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ナギとリサの大冒険  作者: あ★い★う★え★お
【水仙の部】第五章
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第76話/初めてのボス/Limited_NAGI

「ビビった?終わったって思ったでしょ?ありがとは?」


にやつきながら話しかけてくるタリフ。

片方の足を抱える態勢でテーブルに腰掛けている。


(さすがグローブ・K、行儀悪い座り方が似合ってる。っていうか御礼ならさっきも言ったじゃん。)


横目で見ながら二度目の御礼を言う。

アイテムポーチはどこだ。部屋を見回す。


「こっち見て。」


駆け寄ってきたウォッチが、頬に両手を当ててくる。

強引に首を捻られ、目が合った。

眼球を上下左右に動かすように言われる。指示に従った。

目と鼻の先までウォッチの顔が迫る。

真剣な表情で何かを探るように、動く瞳を追いかけている。


「体、違和感は?痛みはさっきの回復で治まると思うから。違和感ね。」


顔を離しながら聞いてきた。

感情がないような淡々とした声。

手が離れる直前に、軽く頬を摘ままれた。


「大丈夫、ありがとう。」


頷きながらそう言った。

タリフを向き軽く頷くウォッチ。


「ナギちゅわん!俺にm―――」


「タリフも!ありがとう!さっき皆に言ったよ!」


白目になっておどけるタリフ。

ウォッチは部屋の隅の方に歩き出していた。

ドンドラは入口の壁に背中を押し付け、ちらちら廊下を窺っている。


「おい!タリフ!そいつの受け渡しの金!独り占めしようってんじゃないだろうな!おまえふざけんなよ!ぶっ殺すぞ!」


布を被らされ、横たわるミカが喚いていた。

刺し傷には刃物がまだ刺さっている。

痛くないのかな。よく叫べるな。ナギはそう思った。

その隣には横になり微動だにしないアエス。

ドンドラに締め落とされていた。

テーブルから降り、へらへら笑いながらタリフがミカに近寄る。


「引き渡しの金なんていらねーよ!このままドミヌス潰すに決まってんだろ!おまえがウチに裏切られたんだよ~!ばーか!ダーガも生きてるよ!ばーかばーかー!」


腰から上半身を曲げ、ミカを見下ろしながらそう言った。

楽しそうな顔。

ミカは先ほどのナギと同じように拘束されていた。


「どこやられた?攫われた時も。」


声の方を向くと、ウォッチが顔の近くで囁いてきていた。

アイテムポーチとベルト、ナイフを差し出される。

驚いて少し仰け反る。

質問には、あり過ぎてわからない。そう答えた。


「突っ張ったり、痛かったら教えて。」


言いながら、背中に回り込むウォッチ。

後頭部の辺りから、何本かの指で押してくる。

首筋をなぞるように、指が少しずつ下へ移動していった。


肌を這って指が移動する度にぞわぞわした。

ポーチの中身を確認していたが、時折、抑えられずに細い息を吸って身震いした。

耳はタリフに集中した。


「ナギちゃんが抗争日早まったって伝えに来た時は久しぶりに困ったね~!どっちだろうって迷ったな~!あれ!」


「はあ!?おい!ナギ!おまえ!」


拘束された体を激しく動かすミカ。

膝から先をぶんぶん振っていた。反動で上半身も激しく動いている。

その動きを抑え込むように、タリフが腰骨のあたりにどかっと座る。


「その後に〝おまえらのどっちか〟が来て同じ内容伝え出して爆笑もん!あんな面白いのも久々だったね!」


何度か太腿を平手で軽く叩きながら言った。

喚くミカを気にとめない様子で続ける。


「ナギちゃんとお前、どっちも繋がってなさそうなら!どっちにも尻尾振ってた方が得でしょ~?俺達が嵌められてる可能性もあったけどさ、おまえらが俺たちを敵に回すメリットってないし!ドミヌスが相当やばいのは明らかだしな~!俺たちが嵌められてるってのは考えにくいだろ~的な!」


「だからなんなんだよ!」


「ここに来るまでもさ、ナギちゃんがむかつくから一発ぶちかましたいって言ったらフリーパスなわけ。……俺、おまえらの仲間だし!」


最後の言葉は揶揄うように言い放っていた。

右肩から手首にかけてウォッチの指が優しい力で下りていく。


「〝ノード棟〟にフリーパスってやばいでしょ!ラッキー過ぎだろ!大義名分と立場が一気に手に入っちゃった!どっちにつくかは土壇場で決めるのが一番強いよね~!でもさ、ここまで全部ナギちゃんが関わってるわけよ!やっぱあいつ今回の中心だろ~!」


(ここノード棟!?それはラッキー!)


ウォッチが屈む。

掌が右足の太腿に移動する。

つい身震いした。

道具は特に何も取られていない。ベルトもナイフも無事だ。

なんでお金取らないんだろう。コロンもそうだったな。ウォッチの真剣な表情を見下ろしながら、そう思った。


「おまえ!最初から裏切ろうとしてたんだろ!」


声に顔を向ける。

ミカが籠った声で吠えた。


「だから!違うって!どっちにつくかなんてその時決めればよくね?でも最初から一人で来てたナギちゃん。ウチの仲間伝いにコソコソ金の情報と計画だけを流してきた〝区別をさせない〟おっぱいちゃん達。印象全然違うだろ~!おまえらヒントくれないしな~!まあどっちがどっちでもいいんだけど!」


漏れる笑いでタリフの声が揺れ出した。


「〝話にノる〟なら、オッケーなら事務所の前にハイビスカス置いてって!じゃねえよ!交際を親に許可されない恋人達の愛の証明じゃねーんだから!ミトハロにハイビスカス売ってんのおまえらのおかげで知れたって!たっくさんばらまいてやったわ!そんなめんどくさい事させないで、おまえらが返事を聞きに来いよ!っつーか!は!、、、まっ、負けんなよ、、、縛って、、っは!目も、、、はは!見えないガキに!っつはは!」


我慢できずにタリフが爆笑した。

上半身を激しく上下に揺すっている。

ミカの悲鳴。よろけたタリフが腹に刺さっている柄に触れていたようだった。

姿勢を戻して言葉を再開した。


「仮におまえらに最初からつくって思っててもさ!部屋入ってきたら縛られてるガキ相手に鼻血流してる仲間なんて嫌だろ!あいつの顔の血は乾いてたぞ!一発も入れらんなかったんじゃないの!?ぶあはははは!弱えー!だからおまえら配達じゃなくて〝裏路地〟広げだしたんだな!バンディアこえーもんなー!納得!」


笑いながら、ナギとウォッチに顔を向けてきた。

ぴたりと笑みが消え、淡々とした声を張る。


「そろそろいい~?」


左の脛をブーツ越しに押してくれていたウォッチが、立ち上がりながら頷いた。

ナギはマナベルトを締めながら、その様子を見つめていた。


「あ、ところでさ。なんでナギちゃんなわけ?どうせもうおまえ負けたんだし、いい加減教えろよ。」


タリフがミカに顔を戻して聞いた。

ナギは素早く顔を向ける。


「だから!金だよ!金!引き渡したら金やるって言われたんだよ!」


涙交じりの荒げた声。

タリフは呆れた笑いを含んだ声で返す。


「だからそうじゃなくて…、えっ?ほんとに知らないの?詳しい話、聞いてねーって事?」


タリフの顔が引きつった。

初めて見る顔かもしれない。


「…うわあ…おまえらってさ、荷物の中身聞かずに配達しそうだよな~。」


ミカは黙っていた。

期待外れの答えに、ナギはつい大きな息が出た。


左肩を回しながら視線をウォッチに戻す。

体に特に違和感はない。

背中を向けるウォッチに御礼を言ったが返事はなかった。

お団子頭が少し揺れ、耳が赤かった気がした。


部屋の隅に放り出されていた自分の外套を拾うと、何回かはたいて袖を通す。

タリフが「じゃあね。」と明るく言いながら、ミカの尻を何回か軽く叩いて立ち上がった。

ドンドラとすれ違うように扉へ向かう。

ミカの方に歩いているナギに気づき、タリフが立ち止まる。

顔だけ向けて声をかけてきた。


「ナギちゃん!復讐タイムはなし!もう気絶させて次行くよ!次次!」


言葉も視線も返さず、ミカに近寄った。

追い越したウォッチに軽く腕を掴まれるが振り払い、構わず進む。


ミカの目の前まで来ると、顔に被せられた布の袋に手を伸ばす。

強引に外した。

布が鼻に引っかかり、くぐもった声を出していた。

涙と鼻水を垂れ流し、酷い顔のミカが露わになる。

ナギは太腿に差してあるカランビットナイフを抜いた。

ミカからは見えていないようだった。


「あ~、そういう感じね。」


何かを察したようなタリフの低い声と、ウォッチが名前を叫んでくる声が重なった。

ナギは話しかける。


「ミカ、おまえこれから海で獲れたごはん、絶対に食べるなよ。」


低い声でそう言いながら屈むと、ショートツインテールの先を掴んで、適当な位置にナイフを入れる。

すすり泣く声が聞こえてくるだけで、返事はなかった。

肩に向かって刃を動かしたので、髪が切れた瞬間、勢い余ってナイフが肩に食い込んだ。

「あっごめん。」悲鳴を上げるミカに咄嗟に言う。

体を蹴って態勢を変えさせ、もう片方は注意して切り落とした。


(これですぐ見分けがつく。)


立ち上がりながら、切った髪を顔面に放り投げた。

結んであったものが解け、ばさりとミカの泣き顔を覆う髪。

ナギの顔からは表情が消えていた。


「狂ってる!腹痛えぇ!」


タリフの爆笑をよそに、ミカを見下ろす。

不意に遭遇してしまった動物の死骸を見るような、静かな切ない目つき。

腹部からは血が滲んでいる。

思い出したように告げる。


「あ、おっぱいは大切な人に揉まれると大きくなるってジョージおじさんが言ってたよ。大切な人出来るといいね。頑張って。」


カランビットナイフを太腿のカバーに戻しながら言い捨てる。

ナギの顔つきは暗く、生気はなかった。

泣きじゃくるミカから返事はない。


「じゃあ、行こう。」


タリフを見てそう言うと、左足の膝裏に衝撃が走る。

顔が歪み、短い声を出しながら数歩よろめいた。

向くと、ウォッチの右足が引いていくのが見えた。

蹴られたのだとわかった。


「味方になってくれた人を、…ソッコー敵にまわすなよ!」


爆笑が止まらず、息絶え絶えのタリフ。


「おまえそれ嘘の情報だからな!」


ウォッチの荒げた声を浴びせられる中、膝に手を翳し回復魔法を囁く。

細目で軽く睨むと、胸を片腕で覆いながら怒りを浮かべているウォッチと目が合った。

テーブルに上半身だけ突っ伏したタリフから、少し籠った声がした。


「ナギちゃん、、、もうおまえに、グローブ・Kあげる!、今日だけね!おもしろすぎ、るだろ!」


笑いを落ち着けながら体を起こす。

ほんのり笑みが残った顔でナギに近寄ってきた。


「その代わり明日からウチ入れよ!おまえが今日はボスね!何故かミトハロ民でもないのに今回中心のナギちゃん!さあ何がしたい?ボス!」


不敵な表情で言った。

カラフルなエクステの辺りをくしゃくしゃと手で掻き回していた。


「ここ。ノード棟を制圧したい。」


不敵な顔つきを見据えて間髪入れずにそう言った。


「いいね~。」


タリフの不敵な表情が、悠然とした微笑みに変わる。

背中からくぐもった声。

顔を向けると、ドンドラがミカを締め落としていた。

腿に巻き付けてある水色のバンダナを解こうとするとウォッチが口を開く。


「それ、まだつけてろよ。」


「なんで?」


怪訝な表情で聞き返す。


「まだ使えそうだから。」


目を逸らし、口を尖らせてそう言った。

外からは相変わらずの怒号や悲鳴、何かの炸裂音が聞こえてくる。

壁への不自然な細かい衝撃音と、ミカの頭が床にごとりと落ちる音が重なった。


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