春と挫折と宮古島 7話
羽田空港は修学旅行で行った成田より都会に近かった。
それなのに、ガラス張りの天井や木の橋があって妙におしゃれだった
とにかく、ここは開放感に溢れるほど建物が広く時折日本の気で作られた橋がかけられていて、遊び心もあるデザインのように見える。
そして、俺は眠気に襲われながら空港でスマホをいじっていると母ちゃんが小走りでこっちに来る。
「チケット取れたよ!」
「ありがとう、じゃあ次は保安検査して搭乗か。」
「3時間も乗るらしいからね〜。トイレとか大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「了解、それじゃあ行こっか!」
そして、俺たちは飛行機に乗り込むのだった。
☆☆
「すげぇ……座る席でこんなに違うものなのか。」
「どや!これがビジネスだよ!」
「いや、何故に母ちゃんがドヤ顔?」
「ふっふっふ……私が仕事をしてた時はオーストラリアや南米に行ってファーストクラスで乗り回したものよ。」
「母ちゃん……海外ものも出演していたのか。」
母ちゃんのAV武勇伝はさておき、ビジネスクラスだけでも快適さは段違いだった。
まずずっしりと並ぶエコノミーとちがってフルフラットにして寝る事もできる。
それに加えて、半個室のような造りになっていて結構プライベート感もありネカフェに近いような感覚があった。
すげぇ……そりゃあ座る席で価値が違うわけだ。
俺はジュースを飲みながら参考書を読む。
「間もなく……離陸をはじめます。」
そして、しばらく滑走路を走っていたが間もなく離陸のアナウンスが流れる。
いよいよ、離陸の時か。
「ほら!直輝飛ぶよ〜!」
「母ちゃん……?ファーストクラス乗り回してたんだよな?」
「でも離陸の時ほどワクワクしない?」
「しないよ。」
「もう〜直輝はたまに人の話聞かない時があるよ!」
「うるせえよ。」
そして、2度目の飛行機の離陸を経験するけど、人生初の離陸に比べたらそこまで新鮮さはなかった。
でもしばらくして雲を突っ切ると、そこからどこまでも続く青空と雲の海が見下ろせるこの景色だけは何度かチラ見するほど素敵だった。
俺は渋々参考書の問題や解説を読んで、すぐに頭が沸騰するほど難しくて1ページをめくるのさえもしんどかった。特に苦手なところに触れると試験のショックがフラッシュバックして最初はすぐに閉じて、また何もない空を見つめる。
答えを見ても何故そうなるのかなどすら理解するのが難しい。やはり医学部受験というのは本当に狭き門だと思い知らされる。
そして何度も空を見ては飽きて、また参考書を読む。
そして参考書に疲れてまた空を見てを繰り返すとあることに気がついた。
あれ?意外と勉強捗ってる?
頭に新しい刺激があるせいか?
俺は参考書が今までサラ読みだったのが、試験で分からないところを深く考えるようになった。
構造で理解しようと図に書いて手を動かすと、明らかに解けるスピードが上がっていた。
「……できた。」
昨日の試験で10分以上かけた問題がものの3分で解けてしまった。
それだけじゃない、間違えたところや試験に出たところが無意識に目に入り、そして手を動かしてやると脳だけでなく身体で覚えてくる感覚があった。
いつもの机で勉強するよりも遥かに快適で俺は気がついたら3時間没頭して勉強していた。
「間もなく……下地島空港にて着陸をします。」
快適な空の旅も一瞬で俺は時間を感じることもなく、機内モードのスマホに触れることもなくあっという間に終わってしまった。
「直輝、めちゃくちゃ勉強してたね。」
「え、俺3時間以上勉強してたのか?」
「そうだよ、私は寝てたけどね。」
そういって母ちゃんは欠伸をする。
そして、ゴクゴクとビールを飲んではおっさんのようにに「ぷはぁー」と感嘆していた。
「どう?手応えあった?」
「まあまあかな。」
「医学部合格できそう?」
「いや、早えよ……ってうおお!?」
母ちゃんにツッコんでいる間に着陸の刺激が身体に来る。
一瞬むせ返りそうになったけど、何とか空での勉強を終えて俺は参考書を閉じてため息を着いた。
「あはは、タイミング悪いね!」
「……何の話してたっけ。」
「医学部合格できるかの話よ。」
「うん……まあ、そうだな。」
「なによ、ハッキリしないわね。」
正直、合格がまだ程遠いように感じる。
でも今日得た間隔はとても手応えに近いものを感じたようだった。
そう、今日から改めて一歩を踏んだかのように。
「今までは医学部は雲の先にあったけど、やっと医学部合格という山の1合目を踏んだかのような……そんな感じ。」
「そっか、いいじゃん!」
そう、決して合格と断言できるものでは無いけど、挫折から1歩行動を起こすと吸収がとても違うように感じた。
そして、間もなく空の旅も終わりを告げる。
「到着致しました、下地島空港です。順番に席をお立ちください。」
そういって俺たちは飛行機から降りて空港に着く。
「そういえば、下地島空港って?宮古島じゃないのか?」
「ああ……言ってなかったね。ここは宮古島の西にある伊良部島、宮古島とは橋で続いているの。」
そういって、母ちゃんは荷物を受け取りタクシーの元へと進む。
俺ははるか南にある島へと到着し、その暑さと東京とは明らかに違う植物や鳥などの生態系の違いに驚かされていた。
「さーて!いざ……宮古島よ!」
そういって、母ちゃんはまるで子どものようにはしゃぎ……タクシーの元へと駆け寄る。
俺も母ちゃんを追いかけるように進むのだった。
さて、これから何が待ってるのだろう。
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