再開
皆さんは、初恋の相手――
そして、失恋した相手と再会したことはありますか。
初恋をして、振られて。
そんな相手と再会したとき、何事もなかったように声をかけられる人は、
きっとそう多くはないと思います。
ましてや相手が、
初恋で、失恋相手で、
しかも「お兄ちゃん」だった場合――。
結婚するために家を出て、
兄妹を辞めようと本気で考えた、
そんな頭のおかしい人間は、たぶん私くらいでしょう。
……ええ、自覚はあります。
そして今日は、少しだけ特別な日なんです。
いつもみたいに、思い出を語る日でも、
過去を振り返る日でもありません。
今日は――
報告をします。
初恋の人に。
失恋の相手に。
そして、私のお兄ちゃんに。
今日、私は――
お兄ちゃんと、再会します。
「おじいちゃん! おばちゃん! 行ってきまーす!」
「ああ、凛。ちょっと待ちぃ。入学式なのに、出られんくてごめんねぇ」
「ううん、大丈夫だよ!
おじいちゃんのぎっくり腰が治ったら、校門で一緒に写真撮ろ?」
玄関を出る前、戸棚の上に置かれた石を二つ取る。
カチン、と打ち合わせると、小さな火花が散った。
おばちゃんの習慣だ。
私がこの家に来た日から、ずっと続いている。
――無事でいられますように、って。
「それじゃ、行ってきます!」
できる限りの笑顔で、二人に手を振った。
そして私は、今日から高校生だ。
胸の奥が、うるさくて仕方ない。
心臓の音が、耳のすぐそばで鳴っているみたいだった。
理由なんて、考えなくても分かってる。
十三年。
この日を、ずっと待っていた。
――お兄ちゃんに、会える。
早く会いたい。
早く、会いたい。
「お兄ちゃんに……!」
でも、ふと不安がよぎる。
十三年も会ってないのに、
私のこと、分かるかな。
……いや、違う。
気づかれたちゃ、ダメ。
頭の中がお兄ちゃんでいっぱいのまま、
気づけば私は、学校の正門の前に立っていた。
1人の世界に入っていて気づかなかった、
周りを見渡せば生徒が次々に門を潜って入っていた。
あ!いけない!私新入生代表になってるんだった!
「おお、来たね!リハーサル始まるよ!急いで体育館に行きなさい」
少し遅れちゃってる、急がないと。
「遅れてすいません!!」
「もう時間があんまりないから、答辞の挨拶は大丈夫かしら?」
「はい!大丈夫です!」
私はこの新入生代表挨拶をする為に苦手な勉強を頑張ったんだから!踏ん張るのよ!私!
「それでは、新入生代表。答辞。」
「はい!」
壇上に立った瞬間、体育館の空気が変わった気がした。
何百人もの視線が、いっせいに私に集まる。
……落ち着いて。
何度も練習した。言葉は、ちゃんと頭に入ってる。
マイクの前で、一度だけ深呼吸をする。
――でも
私の心は、ここにはなかった。
原稿を読み上げながら、視線だけが、無意識に体育館の奥を探してしまう。
在校生の列。来賓席。保護者席。
――見当たらない。
文字を追っているはずなのに、内容はほとんど頭に入ってこない。
ちゃんと声は出ている。噛んでもいない。
それでも、胸の奥だけが、うるさい。
十三年ぶりなんだよ……
お兄ちゃん。
今、同じ空間にいる。
そう思うだけで、心臓が壊れそうだった。
「――以上をもちまして、新入生代表の答辞とさせていただきます」
最後の一文を言い終えた瞬間、拍手が起こる。
その音に、ようやく現実に引き戻された。
顔を上げる。
――そのときだった、目が合った。その瞬間十三年振りに耳元で心臓の鼓動が聞こえた。
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