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とある男子高校生の裏事情  作者: 烏丸 遼
学園祭編
42/66

第13話

 


◆◇◆◇◆


 学園祭2日目の夜。


「紫苑、お姉ちゃんに包み隠さず話してね? 愛梨ちゃんとはどんな関係?」

「いや、ただの幼馴染だよ」


 紫苑は千冬から尋問されていた。昨夜片桐から受けたものと同じだ。


「ふーん。幼馴染は私と白雪だけかと思ったら、あんなに可愛い女の子を隠してたなんて……浮気者!」

「なんでだよ! 別に隠してたわけではありませんて」


 この後、根掘り葉掘り聞かれ尋問が終わったのはこれまた2時間後だった。


◆◇◆◇◆


「はぁ〜 やっと帰ってくれた」


 千冬は尋問の後、紫苑を10分間くらいギュゥゥッと抱き締め、東京へと帰っていった。

 そして、いつものように片桐と二人きりになった。


「お疲れ様です」

「そういえば、片桐は姉さんが学校に来ること知ってたんでしょ? なんで事前に教えてくれなかったんだ?」

「千冬お嬢様に頼まれたからです。紫苑様を驚かせたいと」

「おかげで超びっくりしたよ」

「千冬お嬢様はかなりの人数の部下を連れていらっしゃいましたが、大丈夫でしたか?」

「大丈夫なもんか。教師たちに説明するのに時間かかったよ」

「本当は私も今日行きたかったのですが……」

「また来年来ればいいだろ?」

「行ってもよろしいのですか!?」

「もちろん」

「ありがとうございます!」


 ソファに座りながら、紫苑に体を預けてきた片桐を受け止め、頭を撫でてあげる。片桐は嬉しそうに目を細め、紫苑を抱き締めた。


「今日も紫苑様はお疲れのようですので、一緒に寝ましょうか♪」

「いや、遠慮しておく」

「いえいえ、遠慮なさらずに」


 こうして強引に片桐と一緒に寝かされた。これではどっちが部下なのかわからない。

 でも、紫苑も片桐と眠ることが嫌なわけではない。むしろ安らぎを感じる。何故だか、彼女が側にいると安心できるのだった。



◆◇◆◇◆


 学園祭3日目。今日は体育の部だ。

 紫苑はクラス選抜リレーに出る。あと、騎馬戦の補欠だ。

 個人ではそれだけだが、三人四脚や大縄とびはクラス全員が出る。

 ちなみに愛梨もリレーに出る。リレーは男子八人、女子七人の混合だ。男子は一人100M、女子は50M。第一走者とアンカーは200M走る。

 紫苑は7番目。愛梨は6番目。つまり、紫苑は愛梨からバトンを貰うのだ。


「紫苑、あんまり早くスタートしないでよね」

「まぁ適当に出るよ。それに、確実にバトンを繋げばトップでゴールできそうなメンバーだし」


 なぜか紫苑のクラスは陸上部が多かった。

 


 学園祭体育の部、開会式も終わりいよいよ競技に入る。

 まずは大縄とびだ。回し手が2人で、その他の38人は2列になり、縄を跳ぶ。2分間に最多何回連続で跳べたかを回数を競うのだ。

 これがなかなか難しい。練習でも最多で30回くらいだった。

 結局、紫苑のクラスは18回。学年では3位だった。


 続いて、女子による玉入れ、男女混合の障害物競走を行った。紫苑のクラス、またはブロックは比較的善戦していた。


 そして、昼食前に行われるのがクラス選抜リレーだ。

 紫苑のクラスメイトを始め、他のクラスの選手も準備運動をしている。

 他の選手を見ていると、自分より速く感じてしまう。緊張が高まる。


「紫苑? 緊張してんの?」


 ガチガチだった紫苑に明るく話しかけたのは愛梨だった。一緒に準備体操をしていたのだ。


「愛梨は緊張しないのか?」

「こんなの陸上の大会で慣れてるでしょう?」

「大会とはまた違った雰囲気があるよ」

「そうかしら? でも紫苑は足速いしいいじゃない」

「愛梨だって速いだろ」

「私は長距離専門だから。でも並の女子高生よりか速い自信はあるけどね」


 愛梨のおかげで、幾分か紫苑の緊張は和らいだ。



 紫苑たちはそれぞれのスタート位置に移動する。紫苑はバックストレートを走る。

 

 ピストルの乾いた音が鳴る。

 第1走者が一斉に飛び出し、第1コーナーを曲がる。直線のバックストレートに入り、紫苑のクラスは現在2位であることがわかった。まずまずのスタートだ。

 第1走者が200M走り、第2走者の女子にバトンが渡る。

 第2走者は50Mのカーブを曲がり、第3走者の男子にバトンを渡す。そうやって、一周が300Mのグラウンドを回る。


 だが、二周目に入り悲劇が起こる。

 第4走者と第5走者のバトンパスが失敗し、バトンを落としてしまった。

 今までトップだった紫苑のクラスだが、一気に5位まで転落する。

 応援していたクラスメイトは落胆を隠せない。紫苑も一瞬、ダメかと思った。バトンを落として、トップでゴールするなど通常ほぼ不可能なのだ。


 だが、第6走者である愛梨にバトンが渡ったとき紫苑はハッとした。

 彼女は諦めていなかった。トップとは30Mほど離されている。だが、彼女は懸命に走る。50Mという短い距離で、1人抜いてみせた。

 紫苑はスタート位置に着き、彼女を待つ。バトンはテイクオーバーゾーンという、決められた中でしかパスできない。それより外側でのバトンパスは失格だ。


 トップのクラスの選手が隣でスタートする。まだ愛梨までは20Mほどある。彼女が紫苑のもとにくるまでのほんの僅かな時間が、紫苑にはとても長く感じた。

 1人、また1人とスタートしていく。

 紫苑は愛梨に自分の居場所を知らせるため、手を高く上げ名前を呼ぶ。

 愛梨と紫苑までの距離が10Mを切ったとき、紫苑はスタートした。

 前傾姿勢でスタートを切り、スムーズな加速に繋げる。

 後ろから「はいっ!」と呼吸を荒くしながらも力強い声が聞こえた。

 左腕を後ろに伸ばし、手を広げる。

 手のひらに押し付けられる、バトンの感触を確かに感じ、素早くバトンを受け取った。


「紫苑!!! 行っけぇぇぇ!!!」


 愛梨のありったけの声援が聞こえる。

 それを最後に、今の紫苑の耳には何も届かない。選手を応援する声も入って来ない。

 近くで応援してくれている人ですら、紫苑の意識の外だ。

 ただ腕と足を動かす。

 目の前には他クラスの選手の背中。

 どんどん近くなる。そして彼らを追い越す。

 トップを走る選手まであと5M。背中が大きくなる。あと少し、あと少しで追い越せる。

 だが、紫苑は越せなかった。

 もう、次の走者にバトンパスだ。

 ろくに練習していない人とのバトンパス。どうしても減速してしまう。

 まだ走り足りない。もうちょっと長い距離だったなら……と悔しさを滲ませる。


 第8走者からアンカーの手前まで、トップのクラスにピッタリとくっついていた。

 アンカー勝負だ。2位以上はほぼ確定。

 アンカーは陸上部の樋川だった。ハードラーの彼は、100Mでは紫苑に劣るものの、200Mでは少し勝っていた。純粋に体力の差だ。


 樋川はコーナーの終わりでトップに並ぶ。

 最後の直線勝負。

 クラス全員で声を上げ、応援する。

 両者がほぼ同時にゴールテープを切る。遠くから見ていたらどちらが勝ったかなどわからない。

 しかし、間近で見ていた紫苑のクラスメイトははっきりと確信した。


 ーー勝ったのだ


 クラスメイトの中には、飛び上がって喜ぶ者や、選手の健闘を称える者。担任の先生も笑顔で喜んでいる。

 勝利の立役者となった樋川は、クラスメイトに囲まれ祝福されている。

 たまたま紫苑のクラスに陸上部が多かったこともあるが、それでもバトンを落としながら優勝というのは難しい。

 リレーは個人競技ではない。まさに力を合わせて手に入れた勝利だ。


◆◇◆◇◆


 リレーでの歓喜の瞬間の後。紫苑は酷い頭痛と喉の渇きに襲われていた。

 熱中症予備軍といったところだろう。

 もちろん昼食など喉を通らない。

 少し無理をし過ぎたようだ。

 走り終わった後、急激に疲れが襲いかかりドッと汗が出る。さらにその後、最後まで頭に血が昇るくらい応援したのだ。

 結局、水筒の中身を全て飲み干し、まだ喉の渇きは残っていた。


「紫苑、大丈夫? 顔が死んでる」


 見かねた愛梨が心配して声をかけてくれたのだ。他にも声をかけてくれた人は多数いたのだが、全員に大丈夫だと伝えた。


「大丈夫だ。少し疲れただけ」

「そう? ならいいけど」

「でも、少し頼みがあるんだ。ちょっと自販機まで行って飲み物買ってきてくれないか?」

「はぁ? 私をパシらせるなんていい度胸ね」

「いや、悪いとは思ってるんだけど頼むよ」

「……やっぱり具合悪いんでしょ?」

「……喉が渇いただけ」

「はぁ、しょうがないなー。スポーツドリンクでいいよね。それまでこれ飲んでて」


 そう言って渡してきたのは、愛梨の水筒。


「……いや、いいよ」

「いいから! 紫苑が干からびたら困るでしょ! それに私は気にしないし……」

「そうか? ならお言葉に甘えて少し頂くよ」


 紫苑はこのままでは飲み物を買ってきて貰えないと思ったので、愛梨の水筒の中身を一口飲んだ。

 それを見た愛梨は満足そうに自販機の方へ向かった。


〜続く〜

 

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