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第57話/卑しいアネット(3)/Limited_ Annette



(私はナギ君の事が気になってる。)


アネットは顔を上気させる。

襲ってきた数人のドミヌスを葬った後、荒れ果てた街道を歩く。

日は傾きかけていた。


(いや、もうやめよう。そういう気になってるとかって曖昧な表現。それやめよう!好き!とんでもなく好き!弟属性いいねとか良く出来た弟子だねとかそうじゃなくて!男性として好き!あんな事やこんな事したい!っていうかした!脳内で!)


自分の顔から湯気が出た気がした。

熱くなった顔を両手で覆って屈む。


(どうして…?私、ドワンみたいなガッチリ体系年上男子がタイプなはずなのに…。あんなひょろひょろなよなよフライパン少年にどうしてここまで…。)


そこがいいの。そう思いながら立ち上がる。


(っていうか、ナギ君弱くないでしょ。幽霊屋敷行きたいけど怖いから一緒に来て欲しい。ってアルセナで言った時もストレートに〝行かない選択肢はないの?〟って聞いてきたし。あれって〝じゃあ行くなよ〟って意味でしょ?ブローチと遭遇した直後の食事の時点ですでに色々考えてたし。あんなに素直に自分の執着を認められるのは強いよ。弱い人は認められない。って私、どんだけ覚えてんの…。)


顔が上気した。

歩を進める。


(キッカケは魔法学。魔法学って心の話を結構するから、通じた気がすると危ない面もある。相手の心と同化しちゃう事がある。感情が恋愛に擬態し易い。それは私も知ってた。彼と最初に私の部屋で魔法学の話をしていて孤独感が和らいだのは、あれは間違いなく私の執着。それは自信を持って言える。以前はよくわかんなかったけど…。)


かつてそういう関係になった師、〝プロフィッド・ティル〟との淫靡な時が浮かぶ。


(そこからナギ君に色々と教える中で、彼が可愛く見えたのも執着。〝教える〟ってポジションで自分を誤魔化していた。その執着も私は掴んでた。)


まだ記憶に新しいナギとの日々を思い返した。

さらに感情を整理する。


(抱き締めたのも恋愛感情はない。むしろ私自身の執着の輪郭が掴めていて、恋愛感情ではない事をわかっていたからした。あれは魔法学の一環。激しい孤独感、自分に対する無意識の諦念。それによって出来る自分と世界との過度な線引き。それを払ってあげたかった。その線があるといくら魔法を練習しても意味がない。あと、彼がこれから一方的に人を憎んだ時、寂寥感に呑まれた時にいつでも戻ってこれるように。だから相手が誤解しない知識を有してるって状態ならリサ相手にでもする。知識が無ければ教えてあげればいいしね。世界に勝手に引いた線が払拭できれば別に抱擁じゃなくても成立するんだから。彼の場合は私にナイフを向けてきた時。さすがにしなくちゃって思った。)


出発前日にリサから言われた言葉が頭に湧き出た。

奥歯に力が入る。

荒れた街道に伸びる木々が妖しく話しかけてきそうだった。


(問題は抱き締めたその後、完全に別人じゃん!ナギ君って今までどれだけ世界と距離があったの?体術の訓練を二、三日やったら負け癖が出てくる状態って何!?どれだけの期間、自己否定を無意識にしてきたの?どれだけ自分と距離を取ればあんなに自分の輪郭曖昧になるの!っていうか輪郭ないじゃん!なんでそんなに弱い自分を見続けられるの!?普通出来ない事から目を背けて〝できる事〟に流れるじゃん!世界と自分の間に引いた線が自分の輪郭に食い込んじゃってるじゃん!ブローチに殺された事もすんなり受け入れちゃうんだから!世界から浸食され放題!なんであんなに自分の弱さを見つめられるの?でも抱き締めた直後からそういう危うさが一気に消えた!ナギ君が一気に自分の存在を受け入れ出してた!私って凄い師匠なんじゃない!?抱擁大成功!別人!好き!なんで〝真理〟についてあんなに理解するのがはやいの!?私の教え方がうまいって事!?大好き!)


深呼吸をして自惚れを吐き出す。

鳥のさえずりが聞こえた。


(っていうかナギ君、師匠の私の意図を汲み過ぎでしょ!普通前置きされても抱き締め返しちゃうのよ!どんだけ雑念なく見つめられるの!私が信頼されてるから!?良い弟子だね!)


孤独感に呑まれた一人の少年の輪郭を築く事に成功した師匠としての抱擁。

魔法学、精神学の上では大成功。

女、アネットとしては複雑であった。


(ナギ君は自分を取り戻したから!結果的には全く問題ないの!抱き締め魔法学、大成功!師匠として嬉しい気持ち百パーセントなの!でも今の私だから言える!これは今だから言えるの!抱きしめ返してくれてよかったのに!!!!まあ抱き締め返されるって事は、ナギ君に魔法学…精神学として伝わってない可能性が高いから彼も自分を取り戻す事はないわけで。私も恋愛感情にはなってないんだけど。)


感情の整理が核心に迫る。

アネットから音が消えた。


(別人になった彼は、大木みたいに雄大に見えた。私が弱ってただけかもしれないけど、人ってあんな感じになれるんだ。寄り掛かりたかった。寄り掛かれなかった〝から〟とんでもない別の執着が自分に産まれてた。私が育てたんだから私が寄り掛かっても別によくない?って思っちゃった。危なかった…。あの日、ナギ君が私の部屋に来ていたら、間違いなく私から色々しちゃってた。膨れた執着を彼との〝そういう行為〟で逃避してたと思う。冗談って言い直せてよかった。断れてよかった。)


断りながらも薄着で少し待っていた自分を受け止めると世界が開けた。

音が戻る。

考えながら即座に観察する。


(でも今は、完全に自分の気持ちで好きなんだって言える。距離が取れて彼との関係が一時的に消滅したからこそ本当の気持ちとして認識出来る。リサも好き、ナギ君も好き。二人の旅の成功も祈ってる。その上で、ナギ君の事が好き。彼と居られるリサが妬ましい気持ちも少しだけまだある。でも、彼女がナギ君をどう思ってるかは気にならない。それ以上に一緒に旅をできる心の状態じゃない自分に腹が立つ。何呑まれてんの!でもこの気持ちは呑まれなかったら、わかんなかったよね。一回呑まれたから気づけた。)


後方から人の気配。

草木に何かが衝突する音。

素早く近づいてくる。


「おい!いたぞ!」


声が聞こえた。

振り向くと街道を滑ってくる人間が見えた。


(飛んでるのが三?四?地上に五人?ちょこまかちょこまか、うざったい。)


一番後ろで一人飛んだのが見えた。

〝シューズを履いた人間に負ける気がしない。全員に勝つ自信がある。〟

ナギに言い放った記憶が呼び覚まされる。


(十人?もっといる?ちょっと多いな。でも、魔法使いやめるとは言え、元弟子に啖呵切っといて負けるのはないよね。)


一番多い人数はアルセナに着くまでに襲われた盗賊。

六人だった。

その時は身を隠しながら時間をかけて一人ずつ相手をした。


(死にたくないでも死は見つめてみたい生きたい逃げたい生きてもナギを煽って言った言葉が恥ずかし過ぎるどう生きればいいのかわからない心細い怖い二人と一緒に戦いたいちょこまかうざったい自分の力を試してみたいわくわくする一人じゃ無理かも死ぬできるかもできるには。)


湧いてくる矛盾した全てを受け止めた。

ナギのように死を見つめたかったアネット。

目の前のドミヌス相手に距離を取らない。

その場に立ち尽くす。


(私、卑しいから。もうこっちからガンガン攻撃するからね。)


近くの男に雷魔法〝おちろ〟を唱えようとした時だった。

アネットの足元に〝つかむ〟が見える。


帯が続く方に素早く目を向けると斜め上から単独で切りかかってくる〝おそらく女〟。

明らかな勇み足。

エーテルシューズの進行方向と直角に飛び避けた。


滑って離れていこうとする女を魔法で掴み引っ張る。

転んだ女に〝はなれて〟で近づくと先ほどの部隊から奪ったナイフを喉に突き立てた。

女の頭を魔法で燃やす。

声にならない声を上げる女。


(とりあえずあと九!)


顔を左右上下に忙しなく振る。

〝つかむ〟の魔法の帯は地面にない。


(挟まれた、全ての方向から音。一斉に来たら刺し違えて発火してすぐさま回復。)


半ば諦めて投げやりな戦術を受け入れた時だった。

ひとつの魔法が静かにじんわりと〝腑に落ちた〟。

ざっくりとした効果を認識する。


(認識じゃない。なんか出来る事がわかる。〝ふよ〟?〝せつぞく〟?)


目を剥いてダッシュする。

街道の脇の森に逃げ込んだ。


「追え!」


どこかから男の声がした瞬間、後ろの方で騒がしい草木の衝突音。

木の枝を〝つかみ〟上に昇る。

木々を経由しながら移動した。


(あのシューズって木が密集してると移動しにくそう。)


容易に距離を取る事ができた。

敵の声が少し離れる。

木の上に留まり、腑に落ちた魔法を反芻する。


(付与?接続?でもこんなの…。)


涙目を拭う。

ナギと初めて宿の部屋で話した事を思い出す。


(魔法使いやめたのに。)


すぐ下に一人でうろついているドミヌスの人間が見えた。

ゆっくりと着地する。

男だった。

後ろから首を勢いよく捻る。

人形のように男は崩れた。


(おそらくあと八。頭は後。)


エーテルシューズを脱がし、奪って距離を取る。


(こんな魔法めちゃくちゃだ。とんでもない。でも試したい。)


ドミヌスから更に距離を取る。

音が聞こえなくなる辺りまで離れると奪ったエーテルシューズに履き替える。

靴のサイズは大きかったが滑れなくはない。

運動神経抜群のアネット、初めて履くが転ばなかった。


街道に出る。

接敵した方向にシューズで滑って向かう。

目の前の地面を魔法で〝つかみ〟加速した。

何回か転ぶが要領を掴む。


(前に滑るだけならいける。っていうかこの靴、絶対に戦闘向きじゃない!)


女が脇の森から飛び出した。

すれ違いざまに〝はなれて〟を顔面に撃ち牽制する。

驚いたように仲間に向かって何かを叫ぶ女。


(〝はなれて〟知らないの?ニルディーノ(出身の大陸)では知ってる人いたけど。)


転びながら止まるアネット。

女が手を翳し、凍結魔法を発声したのが聞こえた。


自分の胸に〝はなれて〟を撃ち、少しだけ距離を作る。

足が何かに引っ掛かり、頭から後方へ仰け反る。

盛大に転んだ。


魔法かと地面を見るが何もない。

エーテルシューズの踵のやや後ろにある〝滑らない部分〟が地面に引っかかったのだと気づく。


焦って起き上がり女を見た。

手を翳し続けている女。

何も起こらない。

顔が真っ赤だった。


さっきまで居た位置に氷の粒。

分かりやすく集まり出した。


(こんなに遅いの?ナギ君よりも…さっきの人達よりも遅い...。)


女を無視するように体を反転させる。

接敵地点の方向に逃げるように加速するアネット。


足を動かさずに滑っていたが、徐々に慣れてきた。

左右の足に少しずつ重心を移動させ滑る。

視界の端の風景がスピード感で溶けていく。


(たしかにこれ気持ちいい〜!つまんなそうとか言ってごめーん!)


頬が緩む。

後方から聞こえる草木の衝突音と人の声が増えてきた。

音が大きくなった辺りで地面を魔法で掴み加速する。


「〝かくね〟」


にこやかに、柔らかい声で言った。

膝を曲げ体制を低くする。

右の掌から地面スレスレに魔法の線が引かれていく。


さらに口角が上がる。

腕を左右に振ると線は波打って伸びた。

〝かくね〟を挑発と受け取ったのか、背中から怒号が聞こえる。


(痛!)


振り返ろうとするが勢いを殺せずに転ぶ。

右手から伸びる魔法の線が複雑にうねった。


膝を揃えたまま脚を横に流して座る体制で追手を見上げる。

大量の人間が空中に飛び出しているのが映った。


地面をチラ見する。

描いた線はまだ生きていた。


アネットの付近に伸びるいくつもの〝つかむ〟の帯。

顔を上げる。

突っ込んでくる空中の男と目が合った。

座ったまま微笑むアネット。

男に向かってハートマークを素早く描くと地面に視線を移す。

目を見開き口角を上げる。

魔法の線に両手を翳した。


「かくね〝に〟〝みんなおちろ〟!」


胸の高鳴りは最高潮。

叫ぶとすぐ顔を上げた。

世界が激しく点滅した。

辺りが鋭い光で何度か照らされるのとほぼ同時に空気を切り裂くような破裂音。

描いた線の真上にいるドミヌスに伸びていく光の軌跡。


(あばばば)


歓喜した瞬間、体の自由が効かず痙攣した。

ドミヌスに直撃した雷の軌跡が視界に残像として映る。

筋肉が固定され、心臓が震えた。

羽根をもがれた虫のように落下するドミヌス達。

鼓動が遅く乱れる。


(心、臓止、まりそ)


聴力が鈍くなる。


(死ぬ死ぬ!)


すぐさま回復魔法を唱える。

腰のポーチから急いで回復ラムネを取り出した。

筋肉が強張り、指が突っ張る。

うまく動かせない。

口に放り込んで噛まずに飲み込む。


自分の心臓を何回か叩く。

心臓が何かを思い出したかのように鼓動が早くなる。

痺れが引いていく。

聴力が戻る。

ゆっくり立ち上がった。


(かくねにも落ちちゃった!?手まで伝って感電した!?)


ふざけて魔法で遊んでいたら自分に落雷した使いたての頃を思い出す。

声を出さずに笑いながらシューズを脱ぎ捨てた。

目の前で蠢いているドミヌス達。


(きんもち〜!)


〝かくね〟を発声し猛ダッシュ。

倒れて痙攣している人間にタッチして線を結んでいった。

立ち上がりそうな人間には力いっぱい蹴りを入れた。


魔法の線で全員結ぶと、自分の手から線が離れている事を確認する。

描いた魔法を対象に広範囲の落雷魔法を発声した。

轟音と共にほとんどの人間が動かなくなる。


「ああ、、、うう、、、あ、、、」


後ろから女の声。

振り向くと先ほどの凍結魔法の女。

武器は手にしていない。

雷鳴で腰が抜けたのか尻もちをついている。

裏路地の老婆を思い出すアネット。


「ゆるしえ!、、、ゆ、、るして!」


女に向かって走り出すと自らに加速を撃ち込み襲いかかるアネット。

加速中に叫ぶ。


「拳〝を〟!〝こがせ〟!」


腰よりも下で少しテイクバックを取った右手に異変。

握り締めた拳の隙間から橙色の光が漏れる。

まるで拳の中に小さな太陽を閉じ込めているかのようだった。

拳の周りに火が躍り出す。


(熱くない!すっご!)


そのまま女の顔面に右拳を振り上げる。

空を切った。

仰向けになっている女。

目が合った。


(そこは食らってよ!)


顔面を何度か殴りつけると拳の火が消えた。

髪が焦げた匂い。

ガチギレ少年と砂浜でした殴り合いが過ぎる。


むせる女を一瞥もせず〝つよくなれ〟を自身の足にかける。

女の手を引っ張ると両肘、両膝を踏み抜いた。

嫌な感触が足に伝わると同時に叫ぶ女。


閃いた魔法〝ふよ〟が頭の中を占拠する。

顔が紅潮し、女の命乞いの声は耳を素通りした。


「ちょっと待ってて!」


明るい声を女にかけると落雷で動けなくなっている生死不明の人間達に駆け寄る。


(雷の前に二人やってるから、これで全部かな?七いる?あれ?八いない?まいっか!)


順番に燃やし、頭部に足を振り落としていった。

耳を澄まし草木の音を聞く。

踏み落とす足が雑になる。


(周りから音はしない。多分全部だよね。)


ポーチに目もくれないアネット。

四肢を折られ空を見ながら泣いている顔面血だらけの女に加速して近づいた。


優しく女を抱き寄せる。

あまりにも泣き叫ぶものだから顔を離す。

見つめた後に一発腹を殴ると静かになった。

笑顔で頷き耳元で囁いた。


「同い年くらいだよね?大丈夫。質問に答えてくれれば助けてあげる。ドミヌスでしょ?」


間違いなく相手が年上だがそう言った。


「ううぁ…はい…。そうで――」


全部聞かずに質問を放つ。


「トップ、リーダーは?派閥じゃなくてチーム全体のボスね。貴方から見た性格は?」


ナギからニックネームは聞いていたが答えさせる。


「さっ、ちゃん…。」


溜息アネット。

声が低くなった。


「ねえ、こういう時さ普通ニックネーム言わな――――」


「サファ!サファ!女!プライドがんたた高いです!」


「それだけ?」


感情がない声。

女が震えだす。


「ここんっこ攻撃的!くっひょ、口、調がありゃいです!すぐにんあなな殴ったりします!ルールュが厳しいです!!」


吐瀉する女。

顔を離して一発ビンタした。


「私の事、なんて伝わってる?」


ひどい顔でむせている女を前に微笑みながら質問した。


「しゃつじ!殺人鬼とか!魔っじょっ!魔女!とか!なっっっんかっそうひゅう!いろいろです!」


噴き出すアネット。


「ドミヌスって何人いるの?」


「さんっひゅっ三百!!」


「って言われてるのか、実際に三百いるのか、どっち?」


低い声で言う。


「実際にはっにひゅっにひゃっくっ!ニッ百ちょいdしゅ!」


「盛りすぎでしょ。」


笑っちゃったアネット。

しゅいませんと謝罪する女。


「答えてくれてありがと。じゃあ最後の質問ね。」


頷く女。

嗚咽を漏らしている。

こっち見て。と声をかけ、目を合わせる。


「私が命乞いしたら、見逃してくれてた?」


徐々に目を見開く女。

これ以上開かないという所で叫びだす。


「たしゅけkてくだださい!たすけて!ゆるしてください!ひゅるして!いわれただけなんです!あたしは別に殺そうと思ってないでしゅ!」


「私に氷魔法唱えてたくせに。」


「ゆるひてゆるひてくだしゃしゆるしておねぎゃいしますごめんなだいごめんなさいすいませ――――」


女を優しく抱き締めるアネット。


「私〝に〟〝おちろ〟。」


閃光が破裂するように辺りが光る。

煙が立ち込めた。

焦げた匂いに交じった異臭。

女から体を離す。

名も知らぬ女は会話が成立しなかったので世界から脱落した。


(〝ふよ〟〝せつぞく〟?私を対象にした場合は私には影響がない…。ちょっとうるさいけど、鼓膜がキーンしない…。なにこの魔法…。)


強化した足を動かなくなった女に振り落としながら自分の衣服を確認する。


(焦げてない…。ふたつ魔法が同時に発動した…。手を翳さなくても…見なくても…拳が燃えた…。)


情報量が多すぎて思考が働かない。

今までの魔法の常識がこの一戦で覆ったアネット。

気を落ち着かせるようにドミヌスのポーチを漁りネームプレートを集める。


ポーチには一人七〇〇から千五百エンテ程が入っていた。

奪ったマナリーフを口にしながら集めたネームプレートを魔法で燃やす。

ほくそ笑んだ。


(ありがたい。お金増えてる。絶対さっきの味方の死体漁ってお金盗んでるでしょ。気持ち悪~。また次もよろしくね。)


金は盗らず、次のドミヌスネーターの追撃部隊に運ばせる事にした。

適当にサイズの合う外套を奪い、気持ちを落ち着かせながら最初に殺した二体の処理に向かう。

初めて魔法を閃いたアネット。

頭が賑やかになる。

〝首を捻って殺した男〟をつい通り過ぎた。


(ナギ君の言う通りだったね。千年生きた魔女〝だから〟できるんだ。っていうのも勝手な意味付けだ。私達だって明日できるかもしれないね。)


奪ったシューズで加速する。

体を回転させながら踊るように滑り、接敵した地点まで戻っていった。





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