第63話/初めての参戦/Limited_NAGI
翌日、日が高く昇りそうな頃にヤマカミの事務所に足を運ぶ。
一睡も出来なかった。
事務所から丁度出てきたダーガとヤマカミの三人と会う。
「ナギ君じゃん。おはよー。どうしたの?」
ヤマ、カミ、どちらかわからないが声をかけてきた。
口ごもりながら返す。
「あっ、おはよう。あの、僕も参加させて欲しいんだ。ドミヌスに攻めるやつ。」
「なんかあったのか?」
ダーガが尋ねてきた。
「宿でお世話になってる人が昨日ドミヌスに攫われちゃって。助けたくて。」
上腕のバンダナをちらりと見てからダーガの顔を見据える。
ダーガは一瞬目を逸らしたが、ナギの顔を窺うような表情で見る。
言葉が返ってきた。
「わかった。また後で話そう。ナギ、おまえ顔真っ青だぞ。寝たか?俺たちこれからグローブ・K行くんだ。ヤマカミ、どっか部屋貸してやれよ。休ませてやれ。」
ナギの前にショートツインテールが立った。
挑発的に唇を吊り上げる。
甘く微笑んだ。
「ヤマカミ入るんなら、私、グローブ・K行かずに一緒に寝てあげるけど、どうする?」
ヤマ、カミのどちらかわからない。
前屈みになり、熱を帯びた視線が煩わしかった。
ぜひお願いしますと油断させ、抱き着き髪を掴んで殴り倒したかったナギ。
股間を蹴り上げて踏みつけまくって頭突きして顔を掴んで〝もえろ〟を発声したい衝動をこらえる。
(宿の人が攫われたって言ってるのにそういう言い方する?寝てないからかな…。イライラする。っていうかこの人どっち?カミ?)
アネットの笑顔を思い出して黒い感情を抑えた。
目の前で胸を強調している女を無視してダーガに詰め寄るように言う。
居ても立ってもいられなかった。
「ダーガ、僕も連れてってよ。タリフ知ってるんだ。なんか役に立てるかも。」
目を丸くさせて顔を見合わせるダーガとヤマカミ。
少し躊躇ってはいたが、ダーガから了承の返事があった。
*
ヤマカミからエーテルシューズを借りたナギ。
加速するまでが苦手なのでダーガに牽引されながら歓楽街を滑る。
プレーノも合流していた。
猛スピードで移動する集団が珍しいのか、所々から視線を感じた。
「ナギ!なんでタリフ知ってる!」
ダーガが顔だけ少し後ろに向けて声を張る。
「喧嘩強くなりたくて通ってた!」
「いつから!」
片足を上げ小石を避ける。
転びそうになった。
(エヴィ、よくシューズ履きながら飛び跳ねられるな…。)
俯きながら声を上げる。
「コロンに襲われた後!強くなりたかっただけ!」
ダーガが魔法で加速した。
「なーかーっーたか!」
「なんて!?」
「なんか言ってたか!」
質問の意味がわからなかった。
「なんも言われてないよ!スパイか疑われたけど!所属してないって言った!」
ダーガから返事はなかった。
前方を滑るヤマカミのどちらかが男にちょっかいをかけられている。
中指を立てて声を張っていた。
*
雑木林に到着すると、慎重に進む一行。
上から枝が揺れる音がした。
口を開きそうなヤマカミより先に頭上に向かって声を張る。
「ウォッチ!他のチームの人が話したいって!」
(今日、エヴィかな?)
ダーガから視線を感じた。
ウォッチの声が頭上から返ってくる。
「何チーム!」
「二!ダガヤとヤマカミ!」
風が一度吹いた。
大体の方向を探るがウォッチの姿は見えない。
「多すぎる!一チーム一人!他は林にも入るな!あと!そこで待ってろ!」
大声でそう言い放つと枝葉の衝突音がアジトの方に遠ざかっていった。
ヤマカミのじゃんけんを横目で見るナギ。
なかなか決着がつかないのを尻目に舌打ちが漏れそうだった。
*
エヴィとアブロスを連れてウォッチが戻ってくる。
ナギ達の目の前に降りてくるとボディチェックが始まった。
エーテルシューズと武器、ルーピアなどを没収される。
ヤマカミはヤマが行くらしい。
プレーノは歓楽街と雑木林の境で待つ事になった。
それぞれブーツ、短靴に履き替える。
ナギは刃の短いカランビットナイフとブレスレット、荷物をウォッチに渡した。
(ちゃんとしてるなあ。でも僕が一人の時はなかったんだけど。)
唇が尖りそうだったのを抑える。
グローブは許された。
荷物の中身の確認とボディチェックをウォッチにされる。
特に隠している物もないので平然と前を向く。
ヤマはエヴィ、ダーガはアブロスにされていた。
全員問題なく終了すると、一行はグローブ・Kのアジトへと足を踏み入れる。
先頭にエヴィがゆるやかに滑る。
最後方にはアブロス。
ヤマ、ダーガ、ナギ、ウォッチの順に横並び。
魔法筒が武器とみなされて荷物ごとウォッチが持っていた。
「おまえの荷物さ、臭いんだけど。なんで?」
布袋に鼻を近づけながらウォッチが聞いてきた。
〝化け物〟が残した果汁煮の干しフルーツだろう。
入れっぱなしだ。
「腐った干しフルーツ入れっぱなしなんだと思う。食べていいよ。」
「ほんときもいから。」
前を向きながら顔を紅潮させてウォッチは言った。
アジトに近づくにつれ〝例の連中〟が増えてきた。
殴り合いの時に円になっていた面々だろう。
ぞろぞろと囲まれて同行される。
進む一行が膨らんでいった。
度々飛んでくる野次めいた質問。
ナギは顔を上げながら声を張って返事をしていた。
ダーガの強張っている顔が視界に飛び込んでくる。
「なんもしなければ、襲っては来ないと思うよ。」
無機質な声で囁いた。
ダーガから返事はなく、険しい顔で歩いていた。
*
初めて来た時に集会をしていた場所に着くとタリフが木箱に座っていた。
周りには何人もいる。
ナギと目が合うと立ち上がり、叫びながら近づいてくるタリフ。
「ナギちゅわ~ん!もう来ないと思ってたよ~!今日はチーム戦!?やろやろ~!面白そ~!」
タリフを見るダーガの視線がより一層鋭くなった。
「違う!この人達が話したいって!」
ナギがそう言うと、タリフはわかってますとばかりに木箱に腰を下ろすよう促してきた。
ヤマ、ダーガ、ナギの順に一列に座る。
腰を下ろしながらダーガがヤマを紹介した。
グローブ・Kはタリフだけが名乗る。
ナギはバレないようにこそこそと木箱を少しずらす。
横の二人の顔が見えやすい位置に移動した。
ダーガの正面にタリフ、後ろにアブロス。
ヤマの正面にウォッチ、背中にエヴィが立っていた。
周りは険しい顔つきのグローブ・Kの集団で囲まれている。
ブーザー、ドンドラの姿は見当たらない。
(全員飛び掛かってくるかな。でもルールないから魔法使える。そしたらどうしよっかな。とりあえず自分の手ごと燃やして誰か道連れにしよう。絶対に手は離さない。一人は絶対にやろう。)
条件反射でハイになり窮地を想像していた時だった。
弾けた声でタリフが口火を切る。
木箱の上で体を大げさに揺らした。
オーバーに頭を上下に振っている。
カラフルなエクステが飛び跳ねた。
「ダーガちゃ~ん!ほんっっと久しぶり!何年振り!?同じミトハロに居ても会わないもんだね~!何~?政治に子供使うようになったの?ヤマカミの所じゃないでしょ?最近は十七歳未満立ち入り禁止だもんね~!」
にやついてヤマを見るタリフ。
(僕の所属を聞いてるのか。)
ダーガを向き矢継ぎ早に続けた。
「ダーガちゃん、良い駒持ってんじゃーん!騙されちゃった!まさかナギちゃんが!こいつほんとに殴り合いだけして帰るだけだから信じちゃった~!」
ナギは横に素早く顔を向ける。
ルーピアは揺れていない。
タリフを見据えるヤマが視界に入った。
(知り合いだったんだ…。だからドミヌスと戦う事を教えるのか。タリフは元ダガヤって事?ダーガが元タリフ?あっタリフじゃなくてグローブKか。ヤマは元々聞いてたのかな。)
ダーガが低い声で否定した。
「ちげーよ。子供は使わない。ナギは偶々仕事頼む仲だったんだ。うちのチームにも所属してない。」
(こういう時に否定してくれるってダーガちゃんとしてるよね~。)
眉を上げて見てきたタリフと目が合った。
ナギも答える。
ウォッチからの視線も感じた。
「うん。所属してないよ。さっちゃんにカツアゲされてむかついて…強くなりたいってのもほんとだし。」
ヤマの視線を感じた。
「まあどっちでもいいけどね~!ナギちゅわん弱すぎて誰も本気出してないから情報も盗まれてないし!まあ、たしかに情報が欲しいなら〝魔法アリ〟ってルールにするか~!」
ナギを横目にタリフがダーガに言う。
(偶にエヴィは本気だったと思うよ。キレたブーザーも。あ、〝ギャグ回の人達〟はみんなけっこう本気でしたよ。)
口を半開きにしながらカラフルなエクステを見つめるナギ。
「じゃ、本題入ろ~!ダーガちゃん仕切りだよね~?〝スマッシャー〟絡みだと思うけど!どうせね~!」
木箱をガクガク揺らして落ち着きのないタリフにダーガが口を開く。
殺人鬼をキッカケにドミヌスを潰したい事。
ダガヤとヤマカミで一時的に同盟を組んでいる事を説明していた。
決戦は〝八日後の早朝〟らしい。
(道具屋行って補充しなくちゃ。)
協力してほしいとダーガがタリフに頭を下げる横でナギは必要な道具を考えていた。
「おまえは?なんで今日居んの?」
ウォッチがナギを見て言い放つ。
「僕も参加するから。」
何気なくそう答えるとタリフが爆笑しながら口を挟む。
「本日の面通し要員じゃなかったんだね~!サファぶっ殺したいもんな~!」
「それもあるんだけど、お世話になってる宿の人が攫われたんだ。だから助けなくちゃ。」
ダーガが顔を上げるのを横目で見つつナギは答えた。
「ナギちゃん、その人、女~?」
怪訝な表情で聞くタリフ。
「そうだけど。」
「付き合ってんの?その人の事、好きなの?ヤりてーの?」
ジョージから〝そういう教育〟を手厚く受けていたナギ。
何を言ってるのかはわかった。
ウォッチが上気した顔で俯いていた。
「そういうんじゃないよ。」
目を逸らさずに答えた。
タリフは目をこれでもかと細める。
低い声になった。
「そういう関係じゃないのにさ~、死ぬかもしれない抗争に顔出すの?ただお世話になったってだけで?しかも宿の人間だろ?」
リサの件を言い添える。
「仲間だった奴がドミヌス入っちゃってて、そいつと話せればいいなってのもあるよ。」
「派手な赤い柄の剣の?」
ウォッチが口を挟む。
カラフルなエクステからお団子ヘアに視線を移しながら答える。
「うん。右腕にタトゥーが入ってたから。」
タリフが口を大きく開けて手を叩く。
勢い余って後ろに倒れそうだ。
絶妙なバランス感覚で爆笑している。
「ナギちゃんほんっとーにさ~!死んじゃうよ~!話なんて出来るわけないじゃん!殺し合いでしょ~!」
「うん。」
顔色を変えずに聞き流した。
「ま!いいや!」
傾いた木箱の底が勢いよく地面につく。
軽い衝撃音と共にダーガを見るタリフ。
爆笑が微かに残るにやついた表情。
「ダーガちゃん、あのね、スマッシャーの話、殺人鬼?その話はこっちも来てるからさ、どうしよっかなって思ってたの。これ逃す手はないよね~!でさ、協力したいって気持ちはすごいあるのよ!ドミヌスうざったいもんね!サファもむかつくしさ!でもね~、ウチ、今ボスがいないんだよね!何日くらいいないっけな~?」
ナギの横にいる二人が目を丸くした。
(タリフがリーダーじゃなかったんだ!)
アブロスが反応する。
「三十日くらいじゃないっすか。」
「長いね~!フラッと来てオイシイ案件持ってきてくれる人なんだけどさ~、こんなに顔出さないのは初めてかもね~!あっ男ね!」
「おまえ、なんでそんな奴の下にいんだよ。」
ダーガの低い声。
タリフと視線が交錯する。
「持ってくる案件が超オイシイの!フラッと来て内容が書いてある紙とか板だけ残してく寡黙なボスだね~!会えたらレア!金も大事っしょ~!?偉そうにしてるだけの二番手三番手みたいのはけっこう前に俺がやっちゃった!それを知った時もあんま顔出さなくなった気がするけど今回ほどではなかった気がするな~!ま、そんな感じ!」
ナギに顔を向けて続けた。
「で!ナギちゃんはどっちにつくの?ダーガちゃん?おっぱいちゃん?」
「まだ決めてないよ。」
横からの視線が刺さる。
木箱の端を掴み、目を瞑って顔を上げるタリフ。
「ラッキ~!じゃあナギちゃん、ウチ入りなよ!ウチウチ!こいつらのどっちかについてもさ、気に食わなかったら前日の夜迄にウチきてもらえばいいから!元々そういう集まりだし!」
ダーガが口を開きそうになるのを遮るように矢継ぎ早に言った。
「ダーガちゃんさ、ボス不在とは言ったけど!いいよ!協力してやるよ!でもそれまでにボスが来たら勝手に白紙になるかもしれないから気を付けてね~!後さ、おまえならわかると思うけど、こういうのって強さよりも〝人の流れ〟だろ?ウチのチームさ~、いっつも勝手にどっか行って困ってたんだよね~、ふらっと帰ってきたと思ったらトラブル背負ってくるし!でも今回!ナギちゃんのおかげでほとんど全員ミトハロにいんのよ!いや~助かる!明日戦うぞって言われてもいけるもんウチ!スマッシャーの件でなんか悪戯しよっかなって考えてた所にダーガちゃんとヤマカミちゃん連れてきてさ~!」
「何が言いたいんだよ。」
低い声が隣から聞こえてきた。
濁ったルーピアをちらりと見るナギ。
「またまた!気づいてるクセにダーガちゃん!この流れはナギちゅわんが中心でしょ~どう考えても!っというわけで、ナギちゃんがついた方を応援するかな、ウチは!ナギちゃんがついた方につくって言っちゃうとおまえらのどっちかと敵対しそうだもんね~!ドミヌス潰した後の利益配分で揉めたくねーし!現地でなんかあったらちょっと応援するってだけね~!今利益配分なんてちんたらやってる暇ないもんね!さっさとうぜぇサファ潰そうぜ~!」
タリフの高笑いだけが響いていた。
重い沈黙が流れる。
周りの人間が静かなのが異様だった。
「ほかになんかある~?なければ終わりにするよ~!そこのおっぱいちゃんは~?」
タリフがヤマを指差した。
「ダーガ君と総意だから特にないよ。あ、終わりなら以前ウチに入ってた仲間がいたからちょっと話したいんだけど。なんか言いたい事あるなら聞いてあげたいし。」
周囲を見回して低い声で言った。
「いいよ~!色々あるよね~!もちろん監視付きだけど!んじゃあ解散~!明日また俺から話すからちゃんと集まってね~!」
機嫌が良さそうな顔でタリフが周囲に向かって叫ぶ。
円になっていた人間達は徐々に散っていった。
ヤマが立ち上がり周囲の人間に向かう。
それについていくエヴィとウォッチ。
「あ、ダーガちゃんとナギちゃんはちょっとここに居て~。当日どんな感じで動くのか教えといて!死にかけのチームに小細工いらないっしょ~?」
アブロスが手にしている荷物から地図を催促するダーガ。
タリフに淡々と説明するダーガの横顔に時折目を向けながら、注意深く説明を聞いていた。
使える魔法をダーガから聞かれたのでダーガとタリフが全て開示するなら自分も教えるとだけ伝えるナギ。
特に開示なく話は進んでいった。
タリフがふざけながら特攻隊長を任命してきたが断りまくる。
殴り合いを挑んだ時とは一変し、グローブ・Kはどこか緊張感のある異様な雰囲気に包まれていた。




