月下に灯るメイド長 11話
いよいよだ……。
今日はメイド喫茶キュートローズオープン初日である。
もう既に店の前にはお客さんがズラリと並んでいた。
私たちは一堂に会して朝礼をしていた。
「……おはようございます。今日まで本当にありがとう、無事にオープンができそうです。」
パチパチ……。
みんなが満面の笑みで拍手をする。
この3ヶ月、この日のために本当に沢山準備したものだ。
「……今月の目標です。Googleのクチコミ10件をまずはやってみますか!あとはご主人様を出来る限りもてなす感じでやってください!」
そして、朝礼の締めに挨拶の声出しをする。
私はゆっくりと息を吸った。
「お帰りなさいませご主人様!」
「「「お帰りなさいませご主人様!」」」
「行ってらっしゃいませご主人様!」
「「「行ってらっしゃいませご主人様様!」」」
「本日もよろしくお願いします!」
そういって、店をオープンする。
すると、これでもかとお客様が入ってきた。
レンタルキッチンのプレオープンとは比べ物にならないレベルだ。
私たちは出来る限り焦らず目の前のことに集中していた。
「きゃー!メアちゃんだ!生で見ると可愛い!!後でチェキ買います!」
「ほんとですか……?ありがとうございます!」
メアちゃんも最初は不安だったけど、こうして頑張る彼女にファンが着いている。
「ふふん、どうしましたご主人様……顔真っ赤ですよ?私はまだまだテキーラでもシャンパンでも飲めるんだけどな〜?」
「くそぅ!俺の負けだよ!」
くるみちゃんは相変わらず売上のエースになっていた。
あの子もうシャンパン2本くらいは飲んでるはずなのに、きちんと萌え萌えきゅんとかのアイコメをこなしたりと相変わらず能力の高さには脱帽させられる。
「え〜ご主人様キャンプとかするん?キャンプギアめちゃくちゃカッコイイやん〜。」
「え……いや……その。」
「絶対SNS映えするやろ〜。あ、うちもXやっとるで〜。」
「じゃあ……フォローします。」
「ほんまか!?たまにリプで絡んできてもええんやで〜。」
すずのちゃんは人の心を掴むのが上手い。
ああやられたらまた会いたいと思ってしまうだろう。
こんな感じで新人たちは個性を活かしてお店が回ってる気がした。
「ことねさん、お久しぶりですね。」
そんな中、ある青年が声をかけた。
「あ……えっと……?」
誰だろう思い出せない。
声は確かに聞いたことあるんどけど。
「わぁ!」
「……あ!!」
その一言でわかった。
以前コラボしたやばい人だった。
まさかすっぴんで来て下さるとは思わなかった。
メイクと全身タイツがない彼は好青年そのものだった。
「先日はコラボありがとうございました。」
「……いえいえ、ヤバい人さんのお陰で再生数も増えて、こちらもなんとお礼をいえば……。」
「またコラボしましょう!応援してるんで!」
どうしよう、とても先日でかい声で「わぁ!!」なんて発狂して、自分のチクビをいじっていた人と同一人物とは思えない。
でも、きっと素はいい人なんだなと思った。
その他にも、仲のいい人が沢山応援に来てくれた。
「やっほ〜ことねぇきたよ!」
「……さやか、酒臭いんだけど。」
「つれないな〜、まあいいや!今日は飲みほで行くぜ!」
「……絶対吐かないでね。」
先日面接で落ちた親友の笛吹さやかも来た。
「私と飲めるやついないのか〜?」
「……くるみちゃん、あの子の対応頼める?」
「ええ、彼女は私と同じ匂いしますね。」
「……ごめんなさい、ヤバかったら追い出してもいいからね。」
「ことねぇ……私客だよ?お嬢様だよ?」
「まあまあ!何にしますー?」
「くそー!飲まずにはいられるかってんだ!テキーラ持ってこい!」
「はーい!」
その後も客足は途絶えることがなかった。
メアちゃんも萌え萌えきゅんと言いすぎて若干声も枯れてきた。
カララーン
「お帰りなさいませ……って、あ!」
「どうも、ことねさん。オープンおめでとうございます!」
「来ちゃいましたよ。」
「……遥香さんに直輝くんも!」
このふたりは天野家の親子である。
母親の遥香さんは元AV女優の仲良くしてくれてる素敵な家族だった。元々母親の方はレンタルキッチン時代のメイド喫茶を手伝ってくれたり、一緒に旅行したりと交流があった。
「直輝くーん!え、嬉しいなんで?なんできてくれたの?ご飯にする?お風呂にする?それとも。」
「……舞衣ちゃん?今接客中なんだけど?プライベートはオフモードにしよっか。」
「いだだだ!ことねさん!痛い!流れるように関節技を決めないでください!!」
「すげぇ……あの舞衣をいとも簡単に。」
ちなみに息子の方は舞衣ちゃんの彼氏だ。
いつも監視カメラで見られていたり、たまに女の子と一緒にいて舞衣ちゃんに誤解されて折檻を受けてる。
彼を前にすると舞衣ちゃん接客モードが剥がれちゃうから要注意だ。
「いいなぁ、ことねさんは色々チャレンジしてて。また手伝いに行こっかな〜。」
「……面接に来てもいいんですよ?」
「いやいや!33にはちょっとキツイよ。そんなことより、無事オープンおめでと!一友人として嬉しいよ!」
「……ここまで長い道のりでした。でも、これからスタートだから精進して行きます。」
「うん!私もチャンネル登録したからよろしくね!」
そういって、この人はいつも通りの屈託のない笑顔で私を見ていた。私もこの人のように太陽のような存在になりたい。そんな気持ちでいっぱいだった。
「とりあえず、乾杯しよっか!」
「……いいんですか?」
「もちろん!直輝は何にする?」
「じゃあ、コーラで。」
私と遥香さんは同じビールにして乾杯をした。
「かー!ビールうまー!」
「……ですね、今日いちばん美味しいかもしれないです。」
「かもね!」
カララーン!
落ち着いたのも束の間、どんどんお客さんが入ってくる。
その度に私たちは声を揃えて挨拶をする。
「ご主人様のお帰りです!」
「「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」」
そして、案内を舞衣ちゃんがしてくれた。
私もおちおち喋ってばっかいられないのでそろそろ切り上げて伝票管理とかに戻るとしよう。
「いいわね、この感じ!」
「……ご主人様をきちんとお迎えするようにしてます。」
「うん!このお店はことねさんらしいわ!」
そういって遥香さんはまたにこやかに笑う。
この忙しない感じは、身体に緊張が走るのだけど、私はこの感覚が好きだった。
でも、まだまだ楽観的でいるには早い。
課題は山積みだ。
私は次へ……また次へとやる事をこなして行くのだった。




