第20.5章(スピンオフ) 虹色の悪夢 深夜。
深夜。
ソレア。
閉店後。
ハルノは、スマホを見ていた。
「……なんだこれ」
画面には、派手な色の料理動画。
青い麺。
紫のチーズ。
七色に光る飲み物。
コメント欄。
「映えすぎ!」
「絶対食べたい!」
「ピャナコ系フード神!」
——時代だな。
「ああ……」
ハルノは、静かに目を細める。
流行。
波。
それに乗る店は、強い。
「……つまり」
——やるのか?
「ああ」
その目が、妙に真剣になる。
「レインボーソースだ」
——やめろ。
「いや、まだ間に合う」
翌日。
ソレアの店内には、異様な光景が広がっていた。
赤。
青。
緑。
紫。
色とりどりの鍋。
「……なんでこんなことに」
ハルノは、真顔で鍋を混ぜる。
「映えだ」
——終わったな。
さらに——
肉。
回転している肉が、虹色だった。
層ごとに色が違う。
赤。
青。
黄色。
しかも少し発光している。
「……光ってないか?」
——光ってる。
「そうか」
店の前を通る客が、足を止める。
「えっ……」
「なにあれ……」
「怖……」
だがハルノは、自信に満ちていた。
「時代を読む」
——読めてない。
「レインボーケバブ、一つください……」
恐る恐る注文が入る。
ハルノは、うなずく。
虹色の肉を削ぐ。
シャッ。
断面が七色。
しかも少し煙が出ている。
「……はい」
客は、受け取る。
沈黙。
一口。
「……」
さらに沈黙。
「……味が、毎秒変わる」
「あと舌がピリピリする」
——危険だ。
「ああ……」
だがSNSでは、一瞬だけバズった。
#虹肉
#ソレア暴走
#食べ物への冒涜
再生数は伸びる。
だが——
売れない。
誰もリピートしない。
「……なぜだ」
——味だろ。
「見た目は完璧だぞ」
その夜。
ソレアの前に、黒い車が止まる。
降りてきたのは——
白い防護服。
「……え?」
店の前が騒がしくなる。
機械音。
測定器。
「反応あり!」
「繰り返す、反応あり!」
「対象物、発光を確認!」
ハルノが、虹色の肉を見る。
まだ光っている。
しかも少し脈打っている。
——脈打つな。
「ああ……」
防護服の男が叫ぶ。
「直ちに封鎖してください!」
「このソース、自己増殖しています!!」
「なに?」
鍋を見る。
レインボーソースが——
増えていた。
ボコ……
ボコボコ……
泡立つ。
しかも、色が変わり続けている。
「……」
沈黙。
やがてハルノは、小さく言った。
「……映えてるな」
——現実を見ろ。
次の瞬間。
サイレン。
避難誘導。
ニュース速報。
《商店街にて未知の虹色物質を確認》
《政府、“バイオハザード指定”へ》
《専門家「肉ではない可能性」》
「待て!!」
ハルノが叫ぶ。
「これはケバブだ!!」
だが——
誰にも届かない。
ソレアの周囲に規制線が張られる。
防護服の人員が増える。
そして——
最後の処置。
「焼却開始します」
「やめろ!!!」
炎。
ソレアが燃える。
虹色の煙が空へ上がる。
「……」
ハルノは、その場に立ち尽くしていた。
看板が崩れる。
火の中で、“ソレア”の文字が消える。
——終わったな。
「ああ……」
そのとき。
世界が揺れる。
炎が歪む。
音が遠ざかる。
そして——
「……っ」
目が覚める。
ソレアの椅子。
いつもの店内。
静かな夜。
肉は普通の色。
光っていない。
ハルノは、しばらく動かなかった。
やがて——
ゆっくりスマホを見る。
画面には、カラフル料理動画。
ハルノは、無言で閉じた。
「……普通でいい」
——ようやく分かったか。
「ああ……」
外では、静かな風が吹いていた。
ソレアは、まだ燃えていない。




