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第47話/歪みのキッカケ/Limited_NAGI



さらに五日が経過した。

ミトハロ到着から三十一日目、アネットの出発から十七日目。

その日もグローブ・Kでボコボコにされたナギ。

歓楽街から宿に戻っていた。

まだ明るいが日は傾きそうだ。


(通って何日だろう…六?八日目?そんくらい?全然勝てない。歯が立たない。弱いのは知ってたけどさ。僕はこんなに弱かったんだな。体格が良い人達に勝てないのは仕方ないけど、僕よりもちょっと背が高いくらいの人達にも全然かなわない。ドンドラとウォッチに何故か打ち込みもしてもらってるけど。やっても意味ないんじゃないかな。)


その日もブーザーにやられ、爽やかな笑顔のウォッチと樽を結束するリングに足を入れて殴り合った。

偶々いたタリフに長めに、じわじわとボコボコにされたのだった。


中心街に差し掛かる。

徒歩の人間こそ見れど、レイルをしている人間はほとんどいなかった。

閑散とした中心街から虚しさが伝播するように、目減りしていく金を思い出す。

弱気が顔を出した。


(ウォッチの言う通りだ。何やってんだろう僕。)





宿に入るとカウンターにも階段の踊り場にも誰もいなかった。


(珍し。)


一旦部屋に戻ろうと階段を上がる。

フロアの隅、壁際から聞き覚えのある甲高い声がした。


「ナギ!」


パルだった。

キューもいた。


「えっ!?どうして!?」


笑顔で駆け寄る。

キューが軽食を振舞っていたのだろうか。

ナギも席に着く。


「ナギナギ〜、こんな可愛い彼女やるじゃん。怪我してたの助けてあげたんだって?かっこい~。」


一旦キューを無視してテーブルの上に並んだ食べ物に視線をうろつかせる。

パルの笑顔が視界の隅に映った。

白身魚のサンドイッチに目を奪われる。


(今日はラッキーの日だ!)


「あっいや、友達ね。キュー、これ僕ももらっていい?」


白身魚の交渉ついでにキューの軽口を否定する。


「ダメ~。これパル吉とウチの。あっ!ねえ!」


言い終わる前に口に入れるナギ。

キューに睨まれる。


「キュー、ちょっと二人で話したいんだけど店先か店の横、借りて良い?」


「危ないからダメ~。そろそろ暗くなるから。ウチがカウンター戻るからここで話してていいよ。あっパルちゃんこれ取っちゃって。」


サンドイッチのお皿を持って立ち上がるキュー。

パルに分けるとカウンターに戻っていった。


「ナギ、あ~~~」


パル吉がサンドイッチを差し出す。

口元への軌道だ。

白目ナギ。

それを見て何かを思い出したようにはっとするパル。


「~~~~ん。」


テーブルの上を浮遊するサンドイッチにお互いの視線が絡まる。

ナギを回避してパル自身の口に飛び込んでいった。

二人で笑ってしまった。


キューに水をもらいに立ち上がる。

戻ってくるとさっきまでキューが座っていた椅子に座った。

パルと正対する。


「言ってた通り、この宿って入り口にハイビスカスすごいあるね。」


「でしょ。キューも偶につけてるよ。僕は最近あんまり付けてないけどね。」


パルがナギの頭から目に視線を移して止まる。


「ナギ、目、大丈夫?それ何?」


顔を心配そうな表情で覗き込んできた。

クマの事だろう。


「あ、えっと、大丈夫大丈夫。あんま眠れてないだけだから。」


眉を顰めて小さく息を吐くパル。


「レイシーとベゼがナギの事、心配してたよ。ベゼは仕事中お酒飲めるから転職だって言ってるけど、レイシーは偶に凄い事になってる。」


コロンに急襲されてから顔を出していない。

後ろ向きの感情を持ってしまったと思われているのだろう。


「凄い事?」


「俺が行かなかったらナギはって一生話しかけてくる時がある。一度そういう感じになると止まらなくなるみたい。」


申し訳ないが少し笑ってしまった。


「気にしないでって伝えておいてくれる?最近行けてないのはあの事関係ないから。」


こめかみを掻きながら言った。


「ほんとに?」


頷くナギ。


「わかった。」


ナギの頬骨辺りを凝視しながらパルは言った。


(クマ、そんな酷いのかな。)


「でね、あの後、また来たの。」


一度後ろを向き、キューの位置を確認しながら言った。

周囲のテーブルには誰もいなかったが声を潜めている。

ナギも前屈みになって顔を寄せる。


「えっドミヌス?襲われたの!?」


「ううん、今回は大丈夫だったよ。話し合いしてた。商人れんめー?こないだの商人のおじさん達三人とドミヌス二人。男と女。ドミヌスのマークは見えなかったんだけど、後からレイシーに聞いたらドミヌスだったって。」


パルも顔を近づけた。

テーブルとパル、交互に視線を向けながら話すナギ。


「コr…あのデカイ奴じゃなかったんだ。男と女…。パルとマークはどこにいたの?」


「あたし達はすぐ二階に上がったよ。ベゼとレイシーが一緒に話してた。あっあとグアポリも居たよ。あたしは階段から話を聞いてて、マークは穴から一階の出入り口に回って盗み聞きしてた。あたしの方は大して聞こえなかったけど。」


「グアポリが話し合いに参加したの?」


「ううん、途中から少しだけ話しかけてた。なんかドミヌスの人に怒鳴られてたけどね。」


こめかみがぴくりと引きつった

パル吉は水に口をつけている。


「何話してたの?あっ言っちゃやばかったら全然いいから。」


自分がフリーである事を思い出した。

ナギも水に口をつける。


「うん大丈夫。連盟に〝ばいそう金?〟あと〝お客さんのリスト?〟それをドミヌスに差し出せって。」


「賠償金?」


声量に気を付けるナギ。

あまり良い言葉ではない事は知っていた。


「あっそうそう!それかも!物知りだね!」


(奥さんと揉めてる時のジョージおじさんから聞いた事あるんだよな。賠償金?慰謝料金?なんだっけな。)


「そんな事ないよ。話し合いした後、レイシーとベゼフェリはどんな感じだった?」


「レイシーはかなり焦ってた。ベゼは普通通りにしようとしてた気がするけどいつもと違った。」


パルはテーブルに視線を漂わせた。

ナギも黙る。

ベゼフェリはきっと悔しいだろう。

証拠がないとは言え自分が関わったムルルクの大型の案件だ。

酔っぱらって絡んできた彼女の恍惚とした表情が浮かぶ。


(前回襲ってきた時も話し合いがしたかったんじゃないかな。コロンは何がしたかったんだろう。なんかおかしいな……。)


「ねぇパル。ダーガは?」


「まだ帰ってきてない。出てからどれくらいだろ。今日で十九日?二十日?それくらいだからそろそろ帰ってくると思うんだけど…。」


「そっか。」


(そろそろ線が引かれる…。こんな時にリサ、何やってるんだ!全く!)


動悸がした。

大きく深呼吸をする。

キューがランタンをつけて回っていたのが目に入った。

殺人鬼、スマッシャーの存在を思い出す。


「パル、そろそろ帰ったら?」


「今日あたし泊まってくの。」


「えっ!?」


声が大きくなってしまった。


「レイシーがお金出してくれた。明日朝、ベゼが迎えに来てくれるって。ちゃんとそれもキューに話したから。」


「ベゼフェリはずっとカウンターに入ってるの?」


「うん。あれからずっと一緒。」


安堵した。

行けなくなって申し訳なさが少しあった。


「あたしさ、商人の娘って事になってるから。ベゼはあたしのお姉ちゃんが良いって言ってたんだけど年が離れすぎてるから親戚になった。合わせてね。」


悪戯に笑いながら言った。


「えっどうして?」


「配達のイメージ良くないかもだから。ナギの迷惑になっちゃ悪いし。」


あっけらかんと答えるパル吉。

ナギの眉が上がる。


(露店に突っ込んじゃうのにパルって考え方大人だなあ…。ずっとダガヤの大人の人達と居るからなのかな。僕、パルと同じ年くらいの時はいかにサディナの家に忍び込むかって考えしかなかった。外から壁を徐々に破壊して、本がたくさんある部屋の窓に向かって足場を作っていた気がする。)


「ああ、そうだね。ドミヌスに絡まれた時、配達してる人全員のイメージ最悪だったし僕。」


どう反応していいか分からず、ナギは少し笑いながら言った。

マークを模して少しだけミトハロをいじる。


「ダガヤで良かったね。」


笑顔のパル。

予想外の反応に面食らってしまった。


「うん。」


テーブルに視線を落とし頷いた。


「グローブ・Kとかだったらナギ毎日ボコられてそう。」


どきりとした。

透視予知パル吉。

はっとして言い直してきた。


「あっ、ナギが弱いって意味じゃないから。こないだ助けてくれたし…。それくらいよく分からないチームだって事。あんなにたくさんの人を相手に一人で守ってさ。レイシーもベゼも驚いてたからね。」


「うん、大丈夫。ありがとう。」


ナギは笑った。


「マークはあれから大丈夫?」


襲われた翌日、大人しかったのが気になっていた。

思い出したようにパルは目を開いた。


「なんかマークすごい変わっちゃったの!テーブル拭いたり、仕事手伝ってるよ。たまにエプロンまでしてる!人の事あんまりバカにしなくなったし、レイシーを励ましてるの見た時は驚いちゃった!あのマークだよ!?シューズも自分から履いてるとこ見かけない。〝ゴミ置き場〟にシューズ投げると怒るけど。」


潜めていた声が少しだけ大きくなった。


「え!?マークがレイシーを?うそでしょ!?」


「ホント!最初は驚いたけど誘ったら一緒に遊んだり、楽しく話したりもしてるよ。でも、なんか、ちょっと優しくなった気がする。レイルであたしの苦手な事、馬鹿にしないで教えてくれるし。」


パルは口を尖らせて言った。


(すごい…。どうしたんだろう…。)


キューが近寄ってきた。


「パル吉~、そろそろお部屋に行きますか~。明日ベゼさん来たら起こしいくよ~。あっお皿ありがと~。ナギナギも戻りな。手伝いいらないからね~。今日は休んで。でもなんかあったら遅くても絶対ノックはするから起きてたら開けて~。」


「わかった。ありがとう。」


話しかけられると気持ち良い返事をしながらお皿をカウンターへ運ぶパル吉。

ナギも立ち上がる。


「悪いんだけど、明日朝早くに起きてウチいなかったらあそこいるから寄ってくれる~?多分ここにいると思うけど。手伝いたい事あったら教えるから。」


キューはカウンターの後方にある部屋を指差しながら階段に向かうナギに言った。


「え?あ、わかったよ。」


(朝から手伝い??初めてだ。明日なんかあるのかな。)


今まで朝は一度もなかったので少し首を傾げる。


部屋の前でパルと挨拶をして別れる。

ナギは朝が早く明日は見送れない。

そう告げると目を細めたパルはじゃあまた来るからと不機嫌そうに言っていた。


リサは、その日も帰ってこなかった。


翌早朝、起床してキューの元にすぐに向かうがおはようと笑顔でハグされただけで特に何もなかった。




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