表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/78

第66話/初めての監視/Limited_NAGI



ヤマカミから借りている自分の部屋に戻るナギ。

扉を閉めると同時に肩で大きな息をひとつついた。


(ずっと誰かといるってしんどい…。アネットの時は平気だったのに…。)


立ち尽くしてキューの宿よりも広い部屋をなんとなく見回す。

机と椅子がワンセット置かれている。

ベッドとブランケットは少しごわついており、キューの宿ほど良いものではなかった。

ベッドは足が高い。


椅子に腰かけ、ドワンからもらった布袋に頭を突っ込む。

むせかえるような〝化け物の残り香〟が襲い掛かってきた。

〝やわくなれ〟を小さな木箱から取り出して口に放り込む。

ガリゴリ噛み砕いた。

顎ヒゲの男性が頭に過ぎる。


(あの人…なんだったんだろう。少し怖かった…、商人っていろんなタイプがいるんだ。)


キャンディが口からなくなると同時に頭から顎ヒゲの顔が消えた。

目下の問題に思考を巡らせる。


(どこのチームにつこうか…。僕は弱いからチームに加勢してもらわないとダメだ。キューと会う前に死んじゃう。)


ダーガ、ヤマカミ、タリフを思い起こそうとするが出てくるのはダガヤの人間ばかりであった。


(レイシーも戦うのかな。プレーノも。パルやマークはさすがに避難するよね。ベゼフェリは魔法使えるから戦いそうだな。一緒に戦いたい。あ、ベゼフェリはキューを見た事があるよね。話が早そうだ。)


カウンターで右往左往した日々、レイシーに悪戯していたマーク。

それを見る呆れ顔のパルが浮かんだ。

初めて話した時のダーガが過ぎる。

目を手の甲で擦る。


ドンドラの暗く静かな瞳は記憶に新しい。

タリフの壊れたような笑みが思考を霧散させた。


(昨日のタリフの言う通り…。リサとはもう話なんて出来る状態じゃない。あいつはドミヌスに入ってる。決戦の日に会っちゃったら殺し合いだ。線は引かれたんだ。揺らぐな落ち着け。もう無理だ。)


太腿を握り締める。

次々に出てきた。

リヴェル村からの馬車の中、足をばたつかせて笑う成長する前のリサの顔。

道具屋で〝もえろ〟を催促している輝いた目の横顔。

初めて魔法が成功し興奮している顔。

成長してしまった後にアルセナの噴水前広場で向けられた笑顔。

ちょっとだけ低い声。優しい声。

食堂でだるそうに頬杖をつきながらナギの愚痴の相槌をつくリサ。

年齢を問い詰めてくる怒った顔。


机に向かって拳を勢いよく振り上げる。

ぼやける視界のまま、空中で止めた。

息が荒くなる。

叩きつけずに静かに下ろすと、布袋をシーツの上に思いっきり叩きつけた。

衝撃でセーフポイントが誤動作する。

布袋の中から外に出たがっている光。

部屋が少し明るくなった。


布袋から目を離せないまま立ち尽くす。

見た事がないくらいとても穏やかな、やさしい笑顔のリサが勝手に湧き出てきた。

アルセナの宿屋でセーフポイントをリサの部屋に持って行った時に見た表情だった。


(もう無理だ、勝手に出てくる。)


ナギは椅子に浅く座る。

静かに頬を伝い続ける涙を拭わず、そのまま目を瞑り〝同調〟した。



頭が冷えてきた頃、目を掌で擦りながらゆっくりと開いた。

思考を転換させる。


(リサは強い。おそらく…、いや、あいつは片手で魔法を撃てるんだ。)


アルセナでアネットから魔法についてレクチャーを受けていた時、リサが顔を歪ませていたのをナギは覚えていた。

さらにブローチ戦。

ナギが魔女に掴まれて動けなかった時だ。

ラグナロクをブローチに握られた〝まま〟リサは凍結魔法を発動していた。

魔女との反芻は魔女との実力の違い、自分の弱さを体感する機会だった。

しかし同時に、仲間の凄さもナギは痛感していた。


(常に片手で撃ってくると思った方がいい。会った時に僕が揺らいだら勝ち目ない。もしかしたら同時に複数の魔法も使えるかもしれない。)


アネットが出発前日に言っていた内容と照らし合わせた。


(多分成長の影響だ。〝ジェル状のモンスター〟の時は両手を翳してた。僕が気絶していた時に戦った相手で出来るようになったのかもしれない。)


気づけば布袋は光を失っていた。


(さらにあいつは早い。グローブ・Kで向き合った近距離での格闘…リサで活かす事になりそうだなんて。)


ナギは再び目を瞑った。

一瞬で距離を詰めてくる〝例の存在〟。

どうかブローチであって欲しかった。

最悪のパターンであるリサがその前哨戦になりそうだった。

心が静かになってくると目を開ける。

更に発想を伸ばしていく。


(なんかないか…。リサに〝勝てる〟手段。勝てなくてもいいからせめて足止めとか出来るような。なんかないの…。)


扉の前を複数の笑い声が通る。

ブローチに距離を一瞬で詰めたリサが浮かんだ。

眉間に皺を寄せながら記憶を探りまくる。


(だめだ、〝強すぎて〟不意打ちとかで殺すしかない。…魔法でなんかないの。勝てそうな所。アネットに教わった事が全てじゃないんだ。〝はなれて〟を背中に手を翳したら加速できたり、〝すな〟は消えても〝もえろ〟は延焼したり、まだまだ魔法はわからない事だらけなんだ。なんかないか。考えろ考えろ考えろ考えろ。なんであいつ成長なんてしてんだ!あほ!)


自分を棚に上げたのが良かったのか。

〝敵〟としてリサを見つめたからか。

当時起きた事を〝思い出しながら〟ナギは初めて向き合った。

アルセナで閃きに任せて原因をなぞった事はある。

リサにも話していた。

しかし思い出しながら、自分のミスとして思考を巡らせるのは初めてだった。


(〝いやすね〟は時間加速の可能性があるってのはリサにも話したけど、そんな事がわかってもどうしようもないんだよね…。あれ?〝いやすね〟リサに唱えたら勝てるんじゃない?ああ…僕も魔力切れになっちゃう。じゃあフィルム食べながらとか?…でもブローチには効かなかったんだよな。やる価値はあると思うけど…。そもそもどんな感じで魔法撃ってたっけ?)


目を瞑って当時を思い出そうとした時だった。

すぐさま目を開く。


(僕…〝目を瞑って〟リサに回復魔法かけてなかった…?距離もすごい離れてた気がする…。)


鳥肌が立つ。

頭を何かに掴まれたように頭皮がビリビリと痺れた。

目を瞑って〝つかむ〟を声に出すが何も起きなかった。

アネットの教えがリンクする。


(意味付けてたかも。わからないんだ。まだ勝てるかとか負けるとかわからない。今僕がすべき事は勝ち方を考える事じゃない。少しでも情報を集めて、この気持ちのまま。わからないって状況のまま当日を迎える事だ。当日も決めつけずに、何か手掛かりを探しまくるんだ。線が引かれるのは一瞬だから勝てないなんて嘆いている暇ない。当日何か起きるかもしれない。)


ルントの教えが交錯した。


(情報の取り扱い方とか、集め方はルントからも聞いてる。今もうすでについちゃってるけど嘘もたくさんつくしかない。隙をつかないと誰にも勝てない。ドワンから追い出された時にそう考えたじゃないか。それをやるだけだ。だから僕はヤマカミとダーガを頼ってきたんだし。)


魔法に思考を戻す。


(魔法に関しては何かあるかもしれない。明日なんか強いの閃くかも。片手でも撃てるかも。運頼みみたいだな…。でもずっと考えていれば何か起きるかもしれない。〝なんかないか?〟って考えてる時点で弱気だ。〝なんかある〟絶対になんかあるはずだ。ヤマカミに監視されてるから魔法の練習はできないけどそれでも〝なんかある〟。…はずだ…。)


大きく息を吸い、背伸びをする。


(すごい弱気になってた。アースと話しにくかったから?監視が窮屈のせい?人と争うなんて初めてだからかな、わからないけど、気分変えないと。このままだと〝隙〟に気づけない。)


気分を変えるためにシャツを着替えた。


(この状況…っていうかなんの状況を言ってるのかすら今はわかんないけど、逆手に取らないと。利用しなくちゃ。ルントが教えてくれたやつ!)


日はまだ高いはずだった。

ナギは部屋を飛び出し一階で待機していたアースに散歩に行くと声をかける。

慌てるアースを振り切って建物の周りを全速力で一周したのだった。


ドミヌスとの抗争まで後六日となっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ