春と挫折と宮古島 9話
しばらく、彼女のすすり泣く声が鳴り響いたが波の音と並行して少しずつ彼女の穏やかな声がゆっくりになっていく。
そうだ、夜が終わるように泣くのだって終わりが来る。
俺は何も言わず静かに聞いていた。
きっと今彼女を理解できるのは俺しかいないから。
「……ごめん、取り乱した。」
「いやいいよ。少しだけ気持ちわかるし。」
「気持ち、何がわかるの?」
「んー、何となくだけど居場所が無い気持ちと、将来に怯える姿が去年の俺のようだったから……つい。」
すると、夢華ちゃんはまた不機嫌そうにそっぽを向いた。
これはどっちなんだろう。大外れか?それとも図星?
「夢華でいい、ウチは直輝って呼ぶし。」
「ありがとう、夢華ちゃん!」
「ちゃん付けするな!キモイ!」
「ご……ごめんて。じゃあ……夢華。」
「うん。」
どうやらちゃん付けよりも呼び捨ての方が好きみたいだ。
最近の年頃の子ってなかなか難しい。
俺も若者のはずなのに思春期だと尚更分からない……。
「直輝って何歳なの?」
「ああ……17だよ。今年で18になる。」
「え、ウチより3個も上なんだ。もっと下かと思った。」
「おい、それはどういう意味だ?というか……俺の方がお兄さんなんだから敬語でも使ってみたらどうだ?」
「やーだよー、直輝はそんなお兄さんって感じしないし。」
怒ったり失礼な子だな……でも、なにか理由がある。
彼女の思考は思春期なのもあるけど捻くれていた。
でも、それも妙に大袈裟なところがあって本音がどこかにあるのかもしれない。
「てか、なんで泣いてたんだよ。今はケロッとしてるじゃねえか。」
「えー、どうしよっかな。仕方ないな……教えてあげるよ。」
彼女はため息を着いている。
なんだろう、舞衣とか愛さんの時といい俺はたまに尻に敷かれるタイプな気がしてちょっと腑に落ちない。
ここは歳上の威厳を持つほうが……ああ、いややめておこう。
「ウチ、今年受験でさ……何したいのかもわかんないの。勉強は出来なくもないけど他の子みたいに高校合わせるとかそんなの無くてさ。ママには塾行かされるし、こんなだから吹奏楽部のみんなにも嫌われてるのよ。」
「それで、何をしたいか分からなくてごちゃごちゃしてるうちに翔子さんに宮古島に連れていかれて爆発したと。あとは……自分のために時間作ってるかと思ったらこうして都会から知らない人が来てイライラしたのかな?」
「……直輝。」
俺が彼女の気持ちを汲み取り要約すると驚いた表情でこちらを見ていた。
「そう……そうなんだよ!まさにそんなかんじ!」
どうやら彼女はまだ脳みそは若く自分の声もよく分からないのもあって爆発したのかもしれない。
そして、理解して貰えたのが嬉しかったらしく彼女ははじめて笑顔を見せる。
月明かりで移される彼女はよく見ると綺麗な顔をしている。
日焼けで健康的な肌色をしていて、サラサラとしたボブの髪を何度もいじっていて妙にギャップもあって可愛らしく見えた。
「てか、直輝も今年受験生なの?」
「そうだよ。」
「うわぁ……お互い大変だね。」
彼女は俺と対等(より少し上?)でいたいのか俺の話を聞こうとしていた。
まあでも、昔の俺のようなのもあって感情移入してるだけなのかもしれないけど。
「受験ってことは……大学行くの?実は頭いいの?」
「うん、大学行くよ。」
「20歳超えても勉強したいの?私は勉強大っ嫌いなんだけど。」
彼女はこんな感じに海を見つめながら何度も質問をした。
きっと、人との距離感とかもまだ難しいのかもしれない。
俺は淡々と海を見つめて答えを出していた。
「俺もぶっちゃけ……勉強苦手。それに昔いじめられてたし、高校になってやっとまともに友達出来たくらいだよ。」
「え?そうなの?なんか可哀想……私が友達になってあげようか?」
「い……いや、今はいるからね?話聞いてる?」
「あーごめんごめん。ウチ直輝よりは恵まれてる気がしたから。」
「誰が不幸のどん底じゃ!」
「あっはっは!あー、おもしろ。」
たまにこうしてからかわられる。
でも、妙にその様子は初対面の怒った表情とは売って変わって妹のような感じがして可愛らしく感じた。
最初は月明かりの海ばかりを見ていたけど気がついたら夢華の方ばかり見ていて、海は蚊帳の外になっていた。
「なんか、直輝と話してたら色々どうでも良くなってきた。」
夢華はそう言うと、大きく伸びをする。
多分頭はいいから話してるうちにアドバイスしなくても答えを自ずと出せるタイプなので最後まで俺は彼女にアドバイスとか自分の生い立ちとか話すことは無かったけどこれはこれで良いコミュニケーションだと思った。
「にしても、直輝って私の事嫌いにならないんだね?他の子なんかは逃げちゃうし、たまに話すと悲しそうな目でこっちを見るんだよね。なんでかな?」
「まあ……コミュニケーションで表情が怒ってると人は離れてくよ。あとは、自分の言葉じゃなくて相手のために言葉を選ぶことも大事かも、そこは俺も勉強中だけどね。」
「そっか、だから直輝は嫌な感じしないのか。」
すると、彼女は海に飽きたのか立ち上がり俺もそれに合わせて立ち上がると彼女はニカッと笑って腕を組んで話す。
「直輝明後日までここにいるんでしょ?」
「ああ……そうだけど。」
「ウチも一緒に行ってあげる。」
「え?」
「なんか、直輝と話すの楽しーし。直輝も嬉しいでしょ?」
「おいおい……。」
「嬉しーよね?」
「……はい。」
こうして、半ば強制的に俺は夢華とも宮古島のリゾートを楽しむことになった。
とはいえ、俺も勉強に挫折してる身だ。ここで1つの答えを見つけてまた勉強を頑張ろう。
そう思うと、顔に海水がかかる。
俺はあまりの冷たさにびっくりして情けない声を出していた。
「お……おい何を。」
「直輝ー!どう?宮古島の味は。」
「不本意な味なんだが。」
「あはは!やーい、こっちまでおいで!」
「ちょ……待てー!」
夜の砂浜のビーチで俺たちは水をかけ合う。
月明かりに照らされて、静かな砂浜で俺たちの声は海の彼方へと消えていく。
その時には俺も将来の不安という気持ちは、どこかへと置いてきたかのようだった。




