアを開けて俺たちはまたチャリに乗る。
そして、島の北部へと向かい俺たちは進んで行った。
空は青く澄み渡り、宮古島の海をエメラルドグリーンに照らしていく。
潮風が強く吹き髪がボサボサになっていくほどだった。
目がまだ潮に慣れてないのか少しだけ痛い。
そして、徐々に暑くなっていき改めてここが常夏の世界だと思い知らされるのは、少しあとの事だった。




