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第5話/初めての女神/RISA.pov


窓から光が差し込んでくる。

木窓を開け顔を出すと、澄んだ朝の匂いが強くなる。

三階の高さからの景色が飛び込んでくる一日の始まりは、それだけで胸が躍った。

あまりの爽快さに木窓を閉めるのを躊躇(ためら)う。


ひとつ伸びをして、着ていた薄手のシャツを脱ぎ、くるくる振り回して投げる。

ベッドの上でブランケットと一緒にくしゃくしゃになったシャツは、

昨日を捨てた感じがしてなんだか心地が良い。


前日に準備しておいたインナーのシャツに袖を通す。

少しだけひんやりとして、新しい気持ち。

ベッドの頭の横に立てかけた〝ラグナロク〟がふと目に入る。

夢ではない事を確かめるようになんとなく視界に入れながら、

ベージュのショートブラウスを手に取り頭からくぐる。

肘までしかない丈からすぐに腕が出た。

視線に意識が戻ってきてスイッチが入りはじめる。

ブラウスの編み上げは緩んでいて、胸元はまだ今日を迎えていなかった。


ラグナロクから視線を外し、ワインレッドのワイドパンツに足を通して腰まで引き上げる。

少し緩くなったウールの靴下を履くと足首に(たる)んでいく感覚が少しこそばゆい。

ワイドパンツの紐を結び腰を締め、

その上から細い革ベルトをおおざっぱに巻き付ける。

適当に巻いたが気合が入る。


ブラウスとシャツに食べられている髪の毛達を出してあげ、

後頭部でお団子を簡単に作ると前髪ともみあげを数回乱し、心を込めてやさしく、緻密に整える。

胸元の編み上げもいつもの具合に調節できた。

アンクルブーツに雑に足を乗せ、その勢いで部屋を出る。

隣の部屋は静かだ。

ナギはまだ寝ているのだろう。

街を少し歩きたくて、あたしは宿を出る。


これまで一日の始まりは家族だった。

昨日からのこれからは違う。

はじまりに会うのは宿の人か、おそらく市街を散歩しているとすれ違う見知らぬ人間だ。

大きく息を吸うと体を巡る静かな冷たい空気で、自分が入れ替わるみたい。

夜露でわずかに濡れている石畳を転ばないように歩く事すら、

体験をする事に制約がなくなったように感じて、自分が少し大人になったよう。

心地良い鳥の鳴き声。



通りの端に干された布がわずかに揺れていて

樽や木箱は不規則に積まれたままになっている。

看板は裏返しのままの店が多く、人通りもあまりない。

閑散としていて、なぜか気持ちが落ち着く。

開き具合が様々な窓と時折漏れる人の声から生活感を感じて、寂しさはなかった。


猫が二匹見えたので頬が綻び、近づいて撫でようとすると逃げられた。

追いかけるうちに勇者の剣が刺さっている会場の裏手に出ていた事に気づく。

数人の衛兵がいるだけで、昨日の行列が嘘みたい。

並んでた時よりも、かなり広く感じる。


剣を少し遠くから見ていると、昨日の情景が浮かび上がってきた。

耳が壊れちゃったかと思う程の轟音の中、

あたしを見て、剣に向かって手を差し出すナギ。


抜いた感触の記憶はない。

本当に耳が壊れちゃったかもと勘違いしそうな静寂の中で

気づけば剣を振りかざして大声を出していた。


街中の視線を全部ひとり占めしたと思ったら

周囲と自分が溶けたような、よくわからない感覚だった。


剣をかざした方の手首と腕に別の力が加わった直後に、

逆の肩にも強い力がかかって後ろに吹き飛ばされそうだった。

何故もう少しだけそうしたかったかはわからないけれど

その力に強く抗って、笑顔を抑えられないまま大勢に向かって叫んでた。

後ろに引っ張る力が衛兵のものだと気づいたのは

剣が手から離れ上半身の身動きが取れなくなってからだった。


我に返ると体が少し熱い。

熱が頬にまで登ってきた。

軽くエクステを捻じる。

緩んだ表情を衛兵の人に見られたくなくて、力いっぱい走って宿屋に戻った。

頬に当たる風が冷たくて気持ちよかった。



-アルセナ城 噴水前広場付近 大衆食堂内-


ナギと合流し、遅めの朝食だ。

食堂のちょっとしたバルコニーというか、テラスのような場所でとる朝食はテンションが上がる。

周囲には人も少なく、貸し切りみたいで気分がいい。

開放感とは裏腹に、いつも以上のボサボサの頭で、魔女に魂を抜かれたような。

ここ数日で見慣れた抜け殻が目の前に座っていた。


「もしかしてナギ、今起きたの?」


抜け殻は反応せず、ゆっくりと目玉焼きを口に運んでいた。

魂を確認するかのように視線を送りながら、あたしもビーンズのサラダを口に入れる。

視界の左下の方から勇者選抜会の賑わいが聞こえてくる。

無事再開したようだ。

しばらくして目玉焼きを飲み込んだ抜け殻が口を開く。


「昨日、女神がきたよ」


あたしは目を見開いた。


「女神様!?ほんと!?どこに?部屋?ノックとかするの?女神様って。」


「いや、夢に。」


貴重な勇者体験に反応が鈍いのにむかつき、いじる。


「すご!ってかあんた、呼び捨てにするとまた怒られるよ。昨日〝オウ王様〟呼び捨てにして衛兵に怒られてたじゃん。あれ、たぶんそういう事でしょ?」


思い出して笑いそうになる。

手の震えでビーンズがフォークから零れた。


「いや、呼び捨てにしてないよ。名前がオウ・サマとかってあんなの罠じゃん。」


「勇者の剣も返しちゃったし、生きて帰ってこれてよかったね。城の中で旅が終わるかと思った。」


「剣が抜けただけで勇者判定ってなんだよお。もうう。」


思い出したかのように抜け殻の動きが機敏になってきた。

手で覆うように顔を擦っている。

女神様が出てきて〝しまって〟自分の立場を一層自覚したのかもしれない。

急に機敏になるものだから吹き出してしまった。

飲もうとしていたミルクに吐息で波紋が立つ。

目の前の勇者の口は止まらない。


「剣を抜いたから勇者なの?勇者だから剣が抜けたの?」


「勇者だから抜けたんじゃん?」


「僕たちにそんな力あった?今まで。」


「ないねえ。」


「なんか練習みたいのないの?」


「知らないよ。昨日、オウ王様に聞けばよかったじゃん。レクチャーあるんですかって。」


「そういう系の質問もしようとしたんだよ。でも大人ってすぐ怒るから。」


「いや、あんたが呼び捨てにするからでしょ。」


「だからしてないって。」


ナギは投げやり気味にパンを齧っていた。

鳥があたしの足元まで寄ってくる。

可愛くてパン屑を分けてあげた。


「で、女神様はなんて言ってたの?」


「覚えてない。」


「え?」


「なんか言ってたけど、覚えてない。寝ちゃった。」


「寝ちゃったって、夢の中でさらに寝たって事?」


「そう。本当に疲れてたんだよ。昨日。」


「なんかさ。」


「うん。何?」


ミルクを飲みながら少し考える。

目の前の抜け殻に言葉を選ぶ。


「なんかね、実は色々レクチャー的なものってあるんじゃない?ナギが塞ぎこんでるだけで。」


「逆になんでリサはそんなに普通なの?」


「いや、普通ってわけじゃないけど。」


選抜会場から聞きなれた落胆のどよめきが聞こえてきた。

選んだ言葉に対する評価のようだ。

あたしが核心を突いてしまったのか、

どよめきで何かを思い出してしまったのか、先輩勇者の攻撃が始まる。


「昨日言ってたやつ?〝お姉さん〟からの解放感で自分の人生過ごすぞ的な感じだから?だから剣を抜いた時にあんなに観客の人たちに叫んじゃうの?」


「叫んだのは〝脱・お姉さんポジ〟とは関係ないでしょ。普通に。」


「なんで、〝脱・お姉さんポジ〟でテンション上がって。わざわざネイルとかエクステするわけ?自分の人生過ごすぞ的な感じなら、わざわざギャルっていう別のポジションに憧れなくてもよくない?もう勇者っていうポジションあるじゃん。」


「あんた今、自分で何言ってんのかわかんなくなってるでしょ。」


「僕にはすべてわからないよ。なんで今ここにいるの?」


「ちょっと落ち着きなよ。あたしはギャルに憧れてるわけじゃないよ。っていうかネイルしたからってギャルじゃないでしょ。なんか可愛いものとか、興味のあるものが偶々(たまたま)あんたの言うギャルっぽいってだけ。」


「それギャルに飲み込まれてるって事じゃん。気づけばそこにギャルみたいな。」


「気づけばそこにギャルって何。だからさ、うーん。ギャルに飲み込まれてってるんじゃなくて、あたしがギャルを選んでるの。」


「僕は…勇者を…選んでいない…。」


テーブルの木目をじっと見つめながら、生気なくオレンジジュースを飲む先輩勇者がこわい。


「ナギ、ビーンズ少しいる?」


「えっ。ありがと。いるいる。ちょうだい。」


先輩勇者の目に光が灯ったところで、あたしはひとつリクエストした。


「ナギ、あのね。」


「うん。」


ビーンズを口に運ぶ目が穏やかだ。

ナギってビーンズ好きだったんだ。


「あたし、モンスターと戦ってみたい。」


先輩勇者の手が止まり、眼球だけがこちらを見ている。


「モンスター・・・・と、・・・戦いたい?・・・と言ったの?」


「いや、強いやつじゃなくて。お城のすぐ周りにいるようなモンスター。いつでも逃げれる準備しておけばさ、とりあえずは平気そうじゃない?森の深くまで行くのはさすがに怖いから。ちょっとだけ離れる感じ。」


ナギは何かを考えているようだった。


「せっかく魔法キャンディも食べたしさ。使えるか確かめたいじゃん?一回だけ。城の中に一生いるわけにもいかないしさ。」


多分、ナギは一生アルセナ城で暮らす予定だったんだと思う。

そんなため息だった。


「リサ。」


「何?」


「そのパンちょうだい。」


「むり。」


ナギの心情かのような落胆のどよめきが左下から聞こえる。


「今から戦いに行くって事?」


「今からは急だから、明日行ってみない?今日は街を見るって話しだったじゃん?」


ナギにとっては明日も急だったかもしれないと発言を後悔した。


「わざわざ…危険な目に?…遭いに行くと言っているの?そういう話をしてるの?今。」


「いや、あたしも怖くないわけじゃないよ。普通に怖いでしょ。あと、誤解してるかもしれないけど…」


周囲の人が増えてきていたのに気づく。

声のトーンを抑えてナギに顔を近づけて話す。


「別にあたしも勇者になりたかったわけじゃないよ。魔王倒すのにすんごいやる気があるかって聞かれたら、全然ないよ。全然ない。むしろ嫌。すごく嫌。勇者なんて。でも、剣、抜けちゃったらしょうがないじゃん。」


「まあ…それはそうだけど。」


そう言い終わると、自分を納得させるかのように

ボサボサ頭はオレンジジュースを飲み干す。


「あたしたちが魔法を使えるのかどうかは確かめといていいんじゃない?」


「うん、まあ、そうだけどさ。リサはなんでそんなに前向きなの?」


「別に前向きじゃないよ。ナギの言う通り、わかんない事が多すぎるし、こわいものはこわいよ。

でも、嫌じゃない?何もしなかったら急に女神様から〝バチ当たりめ!〟

みたいに言われたら。こわいじゃんそれはそれで。」


ナギの眉間に少し皺が寄り、小さくなった卵の白身で遊んでいたフォークが止まる。

本当に女神様がでてきたのだろう。

先輩勇者は少し考えた後、許しを出す。


「わかった…。じゃあ、明日ね。雨が降ってたら中止ね。」


「いいよ。でも明日になってナギの気分が乗らなかったり、どうしても怖かったりしたら、

またその時に言って。モンスターと戦わなくても、魔法使えるかどうか確認できるかもしれないし。」


「雨が降ってたら中止ね。」


「だからわかったって。」


「リサ。」


「何?」


「ビーンズちょうだい。」


「いいよ。」


このまま話しているとナギにほとんど食べられそうだったので急いで食べる。

支払いを済ませる時、〝なんとかカード〟の使用を聞かれたけどよくわからなかった。

その後は夕方くらいまでナギと街を歩く。

道具屋以外にも武器、防具だけが売っているお店や神殿などがあり、

歩く度に足が軽くなった。

先輩勇者が緊張するとあらゆるものが

全て中止されかねないので中には入らなかったのが少し悔やまれる。

隅々まで見れなかったから、それはまた今度。


あたしと正反対でナギの足取りは重そうだったので

噴水前の広場でフルーツ串を食べながら選抜の様子を見ていたが

剣が抜ける様子はない。

ちなみにフルーツ串はなぜかあたしが払った。


祈るように選抜会を眺めていた先輩勇者を残し、

あたしは少し早めに宿に戻る事にした。





明日の準備とお金の整理をし、体を拭き、着替えてベッドの上に座る。

足にかかったブランケットの感触が気持ち良い。


今日食べたビーンズサラダは〝五十エンテ〟。

宿代は一泊〝六百エンテ〟だ。

残りは大体〝二万七千エンテ〟。

昨日の魔法代を思うと、すぐなくなってしまいそう。

次のフルーツ串はナギに払わせよう。


お母さんが持たせてくれたワイドパンツは余裕があってとても動きやすかった。

色々考えてくれたのかも。

まだ村を出てから全然経っていないのに、

胸の奥の暖かさをどこか懐かしく感じながらその日は眠りについた。





気づくとなぜか、あたしは夜空の中にいた。

自分が浮いているのかと思ったが、足はついている。立っている。

周囲は暗く、星みたいな光が四方八方に散りばめられている。

幻想的。

下の方にもそれは散りばめられていて、たしかに立っているけど、変な感覚だった。


目の前にぼんやりと〝何か〟が現れる。

恐怖は感じない。

その〝何か〟の周りをゆっくり歩いた、興味津々だ。


ぼんやりとしたものはやがて、弱く光り球体の形になる。

大きい、馬車の車輪くらいの高さだ。

触れると少し暖かい。

それが段々と形を変えるものだから、驚いて手を離した。

その形が人だとわかる頃には光る球体だけ分離し、人の横に浮いた。

球体はベッドくらいの高さになっていた。


あたしがぐるりと〝何か〟を一周した頃、徐々に光が落ち着き、姿が見えてくる。

綺麗な胡桃色のロングヘアーが(なび)いている。女性のようだ。

頭の上には草のようなリングを被っている。

片方の肩が出ているドレスを着ていて、

揺蕩ったそれからは手首から先だけがのぞく。

その女性の周囲には光る虫みたいなのがいくつも飛んでいた。

顔が見えた。

目を瞑っている。

身長はあたしよりも高い。

顔を見つめていると目がゆっくりと開き、優しく微笑んだ。


「勇者リサよ―――」


頭の中に言葉が響く。

その言葉にナギの言っていた事を思い出した。

これ夢だ!女神様だ!!ほんとにいたんだ!

一気に興奮した。


「これからの魔王討伐、色々と困惑しているかもしれぬが精霊の加護をあt―――」


「女神様!!!こんにちは!!お会いできて嬉しいです!!あたしリサです!これから頑張ります!!」


あたしは女神様の手を取りまっすぐ目を見て叫んだ。

うそでもやる気伝えとかなくちゃ。

女神様は微笑んでいる。

すごく綺麗な人だ。かわいい。


「―――う者は聖エネルギーを有する、その聖エネルギーは魔物にs―――」


「女神様!!!あんまり今までお祈りとかしてなくてすいませんでした!!!!でもこれからはちゃんと毎日お祈r―――」


「聞きなさいよ!!!」


目の前が閃光に包まれ、同時に背中と後頭部に衝撃が走る。

目を開けると視界に星空が広がっている。

後ろに吹き飛ばされたようだ。

星が霞む。

初めて受ける衝撃に体が硬直してるようだった。

痛みはないが痛い気がする。

頭に言葉が流れ込む。


「昨日の子供も目の前で鼻ほじってて聞いてんのか聞いてないのかわかんないし…拒絶し過ぎなのよあいつ…!信仰落ちてるわあ…。」


「痛ったぁ…」


あたしは肘をついて上半身だけ体を起こし、状況を確認しようと目を細めた。

ピントが段々合ってくる。

球体に両手をつき項垂れている女神様が見える。

髪の毛で表情は見えないが頭に流れ込んでくる語調がおかしい。

女神様の手が動き、髪を肩にかけたかと思うと顔だけこちらに向け叫びだす。


「精霊の加護!とりあえず二人につけといたから!死んだり、なんかすんごいダメージ食らったら一回だけ守ってくれるから!頑張んなさいよ!ホント!女神に触れるとか頭おかしいんじゃないの!?どういう神学を受けてきたのよ!」


朦朧とする意識の中で、女神様から光る虫みたいのが二つか三つ、あたしの周りに移った。

軽やかに飛んでいる。


「いったた…あぁ…女神様…すんませ―――」


「もう!!あたしもこういうの無限にできるわけじゃないのよ!!ああ!!あと勇者まh―――」





突然、ばちりと目が開いた。

ベッドが大地のように映る。

手を伸ばせば届くシーツの地平線の向こうには立てかけたラグナロクの柄がぼんやりと見える。

目を強く圧迫するような体勢で寝てしまっていたのだろう。

視界が戻らない事に意識が持っていかれる。


たしかに夢だった。

恐怖心はなく緊張もしていない、しかし何故か心臓が強く波打つ。

感情に反して胸から飛び出しそうだ。

木窓を開け、ベッドにあぐらをかく。


「なんだっけなあ・・・・なんて言ってたっけなあ…」


少し肌寒くブランケットを足にたぐりよせる。

女神様に吹き飛ばされた印象が強くて思い出せない。

ナギの言う通り、女神様はいた。


「あれ、ビンタだったのかなあ・・・・」


〝女神様にぶっとばされた〟というショックに思考が集中し、詳細は迷宮入りとなった。

はしゃいでしまった事を反省した。

女神様も気に入らなければぶっとばすのだ。


項垂れた女神様が浮かんでくる。

いけない事をしてしまったのではと、思考が癖に乗って勝手に滑り出す。


ナギじゃないけど、勇者なんてなりたくなかったし、やる気もない。

でも、今あたしは楽しいし、家族と離れて過ごすという刺激に充足感を抱いている。

新しい事にわくわくしている。

でも、あたしが楽しいからといって、あまり周囲にその状態を垂れ流すのはよくない。

〝相手の気持ち〟もある。

いやいや、そんな事わかってはいる。

でも楽しくなると楽しくなっちゃうのだ。

あたしはあたしを抑えないでいいのだ。仕方ない。

でももう少し周りを見よう。

いやいや、見てるのだ。あたしはけっこう見てる。

そうだ、あたしは見れている。村でそうだったじゃないか。


思考のまとまりのなさに気づいたあたしは、

周囲を見れていると自分を安心させたくて、

今一番近い他人、ナギ勇者の事を考える事にした。


ナギとは勇者候補になってから話す機会がまた増えたけど。

数年前はもっと話したり、一緒に遊んだりしていた記憶がある。

いつからか、その時の彼とはやはり少し様子が違う。

おそらく何かがあったんだろう。

特に事件的なものがあったとか、そういうのは聞いた事がない。

ナエラ(ナギの母)さんとキャスターさん(ナギの父)も優しい人たちだ。

他人からしたら些細な事でも、本人からしたら重大な事があったのかもしれない。

明日、朝会ったら少しだけ優しくしてあげよう。


自分の事も考え、でも、相手の事も考える事ができる女性になろう。

そうして、あたしが少しだけ大人になった事を確認したあたしは、再び眠りについた。

女神様はとても髪がきれいだった。



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