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第3話/初めての王様/NAGI.pov


-アルセナ城 謁見の間-



目の前にはすごく偉そうにしている人が、豪勢な椅子に腰かけている。

その椅子と出入口を結ぶように赤い絨毯が敷かれいて、僕はその上に立っていた。

なんでお城って赤色が多いんだろう。

そこにいる大人達は、緊張感で空間を埋め尽くすのが趣味みたいに姿勢を正していた。


その雰囲気にのまれて、少しだけ僕も首筋が突っ張っていたけれど

緊張よりも不機嫌が勝っていた。

リサの〝付き添い〟ではなく〝勇者〟として案内されたからだ。


たしかに僕は、勇者の剣を抜いた。

一時、この世界の勇者になった。

しかし返却したはずだ。

剣を最後に抜いた人が勇者じゃないの?

大人達の〝勇者判定〟に納得がいかない。

村では農具とか遊具とか、最後に片付けなかった人間が悪者なのに。


感情が顔にでそうだったので目の前に集中し、辺りを見回す。

部屋の壁際には、例によって衛兵達が等間隔で並んでいて、その間に高級そうな陶器が置かれている。

狂ったフリして片っ端から破壊したら勇者取り消しになるだろうか。


僕の正面にいるすごく偉そうな人は〝髭もじゃ〟だ。

六十歳台だろうか、白髪に覆われている。

ザ・王様って感じ。


豪勢な椅子は何段か低い階段で囲まれていて高さがある。

椅子の左右に降りた先にも衛兵。

壁際にいるそれよりも、少し誇らしげだ。

鋭い眼差しを感じる。

なんかの拍子にタメ口をきいてやりたい。


家よりも格段に広い空間だけど勇者の顔合わせとしては狭く感じる。

埃の匂いなのか、村の〝占いおばば〟の家で本を読ませてもらっていた部屋のにおいに似てる。

そんなに使われていないスペースなのかもしれない。


僕の右隣にはリサが立つ。

親指を握りこんだ拳を体の側面にこれでもかと密着させ、爪を隠していた。

勇者の選抜会場で衛兵に取り押さえられて、

ここに来るまでに〝注意された〟以上には怒られていたのに。

よく笑顔でいられるものだ。


しかし、先ほど取り押さえられていた割には

リサに注がれる視線はどこか和やかなものに感じられた。

一直線となった姿勢の良さから、大人達は敬意を感じているのだろうか。

王様、こいつ、勇者のくせにネイルしてますよ。


「勇者、ナギ。こちらへ。」


「はい。」


納得がいかない。

僕は現実を噛み締めるように前に出る。

適当な所で立ち止まり、一礼する。

両方の手の平を天井に向けて体の前に差し出した。


〝髭もじゃ〟が勇者の剣を片手に階段から降りてきた。

衛兵がしかめっ面で立膝らしきジェスチャーをしているのが視界に入ったのでその姿勢をとる。

〝頭が高い〟という事だろうか。

ルールがあるなら先に教えておいてほしい。

注意をするための衛兵なのか、この場を安全、迅速に取り仕切るのための衛兵なのか。

一体、貴殿はどちらですか?

僕は舌打ちしそうだった。


手の平の上に勇者の剣が置かれ、周囲の緊張感に少しだけ安堵感が混じったようだった。

僕には呪いの剣に見える。

王様は何やら言葉を放っていたが低い声でこもっていて聞こえない。

力強く髭を見つめ、問題なさそうに真剣な表情で頷いておいた。

共鳴するように、ゆっくりとした瞬きに合わせて髭が上下したのが見えた。


立ち上がって正対したまま一、二歩下がり会釈をし、

呪いの剣を腰に当てながら定位置まで下がる。


リサと目がちらりと合った。

凛とした表情でリサも僕に頷く。

茶髪の中の一筋の紫がすっと揺れる。

そういえば、この女子はエクステもしていたんだった。

特に注意をされていないので勇者はエクステ問題ないらしい。

やはり本命はネイルだ。

ばれてしまえ。


「勇者、リサ、前へ。」


「はい!」


ここだ。

分岐点。

ネイルがバレて、浮ついた気持ちを叱られて

やっぱりこいつらに世界任せられないやあって感じで芋づる式での

僕まで勇者急遽取り消しの世界線。

あり得るぞ!


僕は前に出るリサの後姿を凝視していた。

王様まで辿り着き、手は親指を握りしめたまま姿勢を落とす。

マナーはバッチリだ。

僕と順番が逆だったら衛兵に怒りのジェスチャーされていたのは絶対にリサだから。

相変わらず手は体の側面にある。

剣を差し出されて受け取ろうとするその時だった。


指を伸ばし、手の平を回転させながら差し出すスピードに唖然とした。

こんな厳かな空間であんなに素早く動いてもいいんだ。

王様は満足そうにリサに剣を授けた。

ラストチャンスを担う頼みの綱の衛兵からも、爪は見えない角度だった。


勇者の剣は一本しかないので

〝ラグナロク〟という剣を渡されている。

アルセナに厳重に保管してある相当良いモノらしい。

桃色ネイル女子にラグナロクが渡るという

僕にとって前代未聞な光景を無表情で見つめていた。


剣を両手に乗せたままリサは立ち上がり、

軽く会釈した後、ラグナロクを手の平に乗せたままこちらに戻ってきた。

頬をやや赤らめて重そうな剣を見ている。

口角に視力があるんじゃないか。

そう考えてしまうほど、それは吊り上がるのを耐えている。


僕の横に着くとリサはくるりと王様を向くが、

一向に剣を腰に当てない。

手の平に乗せたまま動かなくなった。

何かの拍子にネイルがバレるのを警戒しているのだろうか。

王様、違和感なら今です。今。



僕の念波も虚しく、滞りなく進んでいく。

腐っても王様なのだから、数々の人間と相対する機会はあるだろう。

丁寧過ぎて皮肉にも見えるこのギャルの立ち振る舞いに違和感は抱かないのだろうか。

この〝桃色ネイル勇者〟が正常で僕が異常なの?

髭からもじゃもじゃと言葉が飛び出しているが耳に入ってこない。

窓から入る日差しできらきら舞う埃が妖精みたいだった。



妖精もそこそこに、リサの〝粗探し〟で時間を潰そうと横目で見るが、

ラグナロク女子、巧妙だ。

とても初めて勇者の剣を抜いたとは思えない絶妙な角度が徹底されており、

桃色ネイルは息を潜めていた。


「支度金を授ける」


〝金〟の言葉に僕の視線が髭に向く。

村で話した時にリサが言ってた通りだ。

お金くれるらしい。

どちらか前に出るように言われたので僕が行ってやった。


前に出る途中〝ひとり五万エンテ〟と聞こえてきた。

妖精の加護を受けたかのように足が軽くなる。

表情の綻びが制御できない。

我慢だ、僕は真摯なタイプの勇者なのだから。


僕が家から〝五千〟持たされていて、たしかリサが〝一万五千〟。

〝髭もじゃ〟から支給された金額と合わせて〝十二万エンテ〟だ。

といってもリサはネイルとエクステ代ですでに使用しているから少し減っているだろう。


しかし、両家の金額を並べてみると、

王様、つまりアルセナ城から勇者の支度金として一人〝五万〟ってちょっと安い気がする。


ジョージおじさん曰く宿屋が一泊、〝三百~七百エンテ〟。

食事代は一食〝八十エンテ〟くらいだろうか。

節約せず一日に〝二千エンテ〟消費しても

合計〝十二万エンテ〟あれば、かなりの日数を何もせずに過ごせると思い直した。


衛兵が王様に近づき、袋を渡して足早に定位置に戻っていく。

あなたがそのまま渡しに来てほしい。


呪いの剣と同じ姿勢で受け取った。

特に衛兵は反応しなかったので基本の所作なのだろう。

ずしりとした重みがあったが、魔王討伐の依頼料金と聞くと軽く感じる。

世界の平和を天秤にかけなければ、初めて持つ〝十万エンテ〟はたしかに重かった。

王様に深々と頭を下げて戻る。


ラグナロクはまだ手の平の上。

逆に不安になる挙動だ。

僕がお金を受け取ってあげたからその姿勢は成り立っているわけで。

手数料として二万エンテくらい、後でねだってみることにする。


二人で〝十二万エンテ〟もあれば、しばらくは市街のどこかに潜伏できる。

すぐに魔王討伐に行かなくてもいいのだ。

お昼くらいに起きて、おいしいごはん食べて、あまいものとかも食べたい。

お金持ちしかいけない区画にも勇者特権で入れたりなんかして。


市街地を散歩して、お城の近くの自然もゆったり見ちゃったり。

普段あんまりしない読書とかもいいかも。

小鳥のさえずりに微笑みながら優雅に過ごす。

暇になったらリサと話して、好きなタイミングで睡眠をとるのだ。

なんて煌びやかな勇者ライフ。


そんな事してるうちに、なんかの手違いで魔王が爆発するかもしれない。

考えるだけで背中から羽が生えそうだ。


心ここに非ずで赤い絨毯に視線を注ぎながら明日に思いを馳せていると、

〝髭もじゃ〟は咳ばらいをした。

勇者達からの質問タイムのようだった。


僕は溌溂(はつらつ)と挙手をする。

どうせ失うものなどないのだから、聞いたもの勝ちだ。

勇者の剣を抜いてしまったその瞬間から僕は何かがおかしかった。

挙手が意外だったのか、横でラグナロクがぐわんと揺れる。


「王様、王様はその地位についた時に、どのような事を考えていたんですか?」


言葉か衛兵、どちらが早いか。

両サイドの衛兵が飛び出し、


「慎め!」


と叫んできた。

叫び声でラグナロクが落ちそうだった。

ついにネイルがバレたんだ!

不意の返却式の到来に僕は笑顔が落ちそうだった。唇が歪む。

王様が衛兵を手で軽く制止しながら口を開く。


「余の名は〝オウ・サマ〟じゃ。生まれてから今まで王位に就く事を疑わなかった。よって、何も疑問などはない。」


衛兵が下がる。

僕が王様を〝呼び捨て〟にしたと思われて衛兵が飛び出してきたのかもしれない。

勇者として初めてお会いする場で、王様を呼び捨てにするとか、そんな事あります?

ねえ、〝オウ・サマ王様〟。

さらに僕の不満を看破したような回答だった。

心外だ。

聞きたい事がもうひとつあったが辞めた。


〝オウ・サマ〟は特段怒っている様子でもなく。

ラグナロク女子も微動だにしないものだから、この場は終了となった。

一応ここに来るまでに出身とか両親についてとか、僕達の情報は衛兵に伝えたので、

あとはさっさと世界を救ってこいという流れなのだろう。

手に持つ〝十万エンテ〟が軽くなっていく。


リサと一礼した。

ラグナロクを手の平に乗せたまま一礼をするものだから、

落とせと祈っていたら目が離せなくて異様なお辞儀となった。

僕達は身を返し出入口へと向かう。


リサが肘で僕を突いてちょっかいを出してくる。

せっかくここまで粘ったのに落ちるよ、ラグナロク。

小突かれたのを無視しようとしたが改めて見ると、とても格好良い。

ラグナロクに魅了されつい口を開く。


「ねえ、僕のと交換して。」


前を向きながら顔だけ少し近づけてリサに囁いたが返事はない。

手数料で三万エンテをもらうのだからよしとしよう。

手数料の天井はこの部屋のように高い。


出入口が近づくにつれて緊張が解けていき、新鮮な思考が脳に芽吹いた。

あれ、待てよ…。


〝交換〟〝勇者がふたり〟〝ラグナロク〟


はっとした。

なんという事か、勇者になったショックで重大な事を見落としていた。

僕は素早く振り向き、二、三歩戻る。


「王様!いえ…オウ王様!!!」


考えるよりもはやく言葉が出ていた。

王様は衛兵と部屋を出るところだ。

僕が二、三歩足を出したのに両サイドの衛兵が素早く反応していた。


この場にいるからといって思考を停止していた自分が恥ずかしい。

あの大注目の中で剣を封印した自分に申し訳ない。

あきらめるな。

まだ終わってない。

僕の戦いはこれからだ。



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