第13章 言葉の温度
雨だった。
細かい雨。
商店街の床を、静かに濡らしていく。
ソレアの前を通る人も、今日は少ない。
傘。
早足。
視線は前。
立ち止まる余裕がない。
「……減ったな」
ハルノは、ぽつりとつぶやく。
——ああ。
レビューの影響。
ゼロではない。
実際、客足は少し落ちていた。
「……数字ってやつは面倒だ」
見たこともない誰かの言葉。
それが、“入る理由”を奪う。
ハルノは、静かに肉を削ぐ。
火は生きている。
店も、変わらず開いている。
だが——
流れは弱い。
そのときだった。
カラン。
小さく音が鳴る。
「……あ」
あの少年だった。
今日は、少し髪が濡れている。
「……雨すごいな」
ハルノが言う。
少年は、うなずく。
「うん」
短い返事。
だが——
今日は少し様子が違った。
注文しない。
いつもの「甘口」が来ない。
「……どうした」
ハルノが聞く。
少年は、少し迷ってからスマホを出した。
画面を見せる。
そこには——
レビュー画面。
★☆☆☆☆
「無愛想」
「入りづらい」
「怖い」
ハルノは、静かに見た。
少年が、小さく言う。
「……これ、違う」
その声は、いつもより強かった。
ハルノは、少しだけ目を細める。
「……気にすんな」
そう返す。
だが少年は、首を振った。
「でも……」
言葉を探している。
「……違うから」
ハルノは、黙って聞いていた。
少年は、スマホを握る。
少し震えている。
「ここ……静かだけど」
「ちゃんとしてるし」
「ちゃんと見てるし」
一つずつ。
ゆっくり。
不器用に。
だが——
本気だった。
「……だから」
少年は、深く息を吸う。
そして——
画面を操作する。
レビュー投稿。
文字を打つ。
何度も消して。
また打って。
時間がかかる。
ハルノは、何も言わない。
ただ待つ。
やがて——
少年が、小さくうなずいた。
「……できた」
ハルノは、聞かない。
何を書いたか。
だが——
少年の顔を見れば、十分だった。
少しだけ、やり切った顔をしている。
「……甘口」
照れ隠しみたいに言う。
ハルノは、ほんの少しだけ笑った。
「わかった」
肉を削ぐ。
今日は、雨の音がよく聞こえる。
その中で——
刃の音が、静かに響く。
シャッ。
シャッ。
いつも通り。
だが今日は——
どこか、温度があった。
「はい」
渡す。
少年は、一口食べる。
「……うん」
うなずく。
いつもの味。
いつもの空気。
そして——
少年が、ぽつりと言った。
「……星ってさ」
ハルノは、手を止めずに聞く。
「……?」
「知らない人がつけるじゃん」
「でも、本当は」
少し考える。
「……食べた人が決めると思う」
静かな言葉だった。
ハルノは、しばらく何も言わなかった。
やがて——
小さくうなずく。
「……そうかもな」
レビューは残る。
数字も消えない。
だが——
目の前の人間も、確かに残る。
その積み重ねは、ゼロにはならない。
——返ってきたな。
「ああ」
ハルノは、静かに目を閉じた。
支えていたつもりだった。
だが——
いつの間にか、自分も支えられていた。
雨は、まだ降っている。
だがソレアの中には、
ほんの少しだけ温かい空気が流れていた。
店を守る流れ




