第71話/全員が敵に見える夜/Limited_NAGI
四人での話し合いが終わり、最後に部屋を出るナギ。
扉を出てすぐの所でアースが挨拶をしていた。
カミに何か話しかけられている。
部屋に戻ろうと廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。
「ナギ、ちょっと部屋行っていい?」
「うん。あっそう言えば。ブランケット余ってない?僕の部屋なくて。」
少しだけ声を上げるアース。
「えっ!ほんとかよ!?言えよ!」
ナギの肩を少しこずいてアースは一階に降りて行った。
大きく息を一息つきながら部屋に戻る。
ベッドの近くまで行き、穴が完全に隠れている事を確認した。
胸がもやついた。
背中から扉が開く音がする。
「おう。これ使えよ。おまえ、カミさんとなんかあった?」
「ないよ。なんで?」
眉間に皺を寄せて聞き返す。
ベッドの上にブランケットを置くアース。
そわそわしまいと体に力を入れる。
「このブランケット、カミさんのだってよ。使ってくれって。俺の渡すって言ったんだけどこれ持ってけって。」
「ふーん。」
ベッドに腰掛けるナギ。
今までと違う匂いがした。
ブランケットを遠ざける。
「うちのチームから行くんだろ?よろしくな。多分当日、俺とヤマさんと一緒だぜ。」
椅子に座るアース。
「そうなんだ。よろしくね。」
気のない返事になってしまったかもしれない。
言葉が出てからアースの方を窺った。
「あの場所で会ってよ。これまで色々話せて、おまえと一緒に行けんの嬉しいよ。俺。」
精悍な顔つきでナギを見ながら言った。
下らない話や今回の抗争が成功するとどうミトハロが変わるかを声高らかに話していたが、ナギの笑顔は死んでいた。
胸が苦しかった。
「おまえ、どんな魔法使えんの?よかったら教えてくれよ。」
「ごめん、ちょっと緊張してるんだ。当日まで一人にさせてくれないかな。」
会話を切り上げたいナギ。
俯いて言った。
「ああ、ごめん。そうだよな。今日と明日、扉の前に俺いるから。交代だけど。なんかあったら言えよ。」
椅子と床の擦れる音。
アースが立ち上がる。
「扉の前に?」
顔を上げ、立っているアースの表情を窺った。
「別に疑ってるわけじゃないぜ!チームの方針だよ。情報が漏れてたんだろ?誰も疑いたくないんだと。まあさすがに次はな。なんか足りないものとかあったら気軽に言ってくれよ。コキ使ってくれ!」
「うん。わかった。」
笑顔を作るのが限界であった。
「おう。早く寝ろよ。今日も明日も。」
アースは部屋から出て行った。
しっかりと施錠をするナギ。
ベッドに座る。
良い匂いがした。
(情報を漏らしたのは多分ヤマカミだ。)
ブランケットを鼻に近づけた。
柑橘系の吐き気を催す匂い。
ベッドの下にあるブランケットと入れ替える。
(さっき…〝カミがヤマ〟だった。アースから聞いた見分ける方法なんて使うまでもない。部屋に入って来た時にすぐわかった。全然違った。)
扉の前でアースと女性の話声。
微かに聞こえた。
(ダガヤ・クルーの皆と一緒に戦いたかった。レイシーやベゼフェリは事務所にいるのかもしれない。僕はキューを探さないとだから一緒には行動できないかもしれないけど。それでもダガヤ・クルーから行きたかった。)
リサを右腕のタトゥーを思い出す。
(でも〝そういうの〟はダメなんだ。同じ村の出身で一緒に勇者になっても簡単にお互い敵になるんだ。もうそういう考え方は辞めだ。誰が裏切り者でもいいから。一番成功しそうな方を選ぶしかない。)
胸が締まって息苦しい。
ダーガと初めて会った時の事が浮かんだ。
どこかで見た事があると思っていたドンドラの静かな暗い目は、初めて会った時のダーガの目つきであった。
一見覇気はないが、瞳の奥が静かに燃えている目。
(ダーガが何を考えてるのかわからないんだ。初めて会った日にすでにドミヌスと揉めたがってた気がする。〝まだ〟何もしてないのになんでそんなに警戒してるのかって僕に聞いてた。日常的に何かする事を考えてないとそんな言葉出ないんじゃないかな…。ここ数日はちょっと雰囲気変わった気がするけど、何かする気だったの?そもそもなんで僕が頭数に入ってるんだ?ダーガって治安が悪くなったら逃げれば良いって言ってた張本人だぞ!?考えれば考えるほどわからない…。)
色んな可能性が勝手に頭に湧き出る。
(チームのリーダーがそういうつもりなくても、メンバーの中で裏切り者がいる可能性もある…。でもレイシーやパル、マークは違うはずなんだ。あんなに楽しかったじゃん…。アースだって…。でも僕はミトハロの事情に関係ないから逆に楽しく振舞えるとも言えるのか…。)
今まで部屋にいたアースの一言が思い起こされる。
(アースは僕の魔法を知りたがってた。ヤマカミに言われた?アースはヤマカミに利用されてるって事?単に戦う上で知りたかったから?)
さらに胸が苦しくなった。
(もう考えるのはよそう。わからない。皆は回復薬の値上がりとかチームの事とか色々あるかもしんないけど僕はそういうのない。キューが助かればいい。そりゃ友達がピンチだったら助けたい。)
〝魔法〟〝回復薬〟という言葉と〝ダーガの顔〟が脳内に同時に湧き出る。
すかさずベッドの下に潜り込むナギ。
ブランケットを穴から引っ張り出す。
柑橘系の不快な匂いが鼻をつく。
穴から顔を出すと勢いよく口から液体が飛び出した。
むせながら頭が回る。
手先と顔が冷えていく。
(なんでパルの回復は〝一日一回〟だったんだ…?その日に完治させるまで回復って条件でよかったんじゃないか…?考えすぎ…?ただの節約じゃないの?……僕に通わせる必要があった?じゃあレイシーやパル、マークも僕が思ってるような感じじゃないの?これって僕の考えすぎなの?カウンターの仕事をやらされてたのも僕が襲われるため?揉める口実が欲しかったの…?僕はレイシーに監視されていた?ダーガはどこまで考えてるんだ…?もう考えたくない…。)
アネットに殴られ続けていた日を思い出す。
(だめ!考えなきゃだめ!今は考えるだけでいい!とにかく考えないとだめだ!ただその場に行っても僕は弱いから無理だ。裏切った誰かの行動でどさくさに巻き込まれて絶対に死ぬ!キューを助けるために一番僕がやりやすくなる方法ってなんだ!?考えなくちゃ!僕がやりやすい方法ってなんだ!?なんか手はないか!なんかなんか!)
暗闇に顔を向ける。
野鳥や虫の鳴き声が盛んに聞こえてきた。
ミトハロに来てもう三十日はとっくに経っている。
それでも聞いた事のない何かの生き物の断続的な鳴き声がした。
一番ガタイが良かったにも関わらず何故か勝てそうな気がしたブーザー。
逆に体格は似ていたが、勝てる気がしなかったウォッチ、アブロス、エヴィが浮かぶ。
もぞもぞと顔を引っ込めると、穴の開いた壁に手を翳す。
〝やわくなれ〟と囁いた。
音を立てずにゆっくりと柔らかくなった壁を毟った。
扉の鍵がかかっている事を確認するとナギは大きくなった穴から飛び出した。
先ほどの話し合いからどれくらい経ったのかわからない。
真っ暗な中、少年は歓楽街へと走り出した。




