春と挫折と宮古島 10話
気がつくと俺たちは砂浜のビーチで海水と砂まみれになっていた。
足がフラフラで空腹と疲れが支配してるようで俺はまた砂浜に座り込んでいた。
「ぜぇ……ぜぇ……もう……無理。」
「えー、体力無いな。」
「夢華がタフすぎるんだよ!」
もうかれこれ夢華と何分も海ではしゃいでいた。
意外と波に揺られながら足場の悪いところで遊ぶのは体力を使うものだった。
「そういや……部活は吹奏楽部だったよな。身体って鍛えられるのか?」
「いやいや!吹奏楽部って文化部を被った体育会系だぞ!?」
「そうなのか?」
「重い楽器を持ち運ぶし、それでいてトランペットとかなら肺活量とか鍛えなきゃだから普通に筋トレするよ?」
それは初知りだった。
なんせ吹奏楽部の友達とかいないから夢華と接すると初めての事ばかりだった。
すると、夢華は突然腹を揉み出してきた。
「ちょ!なにするんだよ。」
「いやー、直輝のお腹って筋肉少なくてぷにぷにしてるなって。」
「し……失礼な!たまに筋トレはしてるよ!」
「えー、私の方があるよ。触る?」
そう言って夢華は無邪気な笑顔を見せる。
なんかその様子に罪悪感を感じて目を逸らし俺はそっぽを向いた。
「ちぇー、つまんないな。」
「うるさい……そろそろ母ちゃんたち心配するから戻るぞ。」
「はいはい……。」
そう言って俺たちは立ち上がり、また宮古島の繁華街を歩いていく。
夜の繁華街は、かなり混沌としていた。
普通に居酒屋もあればお土産屋さんも夜遅くまで営業をしている。
それに……なんか、大人な店が多い気がする。
キャバクラとか風俗も点在していて夜のリゾート地の混沌さも相まって俺はぼんやりと見つめていた。
やがて母ちゃんのいる店に着くと夢華は少しだけ脚がすくんでいた。
きっと気まずいのかもしれない。
わかる……去年の俺もそうだったから。
「気まずいか?」
「なんか、さっきの楽しさが全部消えた。」
「仕方ないな。」
俺は彼女の手を引いて店に入る。
てっきり嫌がられるかと思ったけどすんなりと夢華は受け入れて店に入る。
すると……そこには。
「うう……もう……飲めない。」
「遥香!まだ飲み足りないわよ!あなたとは話し足りないんだから!」
「でも……私……うう。」
「マスター!チェイサー持ってきて!」
泡盛に酔った母ちゃんが泣き上戸になり、妙に説教っぽくなった翔子さんがいて俺たちは言葉を失った。
「あの……翔子さん?これは……。」
「ああ……ごめん直輝くん、飲ませすぎた。」
大人が巻き起こす混沌さに俺は言葉を失っていた。
「直輝〜!直輝はどこにいるろー?この子が直輝なの?」
「待て母ちゃん!その子は夢華だよ!」
「へー、この子が夢華なのか。」
「どう?可愛いでしょ、うちの娘は。」
そんな様子に夢華がぷるぷると震えている。
やばい!あれめっちゃ怒ってる!
元々つり目だったのが怒りで更につり上がっていて、それでいて顔が真っ赤になりぷるぷるも震えている。
すると、そう思ってる間に彼女は居酒屋の引き戸をバンと閉めて「もう寝る!」と出ていってしまった。
俺はまたも彼女を追いかけるとすぐそこに夢華がいた。
「すまん!母ちゃんがダル絡みした!」
「直輝……また明日ね。」
「え……。」
「今日はゆっくり休むから、また明日遊ぼ!」
ちょっと心配したけど、明かりに照らされる夢華はさっきみたいなトゲトゲしさは無くてもう大丈夫だと思った。
そして、夢華は手を振りながらすぐ近くのホテルまで走っていくのを見て俺は店に戻るのだった。
「すみません、戻りました。」
「……夢華は。」
「ホテルに戻りました。心配は無さそうですよ。」
「そっか……ありがとね。」
母ちゃんはすっかり潰れてテーブルに突っ伏して寝ていた。
いや、どんだけ酔っ払ってるんだよ。
後で担いでホテルに行くと思うと少し憂鬱に感じた。
「ごめんね……初対面なのにあの子の相手してもらって。」
「いえいえ、確かに尖ってはいるけど……いい子ですよ。」
「ね!そういう所も昔の私そっくり……って知ってるか。」
そう、彼女のクールなところや不器用な所はタイムスリップで出会ったかつての翔子さんそのものだった。
親子ってこうも似るものだと思い知らされる。
「私にもあんな時期があったのに……大人になると分からないものね。」
「まあ、距離が近すぎると気が付かないものですよ。灯台もと暗しです。」
「あはは、なんかそういう博学なとこは直人くんそっくりね。」
直人とは俺の父だ。
もちろんタイムスリップで既に出会っている。
掴みどころがなくて、それでいて本を読んで博学なところは神秘的な人だった。
「あの子……学校では孤立してるらしくてね、やりたい事も分からなくて悩みは無いかと聞いてもうるさいとか黙ってしか言わないのよ。」
「ああ……言いそうですね。でも大丈夫だと思いますよ。」
「え?」
「さっき、あの子の悩みを聞いて砂浜で遊んでました。いたずらっぽく海水をかける様子は楽しそうでしたよ。」
「……そっか、笑わないと思ったけどあの子もそんな顔するのね。」
そう、彼女は感情の出し方が苦手なだけ。
俺は夢華の助けになりたいと思った。
まるで昔の自分のようで、なにか心を通わせるのならヒントを上げたい。
「あの子、俺たちの旅行に同行したいって言ってました。良かったら……連れて行ってもいいですか?あの子が変われるチャンスだと思うので。」
すると、彼女は泡盛を飲み干してまた注いで静かに考えていた。
「君は、いつも人のために必死だね。」
「……。」
「昔会った時も、遥香と直人くんのために全力だった。そして現代でも夢華の為に全力になれるの……なんで?」
俺は、確かにそうだった。
今までの仲間とか、母ちゃん……そして夢華にも助けることに全力を注いでいた。
そして、俺が医者を志す理由ともリンクしている。
全てが繋がった俺は息を吸って言葉にする。
「そんなの……ほっとけないからに決まってるじゃないですか。俺はこの人生何も無くて誰の力にもなれなかった。そんな俺が少しずつだけど人を助ける尊さを知ったから、誰かの役に立ちたいんです。」
彼女の目を見て、そういった。
すると彼女は笑って大きく笑った、
夢華にそっくりな笑い慣れてない不器用な笑顔で。
「私は君が羨ましいよ。明日夢華頼むね。」
「……はい!」
そう言って俺たちはしばらく話して店を出た。
母ちゃんも水を飲んで復活したようで俺は母ちゃんをおんぶしてゆっくりとホテルに向かった。
「……直輝。」
「なんだ母ちゃん。」
「吐きそう。」
「待て!今は耐えろよ……頼むから。」
「ああ……なんか、食道まで逆流してるような。」
「これ以上喋るなよ!マジで息子の背中でリバースするなよ!?」
「うう……うぷ。」
母ちゃんが背中にリバースをするのでは無いかと恐れる中俺は早歩きでホテルへと向かう。
ホテルが見えてくると、全ての疲れが一気に来るようでかなり眠たくなっている自分がいた。
波の音はどこまでも聞こえて、ヤシの木が揺られて葉っぱが擦れる音が静かに聞こえて宮古島の自然の豊かさがそれだけでも分かるようでもあった。




