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ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【水仙の部】第五章
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第82話/歪みの露呈/Limited_NAGI

広場を駆け抜ける。

生死の判別がつかない人間たちが、そこかしこに横たわっており〝つかむ〟を使っても躓きそうだった。


あまり横たわる人間を見たくない。目を逸らしたかった。

転がってくる魔法筒や、どこからか発動された魔法が足元に出来るので、そうもいかない。


足元でゆるやかに集まる氷の結晶が視界に飛び込んだ。

ほらね。そう思いながら、軽く飛んで避ける。

お構いなしに魔法で弾くのも夢見が悪いというか、なんか申し訳ない気がし、ギリギリまで自分の足で近づく事にした。


首を左右に振っているイタチが進行方向に見える。

鋭い爪が伸ばして人間を襲っている。近づきたくない。

手を翳して〝はなれて〟を声に出す。

高く鋭い声を出し、イタチは吹き飛んでいった。


W棟の真横付近、雑木林にパルとマークはいた。

魔法で木に登っている。

体よりも大きなイノシシの魔物が襲い掛かっている。

二人が登った木の幹に体当たりしていた。


色は黒い。

背中の部分に黒い管のようなものがいくつも揺蕩っていた。

先端が微かに赤い。

牙が口の辺りから突き出している。

顔の周りに禍々しいトゲがいくつも生えていた。

突進されたらひとたまりもないだろう。


立ち止まり手を翳すが、腕が自分のものではないみたいにだるい。

表情に困惑を滲ませ、唇を噛み締めた。

頭に浮かぶリサとダーガを振り払うかのように〝つかむ〟を力強く言い放つ。


魔物を掴んで突っ込むつもりだったが木に衝突した後のバックステップでかわされる。

木の幹に〝つかむ〟の帯が伸びてしまった。

頭が回らない。とりあえず引っ張った。

ウォッチを連れて屋根に飛んだ時よりも、スピードは遅い。


とはいえ、視界の両端が溶ける。

背後の地面をすぐさま魔法で掴むと、ふわりと体が浮く。

背中から地面に叩きつけられるように停止した。

太腿からナイフを抜き、態勢を立て直していると、木の上から甲高い声で呼ばれる。

イノシシは、のしのしと体を揺らし、数歩下がっている。

荒い息遣い。

牙はナギの手首よりも太いかもしれない。


足元に何かが落下する。

ちらりと見るとフライパンだった。

刃が短いナイフを太腿に収め、反射的に拾う。

さすがにイノシシの真正面は命知らずだろうと、自分の脇腹に加速魔法を撃つ。


他の木に衝突して止まり、すぐさまイノシシを向き直る。

間髪入れずに横の腹目掛けて〝もえろ〟と声に出す。

再びバックステップで避けられた。

大きな体躯の割に素早かった。


落ち葉に燃え移る炎。

再度横に回り込み、加速魔法で一気に近づいて殴ろうと考えた瞬間、イノシシは猛スピードで後ずさりして逃げていった。

前に突進するよりも、後ろに進む方が速いように思えた。


(イガイノシシ…。)


パルとマークが近くに着地する。

今にも泣き出しそうなパルの顔は、べっとり血がついたナギの口回りと異様な左腕を見ると戸惑いが混じっていった。バツが悪そうな顔つきに変化し、目を逸らしている。

ナギは咄嗟に左腕を背中に隠す。

視線が鋭いマークの口が開きかけたのを遮った。


「上行こう!危ない!」


木の枝と二人へ交互に視線を送り、力強く言った。

パルが同じ枝に跳んできたが、一緒に乗ると折れそうだったので別の枝の上に移る。

パルが一番近い枝。少し上の枝にマークが乗った。

避難しているはずではなかったのか。困惑を滲ませながら切り出そうとするとパルが声を張る。

目には涙を浮かばせている。

不安定に歪む唇から言葉が飛び出した。


「ごめんなさい!キューを攫ったのはダガヤなの!宿に行った時あたし見たの!」


信じたくなかった。

表情が消え、パルから視線を外す。

泣き声交じりの甲高い大声が続けて耳に飛び込んでくる。


「きっとあたしが宿の場所、ダーガに教えちゃったから!本当にごめんなさい!ナギがヤマカミから参加するみたいってレイシーから聞いて、教えなくちゃって思って!ケガはないから!キューには絶対に何もしないから安心して!」


何を言われているのかさっぱりわからなかったが、ナギは表情を消したまま動かなかった。

荒くなる呼吸。目が怒りに染まりそうになる。

ぼんやりと遠くの地面に視線が彷徨う中、付け加えるマークの声。


「壁の穴から入ってった時に偶々大人が話してるとこ聞いたんだよ!暴力とかはしないって!そういうのじゃないって!」


パルとマークへ交互に視線を送る。

二人の顔が真っ黒く塗りつぶされたように表情がわからない。そう映った。

感情を押し殺しながら口を開く。


「なんで!?ドミヌスのせいだってドワン…、宿の人は言ってたよ!」


震えをボリュームで誤魔化すように腹から声を出す。

頭の中はぐちゃぐちゃだった。


「わかんない!ドミヌスのせいにしたかったんだと思う!」


マークがいる方向から言葉が返ってきた。

ナギは黙って頷いた。


「本当にごめんなさい!すぐにナギを探しに行って教えればよかったんだけど!でも、あたし怖くて!ダガヤでよかったねなんて言っちゃったからあたし…チームの事…、あの、嫌われるかもって!本当にごめんなさい!」


声には涙が混じる。


「パル!気にしないで!」


ナギは涙目で叫んだ。

わざわざ危険を冒してまで教えに来る必要はない。

そう言い聞かせると、二人の表情が徐々にはっきりと映ったような気がした。

ここにいるのは他に目的があるのでは?そう浮かぶと二人の表情がまた見えなくなる。

浮かんだ疑念を振り切るように、大声を出した。


「今どこにいるの!」


マークを見上げて腹から声を出す。

多分事務所。そう大きな声が返ってきた。


なぜか自分がヤマカミに拘束されていた時の記憶を探りながら考える。

キューはこの街の配達業に何か関係していたのだろうか。

ミトハロの事を話す彼女や配達業に近づこうとしないドワンの口ぶりからは考えにくかった。

頭が回らない。

仮説を並べれば並べる程、とある答えが必ず脳みそを占拠した。


抗争の喧騒が遠くなる。

顔の皮膚の感覚がなくなった。

目の前で泣いている少女が朧げに映る。

どうしても過ぎる。


ダーガやプレーノがサファから助けてくれた時、彼らはあそこで何をしていたのか。

露店に突っ込んで負傷したパルを一度に全快させず〝一日一回〟と回復魔法を制限した理由。

やたら高額な接客の依頼料。

政治に子供は使わないと言っていたがパルとマークをおざなりにするような先ほどのダーガの言葉。

やたら揉めたがっているような、初めてダーガに会った時の静かに闇を宿したような瞳。

階段付近にシューズが乱立した〝墓場〟。

どうしても繋がってしまう。


キューの誘拐はナギが原因かもしれなかった。

理由はわからないが、それ以外の理由を考える度にそれに帰結した。

ダーガもドミヌスかもしれない。そう論点が飛躍した時。


「おい!あれ見ろ!」


見上げると目を丸くして遠くを指さすマークが視界に映る。

素早く指の先を向くがナギのいる枝からは木々が邪魔で何も見えない。

地面に降りる。

少し離れた所に巨漢と対峙している見慣れたスキンヘッドが遠くに映る。

W棟とS棟と丁度正三角形になるような位置。先ほどまでサファを殴っていた場所の奥だ。

雑木林の手前。


「なんでレイシーもいるの…。」


言葉が勝手に漏れた。

背中から落ち葉が崩れる音がした。


「ナギ。助けてやってくれよ!おまえ今魔法強いんだろ!さっきのイノシシの時!なんか色違ったし!その腕!関係あんだろ!」


呆然と立ちすくんでいたナギ。

マークの強い声が背中に刺さる。


「おまえ、仲間に裏切られたんだろ!裏切られたってか、ドミヌス入ったんだろ!仲間が!」


ナギは目を細めて振り向いた。

目を真っ赤にしたパルも近くにいる。

左手は隠さなかった。


「もし俺!パルが敵になったらって思ったら耐えられない!…関係ない人まで攫って!俺達もチームの事、信用できなくなってる!でもレイシーは違うと思う!」


縋るような声。

少しだけ震えていた気がした。

言いながら、何かに怯えるように目は泳いでいたが、言葉の終わりにナギと目が合った。

マークの表情は硬かった。


「ベゼが事務所にいるから!キューは大丈夫だから!お願い!」


パルが叫んだ。


「――か-俺た-事務―に行―――!」


周囲の騒音で聞こえない。

耳に手を当て眉をひそめる、マークに顔を近づけた。


「今から俺たちは事務所に行くから!絶対に宿の人は傷つけさせない!だから頼むよ!ナギ!」


ナギは力のない目で頷いた。

次々に謝罪の声を飛ばしてくるパルに視線を戻す。


「大丈夫だから!気にしないで!」


唇の端を少しだけ緩めてそう言った。目は暗かった。

片手の甲で目を覆いながらパルは頷いていた。

ナギはもう自分が何を言っているのかわかっていなかった。

腰に手を当て、視線も向ける。

表情が曇る。

ポーチとマナベルトをウォッチに渡していた。


「ごめん!セーフポイント持ってない!」


二人を交互に見てそう叫んだ。

マークが声を張る。


「街には魔物はいないんだ!俺達中心街の宿に避難してたんだけど、たまにここに向かってくるイタチを見ただけで魔物は街は襲ってない!」


怪訝な表情でマークを見た。


「あたし!前にもらったの今持ってるから!大丈夫!」


涙目のパルと目が合った。


「ナギ!今度は俺!逃げないからな!宿の人は絶対に大丈夫だからな!」


言いながら差し出した掌は、震えていた。

手に持っていたフライパンを渡すと逆の手で受け取るマーク。

掌を差し出されたまま、マークはナギを見据えていた。

少しの間、その顔と掌を交互に見つめる。


掌を叩き、ナギも掌を返す。

衝撃が降ってきた。


二人と顔を見合わせる。

目を切るとそれぞれの場所に走り出した。

駆けていくナギの瞳は、何も映していなかった。


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