第64話/戦う理由/Limited_NAGI
「ダーガ、タリフと知り合いだったの?」
椅子に座りながらナギが聞いた。
「だいぶ昔だよ。先代の時だから。」
「ふーん。」
(昔の話を聞いたとしてもあんま意味ないだろうな。)
他人の回想話が苦手なナギ。
大人しく引き下がる。
「で?どっちにつくの?ナギ君は。」
柔らかい声が前からした。
正面に座る女が身を乗り出して聞く。
テーブルの中央にあるランタンに手を伸ばす。
椅子に腰かけると前屈みになり両肘をテーブルについた。
両手はそれぞれ逆の肘へ添えられている。
左にはダーガ。
大きな息をついて目を擦っていた。
〝右のヤマカミ〟を見るとランタンを見つめて頬杖をついている。
小指で鼻の頭をさすっていた。
(ヤマカミって…前回座ってた位置と入れ替わってる…?)
プレーノは途中で帰り、部屋には四人だけ。
タリフへ説明を終えた後、一同はグローブ・Kに一番近いヤマカミのアジトに戻ってきていた。
少し考えた後、ナギはテーブルに乗せた自分の手を見ながら言葉を返す。
「ダーガの所は大体聞いてるんだ。」
「何を?」
右から声がした。
「ドミヌスを攻めないといけない理由っていうか。攻めたい理由?ヤマカミはなんで?」
女同士で目配せをし、目の前の女が切り出した。
「色々あるけど、一番はレイル出来る場所を増やしたいの。」
それぞれ逆の肘へ添えられていた掌はテーブルの上で組まれ、親指で手の甲を摩っている。
思い出したようにナギも手の甲の虫刺されを見た。
「レイル出来る場所?」
掻きながら聞き返す。
「そう。ウチのチームはダーガ君のとこみたいにドミヌスから嫌がらせとか圧力がそこまであるわけじゃないんだけどーーーー」
「けっこうあるよ。」
右からぶっきらぼうな声。
話を遮った。
(口を挟まないで!)
イライラナギ。
「そうだね、あるにはある。でもそれよりも人を増やすってなった時にどうしてもウチが一番難しいから。レイルする人口を増やしたいの。」
「人口を増やしたいのに潰し合いをするの?」
率直な質問を目の前のショートツインテールにぶつけるナギ。
「今回の殺人鬼の件。これを放置してると別の国や街からサファ経由で人が流れてくるかもしれないの。チームに入らなくてもフリーとかで。サファもなりふり構ってられないと思うし。そうなるとドミヌスにだけお金が入っちゃって私達がもっと厳しくなる。その先を言うとね、最悪、ミトハロから案件が無くなっちゃう。」
真剣な目つきのまま手で口と鼻を抑えるダーガ。
少し顔が歪んでいる。
欠伸だろう。
ナギの右にいる女に睨まれている。
手で謝罪のジェスチャーをしていた。
「なんでミトハロから案件が無くなるの?」
「フリーの人が元いた国や街に戻って、直接お客さんにアプローチしたらどうなると思う?」
「なるほど…。」
「うん。それにその人がミトハロでお金使わないかもしれないってのも問題なの。一時的な出稼ぎ感覚で働くならそのうち故郷に戻るかもでしょ?そしたらミトハロからお金減ってっちゃう。配達の組織じゃなくて街のリーダーがお金の動きをちゃんと管理すればいいんだけど、そういうの期待できないし。」
「そうなったら終わりだな。街じゃなくなる。配達するだけの人間が留まる土地になるだけ。」
ダーガが頭を掻きながら参加する。
ナギは腑に落ちなかった。
完全に理解できなかったので全てをシンプルに、わかる範囲で全力で考えた。
初めてルントに会った時に言い放っていたミトハロの揶揄が浮かんだ。
(よくわかんないけど、サファがいろんな人連れてくるのがイヤなんだね。街のお金や仕事が減るから。でもさ、ここまで街の事を考えるのになんで〝魔王が復活した対策〟はしないの?余裕がないから?)
配達人口の減少問題は向き合うが街のリスクは話題に出ない事に違和感があった。
正面の女がダーガにいくつか相槌を打って再び話し出す。
視線を感じたナギは思考を止め、女に目を合わせた。
「あとはお金。これは私達のお金ね。ダーガ君の所で起きてる事って全然他人事じゃないから。次は私達だと思うし。私達自身が失敗して苦しくなるなら納得できるけど、支配されてうまくいかないって納得いかないからね。」
(人とお金か…。)
アネットの師匠の名前が思い起こされた。
(そんなにお金が必要ならなんで漁業をやらないの?セーフポイントを船につければ出来るんじゃないの?)
配達をする人達、全体に感じていた疑問。
さすがに質問してみる。
「漁業やらないの?お金増えるかもしれないし。セーフポイントだってあるじゃん。」
ダーガが口を開く。
「ナギ、そう簡単じゃないんだ。セグイドからも目をつけられるし。セーフポイントも金がかかる。ずっと効果があるわけじゃないだろ?あれ。」
「そうだね。」
ナギは引き下がる。
(ダーガは〝DR〟だとは思ってないんだ。)
ベゼフェリとレイシーと話した夜を思い出した。
「遠慮しないで、気が済むまで聞いていいからね。」
目の前の女から温もりのある声がした。
優しい笑顔だった。
「うん、ありがとう。」
二十日前の自分から出たような声がした。
暗闇を支配しそうな優しい瞳だった。
〝さっちゃん〟に絡まれた時からの疑問をぶつけてみる。
グローブ・Kでしていたダーガからのタリフへの説明ではぼんやりしていた。
「さっきタリフと一緒にダーガから説明聞いたけどさ、今回ドミヌスに攻め込むのってどうなったら勝ちなの?どうやったら解決っていうかさ。三人はどういう状況になったら終われるの?」
目尻を擦りながら瞬きを繰り返しているダーガ。
ルーピアが激しく揺れている。
目を開きなおしてナギを見た。
「サファを倒して、ドミヌス制圧したらかな。」
仕草とは裏腹にずっしりと重い声。
「倒すって何?サファが地面に突っ伏して身動きできなくなったら勝ちなの?」
右から息を吸い込む音が聞こえた。
何気ない表情でテーブル中央のランタンに視線を移すダーガ。
肩で息をひとつしてナギに顔を戻した。
「倒すじゃない。殺す。」
静かにダーガが言った。
「ヤマカミもそれでいいの?」
ナギが聞くとヤマカミの二人も静かに頷いた。
「わかった。」
目の前のヤマカミが話題を変える。
「ナギ君、今日はもう休んだら?目、血走ってるよ。朝クマすごかったし。どっちのチームに入るかは前日までに決めてくれたらいいよ。その代わり―――」
ダーガが遮った。
「ナギ、おまえ宿は?」
「これまでの所は泊まれないから、どっか中心街とかで泊まろうかなって思ってるけど。」
手がそわつかせながらダーガが口を開きかけた時。
右から声がした。
「ウチの事務所泊まれば?いいでしょ?」
ヤマカミ同士で目を合わせている。
目の前の女が頷いた。
遮られた続きを話し出す。
「ナギ君、ウチ泊まっていいし、チーム入るの前日までに決めてくれればいいよ。その代わり、監視はつけるね。ドミヌスに前の仲間がいるんでしょ?それはちょっと怖いから。悪く思わないでね。ダーガ君もそれでいいよね?」
頷くダーガ。
「うん。それでいいよ。」
ナギも了承した。
(これ同時に喋られたらきっついぞ…全然わからない。声も似てる。今日はあんまりカミが挑発して来ないから猶更わからない…。)
「おまえ今、他に仲間は?一人なの?」
左から声がした。
「うん、今は一人だよ。もう一人仲間がいるけど、ドミヌスに入った奴探してて、入れ違いで今はミトハロにいない。」
ウォッチについた嘘をつく。
顔が曇るナギ。
「そいつ、今どこにいる?」
ダーガが食いついた。
「さあ、南の方に探しに行くって言ってたけどそろそろ戻ってくるんじゃない?」
「女?髪の色は?」
ヤマカミの二人がダーガを見る。
(なんで知りたいの?)
「長い黒。女だよ。なんで?」
死んだ目つきでそう言った。
「いや、別に。じゃあ、ヤマカミんとこ世話になれよ。俺、ちょくちょく顔出すから。なんか必要なもんとか困った事あったら言ってくれ。」
ダーガが首を左右に曲げながら言った。
関節が鳴る音がした。
「ありがとう。」
「ストレス溜まったらいつでも私の部屋、おいでね。」
右を向くとシャツをめくり片方の肩を出している女が微笑んでいた。
胸がどろついた。
こめかみから血が、口からは火が吹き出そうだった。
ミライ君が浮かびテーブルに拳を叩きつけたくなる。
(あのさ、昨日お世話になってる宿の人が攫われたって僕言ったよね!?なんでそんなノリなの!?ミトハロって偶にこういう人…本当にヤバい人いるよね。そんな事より水出してほしい。ダガヤ・クルーは出してくれましたよ。一階でだけど。)
ランタンを振り回し奇声を上げながら街中を走り回りたい衝動に駆られた。
「結構です。」
ナギはとびきりの笑顔でそう言った。
女は小さく息を吐きながら肩をしまう。
小刻みに頷きながら何気ない表情に戻っていた。
鼻で笑うダーガ。
ランタンの影が不穏に揺れていた。




