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豊臣秀次に転生しました! やばっ! バッドエンド確定じゃん!  作者: イサクララツカ


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15/18

第15話「朝倉義景補完計画、完遂! 魔王信長、敵将を人質に一万五千を降伏させる!? 次なる獲物は越前一乗谷!」

元亀三年(西暦1572年)十月八日〈旧暦〉 秋・午前九時頃

近江国小谷山北方 大嶽山麓・谷筋

「朝倉義景殿、御身をお預かりいたします」

竹中半兵衛重治の声は、驚くほど穏やかだった。

だが、その周囲には弓を構えた織田兵が潜み、谷の出口を槍衾が塞いでいる。

朝倉義景は、泥に汚れた袴を握りしめた。

「……竹中半兵衛。わしを捕らえて、何とする?」

「それは、織田信長様がお決めになること」

「殺すつもりか」

「生け捕りにせよ、との厳命にございます」

義景の顔が引きつった。

「……生け捕り?」

「はい」

「なぜ首を取らぬ!」

半兵衛は、わずかに微笑んだ。

「義景様のお命には、首一つより大きな値打ちがございますゆえ」

「……無礼な!」

「失礼いたしました」

まったく悪びれずに頭を下げる半兵衛。

義景は唇を噛んだ。

落とし穴に馬を取られ、護衛を分断され、伏兵に囲まれた。

越前の名門、朝倉家当主。

その威厳は、泥まみれの袴とともに地面へ落ちていた。

「殿をお守りせよ!」

一人の近習が刀を抜く。

半兵衛の背後で、弓の弦が鳴った。

「待て!」

義景が叫んだ。

「刀を収めよ!」

「し、しかし殿!」

「この距離で矢を浴びれば、おぬしらも死ぬ!」

近習の手が震えた。

やがて、刀が地面に置かれる。

半兵衛は静かに頷いた。

「賢明なご判断にございます」

そして、配下に命じた。

「義景殿を丁重にお守りせよ。縄は必要なだけにとどめ、傷を負わせるな」

「はっ!」

義景は苦々しく吐き捨てた。

「……守る、か。捕らえるの間違いであろう」

「双方にございます」

「口の減らぬ男よ!」

半兵衛は涼しい顔だった。

そのとき、谷の向こうから馬蹄が響いた。

「上様、ご到着!」

同日 午前九時半頃

大嶽山麓・織田方臨時本陣

「義景!」

馬を降りた織田信長が、一直線に歩いてきた。

その背後には柴田勝家、木下藤吉郎、蜂須賀小六。

義景は顔を上げた。

「……信長」

「久しいのう」

「このような形で会いたくはなかったわ!」

「わしもじゃ」

信長はにやりと笑う。

「できれば、越前を持参して挨拶に来てほしかった」

「ふざけるな!」

「はははは!」

信長の笑い声が谷に響いた。

藤吉郎が半兵衛に囁く。

「……半兵衛」

「何でしょう」

「上様、たいそうご機嫌じゃな」

「義景殿が生きておられますから」

「……そうじゃな」

「もっとも、まだ戦は終わっておりませぬ」

半兵衛の言葉に、藤吉郎の表情が引き締まった。

そうだ。

義景を捕らえたからといって、朝倉軍が消えるわけではない。

大嶽から撤退した朝倉勢は、およそ一万五千。

その全員が、この谷にいるわけではない。

先へ進んだ部隊。

後方に取り残された部隊。

山中で道を探す部隊。

兵は各所に散らばっていた。

そして――。

「殿を取り戻せ!」

谷の外から、怒号が響いた。

「朝倉の御大将を、織田の手に渡すな!」

柴田勝家が槍を握った。

「……来おったか」

信長は片手を上げた。

「勝家、待て」

「上様?」

「まずは、義景に働いてもらう」

信長は捕虜の当主へ向き直った。

「義景。おぬしの兵を止めよ」

「……何?」

「このまま戦えば、死体が増えるだけじゃ」

「貴様が言うか!」

「言うとも」

信長の声が低くなった。

「わしは、おぬしを生かして越前を降したい。だが、おぬしの家臣が戦い続けるなら、勝家を止める理由がなくなる」

勝家が一歩前へ出た。

「殿の仰せとあらば、いつでも!」

その声に、朝倉の近習たちが身を強張らせる。

義景は、谷の外を見た。

朝倉の旗。

必死に駆ける兵。

自分を助けようとする家臣たち。

「……あやつらは」

義景の喉が震えた。

「わしを助けに来たのじゃ」

「分かっておる」

「その忠義を、わしに捨てよと申すか!」

信長は答えた。

「忠義ゆえに死なせるか、生きて越前へ帰すか。おぬしが選べ」

義景は目を閉じた。

長い沈黙。

そして。

「……筆を持て」

近習が顔を上げる。

「殿!」

「命を出す」

義景は歯を食いしばった。

「朝倉の兵に、戦をやめよと伝える」

同日 午前十一時頃

大嶽山麓・朝倉方撤退路

「殿からの御命令じゃ!」

朝倉方の使番が、声を張り上げた。

「武器を収めよ! これ以上、織田勢と戦うな!」

「何を申す!」

一人の武将が怒鳴った。

「殿は捕らえられたのであろう!」

「その殿からの御命令にございます!」

「敵に脅されて書いたものなど、従えるか!」

朝倉の兵たちがざわめいた。

当然だった。

当主が捕らえられたからといって、全軍が即座に降るほど、戦国の武士は単純ではない。

「殿を取り戻せ!」

「いや、これ以上戦えば皆殺しじゃ!」

「越前へ帰る道を探せ!」

怒声が飛び交う。

そのとき。

「静まれえええ!」

腹の底に響く声がした。

柴田勝家である。

鬼柴田。

後世、その猛将ぶりで知られる男が、槍を携えて進み出た。

「朝倉の者ども、よく聞け!」

勝家は敵兵を睨みつけた。

「御大将は生きておる!」

「……本当か!」

「信長様は、降る者の命を助けると仰せじゃ!」

「信用できるものか!」

勝家の眉が跳ね上がった。

「ならば、わしの槍と話すか!」

「勝家殿!」

藤吉郎が慌てて割って入った。

「脅してどうするんじゃ!」

「猿! わしは説得しておる!」

「槍を突き出して説得する奴がおるか!」

「ここにおるわ!」

「威張るところじゃないがね!」

思わず尾張なまりが飛び出した藤吉郎に、小六が腹を抱えた。

「がははは! 万丸の口癖が移っておりますぞ!」

「今は笑っとる場合か!」

一方、半兵衛は朝倉方の使番を前へ進ませた。

「義景殿の命令を、もう一度」

使番は震える声で読み上げた。

「武器を置く者は命を助けられ、越前へ帰る道も後に定められる。これ以上、無益な戦をするな――」

沈黙が広がった。

やがて、一人の老兵が槍を置いた。

「……わしには、孫がおる」

隣の若い兵が顔を上げる。

「爺様……」

「もう一度、顔が見たい」

若い兵も、槍を置いた。

「……俺にも、帰りを待つ女房がおる」

一人。

また一人。

地面に槍が置かれていく。

だが、すべてが従ったわけではない。

「わしらは降らぬ!」

一部の武将は、配下を率いて山中へ退いた。

半兵衛は追撃を求める兵を制した。

「無理に追わずともよい。逃げ道を塞いで、降伏を促し続けなさい」

藤吉郎が頷いた。

「生きて帰りたい者まで、敵にせんでええ」

こうして、朝倉軍の武装解除が始まった。

同日 午後二時頃

織田方臨時本陣

「報告いたします!」

小一郎が、帳面を手に入ってきた。

「朝倉方の降伏兵、続々と集まっております!」

信長が頷いた。

「数は?」

「現在、武器を置いた者を数えております。全軍およそ一万五千のうち、まだ所在の確かでない部隊もございます」

「うむ。数をごまかすな」

「はっ!」

「負傷者は?」

「朝倉方にも織田方にもおります」

「手当てせよ」

「承知いたしました」

信長は柴田勝家を見た。

「勝家」

「はっ!」

「降伏兵の槍、刀、弓を集めよ。将ごとに名を記させ、勝手に散らさぬようにせよ」

「承知!」

「猿」

「はっ!」

「米を配れ」

「……米でございますか?」

「腹を空かせた兵を集めておけば、騒ぎの種になる」

藤吉郎は笑った。

「なるほど! 飯を食わせて、おとなしくさせるわけですな!」

「そうじゃ」

信長は、ふと思い出したように言った。

「……宮部の童なら、何と申すかのう」

藤吉郎は即答した。

「『兵糧は焼かずに食べさせてちょう!』でございましょうな!」

「はははは!」

信長は声を上げて笑った。

「違いない!」

半兵衛も微笑んだ。

「万丸殿は、兵糧を奪うことより、その後に人を養うことを気にされるでしょう」

「……妙な童じゃ」

信長の笑みが深くなった。

「だが、嫌いではない」

同日 午後三時頃

織田方臨時本陣・軍議所

「さて、義景」

信長が口を開いた。

朝倉義景は、護衛の兵に付き添われて座っていた。

「次は越前じゃ」

「……何を望む」

「一乗谷へ使者を出す」

義景の顔が強張った。

一乗谷。

越前国の朝倉家本拠地。

山々に囲まれた谷に、館や寺院、武家屋敷、町屋が立ち並ぶ。

朝倉家が長年築いてきた、越前支配の中心である。

「……一乗谷を、攻めるつもりか」

義景が尋ねた。

信長は首を振った。

「まずは降伏を求める」

「……降伏?」

「おぬしが生きておることを知らせ、朝倉家中に無益な抵抗をやめさせる」

義景は黙り込んだ。

「拒めば?」

「そのときは、別の話じゃ」

信長の目が鋭くなった。

「だが、わしは越前を焼け野原にしたいわけではない」

「…………」

「越前の田畑も、商人も、港も欲しい」

義景は苦々しく笑った。

「……欲深い男よ」

「天下を望む男が、欲深くなくてどうする」

信長は平然と答えた。

「おぬしの名で、降伏を勧める書状を書け」

義景はしばらく沈黙した。

そして、低く言った。

「……家臣たちの命を、保証するのか」

「降る者については、命を助けるよう命ずる。ただし、領地や役目は改めて定める」

「……なるほど」

「朝倉家の存続も、家中の出方次第じゃ」

義景は目を閉じた。

やがて。

「……筆を」

そう答えた。

同日 夕刻

織田方本陣

「丹羽長秀!」

信長の声が響いた。

「はっ!」

丹羽長秀が進み出た。

織田家の重臣。

戦にも政にも通じ、信長から厚く信頼される武将である。

「越前へ赴け」

「はっ!」

「朝倉義景の書状を携え、一乗谷の家臣どもに降伏を勧めよ」

「承知いたしました」

「朝倉の家臣を案内につける」

「はっ!」

「そして、探れ」

長秀が顔を上げた。

「……何を、でございますか?」

信長は絵図を指さした。

「越前の諸将が、誰に従うか」

「……はっ」

「誰が降伏を望み、誰が戦を続けたがっておるか」

「……はっ」

「一乗谷の蔵、城、街道、兵の配置も確かめよ」

長秀は深く頭を下げた。

「承知いたしました」

信長は続けた。

「ただし、無理に踏み込むな。使者としての役目を忘れるでないぞ」

「御意」

「よい返事を持ち帰れ」

長秀は立ち上がった。

「必ずや」

そして、朝倉家の使者とともに、越前へ向かう準備を始めた。

越前の命運を左右する使節団が、動き出したのである。

同日 夜

近江国坂田郡 宮部城・治兵衛の自室

「……美々」

「にゃあ?」

俺は布団の上で、三毛猫の背中を撫でていた。

「今日は、静かだがね」

「ごろごろ……」

「明日は、畑に堆肥を運びたいんだわ」

「にゃあ」

「それから、麦の作付けも考えたい」

「にゃあ」

俺は小さく笑った。

平和だ。

素晴らしい。

戦国時代に転生したけど、こういう毎日が一番いい。

俺は木下治兵衛。

宮部家では万丸。

数え五歳。

元・京都大学農学部四回生。

そして、後の豊臣秀次。

史実どおりなら、一五九五年に高野山で切腹。

……絶対に嫌だ!

俺は八十歳まで生きる!

農業を研究し、盆栽を育て、美々と昼寝する!

そのためにも、目立たず、出世せず、平穏に暮らす!

「……万丸!」

廊下から、宮部継潤の声がした。

「……お父さん?」

「知らせじゃ!」

「……何?」

宮部は、珍しく興奮していた。

「朝倉義景が、捕らえられた!」

「…………」

俺の手が止まった。

「……え?」

「竹中半兵衛殿の伏兵により、生け捕りとなったそうじゃ!」

「…………」

「さらに、朝倉勢の降伏が進んでおる!」

「…………」

……待て。

ちょっと待て。

朝倉義景。

生け捕り。

大嶽作戦。

兵糧断ち。

伏兵。

……これ。

俺が話した作戦じゃないか!

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「……ほんとに?」

「うむ!」

「……朝倉義景様、生きとる?」

「生きておる!」

俺は、ほっと息を吐いた。

「……よかった」

宮部が微笑んだ。

「敵の当主を案じるとは、おぬしらしいのう」

「……だって」

俺は小さく答えた。

「死んだら、もう田んぼも見られんがね」

宮部は、しばらく黙った。

そして、俺の頭を撫でた。

「……そうじゃな」

俺は、美々を抱きしめた。

「……でも」

「なんじゃ?」

「信長様、怒っとらん?」

「……なぜじゃ?」

「俺が変なこと言ったから……」

宮部は豪快に笑った。

「ははは! 逆じゃ!」

「……逆?」

「上様は、たいそうお喜びじゃ!」

「…………」

……やばい。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「……俺、褒められたくないんだがね」

「……なぜじゃ?」

「出世したくないから!」

宮部は笑った。

「ははは! 妙な童じゃ!」

……笑い事じゃない!

俺は本気なんだがね!

元亀三年(西暦1572年)十月九日〈旧暦〉 秋・朝

虎御前山・織田信長本陣

「……ははははは!」

織田信長の高笑いが、陣中に響いた。

「朝倉義景を生け捕りにし、朝倉勢を降した!」

藤吉郎が頭を下げた。

「はっ!」

「兵糧を奪い、山から下ろし、退路を押さえる!」

信長は、絵図を叩いた。

「まさに、思い描いたとおりじゃ!」

半兵衛が静かに言った。

「……上様。越前の降伏は、まだこれからにございます」

「分かっておる!」

信長は笑った。

「だが、義景を生かして捕らえたことは大きい!」

「御意」

「越前が降れば、北陸への道が開ける」

信長は、北を見つめた。

「……ふふふ」

そして。

「はははははは!」

豪快な笑い声が響いた。

「軍神も真っ青じゃな!」

藤吉郎が顔を上げた。

「……上様?」

「越後の上杉謙信が聞いたら、何と申すかのう!」

「……さあ」

「敵の大将を討たずに捕らえ、一万五千の軍勢を降す!」

信長は、口元を吊り上げた。

「これぞ、戦の勝ち方よ!」

半兵衛は、静かに頭を下げた。

「……上様」

「なんじゃ?」

「この策のきっかけを作った童のこと、お忘れなきよう」

信長は、にやりと笑った。

「……宮部の万丸か」

「はい」

「忘れるものか」

信長は、遠く宮部城の方角を見た。

「田んぼの五歳児が、朝倉義景を山から走らせたのじゃ」

そして、再び笑った。

「はははは!」

「……猿!」

「ははっ!」

「万丸に褒美を取らせねばならぬな!」

「……はっ!」

「何を欲しがっておった?」

藤吉郎は、少し困った顔で答えた。

「……田んぼにございます」

「…………」

信長が瞬きをした。

「……田んぼ?」

「はい」

「……城でも、金でもなく?」

「田んぼでございます」

信長は、しばらく黙った。

そして。

「……くくく」

肩が震えた。

「ははははは!」

「よかろう!」

信長は、豪快に笑った。

「田んぼを与えてやろうではないか!」

藤吉郎が慌てて頭を下げた。

「……ははっ!」

信長は、口元を吊り上げた。

「ただし……」

「……はい?」

「その童には、いずれ天下の役に立ってもらうぞ」

藤吉郎は、苦笑した。

「……上様」

「なんじゃ?」

「万丸は、出世を嫌がっております」

「……ほう?」

「はい」

信長は、楽しそうに笑った。

「ますます面白い!」

そして。

遠く離れた宮部城では。

「……くしゅん!」

五歳児が、盛大にくしゃみをしていた。

「……美々」

「にゃあ?」

「……なんか、嫌な予感がするがね」

「にゃあ」

「……俺、田んぼが欲しいだけなんだがね」

「ごろごろ……」

「……頼むから、出世させんといてちょう!」

朝倉義景補完計画――第一段階、完遂。

次なる舞台は、越前一乗谷。

そして。

田んぼを愛する五歳児の死亡フラグは、なぜかまた一本増えたのだった。

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