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第72話/初めての裏切り/Limited_NAGI



横には少し大きめの焚き火。

木箱に座ったグローブ・Kの三人の視線がナギに刺さる。

酒盛りをしていたのか、テーブルが二つ出ている。

ナギはタリフに立たされていた。

坊主頭のアブロスが口を開く。


「おまえ、こんな遅くに歓楽街通って今に痛い目見るぞ。」


(もう見てるよ!たっくさんね!)


タリフは機嫌良さそうな顔でナギを見ていた。


「暗くなると見にくいし、こっちも警戒しないといけないからめんどいんだよね。」


髪を下ろしているウォッチが言う。

別人のようだ。

漂う大人の女性感。


「まあまあ、あれだけ、日暮れ前に帰る、ナギちゃんが、こんな遅くに来てくれたんだから。あんま言い過ぎないであげなよ。」


顔を抑えるタリフが肩を震わせながら言う。


「で、用件は?」


ウォッチがコップに口をつけながら聞いた。


「ドミヌス攻める日が早まったから伝えようと思って。」


「はあ?いつ。」


聞き返しながら立ち上がるアブロス。

木箱を蹴ってよこしてきた。

転がる木箱を手に取り、座りながら伝える。


「明後日。二日後の早朝。」


「それなんで?っていうかほんと?」


眉を顰めるウォッチ。

足を組み直しながら高い声を出す。

ここに来るまでに考えたが理由が見つからなかったナギ。

正直に話すことにする。


「ほんと。裏切り者が出て、ドミヌスの周りに人が増えたから早めるって。」


ナギを見るタリフの眼光が鋭くなる。


「ナギちゃん、それウチのせいにされてない?今来てる事、ダーガとかおっぱいちゃん、知ってるの?」


「知らないよ。グローブKには言うなって事になってる。」


「おまえはどこにつくんだよ。」


俯いたウォッチが聞く。


「ヤマカミだけど。」


爆笑したタリフが食い気味に声を張る。


「なんでだよ!ダーガちゃんのとこから仕事もらってたんでしょ!?ヤマカミとは最近会ったんじゃないの?ヤらせてもらったの?おっぱい揉ませてもらった!?」


腿を叩きながら笑っている。

ウォッチは顔が上気しているように見えた。


「おまえやってる事めちゃくちゃじゃね?何がしたいの?」


アブロスと視線を合わせて言い返す。


「仲良い友達がいるんだよ。ヤマカミに。」


木箱が勢いよく顔面に飛んできた。

立ち上がりかけて腕で弾く。

迫るタリフの右足が胸に直撃した。

後ろに二回転する。

立ち上がろうとすると胸を足で抑えつけられる。

呻き声が漏れるナギ。

タリフが見下ろしていた。

足を手で掴んで払いのけようとするが重過ぎる。

頭を一度蹴られた。

上から低い声。


「めんどくさいからちゃんと話せよ。おまえ最初からよくわかんねーんだよ。なんか隠してるだろ。」


静かな目をしたタリフを見据えて黙るナギ。

低い声が上から降ってくる。


「抗争ってわかってる?命かけんだよ全員。明後日に変更になりました、はいそうですかってなると思うか?村同士の交流会の日程じゃねーんだよ。はやく全部言えよ。」


本音を話す事にした。

腹から声を出す。


「ダーガが!ドミヌスの周りに人が多くて!多分情報が漏れてるって言い出して攻める日が変更になったんだ。グローブ・Kには言わないでおこうって事にその場でなった!」


胸にかかる力が強くなる。


「僕からしたら!裏切り者なんて誰でもいいんだ!キュー…宿の人を助けたい!だけだから!元仲間がドミヌスに寝返ってるんだから!僕からs―――――」


「そいつとは会えてないの?」


質問してきたウォッチを見た。


「会えてない!すでに裏切られてるようなもんなんだよ!今、僕は誰でも裏切り者に見える!〝だから〟ヤマカミについたんだ!裏切った時に一番〝甘い〟と思ったから!一番勝てそうだから!ダーガはだめ!あいつ多分強いから!」


タリフの冷たい視線が降り注ぐ。

足は胸に乗ったままだった。


「わざわざウチに教えてよ。ウチは問題ねえってのかよ。」


語気荒くアブロスが言う。

タリフが顔面目掛けて殴り掛かってきた。

顔を逸らすが首に当たった。

むせながら反論する。


「違う!僕は弱いから!〝綺麗な形〟だとあっという間に死ぬ!誰が!仲間で!敵で!って綺麗に決まると危ないんだ!だから掻き混ぜたいんだよ!ぐちゃぐちゃにしたい!裏切られたとしても!どさくさに紛れた方がうまくいきそうなだけ!」


胸にかかる圧が引いた。

タリフが片手で髪を掻き毟って爆笑している。

下卑た笑い。


(酔ってる?)


「いいね~!なんとなーく!少しは納得したよナギちゃん!ダーガちゃんよりも下に見られてるようでむかつくけどさ!まあいっか!とりあえずはわかったよ!ボスも戻ってきてないし!そもそもナギちゃんのおかげでウチのチーム、ほとんど全員いるしね!」


投げつけてきた木箱を手に取りながら戻っていくタリフ。

笑い声を混じらせながら言葉を重ねた。


「っていうかさ!もしも二日後って情報が嘘だったとしたら、どうせウチが最初に突撃する的な感じなんじゃない?その程度!だからウチは他のチームの様子見ながら始めればいい話だしね!」


ナギも立ち上がって木箱に戻る。

タリフも元の位置に戻っていた。

ほとんど同時に腰を下ろす。


「でもさ~!やっぱわかんないのよ。宿屋の人ってそんなに大事?助けたいのはわかるけど、ここまでリスク負ってまで助けないといけない人なの!?他になんかしたい事あるんじゃないの?」


笑みの中に冷たさが戻っていた。


「そりゃサファはむかつくしドミヌスもむかつくよ。裏切った仲間だってむかつく!ぶん殴ってやりたい!でも一番は宿屋の人。関係ない人が危険な目に遭うのは違う。裏切った仲間も宿に色々迷惑かけてたんだよ!」


食い気味に言葉を放つタリフ。


「ふーん。ま、いいや。わかったよ。わかんないけど~。」


熱を失った冷静な声だった。

試されているような、品定めをされているようなタリフの視線がナギに刺さる。


「ナギちゃん、ウチが裏切り者だったらどうする?」


カラフルなエクステとテーブルに置いてあるコップに視線を往復させる。

焚火の薪の繊維が小さく裂け、小さな破裂音がした。

炎が揺らめいている。


「殺していい?」


タリフを見据えて答えた。

三人が一斉に嘲笑したのが視界に映る。


「いやでしょ~!そんなのいやに決まってるじゃん!やめて!見逃して~!」


おどけて言うタリフ。

両肩を抱えて体をくねらせている。


「やってみな。」


少し笑ったウォッチが低い声で言った。


「わかった。」


ナギは静かにそう言った。


「話はわかったよナギちゃん。当日よろしくね~。んじゃ、ウォッチ先輩にお見送りしてもらって~。」


険しい顔で立ち上がるウォッチ。

木箱を蹴りながらコップに口をつけていた。

ぐいぐい飲み干している。

舌打ちをつきながらナギに近づく。


「歓楽街の途中まで送ってやるよ。」


手を振るタリフと薪を炎の中に放り投げるアブロスを尻目に、ナギはグローブ・Kのアジトを後にした。



「おまえ歓楽街そのまま通ってきたの!」


ブーツで走るナギにエーテルシューズで並走するウォッチが声を張って聞いた。

下ろした髪が軽く靡いている。

歓楽街は酒の匂いが充満しており活気に満ちていた。


「裏の森っていうの!?そっちから歓楽街沿いに回ってきた!暗かったけど迷わなくて良かったよ!」


「あっそ!」


ナギが切り返す。


「ウォッチ!〝ホテる〟って何!」


「はあ!?」


靡いている髪が不規則に揺れた。

少しよろけたのが視界の端に映る。

走るペスピードを緩めるナギ。


「どこで聞いたんだよ!そんな事!」


ナギをちらりと見て前を向くウォッチ。

手で髪を耳にかけている。

片手に持つランタンに照らされた顔が紅潮したように見えた。

沈黙ナギ。


「ちょっと前にミトハロで流行ったスラング!」


「だからどういう意味!?」


滑り寄ってきたウォッチに肩を強めに殴られる。


「痛った!何!?」


減速する二人。


「〝ヤる〟って事!おまえがどこで聞いたか知らないけど、第三者のそういう関係を揶揄うようなスラング!」


丁寧なレクチャーでお馴染みウォッチ。

足にかけている重心を器用に入れ替えながら前を向いた。

補足を続ける。


「誘い文句みたいな感じで使われてるのも聞いた事あるけど!ノリが痛すぎて使ってる奴なんて見ない!もし居たら相当切羽詰まってるか遅れてる!」


「お飲みのご予定いかがっすか!一杯五十エンテの所、タダエンテで入れまっす!まだええて!?そんな事言わんで!お姉さん綺麗だから俺と飲んで!なんつって!いかがっすか!」


「うるせえよ!」


ウォッチが絡んできた行商人に叫び寄る。

ランタンを顔面に押し付けるフリをして追い払っていた。

ごめんて、と笑顔で引いていく男。


「お姉さん!僕とホテってよ!」


ナギに背を向けた〝綺麗なお姉さん〟に叫ぶ。

言い終わる前に猛ダッシュで逃げた。

爆速ウォッチ。

あっという間に肩を掴まれる。


(さすがに魔法は使わないか…。)


肩にかかる力が胸倉に素早く移動する。


「おい!おまえが絶対にその言葉は使うな!いいか!わかった!?」


顔が吹っ飛びそうな程の怒気。

目と鼻の先で叫んできた。

髪は乱れている。

毛先が口の中に入りかけていた。

反射的に瞬きをする。

顔は上気していたがブローチに肉薄する形相。

無表情で小さく何度も頷いたナギだった。


薄着の女がナギ達を見て笑っているのがぼんやり映る魔女の形相の向こうに見えた。




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