月下に灯るメイド長 10話
布団から目が覚めた時には完全に太陽が登っていた。
「ん……もうお昼か。」
私はメア。現在通信高校に通いながらメイド喫茶で働く16歳である。
私の朝は遅い。しばらくいじめで不登校になっていた期間もあって生活リズムはこれでもかとバラバラになっていた。
「メアちゃん!おはよう。」
「おはよう〜ママ。」
マンションのドアを開けるとママが何やらパソコンとにらめっこしてた。
ママは家事と両立するために在宅のシステムエンジニアをしてるらしい。
「メアちゃん!今日は体調は?動画で泣いてたけど大丈夫?」
「ママ心配しすぎ……いい人達ばっかだよ。」
「そう……それならいいけど。」
ママは不登校の時もご飯を作ってくれたり、整形の時もせめてお昼には起きるという約束の元整形費用も出してくれた。
だからかなり心配させられるんだけど、最近はその優しさがより重く感じた。
私はシャワーを浴びて、そこから髪を整えながらメイクをしていた。
そういえばメイクもママに本気で教わったっけな。
昔はデブスで鏡を見た時は吐いてしまった時もあったけど、整形して少しだけ自分の顔が好きになった気がする。
「うん、今日も可愛い。」
私は少しでも今の自分の顔が好きになれるようにそう言うようにした。
「ねえママ……SNS用に写真撮ってくれないかな?」
「うん!いいわよ!」
そういって、ママは私の盛れるアングルである背景白の蛍光灯の下から私が上目遣いになるようなアングルで写真を撮ってくれる。
「ありがとう!ママ!」
「もう〜しょうがない子ね。勉強は大丈夫そう?」
「うん、ちょっとずつ単位は取れてきてるよ。」
「それなら良かった。じゃあ、母さん仕事に戻るわね!」
「うん!私もいってきます!」
そう言って、私は家を出る。
秋葉原に近づくと私は少し有名人として声をかけられることも増えてきた。
「メアさん!本物だ!ヤバい人の動画みました!」
「あ……あはは。やっぱその動画ですよね。」
この前の撮影の動画は、ヤバい人さんの知名度もあってか再生数は100万を超えていた。
結果的に泣きながら頑張った様子がファン獲得に繋がったらしい。
それ故に私は少しだけ自分に自信が持てるようになってきた。
「メアさん!握手してください!ドュフフ。」
たまーにこうして芳しい人からも声をかけられる。
とはいえ、中退した高校のいじめに比べたら全く苦にはならないんだけどね。
そして、私は仮店舗で今日も仕事に向かった。
「おはようございます!」
メイド喫茶に着くとまずは髪のヘアメをやる。
ことねさんが給料天引きのシステムでヘアメさんを店に呼んでやってもらうのだ。
「今日はどんな感じにします?」
「んー、やっぱお気に入りのウェーブをかけた感じで。」
「りょーかいです!そういえば最近新しいパンケーキ屋さんが。」
「え、そうなんですか?」
こうして大人の人とガールズトークするのも実は新鮮だったりする。
今までは裏垢でおじさんとばっか会話してたからな……。
まあ、これは心の奥に閉まっておこう。
「はい!可愛くできました〜!」
「わぁ……。」
ヘアメさんに毛先をヘアアイロンで内巻き外巻きにしてもらったのと前髪をスプレーで固めてもらった。
メイド服を着るとまるで今までの自分とは違う自分になれる感覚がとても好きだった。
そして、オープン準備をしてお店をオープンさせる。
メイド喫茶「キュートローズ」はYouTube、インスタ、Tiktokと様々な媒体でかなり再生数が増えていた。
それ故に正式オープン前だと言うのにかなり忙しい。
メイド喫茶でやることは多かった。
初めてのご主人様に世界観をわかって貰えるような説明をしたり、後は料理にアイコメで萌え萌えきゅんとやったりもする。
他にもオムライスにお絵描きしたり、飲み物を出したりと中々に多忙。
それに加えてグラスや皿洗いなどの普通に飲食店でやる事や、他にもご主人様からドリンクを頂いたらそのトークに集中しなきゃ行けない。
物覚えの悪い私にとってはどれをやるにしても少しだけ時間がかかっていた。
「メアちゃん、ちょっといい?」
「はい!マイさん!」
「この部分、ちゃんと説明した?」
「あ……それは……その。」
「この部分は伝えなきゃお互いに困るから先に言った方が良いわよ。あとはテーブルもちゃんと見てあげて飲み放題の人がおかわりとかしやすくするとかそこも見てあげると良いかも。」
「は……はい!」
舞衣さんは、ちょっと苦手である。
いい人だし間違ったことは言ってないんだけど、最初の面接で椅子蹴ってたりちょっと怖い人ってなってるんだよな。
慣れればいいけど。
「まあ、次気をつければいいから。あとは説明私やっておくからドリンク頂いたご主人様とのトークに集中しようか!」
「は……はい!」
でも、たまに頼もしいところもある。
「メアちゃん!ドリンクいいよ!」
「わぁ……ありがとうございます!何にしよっかな。」
「え?何言ってんのメアちゃん。テキーラっしょ!」
「え……。」
「いや〜テキーラじゃないと冷めるわ〜。え、どうすんの?」
「あ……えっと……。」
どうしよう、断れない雰囲気だ。
相手は声が大きく私をいじめてた人に似ててちょっと冷や汗をかく。
そんな時だった。
「ごめんなさぁ〜い!メアちゃん、お酒飲めない方の17歳なんですよ!」
「なんだよ〜、え、逆に酒が飲める17歳いるの?」
「んー、ことねさんとくるみちゃんは大丈夫だよ!ちなみに私も飲めない17歳でーす!」
「お前も飲めんないんかい!わかったわ、じゃあ……くるみちゃんにテキーラ!」
「ありがとうございます!」
こうして、優柔不断な私をたまーにフォローしてくれる。
こういう所は慣れてるいい人なんだなって感じた。
「大丈夫……?」
「ごめんなさい!私……こういう時どうすればいいのか分かんなくて。」
「まだ初めて1ヶ月くらいだからわかんなかったら聞いてね!仕事は報告連絡相談!そこはメイド喫茶でも変わらないから!」
「……マイさん。」
こうして、客足は途絶えることなく私たちは無事1日を終えた。
今日も色々やった……。
でも、これで終わりではない。
Xを交換した人やドリンク頂いた方にお礼のリプライも送ったりと、なんだかんだSNSなども個人ゲーでかなり忙しかった。
片付けを終えたら画面とにらめっこだった。
「メアちゃん、帰ろうや〜。」
「すずのさん!帰りますか。」
「メアちゃん……うちら同い年なんやから敬語やめいや。フランクにタメ語でええで〜。」
「あはは……じゃあ帰るか。お疲れ様です!」
そう言って、私たちは帰りにファミチキを食べる。
私はチーズの入ったものを食べるとそれが劇的に美味かった。
疲れた体にチーズの酸味と肉の旨みが脂とともにジュワッと入ってきて働いたあとのファミチキとコーラの美味さに震えていた。
「んー!美味しい!」
「メアちゃん、子どもみたいやな〜。」
「逆にすずのちゃんはブラックコーヒーって大人ね。」
「せやな〜、うちは糖質とか制限してるからな。この後家でローカロリーヌードル食べる予定なんやで。」
「意識高!?もう大人だよ〜。」
「あはは〜じゃあ、ウチはこの電車やからまた明日頑張ろか〜。」
「うん!またゆっくり話そう!」
こうして、寒い駅のホームで今日の一日が終わるのを静かに感じた。
22時を過ぎた駅は終電が近いのか少し忙しない。
でも、何も無かったわたしが少しずつなにかになれてきてる感覚はとても嬉しかった。
列車が間もなく到着するアナウンスが流れたのでコーラを飲んで大きく伸びをした。
明日も頑張ろう、色々あるかもだけど。
秋葉原でたくさんの人が降りていく、そしてスッキリした電車の中で私は座席に座り少しウットリとしてしまう。
そして、列車は扉を閉めて夜の東京の中をゆっくり一定の感覚で進んで消えていった。




