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第38話/初めての防衛戦/Limited_NAGI


アネット出発から八日目。

ナギは、未だリサと話せないでいた。

キューに聞くとリサは毎日どこかに外出をしているようだった。



彼女が部屋に戻ると会話は無理だろうと考えたナギ。

夕暮れ以降、とにかくナギは宿屋の一階にいれるように用事を作る。

リサが帰ってきた時に話しかけられるようにしたかった。



アエスとの会話から着想を得て、夕暮れ以降のキューの宿屋の手伝いを三日前から無給で申し出ていた。

キューとドワンは困惑し、遠慮がちだったが承諾してくれた。

長居してしまって申し訳ない、色んな経験を積みたいという苦しい大義名分だ。


宿の二人が特に詳細を聞いて来なかったのは有難かった。

階段を上がった所の踊り場に座るドワンから作業の指示をもらいながら夜に手伝いをしていたのだった。


リサに果汁煮の干しフルーツをあげたが特に反応は変わらない。

話すのが無理なら挨拶だけでも。

挨拶が返ってこなくてもナギから声を掛けるだけでも。

そう思いながら、ナギなりにリサに寄り添っていた。


昼間はダガヤ・クルーへ行く頻度を減らし魔法の練習に充てていたが、アエスと話す時間が少しだけ増えた。

お互いの事を深く聞かず他愛のない話だけをする時間。



大人やミトハロ、ドミヌスへの愚痴、好きな食べ物の話やレイルの話。

時にはアエスの夢を一方的に聞くだけの日もあった。

色々な話をした。

ナギは安らいだ。

アエスの明るい性格もあったかもしれない。



ミトハロ到着から二十二日目の朝。

ナギは起床すると体を動かし、気合を入れた。

朝から動きっぱなしで夕方から夜は宿の手伝い。


リサが帰ってきたので手伝い終わりますとも言えない。

〝同調〟や〝魔女の反芻〟といった日課も欠かせない。

寝る時間が少し遅くなっていた。

何故か寝つきも悪い。


こんなに動いているのは初めての経験。

少し体が重い気がした。

だがそうも言っていられない。

今日は〝筋肉スキンヘッドピアス〟こと、レイシーの告白の日だった。


少年は部屋を飛び出すと通り過ぎながらリサの部屋を二回ノックし、ドワンとハイタッチ。

軽い歓談をしながらリサが出てこない事を確認し、宿を出た。





「レイシーさん、おはようございます。」


ナギはダガヤ・クルーのカウンターに着くと気合を入れた挨拶をした。


「はえぇな。何おまえ丁寧に言ってんだよ。普段通りにしろよ。おはよう。今日はありがとう。」


(レイシーがありがとうだって!?〝悪ぃな〟とか〝おう〟とか〝すまねえな〟とかのレイシーが!?ありがとう!?〝ありがとな〟じゃなくて!?うわー!)


スキンヘッドの様子は明らかにおかしかった。

尻目で確認するナギ。


視線は定まっていない。

独り言が多い。

大きく息を吸ったり吐いたりしている。

自分のスキンヘッドを何回も手で撫でていた。

ピアスを手でいじくっている。

明らかにおかしい。


(レイシー!カウンターの上、もうそこ拭くの四回目だぞ!)


混乱してますか?と聞けば混乱していないと返事があるだろう。

しかし余裕がない。

心がパッツパツ。

まさにそんな状態だった。


服装も違っていた。

普段はラフな半袖シャツ。

筋肉のせいでタイトになってるのか元々そうなのかわからないが履きやすそうなズボン。

短パンサンダルの時もあった。


今日は白い長袖シャツだ。

ボタンは首元まで閉めている。

ズボンは黒い。

短靴。

ちょっとテカっているようにも見えた。

どこかのパーティに行くような格好だ。


異様な雰囲気のカウンターチーム四人。

いつも元気に近寄ってくるパルはカウンターの背の高い椅子に座り、真剣な表情をしてナギに頷いた。

その隣に目を赤く腫らしたマーク。


(もしかして〝勝負のレイシー〟をイジッたの!?)


肩を叩き声をかけるナギ。


「一緒に〝墓場〟の整理しよ。」


頷くマーク。

階段周辺のエーテルシューズは整理されたものと乱雑なもので不自然にコントラストが出来上がっていた。


「ダーガにシューズ隠されたパルが毎回ここの使って、終わったら投げてる。」


マークが元気なく解説した。

二人で整理する。

声を潜めてナギが言う。


「マーク、今日のレイシーはイジらない方がいい。ぶっ殺されるよ。」


「もうさっきころされた。」


時すでに遅し。

きっと容赦のないレイシー。

いつもの元気なマークの面影ナシ。


(朝からイジッてんの…?)


「今日だけは…今日だけは、どうしても、バカにしたかったんだ。」


マークは涙目で言う。


(勝負の日を知っててイジッたの…?)


パルから聞いたのだろうか。

なんとも命知らず。

ラブレターを渡したら暗記して挨拶代わりにしていたに違いない。

ナギにはナギの生き方がある。

リサにはリサの生き方がある。

マークもそれは同じだ。

もう何も言うまいとナギは考えた。


墓場の整理を終わり、手を洗う。

フロアには四人以外誰もいない。

レイシーは相変わらず様子がおかしい。

ずっと物置部屋とカウンターを行き来している。

パルまで緊張しているようだ。

笑顔がない。

マークは変わらず静か過ぎる。


(マークたぶん殴られてるでしょこれ…。)


なぜかナギはそう思った。

しかし自業自得である。

今日だけはイジッてはいけない。

ピアスが十個になるかレイシーが天国に昇るかのどちらかの日。


フロアに誰かしらダガヤの人間がいれば雰囲気は変わっただろう。

朝だからか、誰もいない。


地獄のような雰囲気のカウンター。

このままレイシーを送り出してはまずいと直感で動く。

ナギはアイテムポーチから干しフルーツとハイビスカスを取り出す。

スキンヘッドには付けられないのでハイビスカスを自分の頭に付けた。

アエスに教えてもらったお店で買った果汁煮の干しフルーツをみんなに振舞う事にした。


「これさ、買ったらすごく美味しかったんだよ、みんなで食べようよ。」


パルとマークは喜んでくれた。

弾けた声でフロアの雰囲気が変わる。


「レイシーも!食べていいよ。」


レイシーは大きく息を吐き天井を見つめていた。

白目寸前だ。


「レイシー!」


声を張ると小刻みに体を震わせてナギを見る。

帰還したようだ。

みんなで干しフルーツを摘まんだ。

さすがにスキンヘッドも気遣われている事を感じたのか、大サービスをぶちかます。


「おい、ガキ共、今日パインジュース、無限。」


わっと湧く三人の少年少女達。

なぜ開かれたのかなんて誰もわからない。

知る必要もないのだ。

ヤケにも見える大宴会が開催された。

ダガヤ・クルーの一階フロアは笑顔と賑やかな声で埋め尽くされた。





日が高く昇る頃、スキンヘッドは扉の前に立ち三人を見る。


「じゃあみんな。俺、行ってきます。少しの間だけど事務所、頼みます。ベゼフェリがその内来るから。」


レイシーの出発の時。

蝶ネクタイを手に持っていた。

緊張し過ぎているのか、ついに言葉遣いが丁寧になっている。


爽やかな笑顔。

先ほどまでの陰鬱とした感じはない。

宴会が効いたのかもしれない。


(感情を選ぶってこういう事なのかも。)


アネットの言っていた事を思い出すナギ。

見送る少年少女達。

笑顔で手を振る。

マークはパルに片手で口を抑えつけられていた。

扉を開けレイシーは前に進んだ。

神々しく光るスキンヘッドを三人は見送った。


マークが開放されカウンターに走り出す。

レイシーが大きめの木の器に入れていったパインジュースをコップに注ぎながら言った。


「今日もフラれたら、パインジュース飲み放題の日がまた来るぜ!」


パルに思いっきり蹴られていた。

皆で背の高い椅子に座る。


「成功するといいね、レイシー。ダメだったらまたイライラしちゃうかなあ。」


パルが言った。

大丈夫だよとナギは返す。

パインジュースを一気に三杯飲む。

恍惚とした表情でレイシーを応援した。


少年少女達は意外にも働いた。

フロアに人が全くいなかったので多少はやりたい放題であったがパインジュースが効いた。

サボるよりも作業量の方が多かったのだ。

レイシーがいなくなったからか、パルはレイル禁止の愚痴から始まりあらゆるチームの不満をナギにぶつけていた。


(僕がパルくらいの時はこんなに色々考えてなかったな。)


相槌を打ちながらそんな事を考える。

拭き掃除や掃き掃除、整理、物置部屋の整頓など大体やる事が終わった。

建物の外周まで掃除してしまった。

元々利用者がいなければやる事は少ない。

フロアに誰もいない事もあってカウンターに近いテーブルの周りに三人で座り、大騒ぎをしていた。


パルが行き過ぎたマークに頭突きをかました時だった。

事件が起きた。

扉が激しい音を立てて勢いよく開いた。


「こんにちは~。」


男がぞろぞろと入ってきた。

三人の少年少女は驚いて会話をやめる。

一斉に立ち上がった。


「スウォーム商人連盟のシュヴァルム・ヘルデと申します。ダーガさん、いらっしゃいますか?」


小綺麗な格好をした中年男性は口角だけ上げて言った。

栗色の髪、額の真ん中で前髪が左右に分かれている。

他にも同じような格好の中年男性が二人。

その後ろにガラの悪い男が五人。

一人は横にも縦にもデカい。

左腕の肘から先がない。

怪我をしているようだ。


右腕に宝石のタトゥーがちらりと見えた。

心拍数が一気に上がる。

床が抜け落ちる感覚。

ドミヌスだった。


「マーク、パル、逃げて。」


ナギが囁くと同時に階段に一番近いマークが〝つかむ〟で二階に駆け上がる。

パルは逃げずに叫ぶ。


「ダーガはいないよ!なんですか!?」


ヘルデと名乗る中年男性は言った。


「先日、お宅から大量に仕入れた回復薬なんですけどね。〝まがい物〟があったようでして。ウチだけじゃなくて加盟してる周りの露店も相当ヒドイ状況なんですよ。その事についてお話したいんです。」


「今、他の大人達もいないんです。ダーガもいない。また来てくれませんか?伝えておきますので。」


ナギが口を開く。

声が震えた。


中年男性を見据えたままナギはパルの肩を手で掴む。

引き寄せると背中を優しく押してあげ階段方面にゆっくりと誘導する。

青い顔をしたパルの横顔が見えた。


「パル、逃げて。」


囁くと階段に向かって走り出した。

後列にいた男が〝つかむ〟でパルに触れる。

ナギはすかさずその男の魔法を〝つかみ〟引っ張った。

魔法がパルから剥がれる。


(えっ剥がれるのこれ!?)


後方にかかった力でパルが後ろに数歩よろける。

視界の端から片腕のデカい男がパルに近寄り、髪の毛を手で掴んでいた。

気づけば口から言葉が飛び出していた。


「おい!手離せ!」


デカい男に叫んだ。

涙目だ。

膝が笑っている。

体が動かない。

相手がデカ過ぎる、人数が多すぎるとたじろいだ瞬間だった。

湧いた恐怖、感情が自分のものじゃないように感じ、何故か別の思考が巡った。


(あれ?なんで僕、怖がってんだろ。ブローチの方が怖くなかった?アネットももういないし。リサもあんな感じだし。別に失望される仲間ももういない。どうでもいいじゃん。)


ナギは自分の感情を掴む。

そう考えると瞬く間に胸が空いて笑えてきた。

膝の震えがピタリと止んだ。


ヘルデと名乗る中年の声が横から聞こえた。


「あの~、こちらとしても揉め事を起こす気はありませんので、大人を呼んできて頂きたいのですが。」


緊張が解けると、藻掻いているパルの声が大きくなった。

顔の温度が沸騰するように上がる。

瞼が震える。

腹の底で火が燃えた。


(髪を掴んで揉め事を起こす気はないってどういう事だよ!)


語気が荒くなる。


「だから!いないって言ってんだろ!また来てよ!」


髪を掴まれて引きずられるパルが再び目に入った瞬間。

ナギの中で何かが弾けた。


「そこの!デブ!離せって言ってんだろ!おまえらドミヌスは子供相手にしか強く出れないじゃないか!デブ!離せ!おまえハゲてるぞ!」


別にハゲてはいなかった。

デカい男の動きが止まる。

パルが髪を掴まれたまま目を丸くしてナギを見ていた。


肩が強張りこめかみが脈打った。

テーブルを拳で何度も強く叩く。

呼吸は荒い。


「聞こえてんのか!?おい!デブ!おまえの事だよ!この場におまえしかいないだろデブは!片腕ないおまえだよ!!はは!誰かにやられたんだろ!?弱いと思って絡んだら相手が強くて負けたのか!?いつもそうだなお前は!弱いとわかったら飛んで向かっていくよな!デブなだけ!ははは!さすがにその体格で子供の髪掴むのはやばいでしょ!来るなら一番でかい僕だろ!弱い奴は女の髪を掴むって本当だったんだな!おいなんか言えよ!デブ!はははは!」


パルから手を離し、顔を真っ赤にしてナギに駆け寄るデカい男。


(パルとマークを逃がせればいい!)


ナギは力一杯叫んだ。


「パル!逃げろ!止まるな!はやく走れ!」


叫ぶ前にパルが階段にダッシュしていくのが見えた。


腹に衝撃があった。

カウンターへ数歩吹っ飛ぶナギ。

頭を強く打ったが階段へ走るパルから視線を外さない。


二本〝つかむ〟の帯がパルの肩を掴んだ瞬間に〝はなれて〟をパルの背中に撃つ。

階段方向に加速した。

魔法の帯は二本とも剥がれ、パルは前のめりにバランスを崩しながら二階に上がっていった。


視線を前にやると二度目の衝撃があった。

デカい男の前蹴りがナギの鳩尾に入る。

息ができない。

そのまま胸倉を掴まれる。

息が荒いデカい男。

顔が真っ赤だ。


「てめえ…。」


(こいつ魔法に全然詳しくない!首を絞めないぞ!)


胸倉から手が離れると同時に右足の蹴りが入る。

衝撃でテーブルにつんのめる。

呻き声が出た。


「コロンさん!」


慌てた声。

小綺麗な格好をした中年の一人が叫んだ。

目は絶対に閉じず、魔法は使わない。

万が一パルを追いかける人間がいたらその人間を〝つかみ〟たかった。

息が出来ない。


「あの~、早くどなたか大人の方を――――」


ヘルデと名乗る中年が口を開く。

なにか喋っていたが繰り返しだろうと無視をした。


(どうせ相手が動くまで魔法は使えないんだから喋っていいか!)


せき込みながらテーブルから起き上がる。

肩で息をして胸を押さえながら呼吸を整える。


パルを追うなら片腕のないデカい男以外だと予想した。

視線を入口にいる男達に完全に固定する。

なんとしても自分に注意を向けたい。

ナギは挑発する。

自分が言われたら辛い事を想像して言い放った。


「おいデブ!ハゲてるってのは嘘!たぶん!安心して!でもデブはほんと!あと後ろにいるおまえらもドミヌスだろ!?おまえらが弱虫だってのもホント!このデブが負けた時何してた!?指咥えて見てた?怯えて――――」


片腕がない男が何か喚いたと同時に視線が高くなった。

足が少し浮く。

ガラの悪い男の数人がフロアに広がったのが見えた。

片腕のデカい男に胸倉を掴まれている。

二、三歩移動したかと思った瞬間に背中に衝撃。

カウンターに押し付けられるナギ。

デカい男の顔が迫る。


「てめぇの方が弱ぇじゃねえか!こっち見ろガキ!」


(後ろの奴らが見えない!デブしか見えない!)


もう追われても大丈夫だとは思ったがこの人数だ。

何をするかわからなかった。

そもそも何故後方の人間は〝つかむ〟しかしないのか理解が出来ない。


物置部屋には安い物しか置いてないとプレーノが言っていたのを思い出す。

ナギは慌てた表情を作り、物置部屋がある左上に視線をやる。


(パルやマークが追われるよりもマシ!)


再度、怯えた感じで片腕の男を見る。


「おい!奥の部屋なんかあるぞ!持ち出せ!」


ナギから目を逸らさず、片腕の男が叫んだ。

男達がばたばたと物置部屋に向かっているのが押し付けられながらでも見えた。


カウンターと壁の間に男達が入った瞬間に〝はなれて〟を撃つ。

先頭の一人が弾かれ後ろの人間もバランスを崩していた。


顔に衝撃があったがアネットよりも弱い。

胸倉の手を放してコンパクトに打っているのかもしれない。

衝撃の後すぐに胸倉に圧を感じた。

掴んでいるのだろう。

視線は依然として物置部屋周辺に置いている。


(今度は荷物守らなきゃ!)


「おい!てめえ!こっち見ろ!」


片腕のない男が鼻先で叫んでいる。

逃げる選択肢は浮かばなかった。

誘導したのはナギだったがそれでもレイシーの顔が浮かぶ。

席を外している時に、よりによって告白をしている時に荷物が盗まれたなんて知れば本人は気にするだろう。

荷物を守る事しか頭にない。


(あのラブレターがこんなんで苦い思い出になっちゃダメだ!)


物置部屋の入口の上の縁を〝つかむ〟一筋の帯が見えた。

帯に沿ってカウンターを越えていく男に〝はなれて〟を撃つ。

タイミングが遅かった。

目の前を通過した後にナギの魔法が当たる。


しかし魔法で飛んできた男もカウンターの縁に脛を強打していた。

軌道が浅かったのだろう。


男が放った魔法の勢いとナギの〝はなれて〟の加速。

その両方が乗った。

物置部屋の入り口の上の角に頭をぶつけ転落した。

カウンターの上の物が落下する音がまばらに聞こえる。


脇の通路を通り抜けようとする男二人に再度〝はなれて〟を撃つ。

先ほどと同じように後ろに飛んでった。


(こいつら〝はなれて〟を知らないの!?)


「おい!てめえ!こっち見ろっつってんだろ!」


太腿に激痛が走る。

声を押し殺して呻くナギ。

叫び声は上げられなかった。

魔法が使えなくなる。

さすがに片腕の男に顔を向ける。

腿に装備していた短いカランビットナイフが太腿に刺さっている。

片腕の男が何か叫んでいるがナイフが刺さったショックで聞こえない。


男は凄まじい形相でナギの衣服を握っている。

奥の部屋に視線を戻す。

縁に頭をぶつけた男性はカウンターから見えない。

音が戻る。


「おい!早くしろ!」


片腕の男が叫ぶ。

カウンターの横から二人通ろうとしている。

〝はなれて〟を撃つ。

焦っているのだろうか。

二人の男は先ほどと同様に後ろに吹っ飛んだ。

太腿に激痛が走る。


(もう一人は??)


確認したかったがどちらにせよ掴まれていて身動きがとれない。

片腕のない男に〝はなれて〟を撃とうか迷ったがデカすぎて無駄に終わるかもしれないと思考を止める。

物置部屋に集中した。


「コロンさん!本当に大人いないのでは!?」


コロンと呼ばれたデカい男の向こう側から狼狽した声。


「うるせえな!黙ってろ!おい!おまえら早くしろ!奥の部屋になんかあんだろ!早く持ってけ!」


「子供相手にここまでやるなんて聞いてませんよ!すごい血が出てますよ!」


先ほどとは違う焦った声。


「だからうるせぇ!!奥の部屋の荷物を持っていけ!!」


出入り口からの声に反応する片腕の男。

声質から男達が一枚岩ではない事をナギは察する。

何度も通路に入ろうとする男二人に〝はなれて〟を撃ち続けた。


(こいつなんで僕の腕を塞がないんだ!?片腕だから?)


「おまえ!こっち向け!こっち向けって言ってんだろ!弱い癖によ!」


コロンと呼ばれた男がナギを起こす。

胸ぐらを掴まれて宙に浮くナギ。

太腿に痛み。

物置部屋が見えなくなる事に焦った。

入り口の近くに小綺麗な格好をした男が三人。

その内の二人の髭を生やした焦った顔が映る。

ヘルデは興味が無さそうな顔つき。

ガラの悪そうな男が一人居た。

鋭い目つきでナギを見ている。

両手をこちらに向けていた。


(一人は綺麗な服の護衛か!なんで魔法撃たないんだ!?何がしたいんだこいつら!)


焦った顔をした男の一人がナギの足元、床を見てぎょっとした。


「コロンさん!殺しはまずいです!私達も罪に問われる!」


コロンは無視をする。

胸ぐらを掴まれながら高さが上がる。

首に食い込みそうな衣服。

コロンの手の一部が衣服からズレて首に触れた。


(首を塞がれんのはまずい!)


ナギは自分の口の中に指を思い切り突っ込む。

胃がひっくり返るような不快な感触。

コロンと呼ばれた男の顔に吐瀉をした。


虹色のキラキラが襲いかかる。

顔を抑えて叫ぶ片腕の男、コロン。


(手が離れた!)


着地前に自分の胸に〝はなれて〟を撃つ。

キッチンに突っ込んだ。

カウンターの上に置かれていたパインジュースを頭から浴びる。


(足!痛った!喉がイガイガする!)


涙目で起き上がる。

むせながら物置部屋に目を向けた。

横たわっている男の顔を一人が平手打ちしている。

もう一人は室内だろうか。


入り口を向き、走ってきたコロンに〝はなれて〟をお見舞いすると後ろによろめいた。

ふと腿に視線を移すと出血量に驚いた。

堪らず太腿のナイフを抜き回復魔法を発声する。


(回復早く終われ終われ終われ終われ終われ)


床に落ちたアイテムポーチを取る。

中から回復スプレーを取り出して太腿に連射した。

痛みは引かない。

入り口からコロンが雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

時間稼ぎがしたい。


「あ!治安維持隊!助けて!」


ナギが指差すと入り口の男達が体をびくつかせ扉を見る。

物置部屋からは焦る声。

コロンはナギを見て笑っていた。

立ち止まり、物置部屋付近にいる三人に声をかける。


「来ねえよ!はやく持ち出せ!おせえんだよ!」


足の痛みがほんの少し引いてきたと同時に光も止んだ。

物置部屋の前で仲間を起こしている男の肩に向かって〝もえろ〟を唱える。


衣服が燃え上がった。

消火させないよう、近くにある水の桶を階段方面に向かってぶん投げる。

太腿が痛い。

木のぶつかる音と水の弾ける音が立て続けに響いた。

悲鳴と共にカウンターの外側に行き、床に転がる男。


(ダガヤが燃えちゃう!)


「外出て突き当たりに水の樽があります!急いで!」


ナギは嘘をつく。

燃えた男は走って外に出て行った。


物置部屋に一人。

一人は床で気絶。

カウンターの向こうにいるコロンが逃げる仲間を咎めていた。


(あのデブ何がしたいんだよ!っていうか丸腰なの!?)


「コロンさん!もう行きましょう!時間かけすぎだ!」


出入り口から低い声。

仲間内で揉めている。

回復スプレーを腿に連射しまくるナギ。


「うるせええええええな!俺に指図すんじゃねえ!」


コロンと男達の喚き声が聞こえたが物置部屋に集中した。


一人が荷物を持って出てきた。

〝はなれて〟を再度発声し室内に押し込む。


吐き気がした。

出血か魔力の枯渇か原因がわからない。

アイテムポーチからマナリーフを取り出し強引に口に入れる。


(あの男が起きちゃったら負ける!)


マナリーフを強引に飲み込みながら気絶している男に数歩駆ける。

腰のカランビットナイフを手に取り太腿にザクザクと深く突き立てた。

嫌な感触だった。


気絶していた男が我に返り悲鳴を上げる。

物置部屋の中にいた男が蹴り上げてきた。


避けられず額に食らうと同時にカランビットナイフを手から投げ離す。

蹴り上げてきた男に〝はなれて〟で距離を作る。


物置部屋から衝突音。

荷物がまばらに落ちる音がした。

さらにその男を〝つかむ〟で引っ張ると自分はキッチン側へ避ける。

気絶していた男に覆いかぶさるようにして物置部屋の中にいた男が引っ張り出される。

ナギは背中を発火させた。


「外出て右!ずっと行った所にも水があります!急げ!」


ナギはナイフを拾いながら嘘をつく。

叫びながら一度腹を蹴り飛ばす。

呻き声がした。


「早く!急げって!僕の魔法、回復できないから!そういう魔法なんだ!死ぬぞ!」


さらに嘘をついた。

もう一度蹴飛ばす。

呻き声なのか悲鳴なのか区別がつかない声。

持っている荷物をナギに投げ捨てて男は背中を叩きながら外に出て行った。

当たった荷物をキッチンの方向に足で強く押して滑らせる。


横たわっていた男を〝はなれて〟で壁際に押し込む。

出血している男の太腿に〝こおれ〟をかけた。


「その氷が解けるまでにアジトに戻らないといっぱい血が出て死ぬよ!」


そう言うと思いっきり男の顔面を蹴り上げる。

何かが折れるような感触が足先にした。

男に足を掴まれ軸足を引っかけて転ばされる。


「早く!ほんとに!死ぬぞ!」


見上げるとカウンターの上に巨漢が立ってるのが見えた。

ナギに向かって飛び掛かってくる。

〝はなれて〟を撃つが発動しない。

巨躯がナギに覆い被さる。


(〝こおれ〟の時、たしか無理なんだった!苦し…暗っ…)


藻掻こうとするが体が動かない。

ナギはそのまま気を失った。




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