月下に灯るメイド長 12話
オープンしてからしばらく経ったがそれでも客足が途絶える様子はなかった。
私もひとつの事に集中してると周りが見えてこなくなるものだ。
「あのーすみません、オムライス……全然来ないんですけど。」
「申し訳ございません!すぐにご用意してますね!」
私はすぐにキッチンに行くと舞衣ちゃんがキャパオーバーで少しオーバーヒートしそうだった。
「……舞衣ちゃん!4卓のオムライスが時間かかってるみたいだけど……。」
「すみません!すぐ用意します!」
舞衣ちゃんはカレーを用意しながらビールやテキーラなどのお酒を用意していた。
彼女はベテランとして頑張ってるけどやはり数には勝てないようだった。
「……オムライス、手伝うわよ。」
「すみません!」
「……いいのよ、とりあえず今日を乗り越えましょう。」
すると、突然ガシャーンという音が鳴り響いた。
嫌な予感がしたので客席をみるとくるみちゃんがダウンしてグラスを落として割れていた。
それだけじゃなかった。
「ねえねえ〜!メアちゃん連絡先交換だけでも良くね?俺と遊ぼうよ〜。」
「……や、やめてください。」
「え、なに?客の言うこと聞けないの?まあいいや、写真でも撮ってやるわ。」
メアちゃんが少しチャラい男にナンパされて抵抗できないでいた。
順調に見えたメイド喫茶キュートローズはかなり苦戦していた。
やはり客の数が多すぎるのと経験不足がもろに出てしまった。
どう切り抜ける……初めて私に責任とプレッシャーが押し寄せる瞬間だった。
でも、長年やってきた経験が……私の10年間が私を助けてくれた。
私はすぐにメアちゃんの元にいってメアちゃんを守りに行く。
「……ご主人様、申し訳ございません。」
「あ?なんだよ。」
「……お客様の行為はこちらの規約違反ですので何度も繰り返すならご退店願うようになってますけど。」
「良いじゃねえかよ!なに?こちとらお客様だぞ?」
「……ルールですので、従わないなら通報などの処置を致します。皆様にも気持ちよく楽しんでもらうためにもお願いいたします。」
「……っち。わーったよ、面白くねえ。」
そういって男はつまらなさそうにした。
でも、それは計算のうちだった。
「お兄さん、良かったらうちとも話さへん?」
「……誰?」
「うち、すずの言います!お兄さんそのアクセサリーかっこええな〜ブランドなん?」
「おう……このベルトがGUCCIで。」
オムライスのお絵描きに苦戦していたすずのちゃんをメアちゃんとチェンジさせた。
そして、浮いたメアちゃんに割れたグラスの片付けと、ほかのテーブルの掃除をお願いした。
「ことねさん、助けてくれてありがとうございます。」
「……いいの、あなたはちゃんとやったわ。いまはできることからやりましょ。」
そういって、私はくるみちゃんをバックヤードに運んだ。
「……大丈夫?くるみちゃん。」
「ぐすっ……すみません。売上を上げるのが私の仕事なのに。」
「……大丈夫、あなたの一生懸命なところはよく見てるから。とりあえずポカリ飲みなさい。」
「すみません。」
彼女とバトンタッチした私は残った酒を全て飲み干し酒飲みのご主人様の対応をする。
「……お待たせしました。」
「おお、いい飲みっぷりだね。俺は飲ますよ。」
「……ええ、私は飲める17歳なので。」
本当は28歳だけどね。
配置を変えて頑張ったら徐々にそれをみて全体の士気が戻ってくる。
少しずつだけどみんなの動きが良くなってきた。
「メアちゃん!3卓にオムライス!」
「了解です!舞衣さん!お待たせしました〜オムライスです!何かお絵描きしますか〜?」
「じゃあ、ベ〇ータで。」
「無理だと思いましたね?見ててください〜。」
「すげぇ!ほんとうにベ〇ータかけてる!メアちゃんやるじゃん。」
体制を持ち直して少しずつ回転が良くなるとお店の列も無くなりみんな落ち着きを戻してきた。
私はこの男と飲み勝負をまだ繰り出している。
「やるなぁ、ことねさん。さすがカリスマメイドなだけあるわ。」
「……ご主人様からのお酒は飲みきるのがポリシーなので。」
「じゃあ、更にシャンパン頼もうか。」
そういって、男はシャンパンを指定してメアちゃんに持ってきてもらう。
私は静かにそれを空け、男の分を注ごうとしたら止められた。
「待て、飲みきるのがポリシーなんだろ?見せてみろよお前さんの器を。」
こいつ、絶対メイド喫茶に来ちゃいけないやつだろと若干の殺意を感じつつ、瓶と対峙する。
しかし、私はゴクリと息を飲みシャンパンの瓶ごと喉に注ぎ込んだ。
「ことねさん!」
メアちゃんは飛び出そうとするけど、それを舞衣ちゃんが制止する。
「メアちゃん、待って。」
「で……でもあのお酒を飲むと死にますよ。」
「大丈夫よ、ことねさんの背中を信じなさい。」
だずげで……と思いつつ体にシャンパンを流し込む。
それまでテキーラやビールなどを飲まされてトドメとばかりにシャンパンの苦さや炭酸が内蔵を襲っていた。
吐いたら負け、何もかもを失ってしまう。
みんなの声援が私の背中を押してる気がした。
一瞬、むせ返りそうだった。
少しでも油断したら鼻から逆流しそうだった。
でも気がついたらその瞬間……流し込まれたシャンパンが止まった。
……終わった。
今すぐでも吐きたい気分をドヤ顔で何とかとどめた。
パチパチパチ……
「すげーことねさん!やっぱことねさん推しだわ!」
「この飲みっぷり、彼女こそカリスマメイドに相応しい。」
私は……やりきった。
みんなを守って、お店を守りきったのだ。
「……どう?まだ私にはやれそうだけど。」
「おい〜、やるじゃねえか。もう俺はすっからかんだ。見事だよ。もういい、チェックだチェック!」
そういって男は舞衣ちゃんにチェックの合図をして退店の準備をする。
私は、どうやら勝ったらしい。
痩せ我慢をしてるけどこっちも限界だった。
「ことねさんとやら!……頑張れよ。また飲ましに行くからな!」
「……ええ、望むところです。」
むりむりむりむり!もうアラサーにはそんな強靭な肝臓ないわよ!
ちょっと冷や汗を書きつつハッタリをかまして何とか無事オープン初日を乗り切るのだった。
「ご主人様のお出かけです!」
「「「行ってらっしゃいませ!ご主人様!」」」
無事に終わった……その時だった。
視界が酷く揺れ、私は目の前が真っ暗になったのだった。
「ことねさん!?」
「…………もう、無理。」
「ことねさん!大丈夫ですか!?ことねさーん!」
私は安心したと同時に力が抜け、アルコール特有の渦巻きに巻き込まれたような錯覚に陥り静かに意識を失っていった。




