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第45話/知らない独り言/RISA



「あーダメだわこれ。泣く。」


バシナリー広場のノード屋敷。

四階の広い部屋。

三人でテーブルに着いていた。

ドミヌスハウスの物置部屋から持ってきたトマト太郎を読んでいるネリ。

目頭を抑えて声を震わせた。


「アップルパイ男爵の必殺技のさ〝万力パイ〟って愛するリンゴちゃんを想うが故の能力だったの?これ、辛すぎない?ずっと抱き締めたかったって事でしょ?結果的に素直になれなくて敵になっちゃってさ…。リンゴちゃん潰されちゃったじゃん…。なんで戦わないといけないの?」


「あーそれねー、熱いよね。メロンヒールの迷路攻撃も、実は元彼を守る防御型だったって回想もけっこう熱いわ。」


「シェア、私まだメロンヒール編読んでないのよ。」


低い声になるネリ。

細目で目の前の男に視線を固定する。


視線の先にいる男は〝フィランダ・シェアル〟。

シェアって呼ばれてる。

黒髪ショートカットで前髪を上げて耳にはルーピアではないイヤリングをつけてる。

手首には緑色のバンダナみたいの。

今日も指輪がたくさん。

派手な刺繍入りの上着。

さわやか男子。


ナギとは正反対みたいな人。

なんでナギが出てくんの?

昨日宿に帰ってこなかったし。

何してんの?

誰と過ごしてんの?

何してんの?


もやもやする。

あたしは読んでいる本を閉じて言い合いしてる二人を尻目に椅子から立ち上がる。

奥のテーブルで三人の男がカードゲームしてる。

ドミヌス内の派閥、シオン一派の代表のシオンがいた。

部屋を出て廊下を歩く。

行き先はバルコニー。

壁に何かがぶつかる音が聞こえる。

レイルしてる人かな。


外へ繋がる扉を開けると隅にある大きなエーテルノードが嫌でも目に入る。

遠目から木の柵がノードまで置かれてる。

雑な間隔。

高さはまばら。

腰の高さや胸まであるものもあった。

色んな柵がかなり手前から置かれてる。

ノードは白くて大きい。

中に赤色の血管みたいなのが浸透してる。

血管みたいな線は太い。

真ん中の塊みたいのって何?

不気味。


バルコニーは広い。

見晴らし台って感じ。

縁のギリギリまで行き、下の広場を覗き込む。

高過ぎてくらくらする。

縁にも柵が建てられてるけど気休めだろうなこれ。

余裕で落ちれると思う。


向かいの建物に目を向ける。

高さは同じ四階なんだけど、今いるノード屋敷の方が大きい。

なんか偉くなった気分。

向かいの建物がレイルする人に一番人気らしい。

板で塞がれてる窓を滑ってジャンプしてる人が見えた。

気持ちよさそう。


左にある三階建ての建物に視線を移す。

建物の二階くらいの所から階段が舌みたいに伸びてる。

作りが変わってて何回見ても面白い。

階段に設置された手すりみたいな木の棒の上を滑り降りてる。

コケる人を見ちゃって細目になる。


見晴らし台の両端には建物の壁。

ノードがある四階のこのバルコニーだけ広く窪んでるような形。

最初来た時は床が抜けないか心配だったけど下の階がそのまま支えてる感じで安心した。


あたしは伸びをした。

バルコニーにいるの好き。

なんか気持ちいいから。

見晴らし良いし。

シェアとネリの三人のノード警備はかなり楽だし。

なんかわかんないけどここにいるの楽なんだよね。

気持ちが落ち着くというか。

あんまり疲れない。


「レイルしてる奴減ったよね~。」


急に声がした。

びっくりして振り向くとすぐ後ろにシェアが立っていた。

身長はあたしよりも少し高い。

少し見上げて話す。


「そうなの?これでも少ないの?」


「減ったね。やっぱ殺人鬼の影響だろうね~。」


手の触れそうな距離で横に立つシェア。

向かいの建物をぼんやり見ながら淡々と話した。


「ふーん。まだ追ってるの?」


「討伐を兼ねた調査で順々に送ってるんだって。四日前から俺らと一緒にシオン達も居るじゃない?チームのリーダーとして一人ずつ隊を組んで次々に行ってるらしい。あっという間にもう残り三人だもんな~。ミトハロにいるチームの人数も減ってきてるのちょっと怖いんだよね~、何人くらいが今配達出てるんだろう。そろそろ仕事変えないとかなあ。ネリが昨日休んでたのって仕事探しだったりして。」


バルコニーの縁を何気なく見ながら思い出す。

警備の仕事でドミヌスハウスからノード屋敷に移動してから今日で四日目。

たしかに最初はシオン達、六人くらいでカードゲームしてた。


「一斉に送ればいいのに。」


レイルをしてる人を目で追いながら躊躇いなく適当に言った。

あたしは行かないし。


「上の人達が情報をどこまで掴んでるかわかんないけど、ある程度掴んでるとしたらじわじわ体力奪っていく作戦なのかもね。」


唐突に脇腹のストレッチをし出したシェア。

吐息交じりの声で言った。

ぶつかりそう。

少し離れる。


「相手が何人いるかとかもわかんないんでしょ?」


「それはさすがにわかってるんじゃないかな?俺達に知らされてないだけでさ。」


ストレッチをするシェアと目が合った。


「ふーん。あたし達、サボッてていいの?」


仕事が楽すぎてちょっぴり不安になる。


「あーいいのいいの。」


シェアがノードに顔を向けた。

つられてあたしも見る。


「これ、柵をひとつでも越えた時点ですんごいペナルティあるんだよね。お金も払わないといけないし、指が飛んだ人間もいるって聞いた事あるよ。どうせノードは壊せないんだから変な疑いかけられる方がリスクだよ。さっちゃんもそれは了承してるから、サボッてても特に何も言われないよ。」


それ、ネリから初日に聞いたかも。

あんまここにいない方がいいのかも。


「たしかに。居る人が疑われるもんね。」


「そうそう。レイルもこの屋敷の壁ではやっちゃいけない事になってるけど。ここで滑るのほとんどドミヌスだからそんなのもう皆知ってるし。」


前屈してる。

体、硬そう。


「廊下歩いてると何かがぶつかる音がするんだけどあれはレイルじゃないの?」


「建物の裏では皆しちゃってるね。」


はにかんだように少し笑うシェア。

滑り易そうだもんね。

ここの壁。

硬そうな体に同情していると後ろから声がした。


「サファが呼んでるよ。」


ネリが扉から顔だけ出している。

シェアが背中へ優しく手を添えてくる。

あたしは静かに扉へ促された。





「リサおめえ、ドミヌス慣れたか?」


部屋に戻り四人でテーブルを囲む。

口角を上げたサファの低い声。


「慣れるも何も、あたしドミヌス入ってないよ。」


声を上げて髪をかき上げながら笑うサファ。


「そうだったな。呼んだのはよぉ、ちょっとてめえらに頼みてぇ事があんだよ。」


「何?」


ネリがサファに顔を向けながらトマト太郎を閉じた。


「商人連盟からの依頼で、立会人っつーか、ボディガードの案件が昨日あったんだ。そこでコロンがよ、やらかしちまって。相手をボコボコにしちまったんだよ。手ぇ、出されてねえのにだ。さすがにコロン相手じゃ向こうが手も足も出なかったみてぇでな。一方的にやらかしたらしいんだわ。で、連盟は交渉どころじゃなかったらしい。」


サファはちらりとあたしを見て笑った。

コロンの腕を飛ばした事は特に何も言われていない。

シェアが口を開く。


「さっちゃん、それダガヤの案件?」


「ああ。商人連盟とダガヤの揉め事の立ち会いだな。交渉内容がデカいらしくてな。誰か二人行ってくれよ。」


「私パスね。」


少し口角を上げながら静かにネリが断る。

トマト太郎に視線を落としていた。


「じゃあリサとシェア、おめえら二人で行ってくれよ。」


「暴力沙汰とか嫌なんだけど。っていうかあたしドミヌスじゃないし。」


サファに言い放つ。


「フリーとして行ってもらえればいいからよ~。連盟も交渉が目的らしいから殴り合いにならねえと思うし。な?リサおめえつえーんだからいいじゃんよ~!いけよ~!」


声のトーンを上げて捲し立ててきた。


「なんかあったら俺が全部やるよ。万が一の時はリサは連盟の護衛だけして逃げてくれれば良いから。」


シェアがあたしを見て言った。


「ああ、もうそれで良いよ!ダガヤなんかに負けたらシェアが悪ぃ!」


サファが笑いながら声を張る。

静かな落ち着いた声が割り込んでくる。


「さっちゃん、人いないの?私達って管理みたいな、中の仕事がメインじゃない?そういうトラブル関係って今までコロンの方だったし。コロンがやらかしたとはいえ、あいつの下にも人間はいるでしょ?例の殺人鬼の件、そんなヤバいの?」


声の方を向くとネリが本から目を離して聞いていた。


「そっちは大丈夫だ、もうケリが着く。不意打ちでちょっとビビッたけど問題ねえな。まあここら辺で俺達よりつえぇ奴がいるってのは考えにくいわ。っていうかよ、別に俺達のチームが狙い撃ちされてるって感じじゃねえよ。レイルしてる奴を殺してるらしいぜ。」


唇のすぐ下辺りを掻きながらサファが言う。


「昨日コロンの相手した奴って死んだの?」


何気ない表情で聞くネリ。


「ああ?知らねえけど。さすがに死んではいねえんじゃねえの?なんで相手の心配なんかすんだよ。」


「相手の心配なんかするわけないでしょ。コロンのせいでこっちが仕事しにくくなるの嫌じゃない?だから。」


声が少し低くなるサファに対し優しい声で言った。


「ああ、それなら大丈夫だろ。なんかコロン、少し休みたいって言ってたしな。どっかの誰かさんに負けたのが響いてんじゃねえの。」


にやついてあたしを見てきた。


「ま!そういう事だからよ!リサとシェアで三日後に行ってくれ!中心街でスウォーム商人連盟のシュヴァルム・ヘルデって奴らと待ち合わせって事になってっから!よろしくな!」


そう言いながら立ち上がると、シオン達の方へ近づき何かを話していた。

シオンが険しい表情になった気がした。

少し話すとサファは部屋を出て行った。


あたしは手元にあるトマト太郎を開く。

そう言えばコロンちゃんってまだドミヌスいたんだ。

あたしに負けたから辞めたと思ってた。

ま、いいか。


「リサ、揉め事起こさないでね。」


ネリの穏やかな声。

読みながらよく会話できんね。


「起こさないよ!なんであたしが毎回起こす感じなの?」


「やられても迂闊に反撃するなって事。殺人鬼の件、サファはああ言ってたけどあんまり状況良くないと思うから。違うチームと揉め事起こすのって控えた方がいいと思うの。やられても商人の護衛に徹しなさいね。」


あたしが見境なく斬り付けてるみたいに言わないでくれる?

じゃあネリが行けば良くない?


「大丈夫大丈夫!俺がなんとかするって!」


シェアがあたしの手を握って弾んだ声で言った。

勢いよく閉じる本。

せっかく読みかけの場所開いてたのに。

ネリはページをめくりながらため息をついていた。



「今日はよろしくお願いします。」


スウォーム商人連盟。

シュヴァルム・ヘルデっておじさんがあたしとシェアに笑顔を向けた。

目が笑ってない気がする。

後ろに二人のおじさんがいた。

そっちは柔らかい表情。

商人連盟の人の服装ってなんでこんな独特な模様なんだろ。

みんなで相談して合わせてんの?


「シェアです。こっちはリサ。」


挨拶を済ませると早速ダガヤ・クルーに向かう事になった。

ヘルデとシェアが少し前を並んで歩く。


あたしの両サイドにおじさん二人。

右の人はアニヤ、顎にヒゲ。

左にコルト、口にヒゲ。

二人とも優しそうな顔。


「こんな綺麗なお嬢さんに立ち会ってもらえるなんて!生きててよかったですねえアニヤさん。」


左にいる口ヒゲがあたしの前から顎ヒゲを覗き込んで言った。

うそつき!


「ほんとですねぇ。お嬢さんはドミヌス?」


「違うよ。あたしはドミヌスじゃない。代理みたいな感じ。」


アニヤおじさんをちらっと見て答えた。

左にいる〝口ひげコルト〟が胸を撫で下ろしている。

前を歩く二人とあたし達の間に何人か割り込んだ。


「前回、凄かったんですよ。」


口角が上がっているコルトと目が合った。

目は輝いている。


「何が?」


「ダーガさんの事務所に居たのがね、少年少女三人だけだったんです。コロンさんが突然ダガヤの女の子の髪を掴んでしまってね。一番大きな男の子が必死にそれを守って。別の男の子はすぐ逃げられたんだけど。」


子供相手だったの!?

コロンちゃんほんと最低。

右のおじさんの声がする。

あたしは右を向いた。

忙しい。


「その一番大きな少年も逃げるかと思いきゃ、コロンさんに殴る蹴るの暴力を振るわれながら女の子を魔法で逃がしてあげて。それでもまだ逃げないんです。荷物のある部屋を一人で守ってねえ。」


アニヤおじさんが小さく頷きながら言った。

次はコルトおじさんの番だろうと左を向く。

正解。


「大立ち回りでしたな。ありゃあ。ナイフで足を刺されていたのにコロンさんに見向きもせず。本当に凄かった。大人数人に立ち向かうなんて私でも怖い。しかもその内の一人はコロンさん。無理です無理です。」


次は右のおじさんだろうと予想して顔を向ける。

左から声が聞こえ続けてた。

コルトに顔を戻す。


「荷物がある部屋でしょうかね。魔法で近づけさせなかった。あれはなんて魔法でしょう。それでも近づいた人間は燃やされて。走って逃げていましたよ。」


なんかサファから聞いた話と違くない?


「コルトさん。あの子、あの年できっと相当な使い手ですよ。首を掴まれた時にね、喉に手を突っ込んでコロンさんに吐いてたんです。手が離された瞬間に後ろに飛びのいていましたから。魔法使いは首を塞がれると弱いですからね。なりふり構わない感じが凄かった。巨躯に物怖じしない少年の勇姿。少し不謹慎ですが、胸を打たれました。」


別に一方的にボコボコにされたわけじゃなさそう。

感極まったのかおじさん二人で話し出しちゃった。


「ワタクシもです。アニヤさん。ダーガ君の所、良い子がいるんですね。コロンさん達、荷物を盗んでましたがあんなに人数がいて大して持ち出せなかった。あの少年の一人勝ちです。今回の件は気の毒に…。」


細くなっていく声。

コルトおじさんが俯いていた。


「コルトさん!私ね、もうこういう事に関わるのは今回で最後にしようと思うんです。連盟の脱退も考えているんですよ。あんまりだ。いくらミトハロを守るって名目をドミヌスさんに翳されてもね。守る前に街が死んでしまう。」


興奮してるみたい。

途中から声を潜めるアニヤおじさん。


「アニヤさん、ワタクシも同じ事を考えておりました。あそこまで懸命な少年を見てしまうとね。あまりにもお金のために動いている自分自身が恥ずかしくて恥ずかしくて。家族の顔、見れなくなっちゃいます。金に善悪はないと言いますけどね、その前の人の行動には善悪がある。なんだか、大切な事を思い出させてもらいました。金と取引してるんじゃなくて人と取引してるんですよね。我々は。」


コルトおじさんは地面に視線を下げながらそう言った。


「わかります。金を得るのが目的になってしまっていた。人と取引するのが私達商人の目的で、お金は媒介でしかない。コルトさん、私今日、卑しくもストアカードを持ってきてしまいました。そんな場ではないと言うのに…。」


一瞬目を丸くさせるコルトおじさん。

目が細くなり口を大きく開けた。


「はっはっは!お若いですねえアニヤさん。引き抜きですか?」


「いえいえめっそうもない!あの少年に売りたいのですよ。店に来てほしい。ウチの道具を使ってほしいんです。お金がないなら足が出るくらい値下げしてもいい。でもタダはいけません。あの少年と、商人と客の関係になりたいんです。」


「商人魂ですな。なんだかワタクシも燃えてきました。まずは今日、あの少年がいたら詫びましょう。」


コルトおじさんが空に視線を移動させながら言った。


「ええ。居るといいですな。〝ハイビスカスを頭につけた寝ぐせ頭の少年〟」


胸の奥がぎゅっと縮む。

楽しそうな横顔が浮かぶ。

頭の中が白くなる。

息が詰まる。

今のナギの話?

ダガヤ・クルーにナギがいるの?

ナギじゃないでしょ?

でもハイビスカスなんてつけてる人ミトハロで見たことない。

ナギじゃないでしょ?

コロンとナギが戦ったの?

ナギそんなに強いの?

あたしの知ってるナギじゃない。

どうして?

一人で戦えるの?

なんで?

苦しい。

考えたくない。

違う。

考えたくないわけじゃない。

おじさん二人はまだ何か話している。

口が動いている。

音も聞こえている。

頭に入ってこない。

魔法どこで練習したの?

アネット?

なんで?

アネットもういないじゃん。

どうしてそんなに強くなったの?

あのナギがコロンに向かってったの?

アルセナでジェル状のモンスターと戦う前に散々逃げたナギが?

どうして?


「―嬢――!」


あんなデカいコロンに立ち向かえるの?

なんで?


「お嬢―ん!」


誰かのおじさんの声。


「お嬢さん、着きましたよ。」


「あっ、えっ、はい!」


「集中していらっしゃいましたな。ここの人達は大丈夫だと思いますよ。」


あたしの耳元でアニヤおじさんが優しい声で囁いた。

ダガヤ・クルーの事務所に到着したようだった。

扉を勢いよく開けるヘルデ。

中は広かったけどドミヌスハウス程じゃない。

入口の左右に四つずつ置かれてる丸いテーブル。

カウンターが奥にある。

ヘルデが名乗ってる。

ドミヌスハウスはこういうスペースなかったな。

人は少ない。

がらんとしてる。


左奥の階段の近くにフライパンを腰に付けた少年が見えた。

あたしは声が出そうだった。

背が低い。

髪色も違う。

エプロンしてる。

首にかけてるゴーグルが見えた。

人違いだったみたい。

少年はこっちを見ると階段を勢いよく駆け上がっていった。


カウンターに視線を移動させる。

何かを零したような赤い、あれ血?

すごい垂れてる。

前回のかな、コロンが傷つけた時のかも。

猛ダッシュで階段に向かうチュニックの女の子が視界に飛び込んできた。

かわいい。

青ざめてる気がした。

おなか痛いのかな。

ショートボブで黒髪の子。


フロアのテーブルには一人お客さんがいるみたい。

多分男。

耳にかかるくらいの濃い茶髪。

男の上半身には幅広のベルトポーチが斜めに巻き付いてる。

ちらっとブレスレットが見えた気がした。


カウンターから筋肉質のスキンヘッドが出てきてヘルデと話している。

ピアスすご。

奥の部屋から女の人が出てきた。

スタイルがすんごく良い。

おっぱいでか。

美人。

茶髪のロングヘア。

お臍出してる。


皆でテーブルに着いていた。

あたしは人一人分くらい離れて斜め後ろに立つ。

耳に神経を集中させる。


ダガヤの人達が商人に売った回復薬にニセ物があってそれで揉めてるみたい。

賠償金よこせ的な。

筋肉の男の人は顔が青ざめてる。

ピアスすご。

スタイルが良い女の人は少しイライラしてそうな感じ。

おっぱいでっか。

ベゼなんとかさんって呼ばれてる。

コルト、アニヤのおじさん二人は黙ってる。

話を進めてるのはヘルデ。

ダガヤ・クルーはリーダーが今いないみたい。


階段の上からさっきの女の子が時々覗いてる。

かわいい。


女の子のかわいさに見惚れていると近くのテーブルに座ってた濃い茶髪の男が立ち上がったのが見えた。

話し合いをしてる皆に近づいてくる。

ワイドなパンツに七分丈のシャツ。

上半身に斜め掛けしてる幅広のベルトポーチにはポケットがたくさんあった。

括り付けてある腰のエーテルシューズが揺れてる。

ラグナロクに手を添える。

テーブルの横に立つと声をかけてきた。


「あの~、お話し中すいません。聞こえてきちゃって。その回復薬、買った人紹介してもらえませんか?」


笑顔でヘルデを見る濃い茶髪の男。

聞き取りやすい高めの声。


「な、なんですかあなたは。買った人ですって?」


ヘルデが応じる。


「ただの旅人です。ダチの店を頼りにミトハロに寄ったら入れ違っちゃったみたいで。偽物混じっててもいいから安く買いたくて。もうお店からは引き揚げちゃってると思うんで買った人紹介してほしいなって。」


「ちょっと!話の邪魔しないでもらえます!?」


シェアが怒気を含んだ声を出して立ち上がる。

両方の掌を前に出して左右に振るベルトポーチの男。


「ちょっとちょっと!なんでそんな怒るんですか!って事はもしかしてあのドミヌスですか!?」


「だからなんだってんだよ!」


飛び掛かりそうなシェア。

あたしは全員の顔が見える位置に移動する。


「おい。」


〝筋肉質の目つきが悪い男〟が〝濃い茶髪の男〟を見上げる。

怒ってる。

ん?

あれって怒ってるの?

ずっとあの目つきじゃなかった?


「ちょっと聞いただけじゃないですか!なんなんですか、も~。で?買った人ってどちらの方なんですか?」


みんな黙ってる。

ヘルデの視線はテーブルをふらふらしてる。

臍が見えてる女の人は鋭い視線でそれを見てる。

濃い茶髪を見上げてる筋肉スキンヘッド。

その先に視線を移すと濃い茶髪の男はあたしの腰、ラグナロクを見てた。


「あの~、もし何か必要であれば――――」


アニヤおじさんがストアカードを差し出そうとしてる。


「アニヤさん!」


ヘルデが顔の向きを変えずに怒鳴った。

肩をすくませるアニヤおじさん。


「おまえ関係ないだろ!」


シェアが濃い茶髪男に怒鳴る。

目は見開き、顔が赤い。

なんでみんなそんなに怒鳴ってるの?


「じゃあもういいですよ。適当にどっかで買いますね。邪魔してごめんね。」


濃い茶髪の男は自分が居たテーブルに戻り、コップを手に取るとカウンターに置きに行った。


「ハゲピアスの店員さん!ジュースありがと!また来たらサービスして下さいね~!」


声を張る男。

ハゲピアスの筋肉店員さんはため息をついていた。


視線を感じる。

あたしの顔と腰の辺りを交互に見ながら濃い茶髪の男が近づいてくる。

目の前で立ち止まると同時に笑顔で声をかけてきた。

明るい声。


「良い剣ですね!すごい!」


「ああ、はい。」


適当に言う。

あたしから視線を外す男。


「剣士でもこんな下らない事するんだな。」


男は言い捨てた。

笑顔とは打って変わって無表情の横顔があたしの前を通り過ぎる。

それまでとは全く違う、とても冷たく低い声。

扉が閉まる音がした。


「ごめ、んなさ、い。」


口が勝手に動いた。

誰にも聞こえない声であたしはそう言っていた。


なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

話し合いが終わったとあたしが声をかけられている様子が目の前で起きている。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

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なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?

コルトとアニヤがあたしに御礼を言っているという場面。

それに対してあたしが会釈するという場面が続く。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

中心街。

商人連盟。

解散。

挨拶。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

シェア。

発言。

バシナリー広場。

向かう。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

歩く。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

シェアが手を繋いできた場面。

あたしが振り払うという場面。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

あたしの足。

歩く場面。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

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なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

階段を上ってる足。

あたしのつま先の場面。

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

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なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?

なんで謝った?




「リサ。トマト太郎、今どこ読んでるの?そろそろ私、追いつくかしら。」


「オレンジ姫編。あたし多分ここら辺で見るのやめちゃったんだよね。」


「ちょっとこの辺りから登場人物が一気に出過ぎよね。あんまり役割に違いもないし。私何故かオレンジ姫ちょっと記憶あるのよ。飛ばして読んじゃったのかもね。」


「うん。あたし、オレンジ姫の超洗脳攻撃も強すぎて少しだけ萎えちゃって。」


「わかる!」


ネリがハンカチを口に当てて大笑いした。

パイナップルのワンポイントがちらっと見えた。

かわいい。

あたしもそれを見て微笑んだ。

ふと部屋の奥に目を向けると、カードゲームをしてた男達は一人もいなくなっていた。


シェアが視界に入る。

猫背で虚ろな目をして反応がない。

落ち込んでるみたい。

なんで?







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