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第24章 流れの外

昼過ぎ。


ソレアは、少し忙しかった。


列。

注文。

火。


全部が、絶妙に重なっている。


「甘口二つ!」


「中辛一つ!」


少年が、慌てながら包み紙を並べる。


「そっち先!」


「え!?あっ!!」


紙を落とす。


客が少し笑う。


ハルノは、肉を削ぎながら言う。


「慌てると全部ズレる」


「むずいって!!」


だが——


前より動けていた。


ちゃんと“流れ”の中に入っている。


そのとき。


店の外。


商店街の入口側が、少し騒がしくなる。


数人の男。


スーツ。

腕組み。

固い顔。


商店街の店主たちが、遠巻きに見ている。


「……なんだ?」


少年が、小さくつぶやく。


ハルノは、視線だけ向けた。


そして——


少し止まる。


中央にいる男。


見覚えがあった。


シドウの“上”だ。


以前、遠くで一度だけ見たことがある。


名前は——クガ。


商店街の流れを、裏から握っている男。


「……面倒なの来たな」


——本命か。


「ああ」


クガは、ゆっくり歩く。


視線は鋭い。


だが——


怒鳴らない。


静かな圧。


それだけで、周囲の空気が重くなる。


やがて。


ソレアの前で止まる。


列に並んでいた客が、少し避ける。


少年の喉が鳴る。


ハルノは、肉を削ぐ手を止めなかった。


シャッ。


シャッ。


その音だけが、静かに響く。


クガが、店を見る。


看板。

火。

客。


そして——


少年のエプロン。


「……ここか」


低い声。


ハルノは、短く返す。


「何か用か」


クガは、すぐには答えない。


代わりに——


列に並ぶ客を見る。


会社員。

学生。

近所の人。


誰も、派手じゃない。


だが——


ちゃんと“来ている”。


クガは、小さく鼻で笑った。


「シドウが妙に気にするわけだ」


少年の肩が少し強張る。


ハルノは、静かに聞く。


クガは、さらに続けた。


「店ってのはな」


「流れの中で生かされる」


「逆らえば、沈む」


どこかで聞いた言葉。


だが——


シドウより冷たい。


“理解”ではなく、“支配”の声だった。


ハルノは、包丁を置く。


そして——


初めて、真正面からクガを見る。


「……だったら」


静かな声。


「流れってのは、誰のもんだ」


沈黙。


店の空気が止まる。


クガの目が、わずかに細くなる。


ハルノは、続ける。


「お前が決めるのか」


少年が息を呑む。


周囲の客も、静かになる。


クガは、しばらく黙っていた。


やがて——


ほんの少しだけ笑う。


「……面白い店だ」


だがその笑みは、冷たい。


「だから危ない」


その言葉を残し——


クガは、店を離れる。


誰も止めない。


足音だけが遠ざかる。


空気が戻るまで、少し時間がかかった。


「……ハルノさん」


少年の声が震えている。


「大丈夫?」


ハルノは、数秒黙る。


そして——


肉に向き直った。


「……腹減ってる客待たせてる」


シャッ。


肉を削ぐ音。


その瞬間——


止まっていた空気が、少し戻る。


客も、また動き始める。


「次、自分です!」


「甘口で!」


日常。


だが——


もう前と同じ日常ではない。


シドウのさらに上。


“流れそのものを支配する側”が、ソレアを認識した。


それは——


この店が、無視できない場所になった証だった。


店の外を、風が吹く。


その流れは、もう小さくなかった。

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