第12話
校門の前に停められた5、6台のベンツ。
その中から一人の女性が出てきた。
紫苑はその人をよく知っている。というか、この人にはいろいろと困らされた。
紫苑は愛梨をその場に残し、急いで女性の元へ向かう。
女性も紫苑に気づき、手を振りながら走ってくる。
「……姉さん、こんなところで何をなさっているのですか?」
「紫苑! 会いたかったよ〜!」
姉さんーー鷹司千冬襲来。
千冬は紫苑の質問を無視し、飛び付く。そのままギュゥゥと締め付けた。
その光景を少し遠くから見ていた愛梨は、呆然と立っていた。
え? 何あれ? 早苗さんじゃない他の女の人に抱き着かれてる? 誰?
愛梨の胸の奥がズキズキと痛む。目の前の光景が信じられない。
夢中になって紫苑のところへ走っていった。
「ちょっと、姉さん! こんなところで抱き着かないでください!」
「いいじゃない。私、紫苑に会えなくて寂しかったんだもん」
紫苑は千冬の抱き着きから逃れられないでいた。
「し、紫苑!」
愛梨の驚いた声がする。
「うん? 紫苑、あの子誰?」
愛梨の声に最初に反応したのは千冬だった。抱き着きながら紫苑に問う。
「あの、そろそろ離してくれません?」
「仕方ないわね〜」
やっと千冬が紫苑から離れ、愛梨を紹介する。千冬のことも愛梨に紹介した。
「……紫苑には、美人でスタイルの良い親戚のお姉さんがたくさんいるのね」
「お、おう」
「しかも、抱き合うくらいに仲良し……」
「……まぁ仲良しなのはいいことだ」
不快感を隠そうともしないトゲトゲした声の愛梨になんとか応える。
「あなたが愛梨ちゃん? あなたのことは片桐から聞いてるわ。昨日片桐からいろいろ聞いて、私も学園祭行きたくなって来ちゃった☆」
「……早苗姉さんめ余計なことを」
「紫苑もお姉ちゃんに会えて嬉しいでしょ?」
「……まぁそうですね」
「それにしても、愛梨ちゃんて可愛い子ね」
「あ、ありがとうございます」
「私も紫苑にこんな可愛い幼馴染がいたなんて初耳だわ」
「まぁ、言ってませんし」
「帰ったら詳しく聞かせてね」
昨日に続き、今日は姉さんから尋問を受けることが決定した。
「はぁ、それより何ですかこのベンツは。ヤクザですか!」
「失礼ね。ボディガードよ。見知った人もいるでしょう?」
もし、知らない男ばかりだったら一目見た途端校内に避難していただろう。
「こんなに必要ですか! しかも姉さんに! ここは田舎の高校ですよ!」
「まぁまぁ、昨日片桐がナンパされたと聞いたから怖くなっちゃって」
「嘘つけ!」
「失礼ね。本当よ。私もか弱い女の子なんだから」
組織最強が何をぬかすと思ったが、口に出して言えない。
「本当は白雪も来たいと泣き付いてきたけど、あの子は今日学校に行かなければならなかったみたい」
「……白雪?」
「私の義妹よ。愛梨ちゃんにもいつか紹介するわね」
「……なるほど、それで白雪の側近も来たと」
「ご名答」
ベンツから降りてきた中には、白雪の側近の人が混じっていた。
「白雪を連れて行けない代わりに側近ですか」
「白雪が紫苑や学校の様子を知りたいと言ったのよ。だから何人か連れてきたの」
「それでも、少し目立ちすぎです。校舎の中から先生方が出てきてますよ」
「それについては紫苑に任せるわ」
「丸投げですか!」
「大丈夫よ。私もついていってあげるから。それより、学園祭を見てみたいわ」
「はぁ、いいですけど、せめてボディガードは二人まで。あとは別行動にしてください」
「わかったわ」
そう言って、千冬は彼女の筆頭部下である
聖澤玲子ーー聖ともう一人、大柄な男を選んでその他の部下には自由行動を言い渡した。
「私が襲われても聖たちは手を出さなくていいわ。紫苑が私を守ってくれるから」
「何言ってるんですか。聖、姉さんを守ってくれ」
「もちろんです」
「あー! 聖は私の言うことが聞けないの?
私の部下なのに」
「私の役目は千冬お嬢様を守ることですから」
ちなみに紫苑や千冬、白雪などは聖澤のことを聖と呼んでいる。理由は苗字が長いから。
すると、しばらく黙っていた愛梨が口を開いた。
「あの、失礼ですが千冬さんはかなりのお金持ちですか? ボディガードとかお嬢様とか」
「そうね〜 少しお金持ちかも」
紫苑は、少しじゃないだろと言いたかったが言わなかった。
「そういえば、私も少し気になってたんだけど、どうして昨日も今日も紫苑と愛梨ちゃんは一緒に行動してるの?」
「それは……」
愛梨は恥ずかしそうに俯き、紫苑を見る。
「まぁいろいろとあってね」
紫苑は曖昧に誤魔化す。
「ふーん。ま、いいわ。あとでゆっくり紫苑に話を聞くから」
紫苑の背中に悪寒が走る。なんか最近このパターン多い気がする。
その後、クラスのバンドや段ボール造形、担任似顔絵などを見て回った。
そして、クイズ大会準決勝。
紫苑たちのクラスは果敢に難問に挑戦していたが、僅かに決勝には行けなかった。
だが、選手たちには惜しみない拍手が送られた。
そして一般公開終了の時間。
「私はそろそろ帰るわ」
「東京に帰るんですか?」
「いいえ、まず紫苑の家に。紫苑にも聞きたいことがいろいろあるから。その後東京に帰るわ」
「明日も大学あるなら早めに帰った方がいいですよ」
「あら? 紫苑はお姉ちゃんと一緒にいたくないの?」
ただ尋問が嫌なだけです。
「明日は大学も遅くからだから大丈夫よ。
それじゃあ紫苑、なるべく早く帰ってきてね!」
昨日の片桐と全く同じことを言って、帰っていった。
すると、愛梨が紫苑の服の袖をくいくいと引っ張る。
「ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「どこ行くんだ?」
「パフェ食べたい」
そして二人はパフェを出しているクラスに入った。閉店間際なので人も少ない。
愛梨は苺パフェを注文する。
「紫苑の周りには美人が多いよね」
「……ああ、そうかもな」
いきなりそんなことを聞かれて、少し驚いてしまった。
「……あれじゃあ私みたいな普通の女の子なんて目に入らないよね」
「いや、そんなことないぞ。あの人たちは親戚のお姉さんたちだし」
「……でも紫苑、今日も千冬さんにデレデレしてた」
「しとらんわい」
そんな会話をしていると苺パフェが出てきた。
このクラスの生徒は気を利かせて、二本スプーンを持ってきてくれた。
紫苑がスプーンでパフェを食べようとしたとき、
「待って」
愛梨に止められた。
「これ使う」
愛梨が持っているのは柄の長いスプーン。確か、放課後に紫苑と買い出しに行ったとき買ったやつだ。
「……それ、クラス費で買ったやつだろ?」
「……気にしないで」
いいのか私的に使って。
「はい、あーん」
「……おい」
愛梨のやつ、人前で堂々とあーんをしてきやがった。
「早く食べないとお店閉まっちゃうよ? ほら、あーんして?」
「いや、それなら別々に食べれば……」
「いいから」
俺がよくないと思ったが、仕方なくあーんをして食べた。
「どう?」
「おいしい」
「よかった。じゃあ次は紫苑が食べさせて」
「なんでだよ!」
「いいでしょそのくらい。食べさせてあげたんだから」
「はぁ、わかったよ。はい、あーん」
「あーんっ……おいしいね」
不覚にも、愛梨の見せた可愛らしい笑顔にドキッとしてしまった。こいつこんなに可愛かったか? と思ってしまう。
ここのクラスの生徒はニヤニヤと紫苑たちを見ていた。
「よかった。紫苑とこれができて。本当はもっと早くやるつもりだったけど、いろいろあったから」
「なんだそりゃ」
「それと、昨日ナンパされたとき助けてくれてありがとう。紫苑、かっこよかったよ」
「い、いやまぁ当然というか」
このタイミングでこういうこと言うのは少し反則だ。紫苑も顔が赤くなってしまう。
「私、誰にも負けないから」
「え?」
「紫苑はわからなくていい。でも、私のことはちゃんと見ていて」
「え、うん」
その後、何度もお互いあーんを繰り返し、閉店時間ギリギリでなんとか食べ終わった。会計のとき凄く気まずかったのは言うまでもない。ちなみにパフェは紫苑の奢りだ。
学園祭2日目終了。
一般公開はこれで終わりだ。だが、まだ学園祭は終わらない。明日は学園祭体育の部。運動会だ。
〜続く〜




