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第73話/初めての決戦前日/Limited_NAGI



抗争前日。

ヤマカミの事務所の一室で籠るナギ。

勝手に呼吸が浅くなるのを深呼吸して落ち着かせる。

伝えられた明日の作戦を反復していた。

目を瞑り、ダーガがタリフにしていた説明を想起する。



挿絵(By みてみん)



(作戦がシンプルで助かった。人数で一気に潰す作戦。僕はドミヌスのアジトを攻めるヤマの部隊。アジトは三階建ての広い建物だけらしい。うまくアジトまで行けたらダーガと僕達は一階から。タリフは上から攻める。)


鼓動が大きく波打った。


(周囲にどれだけドミヌスの人間がいるかだけど…。おそらく建物の周りで戦闘になる。そうなったら僕はすぐ木の上に昇ろう。各チームで腕にバンダナを目印につけるらしいけど…大人数で乱れたらあんまり意味なさそうだよな…巻き添え食らっちゃいそう。)


手に滲んだ汗を衣服で拭う。

ダガヤは青、ヤマカミは水色のバンダナを着用する事になっていた。

グローブ・Kにはダサいという理由で着用を断られていた。


(他のチームの目的はサファ。アジトにいなかったらバシナリーだろうから、各部隊で教え合ってサファがいる方に人数の調整をする。ヤマカミの部隊が中間だから最初はヤマカミが動く。もしもタリフが見つけたら教えてやるって言ってたけどどういう意味だろう。〝仲間ならすぐわかる〟って言ってたけど…。)


思考を戻す。


(パルとマークは来ないらしい。ベゼフェリとレイシーも。パルとマークに関しては事務所にもいない。本当よかった…。)


扉の向こうから人の声。

顔が強張った。


(攻め終わったら防衛戦…。多分僕は、防衛戦になったら死ににくい。〝はなれて〟あるし。なんとかそこまで生きたいけど、キューがそこにいなかったら移動しなきゃならない…。)


以前見たバシナリーの全体像をダーガからの説明と共に思い起こした。




挿絵(By みてみん)




(バシナリーの方が厄介だ…。建物が多すぎる…。プレーノとカミがノードがある建物を主に制圧するって言ってたけど…。キューがアジトにいなかったらかなり焦らないといけない。間に合わないかも…。裏切ってるチームの事も考え続けなきゃ。っていうかキューはまだ生きてるのかな…。)


深呼吸して弱音を吐き出す。

〝ミトハロ節〟を想起して言い聞かせる。


(いや、〝ミトハロなら〟きっと大丈夫なはず。キューはリサの近くにいるかもしれない。あいつがいる所は警戒した方がいい。)


落ち着きを取り戻す。

頭の中がクリアになっていく。


(多分、作戦通りにいかない。絶対にダーガもそれは考えてるはず。裏切ったチームの動きで大きく変わる。あんまりあれこれ考えても意味ないと思う。誰が裏切ってもいい。混乱してからが勝負。とにかく明日は考えまくる!見た情報ですぐに判断しよう。)


魔法を思案する事にした。



+++++++++

<使えない系>

こおれ

すな

まわれ

はやく

やわくなれ

+++++++++



(〝こおれ〟はダメだ。全然使えない。一回発動したら他の魔法が使えないのがしんどい。発動まで少しは早くなったけど、僕はまだ範囲も狭い。リサの事がなければその期間集中して練習出来たから使えるようになってたかもしれないのに!あいつ!…


…〝すな〟も使えるレベルじゃない。発動して少し経てば他のも使えるんだけど他の魔法が弱くなる。アネットと喧嘩した時に〝すな〟の後に唱えた〝もえろ〟は変わらなかった気がするけど…。夢中であんまり覚えてないし。それに相手の口を塞いだり出来る程度で、大人数の戦い向きじゃないんだよな…。


〝まわれ〟も全然だめだった。一回転くらいの力しかない。エーテルカードくらいなら良い勢いでくるくる回せるんだけど…、今だけかもしれない…考えを限定しないようにしなきゃ。でも、大きい荷物になるとずっと唱え続けてやっとずるずる動くだけ…今は使えない。)


〝やわくなれ〟を考えようとすると思考が止まった。

顔が歪む。


(〝やわくなれ〟は戦い向きじゃない。何人かの敵を弱くしても意味がないし…。同時にも使えない。使えるとしたら…。)


唇を噛み締める。

ブランケットを雑に手繰り寄せ膝にかける。


(〝はやく〟なんて何も起きないじゃないか!アルセナで買ったやつが偽物だったとか!?)


嘲笑ナギ。

無理やりでも笑うと心が落ち着いた。


(僕が今実践で使えるのはこれだけだ。)


+++++++++

<使える系>

もえろ

つかむ

はなれて


<場合によっては>

いやすね

+++++++++


(回復魔法は一回発動すると他の魔法が使えない。ルントからもらったサプリとスプレーを使っていこう。大人数に囲まれて怪我したらまずいな…。)


手が冷える。


(やっぱり…〝はなれて〟がかなり使える。)


アネットが浮かんだ。


(大丈夫かな、生きてるよね。アネットなら殺人鬼からも逃げられるはず…。)


胸が苦しくなる。

会いたい気持ちを強引に抑えて思考を再開した。


(僕の〝つかむ〟はミトハロで通用する。コロンの時に他の人の〝つかむ〟がパルから剥がれたし。たくさんアネットと練習したからかも。〝もえろ〟は発動してからちょっとの間は他の魔法使えないだけで、残ってても他の魔法が唱えられる。ヤマの〝こがせ〟は小さかった。ミトハロの人って攻撃系の魔法強くないのかな。)


扉からのノック音で思考が途切れる。

無視をした。

誰とも会話したくなかった。


〝魔法筒〟と〝魔法ふうせん〟を思い出す。

ドワンからもらった布袋から取り出した。


(練習してる時にそれぞれ試しに二つずつ使っちゃったから、筒…スティックが残り三つ、ふうせんが一つ。道具屋でもっと買いたかった。遅かった…。絶対に抗争に参加する人が買い占めたんだ。明日は飛び交ってるに違いない。)


魔法筒、〝スティック〟はほんの少しの間だけ魔法を込める事ができる。

使い捨てだった。

触ると少し弾力がある。

太さは手首よりも少し細く、セーフポイントと同じくらい。

長さはスティックの方が少しだけ短い。

セーフポイントのように円柱状ではなく、先端は丸みを帯びていた。

輪っかになっている〝ピン〟のようなものがスティックから飛び出していた。

抜くと魔法が発動する。

〝ピン〟は魔法を込めなければ抜けない仕様になっていた。


(ブローチがセーフポイントと見間違えたのもわかる。似てる。これ魔法が入ってるかどうかってピンを引っ張らないとわかんないから投げられたらまず避けないと。買い占められてるって事は明日飛び交ってるかも。…これがあれば魔法を同時に発動できる。もっと買いたかった…。)


〝魔法ふうせん〟に関しては受け渡し専用だと判断したナギ。

魔法を込める前の状態では、少し厚みがある四角い形をしていた。

掌に収まるコンパクトなサイズ。

持ちながら魔法を発声すると顔の大きさ位まで膨らむ仕様だった。


(入れた魔法が切れるまではスティックより長い。でも投げても飛ばない。味方に渡す用。どっちも中に入ってる魔法が切れると使えなくなるから気を付けないと。使う寸前じゃないと意味ないな。もっと買い込んで色々試したかったけど仕方ない…。ルントに聞いておけばよかった!ミトハロの情報に気を取られすぎた…。)


リサに向き合ったストレス地獄の十余日を思い出す。


(やっぱり、ほんとあの時間無駄だった。アネットの言う通りにしておけばよかった。)


気づけば太腿に装着したカランビットナイフを触っていた。


(そうだ、武器はこれ一本。コロンに襲われた時に刃が長い方はたぶん奪われたから…。)


ナイフをカバーから抜いた。

自分の二の腕よりも刃が短いナイフを顔の前に持ってくる。


(ちょっと短いけど僕にはこれが一番だ。剣も憧れるけど魔法と混乱する。迷うのが一番よくない。)


以前、マークにあげたフライパンが頭に浮かぶ。


(マーク、まだ腰につけてるのかな。ダガヤ・クルーのキッチンで使ってくれたらいいな。)


少し顔が綻んだ。

今までの出来事を頭の中の地図と照らし合わせる。




挿絵(By みてみん)





(知らない街を歩くって楽しいんだな。色んな人に会えた。半分くらいは…もっとかな…。出会いたくない意味不明な人達だった気がするけど…。でもリヴェル村にいた時よりも色んな事知れた気がする。難しくてよくわかんない事もあったけど…。村に居たら絶対に知り合えない友達も出来たし。下らない話するの楽しかったな。村で色んな子達ともっと話せばよかった。)


しかし、〝明日死ぬかもしれない〟。

ナイフをしまって目に力を入れた。

強く瞬きをする。

勝利条件を復習した。


(明日の勝利条件。各チームはサファの殺害。その手段として各拠点を潰す。あと防衛。僕もチームに参加するからそれは僕の条件でもある。でも僕がしたい事は…。)


感情を消してはいけないとアネットから教わっていたナギ。

日々の〝同調〟で感情や思考が〝勝手に湧いてくる〟体験は理解できていた。

コロンとの一戦で〝感情を掴む〟という事も理解できた。

グローブ・Kに挑んだ殴り合いで弱すぎる自分にも納得していた。

感情や思考だけでなく、ナギは〝自分自身とミトハロ〟を俯瞰していた。


(僕の勝利条件はキューを助ける事。それは変わらない。第一優先で探さないと…。でも大勢の人達が集まるんだよな…抗争ってどんな感じなんだ…?ドミヌスは百五十はいるって言ってた…アジトとバシナリーで分散されてるとしてもキューの所に十人くらいはいるかもしれない…。見つけてもその場で殺される可能性がある。それじゃ意味ないんだ。僕だから出来る事ってなんかないかな…。弱いから出来る事ってなんかないか…。僕が強ければ!…って違う!それはもういいんだ。出来る事!出来る事!とにかく考えろ!)


誰かの助言が欲しかった。

ベッドのシーツを握り締める。

ルントが浮かぶ。

目の前が滲んだ。


(〝知らないって思われてる状況が武器になる〟ってルントが言ってた。考えればあるはずだ…。考えろ考えろ考えろ…。)


弱気や切なさ、パルやマークと会いたい気持ちが湧いて出る。

振り払いながら明日の事に集中した。

感情や思考を俯瞰しながら考えていると疑問に感じる事があった。

意志を持って自分を見つめているのはたしかに自分である。

しかし、それならば湧いて出てくる感情や思考は一体誰なのか?と時折脱線した。

それを思うと目の前がぐらついたのでやめた。


扉が何度かノックされるがナギは全て無視をする。

キューを助けるために自分が出来る事をひたすら考えていた。

壁の穴から二回吐き、少年の目からは完全に光が消えていた。


ついに明日、抗争である。




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