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豊臣秀次に転生しました! やばっ! バッドエンド確定じゃん!  作者: イサクララツカ


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第16話「朝倉景鏡、まさかのクーデター成功!? 義景はもう他人です! 敦賀郡を差し出すから織田家と和睦させてください!」

元亀三年(西暦1572年)十月十一日〈旧暦〉 秋

越前国足羽郡 一乗谷

「……何じゃと?」

丹羽長秀は、思わず馬を止めた。

「朝倉家で、政変が起きた?」

「はっ!」

案内役の朝倉家臣が、青ざめた顔で頷いた。

「義景様が織田方に捕らえられたとの知らせが届き、一乗谷は大騒ぎにございます!」

「……それは分かる」

長秀は眉を寄せた。

「だが、政変とはどういうことじゃ?」

家臣は周囲を見回し、声を潜めた。

「朝倉景鏡様が、家中の実権を握られました」

「……景鏡殿が?」

「はっ。義景様の不在を機に、重臣たちを集め、当主の権限を停止すると宣言なされたのでございます」

長秀は、しばらく黙った。

……なるほど。

義景を捕らえたことで、朝倉家中に亀裂が入ったか。

越前の名門、朝倉家。

その本拠地、一乗谷。

山々に囲まれた谷には、武家屋敷、寺院、商家が立ち並ぶ。

朝倉家が長年築き上げてきた繁栄の中心である。

しかし、今。

その一乗谷には、異様な緊張が漂っていた。

門には武装した兵。

道には慌ただしく行き交う使者。

商人たちは店の戸を半ば閉ざし、住民たちは不安げに囁き合っている。

「……義景様は、どうなるのじゃ?」

「景鏡様が新たな当主になるらしいぞ」

「……織田勢が攻めてくるのでは?」

「戦は、もう御免じゃ……」

長秀は、その声を聞きながら馬を進めた。

……上様の狙いは、朝倉義景を生け捕りにして、越前を降すこと。

だが、朝倉家そのものが義景を切り捨てるとは。

「……面白いことになった」

長秀は小さくつぶやいた。

「しかし、油断はできぬな」

同日 午前十一時頃

一乗谷・朝倉館

「丹羽長秀殿、ご到着!」

広間に声が響いた。

長秀が進み出ると、上座には一人の武将が座っていた。

朝倉景鏡。

朝倉一門の有力武将であり、義景の従兄弟にあたる人物である。

「……丹羽殿」

景鏡が、ゆっくり頭を下げた。

「遠路はるばる、ようお越しくだされた」

「朝倉景鏡殿。お初にお目にかかる」

長秀も礼を返した。

「織田信長様の使者として参った」

「……承知しております」

景鏡は、穏やかに微笑んだ。

しかし、その目は笑っていなかった。

「まずは、義景殿のことをお尋ねしたい」

長秀が口を開く。

「……生きておられるのでしょうな?」

景鏡の問いに、長秀は頷いた。

「ご存命にございます。織田方が丁重に身柄を預かっております」

「……それは、ようございました」

景鏡は静かに答えた。

「……では、本題に入りましょう」

長秀は背筋を伸ばした。

「義景殿から、朝倉家中に降伏を勧める書状を預かっております」

「……ほう」

「織田家は、無益な戦を望んでおりませぬ」

「……それは、ありがたい」

景鏡は頷いた。

そして。

「丹羽殿」

「……何でしょう?」

「一つ、申し上げたいことがございます」

「……伺いましょう」

景鏡は、きっぱりと言い放った。

「朝倉義景は、もはや朝倉家とは関係ござらぬ」

「…………」

長秀は、思わず瞬きをした。

「……は?」

「義景は、独断で織田家と争っておったのでございます」

「……独断?」

「左様」

景鏡は、平然と頷いた。

「我ら朝倉家中は、織田家と争うことを望んでおりませなんだ」

「…………」

……いや。

長秀は、心の中で突っ込んだ。

朝倉家は、これまで幾度も織田家と戦っておるではないか!

今さら、義景一人の責任にするつもりか!?

しかし、顔には出さなかった。

「……つまり?」

長秀が尋ねる。

景鏡は、にこやかに答えた。

「義景は、勝手に戦を始め、勝手に捕らえられたのでございます」

「…………」

「今の朝倉家とは、何の関係もございませぬ」

「……なるほど」

長秀は、静かに頷いた。

……すごいな。

ここまで見事に、当主を切り捨てるとは。

同日 正午頃

一乗谷・朝倉館

「……では、景鏡殿」

長秀は慎重に尋ねた。

「義景殿の身柄について、朝倉家はどのようにお考えか?」

景鏡は即答した。

「織田家にお任せいたします」

「……お任せ?」

「はい」

「……義景殿を?」

「左様」

景鏡は、にこやかに笑った。

「どうぞ、どうぞ。お好きになさってくだされ」

「…………」

長秀は、思わず言葉を失った。

「……いや、景鏡殿」

「何でしょう?」

「義景殿は、朝倉家の当主であったお方では?」

「元当主にございます」

「……元?」

「はい。今は、ただの朝倉義景にございます」

「…………」

……早い。

切り捨てるのが、あまりにも早い!

景鏡は、さらに続けた。

「義景の家族も、織田家へお引き渡しいたしましょう」

「……家族も?」

「はい」

「……それは、なぜ?」

景鏡は、少しも表情を変えなかった。

「義景の血筋が残れば、再び争いの種となるやもしれませぬ」

「…………」

「ですから、義景とその家族の処遇は、すべて織田家にお任せいたします」

長秀は、ゆっくり息を吐いた。

「……景鏡殿」

「はい?」

「随分と、思い切ったご判断ですな」

景鏡は微笑んだ。

「越前のためにございます」

「……越前のため?」

「はい」

景鏡は、静かに言った。

「義景一人のために、越前の民を戦に巻き込むわけにはまいりませぬ」

長秀は、その言葉を聞いて目を細めた。

……なるほど。

表向きは、越前の民のため。

しかし、本音は別にある。

義景を切り捨て、自分が朝倉家の実権を握る。

そのために、織田家との和睦を利用するつもりか。

「……景鏡殿」

「何でしょう?」

「そのお考え、朝倉家中の総意にございますか?」

景鏡の笑みが、わずかに止まった。

「……もちろんにございます」

長秀は、静かに頷いた。

「……承知いたしました」

……嘘か、本当か。

それを確かめるのが、今回の使者の役目でもある。

同日 午後一時頃

一乗谷・朝倉館

「……さて、丹羽殿」

景鏡が、改めて口を開いた。

「朝倉家は、織田家との和睦を望んでおります」

「……ほう」

「今後、二度と織田家と争うつもりはございませぬ」

「……それは、結構なことです」

長秀は頷いた。

「しかし、言葉だけでは和睦は成り立ちませぬ」

「……承知しております」

景鏡は、用意していた書状を差し出した。

「こちらを、ご覧くだされ」

長秀は書状を受け取り、目を通した。

そして、眉を上げた。

「……敦賀郡?」

「左様」

景鏡は、静かに頷いた。

「越前国敦賀郡を、織田家へお譲りいたします」

「…………」

長秀は、思わず顔を上げた。

敦賀郡。

越前の南西部。

敦賀湊を擁し、近江と越前を結ぶ重要な地域である。

海運。

商業。

軍事。

そのすべてに関わる要地だった。

「……敦賀郡を、丸ごと?」

長秀が尋ねる。

「左様」

「……本気でございますか?」

「もちろんにございます」

景鏡は、にこやかに答えた。

「和睦の証として、差し出しましょう」

長秀は、しばらく黙った。

……これは大きい。

敦賀を押さえれば、近江から越前へ進む道が安定する。

日本海側の交易にも、影響を及ぼす。

信長様が、喜ばれぬはずがない。

しかし。

「……景鏡殿」

「何でしょう?」

「敦賀郡の諸将が、すべて従うとは限りませぬぞ」

「……承知しております」

「実際の引き渡しには、城や港、関所の管理を改める必要がございます」

「……はい」

「朝倉家中の者が、勝手に争いを起こさぬようにしていただきたい」

景鏡は、深く頭を下げた。

「もちろんにございます」

……さて。

どこまで本気なのか。

長秀は、慎重に書状を畳んだ。

同日 午後二時頃

一乗谷・朝倉館

「……もう一つ」

長秀が尋ねた。

「浅井長政殿との関係は、いかがなさる?」

景鏡は、即答した。

「絶縁いたします」

「……絶縁?」

「はい」

「……朝倉家は、これまで浅井家を支援しておりましたが?」

「それは、義景の独断にございます」

「…………」

……また独断か!

長秀は、心の中で頭を抱えた。

この男、何でも義景のせいにするつもりか!?

「……今後、浅井家への兵糧や兵の支援は?」

「一切いたしませぬ」

「……援軍も?」

「出しませぬ」

「……使者の往来は?」

「和睦に反するものは禁じましょう」

長秀は頷いた。

「……承知いたしました」

景鏡は、満足そうに笑った。

「これで、織田家との争いは終わりにございますな」

長秀は、静かに答えた。

「……まだでございます」

「……は?」

「和睦を決めるのは、織田信長様にございます」

「…………」

景鏡の笑みが、少し引きつった。

「……もちろんにございます」

長秀は、穏やかに微笑んだ。

「私は、条件を持ち帰る使者にすぎませぬ」

「……左様でございましたな」

「それから、朝倉家中の諸将が本当に従うか、確認する必要がございます」

「……承知いたしました」

長秀は、静かに立ち上がった。

「では、信長様にご報告いたしましょう」

景鏡は、深々と頭を下げた。

「何卒、よしなにお取り計らいくだされ」

同日 夕刻

一乗谷・朝倉館の奥

「……景鏡様」

側近が、声を潜めた。

「本当に、義景様を織田家へ差し出してよろしいのでございますか?」

景鏡は、静かに茶を飲んだ。

「……よい」

「……しかし、義景様は朝倉家の当主でございました」

「元当主じゃ」

「……はっ」

「わしが、これからの朝倉家を守る」

景鏡は、茶碗を置いた。

「義景が戻れば、また織田と戦になるやもしれぬ」

「……確かに」

「それでは、越前が滅ぶ」

側近は黙った。

景鏡は、窓の外を見つめた。

一乗谷の町。

夕暮れの山々。

人々の暮らし。

「……わしは、朝倉家を残す」

「……はっ」

「そのためなら、義景も、浅井も、敦賀も捨てる」

側近は、息を呑んだ。

「……景鏡様」

「何じゃ?」

「……織田信長は、信用できるのでございましょうか?」

景鏡は、しばらく黙った。

そして、低く答えた。

「……信用する必要はない」

「……は?」

「利害が一致しておれば、それでよい」

景鏡は、薄く笑った。

「織田信長は、越前を欲しがっておる」

「……はい」

「わしは、朝倉家を残したい」

「……はい」

「ならば、取引は成り立つ」

景鏡は、静かに言った。

「……義景には、悪いがのう」

その声には、わずかな迷いもなかった。

元亀三年(西暦1572年)十月十二日〈旧暦〉 秋

近江国坂田郡 宮部城・田畑

「……よし!」

俺は、畦道にしゃがみ込んでいた。

「弥兵衛じいちゃん!」

「はい、万丸様!」

「ここの水路、もう少し直したいんだわ!」

「承知いたしました」

「それから、来年の肥料!」

「はい」

「堆肥を作る場所も考えたい!」

弥兵衛じいちゃんは、嬉しそうに笑った。

「若様は、本当に田畑がお好きでございますな」

「もちろんだがね!」

俺は胸を張った。

木下治兵衛。

宮部家では万丸。

数え五歳。

元・京都大学農学部四回生。

そして、後の豊臣秀次。

史実どおりなら、一五九五年に高野山で切腹。

……絶対に嫌だ!

俺は八十歳まで生きる!

農業を研究し、盆栽を育て、三毛猫の美々と昼寝する!

そのためにも、目立たず、出世せず、平穏に暮らす!

「……万丸!」

背後から、宮部継潤の声がした。

「……お父さん!」

「知らせがある」

「……何?」

宮部は、静かに言った。

「丹羽長秀殿が、一乗谷で朝倉景鏡と交渉したそうじゃ」

「…………」

俺は固まった。

「……え?」

「朝倉家は、織田家との和睦を望んでおる」

「……ほんと?」

「うむ」

「……じゃあ、戦は終わるん?」

宮部は、少し考えた。

「……まだ分からぬ」

「……そっか」

俺は、小さく息を吐いた。

……でも。

和睦できるなら、いいことだ。

田んぼも焼かれない。

百姓も逃げなくて済む。

子供たちも、ご飯を食べられる。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「……朝倉義景様は?」

宮部は、静かに答えた。

「……朝倉家から、切り捨てられたそうじゃ」

「…………」

俺は、言葉を失った。

「……え?」

「朝倉景鏡が、義景殿はもう朝倉家とは関係ないと申したらしい」

「…………」

……ちょっと待て。

朝倉義景。

越前の名門。

朝倉家の当主。

……それを、切り捨てた?

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「……ひどくない?」

宮部は、しばらく黙った。

そして、静かに答えた。

「……戦国の世とは、そういうものじゃ」

俺は、拳を握った。

……いや。

そういうもの、で済ませたくない。

人間は、使い捨てじゃない。

家族もいる。

家臣もいる。

領民もいる。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「……俺、朝倉義景様を助けたい」

宮部が、目を見開いた。

「……何?」

俺は、真剣に答えた。

「生け捕りにしたんだから、殺さんでほしい」

「…………」

「越前が降伏するなら、もう戦わんで済むでしょう?」

宮部は、しばらく俺を見つめた。

そして、静かに頷いた。

「……そうじゃな」

俺は、美々を抱きしめた。

「……美々」

「にゃあ?」

「俺、また余計なこと言ったかな?」

「にゃあ」

「……でも」

俺は、小さく笑った。

「命は、大事だがね」

美々は、俺の腕の中で丸くなった。

「……ごろごろ」

そして。

遠く離れた虎御前山では。

織田信長が、丹羽長秀からの報告を待っていた。

朝倉義景を切り捨てた朝倉景鏡。

敦賀郡を差し出し、浅井家と絶縁するという和睦条件。

そして、義景とその家族の処遇。

越前の運命を決める交渉は、まだ始まったばかりだった。

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