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豊臣秀次に転生しました! やばっ! バッドエンド確定じゃん!  作者: イサクララツカ


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第9話「朝倉義景を馬謖にしちゃう!? 五歳児の兵糧断ち作戦に、宮部家の軍議が凍りついた!」

元亀三年(西暦1572年)九月二十六日〈旧暦〉 秋・早朝

近江国坂田郡 宮部城

「……お父さん!」

「なんじゃ、万丸。今朝は何を思いついた?」

「朝倉義景様を、山から下ろす方法だがね!」

「ぶふっ!」

宮部継潤が、盛大に茶を噴き出した。

「げほっ! ごほっ! ……何じゃと!?」

「だから、大嶽の朝倉軍を山から下ろすんだわ!」

「……万丸」

「はい!」

「昨日は田畑の絵図を描いておったな?」

「はい!」

「その前は、農業の覚え書きじゃったな?」

「はい!」

「……なぜ今日は、朝倉義景を山から下ろす話になる?」

俺は胸を張った。

「全部、つながっとるからだがね!」

「何がじゃ!?」

……お父さん。

そんなに驚かんでも。

俺は木下治兵衛。

宮部家では万丸と呼ばれている。

数え五歳。

元・京都大学農学部四回生、二十二歳。

そして、後の豊臣秀次である。

史実どおりなら、一五九五年に高野山で切腹。

絶対に嫌だ!

俺は八十歳まで生きる!

農業を研究し、盆栽を育て、三毛猫の美々と昼寝する!

……なのに。

なぜか今、朝倉軍の兵糧を断つ方法を考えている。

……おかしい。

俺の人生設計、どこで間違えた?

同日 朝餉の後

宮部城・広間

「……では、話してみよ」

宮部が腕を組んだ。

広間には、数人の家臣が集まっていた。

年配の家老。

若い武士。

城の守備を任された者。

そして、なぜか弥兵衛じいちゃんまでいる。

「……じいちゃん!?」

「おお、万丸様!」

「なんでおるん!?」

「殿から、田畑と水の話をするので来るようにと」

……お父さん!

農業の先生まで軍議に呼んだの!?

宮部は平然としていた。

「万丸。昨日、おぬしは兵糧と水が大切だと申したな」

「はい!」

「ならば、百姓の知恵も必要であろう」

……なるほど。

確かに、それは正しい。

俺は姿勢を正した。

「……では、始めます!」

家臣たちが顔を見合わせた。

「……五つの若様が軍議を?」

「……殿、本気でございますか?」

宮部は笑った。

「聞くだけじゃ。何か損があるか?」

「……はっ!」

……いや。

俺としては、損しかない気がするんだけど。

出世フラグ的な意味で!

同日 午前九時頃

宮部城・広間

俺は絵図を広げた。

「……ここが小谷城!」

「うむ」

「ここが虎御前山の織田方陣地!」

「うむ」

「そして、ここが大嶽!」

宮部が頷いた。

「朝倉勢が布陣する山上の要地じゃ」

俺は絵図を見つめた。

小谷城。

浅井長政の本拠。

その北方に大嶽。

そして、越前へ通じる山道。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「大嶽の朝倉軍って、ずっと山の上におれるん?」

「兵糧と水が続く限りはな」

「……じゃあ!」

俺は拳を握った。

「兵糧を運べんようにしたら、困るがね!」

家臣の一人が笑った。

「ははは! 若様、それは当然でございます!」

「……そう?」

「敵の兵糧を断つなど、昔からある兵法でございますぞ」

俺は頷いた。

「知っとる!」

「……ほう?」

「だから、どこから運んどるかが大事なんだわ!」

「…………」

家臣の笑みが消えた。

「……どこから?」

「はい!」

俺は絵図の北側を指さした。

「虎御前山の北には、丁野山城や高月方面の城がある!」

「……うむ」

「柏原方面へ通じる道もある!」

「……うむ」

「その道を押さえたら、兵糧を運びにくくできるんじゃない?」

宮部は顎を撫でた。

「……なるほど」

俺は続けた。

「でも、どの道が本当に朝倉軍の兵糧道かは、調べんと分からん!」

「……ほう」

「城の名前だけで決めたら、間違えるがね!」

宮部が微笑んだ。

「……昨日の話を覚えておったか」

「もちろん!」

……俺は五歳児だけど、中身は大学生だからな!

同日 午前十時頃

宮部城・広間

「……では、万丸」

宮部が尋ねた。

「兵糧道を押さえた後は、どうする?」

俺は絵図に、小さな山を描いた。

「……街亭の戦いだがね!」

「……また三国志か」

「はい!」

「……金城師匠の話か?」

「はい!」

俺は胸を張った。

金城師匠。

津島に滞在していたという、琉球出身の武芸者。

空手を教えた師匠。

そして、三国志の物語が大好きな大酒飲み。

……もちろん、架空の人物である。

俺は真剣に続けた。

「金城師匠は、街亭の戦いを何度も話してくれました!」

「……ほう」

「蜀の馬謖は、山の上に陣を置きました!」

「……うむ」

「でも、魏の軍勢に水や道を押さえられて、苦しくなったんです!」

「……なるほど」

俺は大嶽を指さした。

「大嶽も山の上だがね!」

「……うむ」

「だから、兵糧道と水を断たれたら、朝倉軍も困る!」

宮部は頷いた。

「……理屈は分かる」

「……じゃあ!」

俺は拳を握った。

「大嶽から下る道に、堀切を作るんだわ!」

家臣たちがざわめいた。

「……堀切?」

「……敵の山道に?」

俺は頷いた。

「道を遮ったら、朝倉軍は動きにくくなるがね!」

しかし、年配の家臣が首を振った。

「若様。それは容易ではございませぬ」

「……なんで?」

「敵の目の前で、土を掘るのでございますぞ」

「……うん」

「敵が黙って見ていると思われますか?」

「…………」

……あ。

確かに。

五歳児の俺でも分かる。

敵の陣地の近くで穴を掘っていたら、攻撃される。

「……じゃあ、夜に!」

「夜でも、音は響きまする」

「……じゃあ、こっそり!」

「土を掘る人数が増えれば、隠しきれませぬ」

「…………」

俺は頬を膨らませた。

……戦国時代、厳しい!

宮部は笑った。

「万丸。絵図の上では簡単でも、実際に行うには人と時が要る」

「……はい」

「だが、敵の通る道を考えること自体は悪くない」

俺は顔を上げた。

「……ほんと?」

「うむ」

「やった!」

……いや、喜んでいいのか?

俺、農業研究者になりたいんだけど。

同日 午前十一時頃

宮部城・広間

「……お父さん!」

「なんじゃ?」

「もう一つ、金城師匠の話があるんだがね!」

宮部が額を押さえた。

「……まだあるのか」

「はい!」

「……今度は?」

「官渡の戦い!」

「……かんと?」

「はい!」

俺は絵図の端に、二つの陣地を描いた。

「昔、中国で曹操と袁紹が戦いました!」

「……うむ」

「袁紹の軍勢は大きかった!」

「……ほう」

「でも、曹操は烏巣という場所の兵糧を襲いました!」

「……兵糧を?」

「はい!」

「そして、焼き討ちしたんです!」

家臣たちが顔を見合わせた。

「……烏巣の焼き討ち」

「……兵糧庫を狙ったのか」

俺は頷いた。

「大軍でも、ご飯がなければ戦えんがね!」

「……うむ」

「だから、朝倉軍の兵糧を運ぶ場所を押さえれば……」

宮部が言った。

「……山上の軍勢は、長く留まれぬ」

「そうだがね!」

俺は拳を握った。

「兵糧が足りんくなったら、山を下りるかもしれん!」

「……うむ」

「越前へ撤退するかもしれん!」

「……うむ」

「そこで!」

俺は絵図を指さした。

「伏兵で突くんだわ!」

広間が静まり返った。

「…………」

家臣たちが、じっと俺を見つめた。

……あれ?

何か変なこと言った?

宮部が低い声で尋ねた。

「……万丸」

「はい?」

「おぬし、なぜ伏兵を考えた?」

俺は真剣に答えた。

「山道は狭いがね!」

「……うむ」

「疲れた軍勢は、動きが遅くなる!」

「……うむ」

「荷物も多い!」

「……うむ」

「だから、そこを突けば……」

俺は言葉を止めた。

……あれ?

俺、何を考えとる?

農業研究をするはずだったのに。

いつの間にか、朝倉軍の撤退路を考えている。

……いやいやいや!

違う!

俺は軍師になりたいわけじゃない!

同日 昼過ぎ

宮部城・広間

宮部は、しばらく黙っていた。

そして、静かに口を開いた。

「……万丸」

「はい?」

「おぬしの考えは、理にかなっておる部分もある」

「……ほんと?」

「うむ。兵糧を断ち、敵を動かす。戦では重要な考えじゃ」

俺は嬉しくなった。

「……やった!」

しかし、宮部は続けた。

「だが、戦は絵図の上だけでは決まらぬ」

「……はい」

「丁野山城や高月方面の城が、どちらに属し、どれほど兵を置いておるか」

「……はい」

「道を押さえられるだけの兵が、こちらにあるか」

「……はい」

「敵が別の道を使わぬか」

「……はい」

「そして、山を下りた敵が、必ずこちらの思う道を通るとは限らぬ」

俺は頷いた。

……確かに。

歴史の戦いを知っているからといって、同じことが起きるとは限らない。

「……お父さん」

「なんじゃ?」

「じゃあ、まず調べることが大事なんだがね!」

宮部は微笑んだ。

「……そのとおりじゃ」

俺は拳を握った。

「田んぼも同じだがね!」

「……また田んぼか!」

「もちろん!」

宮部は声を上げて笑った。

「はははは!」

……いや、本当に同じなんだ。

土を調べる。

水を調べる。

天気を調べる。

そして、作物の育ち方を記録する。

戦も、農業も、現実を知らずに計画を立てれば失敗する。

「……万丸」

「はい?」

「その金城という師匠、なかなかの人物じゃな」

「……え?」

「三国志を語り、兵法を教え、武芸にも通じる」

「…………」

「一度、会ってみたいものじゃ」

……しまったあああ!

存在しない師匠に、また会いたがられた!

「……お父さん!」

「なんじゃ?」

「金城師匠は、琉球へ帰りました!」

「……そうであったな」

「しかも、めちゃくちゃ酒飲みです!」

「……それは、もう聞いた!」

同日 午後三時頃

宮部城・庭先

「……万丸様!」

弥兵衛じいちゃんが、俺を呼んだ。

「……じいちゃん!」

「今日は、軍議で大活躍でしたな!」

「……え?」

「殿も、感心しておられましたぞ!」

俺は固まった。

……やばい。

また評価が上がってしまった。

「……じいちゃん」

「はい?」

「俺、農業を勉強したいだけなんだがね」

「……存じております」

「田んぼを耕したい!」

「……はい」

「畑を育てたい!」

「……はい」

「みんなが腹いっぱい食べられるようにしたい!」

弥兵衛じいちゃんは、静かに頷いた。

「……若様」

「はい?」

「戦を知らねば、田畑を守れぬこともございます」

「…………」

俺は黙った。

老人の言葉は、重かった。

「……そうだね」

俺は小さく答えた。

「でも、俺は戦なんかしたくないんだわ」

弥兵衛じいちゃんは微笑んだ。

「……それでよろしいのでございます」

「……え?」

「戦を好まぬ者が、村を守ることもございます」

俺は老人の顔を見つめた。

……そうか。

戦を知ることと、戦を好むことは違う。

「……じいちゃん」

「はい?」

「俺、もっと勉強する!」

「……はい!」

「田んぼも!」

「……はい!」

「畑も!」

「……はい!」

「それから、村のみんなを守る方法も!」

弥兵衛じいちゃんは、嬉しそうに笑った。

「……承知いたしました!」

同日 夕刻

宮部城・治兵衛の自室

「……ふう」

俺は部屋に戻り、美々を抱き上げた。

「……美々」

「にゃあ?」

「今日も、大変だったがね」

「にゃあ」

「街亭の戦い」

「にゃあ」

「官渡の戦い」

「にゃあ」

「大嶽の朝倉軍」

「にゃあ」

「……お前、全部にゃあやな」

「にゃあ!」

俺は小さく笑った。

そして、今日の覚え書きを見つめた。

大嶽。

朝倉義景。

兵糧。

水。

山道。

撤退。

……伏兵。

「……美々」

「にゃあ?」

「俺、戦なんかしたくないんだがね」

「にゃあ」

「田んぼを耕して、みんなでご飯を食べたいだけなんや」

「にゃあ」

「……でも」

俺は小さな拳を握った。

「戦を知らんと、村のみんなを守れんのかな」

美々が俺の手に頭を擦りつけた。

「……にゃあ」

俺は微笑んだ。

「……ありがとな、美々」

そのとき。

廊下から声が聞こえた。

「……殿、若様はいかがでございました?」

「うむ」

宮部の声だった。

「……万丸は、田畑の絵図を描くつもりが、いつの間にか大嶽の朝倉勢の兵糧を断つ話をしておった」

「……ほう」

「しかも、街亭と官渡の故事を引き、撤退する敵を伏兵で討つと申した」

「……五つの童とは思えませぬな」

「うむ」

宮部は静かに笑った。

「……あの子には、兵法の才があるやもしれぬ」

「……将来が楽しみでございますな」

「うむ」

俺は固まった。

……あれ?

なんか、また評価が上がっとる?

「……美々」

「にゃあ?」

「俺、出世したくないんやけど」

「にゃあ」

「……これ、まずいんちゃう?」

美々は大きくあくびをした。

「……ふにゃあ」

そして、そのまま眠ってしまった。

「……おい」

俺は天井を仰いだ。

戦国時代。

豊臣秀次。

死亡予定まで、あと二十三年。

目標、天寿全う。

現在の課題――。

宮部村の田畑を調べること。

宮部家の台帳を整えること。

小谷城周辺の情勢を知ること。

大嶽の朝倉軍の動きを知ること。

そして、戦乱から領民を守ること。

……完璧な農業研究計画だ!

ただし、最大の問題が一つ。

農業の絵図を描いていただけなのに、朝倉義景を馬謖にする方法まで考えてしまったこと。

「……頼むから、俺を軍師にせんといてくれえええ!」

その夜。

宮部城に、五歳児の悲鳴が響いた。


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