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豊臣秀次に転生しました! やばっ! バッドエンド確定じゃん!  作者: イサクララツカ


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第10話「虎御前山で軍師デビュー!? 五歳児、泣いて馬謖どころか朝倉義景を生け捕りにしちゃう!?」

元亀三年(西暦1572年)九月二十八日〈旧暦〉 秋・早朝

近江国坂田郡 宮部城

「……嫌だがねえええ!」

秋の朝。

宮部城の庭に、五歳児の悲鳴が響いた。

「万丸、騒ぐでない!」

「だって、お父さん!」

俺は養父の宮部継潤の袖をつかんだ。

「なんで俺まで虎御前山へ行くん!?」

「藤吉郎殿がおぬしに会いたいと申しておる」

「……藤吉郎叔父さんが?」

「そうじゃ」

「……なんで?」

宮部は、少し困ったように笑った。

「……おぬしの話を聞いたらしい」

「……何の話?」

「大嶽の朝倉勢を、山から下ろす話じゃ」

「…………」

……終わった。

俺の平穏な戦国農業生活、終了のお知らせ。

俺は木下治兵衛。

宮部家では万丸と呼ばれている。

数え五歳。

元・京都大学農学部四回生、二十二歳。

そして、後の豊臣秀次である。

史実どおりなら、一五九五年に高野山で切腹。

絶対に嫌だ!

俺は八十歳まで生きる!

農業を研究し、盆栽を育て、三毛猫の美々と昼寝する!

……なのに。

なぜか、織田家の軍議に呼ばれている。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「俺、まだ五歳だがね」

「知っておる」

「槍も持てんがね」

「持たせぬ」

「馬にも一人で乗れんがね」

「わしが抱えて乗せる」

「……美々は?」

「城で留守番じゃ」

「……にゃああ!」

縁側の美々が、不満そうに鳴いた。

……お前も嫌なのか。

俺も嫌だ。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「帰ってきたら、田んぼ見に行っていい?」

宮部は笑った。

「……約束しよう」

「……絶対だがね!」

「うむ」

……よし。

これで、何とか生きて帰ろう。

同日 午前九時頃

近江国坂田郡 虎御前山・織田方陣地

虎御前山。

小谷城の南西に位置する山。

元亀三年の夏、織田信長が小谷城を圧迫するため、陣城を築かせた場所である。

山の尾根には、土塁や堀、柵が設けられ、兵たちが警戒に当たっていた。

遠くには、小谷城のある山並みが見える。

「……おお!」

俺は思わず声を上げた。

「ほんとに小谷城が見えるがね!」

「……万丸」

宮部が言った。

「騒ぐでない」

「……はい!」

俺は慌てて口を閉じた。

しかし、内心は興奮していた。

……すごい。

ここが、戦国時代の最前線。

織田信長が浅井長政を追い詰めるために築いた陣地。

俺は歴史好きの大学生だった。

こんな場所を実際に見ることになるなんて、想像もしなかった。

……ただし。

命の危険がなければ、もっと楽しめたんだけどな!

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「ここ、危ないん?」

「敵の本拠が近い。油断するな」

「……はい」

……やっぱり危ないんかい!

同日 午前十時頃

虎御前山・織田方軍議所

「おおお! 治兵衛!」

大きな声が響いた。

「藤吉郎叔父さん!」

木下藤吉郎。

後の豊臣秀吉。

俺の母、ともの弟。

現在は織田信長に仕え、近江方面で働いている。

「よう来たのう!」

藤吉郎は俺を抱き上げた。

「うわっ!」

「元気にしとったか!」

「元気だがね!」

「ははは!」

藤吉郎は笑った。

「宮部殿から、おぬしの話を聞いたぞ!」

「……え?」

「農業に詳しいそうじゃな!」

「……はい!」

「武芸もできるそうじゃな!」

「……はい!」

「しかも、兵法まで語るそうじゃな!」

「…………」

……お父さん!

全部しゃべったんかい!

「……藤吉郎叔父さん」

「なんじゃ?」

「俺、田んぼが好きなだけだがね」

「ははは! 分かっとる、分かっとる!」

……絶対、分かってない!

「治兵衛!」

今度は、穏やかな声がした。

「小一郎叔父さん!」

木下小一郎。

後の豊臣秀長。

藤吉郎の弟であり、俺のもう一人の叔父だ。

「よう来たな」

小一郎は優しく笑った。

「怖かったであろう」

「……ちょっと」

「無理はせんでよいぞ」

……小一郎叔父さん!

この人だけが、俺の味方だ!

すると。

「……ほう」

涼やかな声がした。

「この童が、万丸殿ですか」

振り返ると、細身の武士が立っていた。

「……誰?」

藤吉郎が笑った。

「竹中半兵衛殿じゃ!」

竹中半兵衛重治。

織田方に仕える軍略家。

後世、豊臣秀吉の軍師として知られる人物だ。

「……はじめまして!」

俺は頭を下げた。

「木下治兵衛です!」

半兵衛は微笑んだ。

「……よい挨拶です」

「……ありがとうございます!」

「それから、こちらは蜂須賀小六殿じゃ!」

藤吉郎が、もう一人の武士を紹介した。

「……おお!」

俺は目を丸くした。

蜂須賀小六正勝。

藤吉郎を支える武将。

「……よろしくお願いします!」

小六は豪快に笑った。

「がははは! これが藤吉郎殿の甥か!」

「……はい!」

「ずいぶん小さいのう!」

「……五歳だがね!」

「がははは!」

……そりゃ小さいよ!

五歳なんだから!

同日 午前十一時頃

虎御前山・軍議所

「……では、始めよう」

藤吉郎が絵図を広げた。

小谷城。

虎御前山。

山本山城。

丁野山城。

高月方面。

そして、大嶽。

「……宮部殿」

藤吉郎が尋ねた。

「朝倉勢の動きは?」

宮部が答えた。

「大嶽方面に陣を構え、小谷城の背後を支えております」

「……ふむ」

「越前へ通じる山道を押さえ、兵糧を運び入れておるようです」

半兵衛が静かに言った。

「……補給路が重要ですな」

俺は思わず顔を上げた。

……補給路!

それ、昨日考えたやつ!

藤吉郎が笑った。

「治兵衛!」

「……はい!?」

「おぬし、朝倉軍を山から下ろす方法を考えたそうじゃな!」

「…………」

……来た。

最悪の質問。

「……あの」

「なんじゃ?」

「俺、農業の勉強を……」

「それは後じゃ!」

「……えええ!?」

藤吉郎叔父さん!

人の話を聞いてちょう!

同日 正午頃

虎御前山・軍議所

俺は震える手で、絵図を指さした。

「……ここが大嶽です」

「うむ」

「……朝倉軍が山の上におるんですよね?」

半兵衛が頷いた。

「そうです」

「……じゃあ」

俺は深呼吸した。

「兵糧を運ぶ道を断たれたら、困るがね」

「……ほう」

「それから、水!」

「……水?」

「山の上では、水を確保するのが大変な場所もあるがね!」

半兵衛の目が細くなった。

「……続けてください」

俺は絵図を指さした。

「虎御前山の北には、丁野山城や高月方面の城があります!」

「……うむ」

「柏原方面へ通じる道もあります!」

「……うむ」

「だから、どの道から朝倉軍へ兵糧が運ばれているか調べて……」

俺は言葉を止めた。

……あれ?

みんな、真剣に聞いとる。

……やばい。

俺は五歳児。

軍議に参加するつもりなんかない!

「……それから?」

半兵衛が促した。

俺は観念した。

「……兵糧道を押さえたら、朝倉軍は困ると思います」

藤吉郎が頷いた。

「……なるほど」

「……それから」

俺は小さな声で続けた。

「大嶽から下る道を遮れば……」

小六が眉を上げた。

「……どうなる?」

「……山を下りにくくなるがね」

「……ほう」

「でも、ずっと山におったら、食べ物が足りんくなるかもしれん」

半兵衛が静かに言った。

「……そうなれば、撤退を考える」

「……はい」

「……そして?」

俺は絵図を見つめた。

……言っていいのか?

これ。

完全に軍事作戦じゃないか!

「……撤退するところを」

俺は小さな声で答えた。

「……伏兵で突く」

広間が静まり返った。

「…………」

藤吉郎が俺を見つめた。

小一郎も。

小六も。

宮部も。

そして、半兵衛も。

……やばい。

絶対、やばい。

同日 午後一時頃

虎御前山・軍議所

「……万丸殿」

半兵衛が口を開いた。

「その考えは、どこで学ばれました?」

俺は背筋を伸ばした。

「……金城師匠です!」

「……金城?」

「はい!」

「……どのような方です?」

俺は真剣な顔で答えた。

「津島に滞在していた、琉球の武芸者です!」

「……ほう」

「めちゃくちゃ酒飲みです!」

「…………」

半兵衛が瞬きをした。

「……酒飲み?」

「はい!」

藤吉郎が笑った。

「ははは! 面白い師匠じゃな!」

俺は続けた。

「金城師匠は、三国志の物語が大好きでした!」

「……三国志?」

「はい!」

「街亭の戦いでは、馬謖が山上に陣を置きました!」

半兵衛が頷いた。

「……馬謖」

「でも、魏の軍勢に水や道を押さえられて、敗れたんです!」

「……なるほど」

「それから、官渡の戦い!」

俺は拳を握った。

「曹操は、袁紹の兵糧を蓄えた烏巣を襲いました!」

半兵衛の目が細くなった。

「……兵糧を狙う」

「はい!」

「金城師匠は、兵糧がなければ大軍も戦えんと教えてくださいました!」

半兵衛は静かに頷いた。

「……よい教えです」

……よかった。

通った!

しかし。

「……万丸殿」

「はい?」

「その金城師匠に、一度お会いしたいものです」

「…………」

……終わった。

また存在しない師匠の評価が上がった!

「……琉球へ帰りました!」

「……そうですか」

「しかも、めちゃくちゃ酒飲みです!」

半兵衛は微笑んだ。

「……それは、先ほど伺いました」

……冷静なツッコミ!

この人、怖い!

同日 午後二時頃

虎御前山・軍議所

「……しかし」

小六が腕を組んだ。

「兵糧道を断つと申しても、敵の城や砦がある」

「……うむ」

小一郎が頷いた。

「しかも、朝倉勢が必ず大嶽から撤退するとは限らぬ」

半兵衛も言った。

「……大嶽の地形は、街亭とは違います」

「……はい」

「水場も、道も、兵の配置も確かめねばなりません」

「……はい」

「そして、敵が撤退するなら、どの道を選ぶか」

「……はい」

「そのすべてが、絵図どおりとは限らない」

俺は頷いた。

……確かに。

前世の知識があっても、実際の戦場は違う。

「……でも」

俺は小さくつぶやいた。

「……兵糧がなくなったら、困るがね」

半兵衛は微笑んだ。

「……そのとおりです」

俺は続けた。

「……それなら」

「……はい?」

「朝倉軍が、山を下りるように仕向けることはできるかもしれん」

藤吉郎が笑った。

「……面白い!」

「……え?」

「万丸!」

「……はい?」

「おぬし、なかなかの軍師じゃな!」

「……ええええ!?」

やめて!

俺は農業研究者になりたいんだがね!

同日 午後三時頃

虎御前山・軍議所

「……ところで、万丸」

藤吉郎が尋ねた。

「朝倉義景を捕らえたら、どうする?」

俺は固まった。

「……え?」

「もし、朝倉義景を生け捕りにできたら、どうする?」

……何、その質問。

怖すぎる。

俺は少し考えた。

そして、答えた。

「……殺さんでほしい」

広間が静かになった。

「……なぜじゃ?」

藤吉郎が尋ねた。

俺は小さく答えた。

「……戦が終わるなら、生きとってもらった方がええがね」

「…………」

「朝倉様にも、家族がおるでしょう?」

「……うむ」

「家臣もおるでしょう?」

「……うむ」

「……それから、百姓も」

俺は拳を握った。

「みんな、腹が減るんだわ」

藤吉郎は黙った。

俺は続けた。

「……朝倉様が降参してくれたら、戦わんで済むかもしれん」

「…………」

「そうしたら、田んぼも焼かれん!」

小一郎が、静かに頷いた。

「……治兵衛」

「……はい?」

「おぬしは、本当に田畑が好きなのじゃな」

「……はい!」

俺は笑った。

「みんなで、ご飯を食べたいんだがね!」

半兵衛は、俺をじっと見つめていた。

そして、静かに言った。

「……敵を討つより、敵を降すことを考える」

「……はい?」

「それも、兵法の一つです」

……え?

俺、そんな立派なこと言った?

ただ、戦が嫌なだけなんだけど。

同日 夕刻

虎御前山・帰路

「……お父さん」

「なんじゃ、万丸」

「俺、疲れたがね」

「……そうであろう」

宮部が笑った。

「今日は、よく頑張った」

「……ほんと?」

「うむ」

「……じゃあ、明日は田んぼ!」

「……分かった」

「絶対だがね!」

「うむ」

俺は安心した。

……よかった。

ようやく農業に戻れる。

そのとき。

背後から声が聞こえた。

「……宮部殿!」

藤吉郎だった。

「……なんでしょう?」

「治兵衛の話、信長様にも伝えておこう!」

「……え?」

俺は固まった。

「……藤吉郎叔父さん」

「なんじゃ?」

「……今、何て言った?」

「信長様にも伝える、と申した!」

「…………」

……終わった。

完全に終わった。

「……叔父さん!」

「なんじゃ?」

「俺、まだ五歳だがね!」

「知っとる!」

「農業が好きなだけだがね!」

「分かっとる!」

「軍師になりたくないんだがね!」

藤吉郎は豪快に笑った。

「はははは! 心配するな!」

「……ほんと?」

「うむ!」

「……よかった」

「まずは、信長様に面白い童がおると伝えるだけじゃ!」

「……えええええ!?」

それが一番怖いんだがねえええ!

同日 夜

宮部城・治兵衛の自室

「……美々」

「にゃあ?」

俺は布団に倒れ込んだ。

「今日、虎御前山へ行ってきたがね」

「にゃあ」

「藤吉郎叔父さんに会った」

「にゃあ」

「小一郎叔父さんにも」

「にゃあ」

「竹中半兵衛殿にも」

「にゃあ」

「蜂須賀小六殿にも」

「にゃあ」

「……そして」

俺は天井を見つめた。

「信長様に、俺の話をするって」

「……にゃ?」

美々が首をかしげた。

「……やばいがね」

俺は小さくつぶやいた。

「俺、農業研究したいだけなんや」

「にゃあ」

「盆栽も育てたい」

「にゃあ」

「八十歳まで生きたい」

「にゃあ」

「……なのに」

俺は拳を握った。

「なんで、織田信長様に知られるんだがねえええ!」

美々は大きくあくびをした。

「……ふにゃあ」

そして、そのまま眠ってしまった。

「……おい」

俺は天井を仰いだ。

戦国時代。

豊臣秀次。

死亡予定まで、あと二十三年。

目標、天寿全う。

現在の課題――。

朝倉義景を馬謖にしないこと。

農業研究を続けること。

そして、織田信長に目をつけられないこと。

……最後が一番難しい!

「……頼むから、俺を軍師にせんといてくれえええ!」

その夜。

宮部城に、五歳児の悲鳴が響いた。

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