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豊臣秀次に転生しました! やばっ! バッドエンド確定じゃん!  作者: イサクララツカ


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第11話「織田信長が五歳児に会いに来た!? 朝倉義景を生け捕りにして、越前を丸ごといただきます!」

元亀三年(西暦1572年)九月二十九日〈旧暦〉 秋

近江国坂田郡 虎御前山・織田方陣城

「……で、その童が申したのか?」

低く、鋭い声が響いた。

軍議所の上座に座る男。

織田信長。

尾張から勢力を広げ、天下布武を掲げる戦国大名である。

その眼光は、まるで獲物を狙う鷹のようだった。

「はっ!」

木下藤吉郎が平伏した。

「宮部継潤殿の養子、万丸にございます!」

「……幾つじゃ?」

「数え五つ!」

「……五つ?」

信長の眉が動いた。

「猿」

「ははっ!」

「貴様、わしを笑わせに来たのか?」

「め、滅相もございませぬ!」

藤吉郎の額に汗が浮かんだ。

その隣で、竹中半兵衛が静かに頭を下げた。

「恐れながら、上様」

「申せ、半兵衛」

「私も、その童の話を聞きました」

「……ほう」

「単なる思いつきではございませぬ」

半兵衛は絵図を広げた。

小谷城。

虎御前山。

大嶽。

そして、北近江から越前へ通じる道。

「万丸殿は、朝倉勢の兵糧に目をつけました」

「……兵糧?」

「はい。大嶽の陣地を支える道を押さえ、朝倉勢を撤退へ追い込むという考えです」

信長は黙って絵図を見つめた。

「……それだけか?」

半兵衛は首を振った。

「さらに、撤退する朝倉勢を捕捉し、義景を生け捕りにすることまで考えております」

「…………」

信長の指が、絵図の上で止まった。

「……生け捕り?」

「はっ」

「朝倉義景をか?」

「はっ」

次の瞬間。

「……くっ」

信長の肩が震えた。

「くくく……」

藤吉郎が顔を上げた。

「……上様?」

「ははははは!」

信長は豪快に笑った。

「面白い!」

「……はっ!」

「猿!」

「ははっ!」

「その童、連れて参れ!」

藤吉郎の顔が引きつった。

「……は?」

「会ってみたい」

信長は口元を吊り上げた。

「五つの童が、朝倉義景をどう料理するのか、聞いてやろうではないか!」

半兵衛は、静かに微笑んだ。

「……上様」

「なんじゃ?」

「万丸殿は、戦より農業を好む童でございます」

「……農業?」

「はい」

信長の笑みが深くなった。

「……なおさら面白い!」

同日 昼前

宮部城・田畑

「……よし!」

俺は畦道にしゃがみ込んだ。

「ここの水は、ちょっと溜まりすぎとるがね!」

「左様でございますな」

弥兵衛じいちゃんが頷いた。

「……じいちゃん!」

「はい、万丸様」

「水が抜ける道を、もう少し調べたいんだわ!」

「承知いたしました」

俺は小さな木片を水路に浮かべた。

ゆっくり流れていく木片。

……なるほど。

流れが弱い。

この辺りは、排水が悪いのかもしれない。

「……デマ先生も、こういうところをよく見なさいって教えてくれたがね!」

「……南蛮のデマ・ライヤー先生でございますな?」

「はい!」

俺は真剣に頷いた。

津島に滞在していた南蛮宣教師。

農業に詳しく、俺に熱心に教えてくれたという人物。

……もちろん、架空の人物である。

前世の農学部で学んだ知識を説明するため、俺が作り上げた設定だ。

「デマ先生は、水を見ずに田を語ってはいけません、と教えてくださいました!」

「……よい教えでございますな」

「はい!」

……先生。

存在しないのに、ありがとうございます。

「……にゃあ!」

美々が畦道を歩いてきた。

「美々!」

俺は笑った。

「今日は平和だがね!」

「にゃあ!」

「戦の話もない!」

「にゃあ!」

「軍議もない!」

「にゃあ!」

「……最高だがね!」

そのとき。

「万丸様あああ!」

城の方から、若い家臣が駆けてきた。

「……ん?」

「大変でございます!」

「……何が?」

「織田信長様が!」

「……え?」

「こちらへお越しになります!」

「…………」

俺は固まった。

……今、何て言った?

「……信長様?」

「はい!」

「……あの織田信長様?」

「はい!」

「……天下布武の?」

「はい!」

「……尾張の大うつけと呼ばれた?」

「……わ、若様!」

俺は天を仰いだ。

「なんでだがねええええ!」

美々が驚いて跳び上がった。

「ふぎゃっ!」

……ごめん、美々!

俺も驚いとる!

同日 午後

宮部城・広間

「……万丸」

宮部継潤が、俺の肩に手を置いた。

「落ち着け」

「……無理だがね!」

「……上様に失礼のないようにな」

「……はい」

「余計なことは申すな」

「……はい!」

「聞かれたことだけ答えよ」

「……はい!」

……よし。

絶対に余計なことは言わない。

俺は農業好きの五歳児。

軍師ではない。

出世しない。

関白にならない。

八十歳まで生きる!

「……上様、ご到着!」

声が響いた。

広間の空気が変わった。

足音。

衣擦れ。

そして、鋭い視線。

「……ほう」

織田信長が、俺を見下ろしていた。

……うわ。

本物だ。

織田信長。

戦国時代の革命児。

そして、豊臣秀吉の主君。

……怖い!

「……貴様が万丸か?」

「……は、はい!」

俺は慌てて頭を下げた。

「木下治兵衛、宮部家では万丸と申します!」

「……顔を上げよ」

「……はい!」

俺は恐る恐る顔を上げた。

信長は、じっと俺を見つめた。

「……五つか」

「……はい!」

「……小さいのう」

「……五歳だがね!」

「…………」

宮部が息を呑んだ。

藤吉郎が顔を覆った。

小一郎が目を閉じた。

……しまった!

尾張なまりが出た!

しかし。

「……くっ」

信長の口元が動いた。

「はははは!」

信長は笑った。

「面白い童じゃ!」

……助かったあああ!

同日 午後二時頃

宮部城・広間

「……万丸」

信長が言った。

「朝倉義景を生け捕りにする策があるそうじゃな」

「……え?」

俺は固まった。

……藤吉郎叔父さん!

何を報告したんだがね!

「……はい?」

「猿と半兵衛から聞いた」

「……あの」

「申してみよ」

……逃げられない。

俺は小さく深呼吸した。

「……大嶽の朝倉軍は、山の上におります」

「……うむ」

「山の上におる軍勢は、食べ物と水が大事だがね」

「……ほう」

「だから、兵糧を運ぶ道を押さえられたら、困ると思います」

信長は黙って聞いていた。

「……続けよ」

「……それから」

俺は絵図を指さした。

「丁野山城や高月方面の城、それから北近江の道を調べます」

「……うむ」

「朝倉軍が、どの道から兵糧を運んでいるかを知りたいんです」

「……ほう」

「それから、山を下りる道も」

信長の目が細くなった。

「……なぜじゃ?」

俺は真剣に答えた。

「兵糧が足りなくなったら、朝倉軍は撤退するかもしれんがね」

「……うむ」

「そのとき、どこを通るか分かれば……」

俺は言葉を止めた。

……あれ?

俺、また軍師みたいなこと言っとる!

信長が促した。

「……続けよ」

「……伏兵で、捕まえられるかもしれません」

広間が静まり返った。

「…………」

信長は、じっと俺を見つめた。

「……誰をじゃ?」

俺は小さな声で答えた。

「……朝倉義景様です」

「…………」

沈黙。

……やばい。

絶対に怒られる。

しかし。

「……くくく」

信長の肩が震えた。

「ははははは!」

信長は笑った。

「面白い!」

「……え?」

「五つの童が、朝倉義景を捕らえると申すか!」

「……あの」

「猿!」

「ははっ!」

「この童、気に入ったぞ!」

「……ははっ!」

……終わった。

完全に終わった。

同日 午後三時頃

宮部城・広間

「……万丸」

信長が尋ねた。

「その兵法、誰に教わった?」

俺は背筋を伸ばした。

「……金城師匠です!」

「……金城?」

「はい!」

「……どこの者じゃ?」

「津島に滞在していた、琉球の武芸者です!」

「……ほう」

「めちゃくちゃ酒飲みです!」

「…………」

信長が眉を上げた。

「……酒飲み?」

「はい!」

藤吉郎が、肩を震わせた。

半兵衛は、静かに目を閉じた。

俺は真剣に続けた。

「金城師匠は、三国志の物語が大好きでした!」

「……三国志?」

「はい!」

「街亭の戦いでは、馬謖が山上に陣を置きました!」

信長が頷いた。

「……ほう」

「でも、水や道を押さえられて、敗れたんです!」

「……なるほど」

「それから、官渡の戦い!」

俺は拳を握った。

「曹操は、袁紹の兵糧を蓄えた烏巣を襲いました!」

信長の目が細くなった。

「……兵糧を焼いたのか」

「はい!」

「だから、金城師匠は、兵糧がなければ大軍も戦えんと教えてくださいました!」

信長は、しばらく黙っていた。

そして、静かに笑った。

「……その金城という男」

「……はい?」

「一度、会ってみたいものじゃ」

……またかあああ!

「……琉球へ帰りました!」

「……そうか」

「しかも、めちゃくちゃ酒飲みです!」

信長は吹き出した。

「はははは!」

「……万丸」

「……はい?」

「その師匠、酒を飲まねば兵法を語れぬのか?」

「……たぶん!」

「はははは!」

……もう、どうにでもなれ!

同日 午後四時頃

宮部城・広間

「……万丸」

信長が、再び真顔になった。

「もし、朝倉義景を生け捕りにできたら、どうする?」

俺は少し考えた。

そして、答えた。

「……越前をいただきましょう!」

「…………」

広間が凍りついた。

藤吉郎が目を見開いた。

小一郎が息を呑んだ。

宮部が固まった。

半兵衛の目が細くなった。

そして。

信長は、ゆっくり笑った。

「……ほう」

「……はい!」

「……越前を、いただく?」

「はい!」

俺は真剣に頷いた。

「朝倉義景様が降参してくれたら、越前の人々も戦わんで済むかもしれんがね!」

「……うむ」

「越前には、田んぼも畑もあります!」

「……うむ」

「米も作れます!」

「……うむ」

「それから、北陸の道もあります!」

信長の目が細くなった。

「……道?」

「はい!」

「越前を押さえたら、北陸へ進む道も広がります!」

「……ほう」

俺は拳を握った。

「でも、できれば戦わずに!」

「……うむ」

「朝倉義景様を生け捕りにして、降参してもらうんだわ!」

信長は、しばらく黙っていた。

そして。

「……くくく」

肩が震えた。

「ははははは!」

信長は豪快に笑った。

「面白い!」

「……え?」

「五つの童が、越前一国を望むか!」

「……あの」

「猿!」

「ははっ!」

「この童、ただ者ではないぞ!」

「……ははっ!」

……やばい。

完全にやばい。

俺は農業研究者になりたいだけなのに!

同日 夕刻

宮部城・庭先

信長が帰る支度をしていた。

「……万丸」

「……はい!」

「おぬし、何が望みじゃ?」

俺は迷わず答えた。

「……田んぼです!」

「…………」

信長が瞬きをした。

「……田んぼ?」

「はい!」

「……越前一国ではなく?」

「田んぼです!」

「……なぜじゃ?」

俺は真剣に答えた。

「みんなが腹いっぱい食べられるようにしたいんだがね!」

信長は、じっと俺を見つめた。

そして、静かに笑った。

「……よかろう」

「……え?」

「おぬしの望み、覚えておこう」

「……ありがとうございます!」

……よかった。

これで、農業研究ができる。

しかし。

信長は藤吉郎に向き直った。

「……猿」

「ははっ!」

「この童、しっかり育てよ」

「……ははっ!」

「いずれ、役に立つやもしれぬ」

「……ははっ!」

……終わった。

完全に終わった。

「……藤吉郎叔父さん!」

「なんじゃ?」

「俺、出世したくないんだがね!」

藤吉郎は豪快に笑った。

「ははは! 心配するな!」

「……ほんと?」

「うむ!」

「……よかった」

「まずは、農業を学べ!」

「……はい!」

「そして、いずれ天下の役に立て!」

「……ええええ!?」

それが嫌なんだがねえええ!

同日 夜

宮部城・治兵衛の自室

「……美々」

「にゃあ?」

俺は布団に倒れ込んだ。

「今日、織田信長様に会ったがね」

「にゃあ」

「朝倉義景様を生け捕りにする話をした」

「にゃあ」

「越前をいただきましょうって言った」

「にゃあ」

「……そして」

俺は天井を見つめた。

「気に入られた」

「……にゃ?」

美々が首をかしげた。

「……やばいがね」

俺は小さくつぶやいた。

「俺、農業研究したいだけなんや」

「にゃあ」

「盆栽も育てたい」

「にゃあ」

「八十歳まで生きたい」

「にゃあ」

「……なのに」

俺は拳を握った。

「なんで、織田信長様に気に入られるんだがねえええ!」

美々は大きくあくびをした。

「……ふにゃあ」

そして、そのまま眠ってしまった。

「……おい」

俺は天井を仰いだ。

戦国時代。

豊臣秀次。

死亡予定まで、あと二十三年。

目標、天寿全う。

現在の課題――。

朝倉義景を生け捕りにすること。

越前を戦わずに手に入れること。

農業研究を続けること。

そして、織田信長にこれ以上気に入られないこと。

……最後が一番難しい!

「……頼むから、俺を軍師にせんといてくれえええ!」

その夜。

宮部城に、五歳児の悲鳴が響いた。

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