新たな家族
皆さんは、「新しい家族」ができたことはありますか?。
私には――、もう一つの家族があります。
親って、何なんでしょうね、三歳だった私にはこの問だけは分かりませんでした。
産んでくれた人が親。
育ててくれた人が親。
世間では、その両方をしてくれた人を「親」と呼ぶのでしょう。
でも、私にはその“答え”が一つではありませんでした。
産んでくれた人がいて、
育ててくれた人がいた。
形は違っても、どちらも確かに私に
逃げ場のないほどの「愛」を注いでくれたのです。
⸻
隣の家のおばちゃんの声が、頭の奥で何度も反響した。
必死に私の名前を呼ぶ声。
すれ違う人に頭を下げる姿。
それを想像するたびに、両親の顔が浮かび、
お兄ちゃんの笑顔が重なって、
頬を伝って一粒の涙が落ちた。
一度は消えたはずの胸の痛みが、
息をするたび、じわじわと広がっていく。
胸を押さえ、お兄ちゃんを思い浮かべる。
それでも、涙は止まらなかった。
「……お兄ちゃんに、会いたいよぉ」
声にならない声が漏れる。
涙がダンボールに落ち、染みを作る。
私は外に出て、空を見上げました。
そこには、息をのむほどの星空が広がっていました。
数え切れないほどの光が、
まるで私を包み込むように瞬いていて――
「一人じゃない」と、強く、確かに言われた気がしたのです。
その光に縋るように、私はその場で眠りに落ちた。
⸻
目を覚ました瞬間、私の知らない天井が視界を覆いました。
古びた電灯。
新聞紙の匂い。
体を起こし、腫れた目をこすると、
台所から包丁の規則正しい音が聞こえてきて、恐る恐る一歩踏み出した瞬間、床がきしり、と鳴りました。
「……あら、起きたの?」
振り向いたその人は、
白髪混じりで、目尻に深い皺を刻んだおばあちゃんでした。
「気分はどうだい?」
言葉が出ない私を見て、
彼女は何も聞かず、何も責めず、ただ言います。
「ここに座って待っててくれる?」
テーブルに置かれた温かい飲み物とお菓子。
それだけで、胸の奥がじん、と熱くなった。
お腹が鳴る音に気づき、和菓子を口に運ぶ。
甘さが、ゆっくり体に染みていく。
「おお、起きたか!」
少し腰の曲がったおじいちゃんが、
大きな声で笑いかけてきた。
「いっぱい食べたなぁ。婆さん、この子腹減っとるみたいだ」
「そ〜かい。すぐできるよ」
その何気ない会話が、
張り詰めていた私の心を、音を立ててほどいていきました。
「名前は?」
「凛。三歳です」
「おお、凛ちゃんか。立派だなぁ」
「は〜い、お待たせしたね!」
目の前に並べられた朝ご飯。
湯気が立ち上る白いご飯。
焼き鮭。
味噌汁。
卵焼き。
誰かと同じ食卓を囲む――
それは、あの日のお兄ちゃんの運動会以来でした。
その記憶が蘇り胸に刺さった瞬間、
涙が一気に溢れ出ました。
突然泣き出した私に、
二人が慌てて声をかけてくれたこと。
その光景は、今でも私の心に焼き付いています。
この日から、私は知りました。
家族は、血だけじゃない。
一緒に生きようとしてくれた人が、家族なんだと。
こうして私は、
二つ目の「居場所」を手に入れたのです。




