第37話/初めての成長/Limited_NAGI
ミトハロ到着から十八日目。
アネット出発から四日目。
起床して適当に散歩を済ませた後、早々にダガヤ・クルーに向かう事にした。
レイシーのラブレターを所持していたくない。
アネットとリサの件でそれどころではなかったが、ミライ君から大金を回収した事で奪われた二万エンテ問題がほぼ解決に向かった。
今日はレイシーに伝えるだけにし、魔法の練習をしようと考えていた。
(これ失くしたら絶対に殺される…。)
宿の部屋を飛び出してリサの部屋の前を通りながら適当にノックする。
階段の踊り場にいるドワンにハイタッチを求められる。
応じながらリサの部屋を見た。
(まあ、もう出てこないよね。)
そのまま階段を降り、レイシーの元へ向かった。
*
「レイシー。これありがとう、返すよ。落としそう。怖すぎ。」
物置部屋でスキンヘッドに愛の束を返却する。
キューやドワンのリアクションを見る限り、レイシーの命よりも重いものだ。
「早すぎだろ…。昨日の今日だぞ。おまえの人脈どうなってんだよ。助かるけどよ。」
〝耳に九つの穴があいているスキンヘッド〟は困惑しながら布袋を受け取った。
枚数を数え終わるのを待つナギ。
勇者の剣を再封印した直後のように足をぴっちりと揃えて立つ。
手を前で組み、背筋をピンと伸ばし姿勢を正す。
決して煽る意図はない。
最後の一枚を数え終わるとレイシーが顔を上げて頷いた。
ナギが口を開く。
「それでは、結果発表です。」
「おう。覚悟はできてるからよ。」
直立不動の少年から丸椅子に座ったレイシーへのフィードバックが開幕した。
「おそらくカイバさんと同い年くらいのギャルの感想ですが…。」
息を呑むスキンヘッド。
「読んだ後の第一声が〝これ…すんごいわ。幸せになってほしい。〟です。〝売れる!〟〝これを伝えてもダメな恋愛ってあるの!?〟と追い感想を頂きました。尚、このギャルは泣いてしまいました。」
涙目になるレイシー。
(はや。)
「おっおっおまっ、おまえ―――」
「続きまして。」
「続きましてって何人に見せたんだよ!」
「まあまあ、落ち着いて。僕はレイシーの事を応援しています。応援していなければ昨日の今日でお返事をレイシーにしない。最初に絡まれた恨みをマークと一緒に晴らしているはずだ。二人でシューズを履いて街中にばらまいているはず。僕はすごく応援してるんだ。」
「お、おう」
「おそらく三十代くらいの男性にだけ見せました。男の目線も大事ですよね?レイシー。」
「はやく教えてくれ。辛い。」
「はい。それではお伝えします。」
ここぞとばかりに溜めるナギ。
狼狽える筋肉が新鮮だった。
「〝書いた人に会いたい。抱きしめてあげたい〟との事でした。」
レイシーは両目を片手で覆って下を向いた。
鼻を啜っている。
「さらに詳しくお伝えします。ギャルの方は紙の束を見て引いていましたが、読み進める内に泣いてしまいました。席を立ち、しばらく戻りませんでした。三十近い男性に関しては、最初は少し面白がっていましたが読み終わった後は泣いて立てませんでした。いわゆる号泣というやつです。」
ナエラがキャスターを諭す時の優しい口調をマネる。
レイシーを刺激しないように細心の注意を払った。
「おまっ…ばっ…くっあっ…。」
(泣いちゃった。)
「更に、ギャルの方はかなり真面目な人間なのでしょう。レイシーに感情移入をしてしまったので時間が立った時の感想はアテにするな。と言っていました。素晴らしい自己管理。レイシーを想う素敵な視点ですね。そのため、僕からも伝えません。」
「いっいっ…や…つっくっ!」
「ですがひとつだけ。九回も今まで告白を受けているのだからフラれた理由は価値観以外にあるのでは?と、そのギャルは言っていました。レイシーは悪くない可能性があります。」
肩を震わせて泣き声を押し殺すレイシー。
「ちなみにこれは僕の師匠…、ああ、あの緑髪の女性です。その方から教わった知識を今回にあてはめますと、無理にフラれた理由を聞いたり、原因がわかったからといってそれを相手に突き付けたとしても、相手が拒絶をするだけなのでその確認に意味はありません。相手の心を溶かす事が重要なのです。」
ナギは自分が直面している問題をレイシーに伝えた。
「ぐ、、のあぁっア、、フ、、ッフッタ、、 た、、、フォロ、、も、ばっちり、、ぅんぐ!」
レイシーは顔を真っ赤にして俯いた。
木材の床に涙が染み込んだ。
黒い点がいくつも増えていった。
相当悩んでいたんだろう。
少し落ち着くのを待つ。
入口から覗き込んでいたパルと目が合ったので目を閉じて首を数回横に振った。
パルは笑顔で引っ込んだ。
嗚咽が落ち着くとレイシーが口を開く。
「でよ…おまえは…おまえはどうだったんだよ。」
「はい。よくわかりませんでした。」
「そうか…。」
肩を落とすレイシー。
「待ってくださいレイシー。」
スキンヘッドが顔を上げる。
「僕は虫をプレゼントしてこの世に他人を一人作り出しました。今回感想を聞いた二人にそれを伝えたところ、ギャルは爆笑して会話不能になりました。〝虫〟と話しただけなのにです。男の方は何故かハイタッチをしてくれました。」
「爆笑…だと…?」
眼光が鋭くなる。
「レイシー、拳を握りしめないで。お互い現実を受け止めましょう。虫はダメなんです。いえ、いいかもしれません。しかしヒットしない可能性が高いものをあえて送る。というのはキツいと思います。なので、虫を迷わずプレゼントする僕に伝わらないラブレターというのは逆に勝算が高い。目的は、僕に褒められる事じゃない。カイバさんと付き合う事でしょう?レイシー。」
さらにナエラを憑依させる。
包み込むような優しい声色だ。
「ちなみに爆笑したギャルはとんでもなく良い人です。今から言う事に気を悪くしないで。顔も筋肉も見た事のない赤の他人のどうでもいい二十枚近いラブレター。見ますか?事前に紹介された少年がカウンターに立っただけで礼儀を欠いて殴りかかる人間もいるというのに。虫で爆笑したからと言って恨まないように。」
「お、おまえよ…。それはおまえが真剣に頼んでくれたっておかげもあるんじゃねえか。」
「ありがとう。レイシーのそういう所、僕は好きです。虫を渡したエピソードを話した時もレイシーが怒ってくれて嬉しかった。僕は一人じゃないって思えました。でもそのギャルはたしかに良い人ですので怒らないように。」
赤面するスキンヘッド。
「そ、その話し方よ。辞めろよ。」
「師匠から最近、人は図星を突かれると攻撃に転じるって学んだもんで。悩んでるのはわかってたからできるだけ刺激したくなくて。レイシーにぶん殴られたら僕上半身吹き飛んじゃうから。」
「おまえ…もっと人を信用しろよナギ!こんなに良い言葉をくれて殴るわけないだろう!!」
(あんたが言うか。っていうか悪い言葉だったら殴ってたの??)
レイシーはまた泣いてしまった。
鋭い目つきを片手で覆う。
「じゃあ、プレゼントについてなんだけどね。」
「ああ…。」
物置部屋が嗚咽で支配される。
「レイシーはミトハロに住んでるし知ってると思うけど、ルーピアは辞めておけって。全員声を揃えてたね。なんか当たり前すぎて家にある白身魚をあげるようなもんなんだって。今回の告白には合わないってさ。ちなみにミトハロにいる商人の友達もルーピアはファッション感覚で買ってく人が多いって言ってたのを僕も聞いた事があるよ。そういえばカイバさんも魔法使えなーーーーー」
嗚咽がピタリと止まるレイシー。
目を覆っていた片手をゆっくりと離すとナギを見つめた。
口を半分開けたまま目を剥いて小さく震えている。
さっきよりも顔が赤い。
ナエラを憑依させる。
「もう買ってるんですね。レイシー。やめましょう、ルーピアだけは。でもギャルは重すぎない方がいいと言っていました。ポケットとかポーチに入るくらいのもの。もうすでに告白の三回目か四回目で相手をリサーチした超喜び狙いのプレゼントはあげてるんじゃない?と予想していましたね。十回目ならこの手紙と気持ちっしょ!との事です。」
「すげぇ…。」
口半開きのレイシーが漏らす。
「本気のプレゼント、すでにしてるんですねレイシー。このギャル凄いですね。」
キューの慧眼にナギは噴き出してしまった。
組んでいる手を離し、自分のお尻をつねって凌ぐ。
殺されると思い代案を出す事にした。
「では虫をプレゼントしてしまった僕がたった今閃いたものをお伝えします。
〝ハンカチ〟はいかがでしょう。察するにあのラブレター、破壊力が高い。
きっとカイバさんも泣いてしまうに違いない。そこでそっと寄り添うようなハンカチ。
ラブレターに自信があるの?と思われそうですが、レイシーの性格をカイバさんが知っているなら大丈夫でしょう。あ、無地はやめましょう。決して逃げないでレイシー。
ちょっとの模様でいいから。ワンポイントと言うのでしょうか。泣かないでレイシー。
カイバさんの事を考えながら買いましょう。どうでしょう。虫をプレゼントした僕にしてはいい線いってるのではないでしょうか。」
「て、、、ンんっ!さ、、、いッッ!!」
嗚咽スキンヘッド。
「あ、自己責任でお願いします。本当に今、泣いてるレイシーを見て思いついたのです。もしもダメだったとしてもぶっ――」
「ぶっ殺さねえよ…ほんと…ありがとな…!」
目を覆う手から、涙が床に落ちた。
「うん、いいよ。」
嗚咽が止まらないレイシーにナギは優しい笑顔でそう言った。
*
その日は仕事をするつもりがなかったのでレイシーに結果を伝えたら帰ろうと考えていたが〝物置部屋談義はサボり〟と激しい主張がパルとマークからあった。
正論である。
フラストレーションの解消に、二人が裏で遊んでいる間だけカウンターに入る事にした。
(パル、絶対にレイルしてるだろうな…。)
そう考えながら椅子の脚を丁寧に拭いているとドスの利いた声が近づいてきた。
「ナギ、四日後空いてるか?」
立ち上がり椅子をテーブルに収めながらレイシーを向く。
「今んとこなんもないよ、人生休憩中のもう一人のギャル次第。なんで?」
「…会ってくれるらしくてよ。メシ、誘われてんだ。そん時に伝えようと思ってんだ。」
「カイバさんに!?じゃあ上手くいくんじゃない!?」
目を丸くした。
割と本気で応援しているナギは嬉しかった。
「いや、そうじゃねえ。少し前に、普通に、普通にっていうかよ、まあ普通に誘われたんだよ。まだわかんねえから。」
照れるスキンヘッド。
「ちょっと長めに席外すからよ。カウンター、入ってくんねえか。当日無理になったらいいからよ。」
「全然いいけど。僕が来れなかったらパルとマーク二人になっちゃわない?」
天井の方向に眼球だけ向けて尋ねる。
「ああ、それは問題ねぇ。ベゼフェリ呼んでっから。」
「ベゼフェリ?」
「知らねぇか、女。あ、打ち上げの時によ、おまえに絡んでた酔っ払いの。」
「あー!臍出した女の人ね!」
大きく何回か頷いた。
(お酒臭かった人だ!)
「そいつにも頼んでっからよ。おまえら三人になっちまう時間はあるかもしんねえけど、そのうち来ると思う。俺がいない間はメシは出すな。貼り紙もしとく。」
「わかった。じゃあ来れたら早めにくるね。」
「悪いな。うまく言ったら、おまえの頼みなんでもひとつ聞いてやるからよ。すまねえな。」
「いいよ別に。」
少し笑いながら言った。
パルとマークの賑やかな声と足音が二階から聞こえてきた。
フロアに嵐がやってくる。
物凄いスピードでカウンターに戻るレイシー。
走って寄ってくるマークにナギは話しかけた。
「あれ?裏でレイルしてるんじゃなかったの?」
「あいつが壁に開けた穴、修理されてたんだけどさらに俺が開けた!そこから入れるから!起きたらすぐに遊びにいけるの便利すぎな!」
マークが指さした先には満足そうな顔でエーテルシューズを脱ぐ少女。
パルは整理された〝墓場〟に向かってオーバースローでシューズを投げ捨てている。
照れくさそうにナギに向かって走ってくる素足の少女をナギは細い目で牽制した。
*
レイシーの件を爆速で一段落させたナギ。
少しだけ疲れていた。
自分の命が懸かっていたラブレターとはいえ、レイシーが襲い掛かってくるイメージはナギにはもうない。
間違いなくリサの件だと考えた。
干しフルーツの袋をふたつ購入し、ルントに教わった魔法練習が出来る穴場で休んでいた。
太い木の枝を跨ぐようにして静かな時間を過ごす。
退屈になると干しフルーツを口に放り込み、舌鼓を打つ。
心が静かになって癒される。
聞いた事のない鳥の鳴き声が新鮮だった。
頭が勝手に動く。
(リサはもう、僕に絶対に話しかけてこない。今後の事をちゃんと考えないと僕が揺らぐ。呑み込まれる。)
リサが執着に呑まれている事をアネットに告げられた時から、どうしたらいいのだろうと一人で考え込むようになった。
しかし、その思考自体にあまり意味がないのではないかと少年は気づく。
状況を見て判断するしかないんじゃないか。
そう考えていた。
体の使い方をロクに教えずに殴り合いを開始し、自身が孤独になる事を顧みずに負け癖と揺らぎまで教えてくれた師のアネット。
カウンターで突っ立っていたらレイシーに叱られた事。
ふたつの出来事から、少年の思考はこれまでと異なるものだった。
(リサに何をしたら正解かが僕にはわからない。執着の原因がわかっても伝えない方がいいのはわかる、僕だってアネットにそれをした時言われても絶対に聞かなかっただろうし。だからといって放置したら距離が出来る。それもわかる。寄り添おうにも拒絶される。アネットから初めて聞いた時に不安でつい、どうしたらいいかって聞いちゃったけど、リサの顔つき……とか色々…。そういうの見る限りアネットから聞いた事も通用しそうにない。どうすればいいのかわからない。すごく不安だ。)
深呼吸した。
(でも、体術とカウンターの仕事と一緒かもしれない。わかんなくても動くしかない。ただ動くんじゃダメだ。ただ〝動くしかなかった〟から、僕はアネットに体術の特訓勝てなかった。ちゃんと考えればカウンターの仕事の時みたいに自分の思い出に何か手掛かりがあるかもしれないんだ。思い出の中に手掛かりがなければ作ればいい!勇者の剣を抜いた時には出来なかった。あの時はわからなかったから怖くて足が止まった。動けなかった。何もしなかったんだ僕は。だからブローチに何もせずに殺された。アネットが正しい。ブローチに勇者どうこうとか叫ぶ前に魔法でしょあの場面では。それが出来なかったからアネットは別行動に…)
干しフルーツを放り込む。
甘さで弱気を霧散させる。
(そうは言ってない。アネットはそうは言ってないぞ。意味づけるな。落ち着け、落ち着け。たしかにあの場面では魔法だった。でもそれはアネットの別行動と関係ない。落ち着け。今はリサの事。僕、自分の事考えるのに精いっぱいだ。リサの執着なんて無理。方法もわからない。でもなんかしないと。どうしていいかわからないから自分で考えないと。最悪の事も考えるんだ。落ち着け。揺らぐな。まずは考える事しかできない。それだけすればいい。最高から最悪までを考えるだけでいい。動く時の怖さは考えてから感じればいい!)
この思考に至ったキッカケであり決め手。
それは魔女との出会いの反芻にあった。
ナギは目を瞑り、何度も反芻しているブローチの言葉を思い出す。
〝線を引かれないと行動できないかい?食堂のメニューじゃないんだ。この願いはこれが代償です。こちらの願いは追加でこの代償です。なあんて、案内するわけないだろう。馬鹿だねえ。〟
(そうだ。悔しいけどブローチが正しい。線を引かれてから考えたんじゃ遅い。線を引かれた時に、引かれた線が見えた時に決断しないといけないんだ。今の僕には無理だろうけど…一番良いのは引かれる事を予想して決断する事だ。ずっと線を引かれるのを待っていたから…線の存在すら頭に無いほどに考えてなかったから。僕は願いが言えなかった。)
気持ちが落ち着いた。
(じゃあリサの事、最高はなんだ?僕にとって一番良い出来事はなんだ?朝起きたらいきなり横にリサが居て、優しい笑顔で今までごめんね。みたいな?いやそれ逆に怖いだろ!どうやって鍵付きの部屋に入ったのさ!またセーフポイントで確かめないといけないくらい怖いでしょそれは!でも〝最高寄り〟かも。だって会話ができそう。うん。会話できそうだそれは。逆に怖いけど!なんらかの形で会話ができる事が最高だ。それでいこう。じゃあ最悪は…。)
そう考えると食べた干しフルーツが胃から戻りそうになった。
目を開き息を止め干しフルーツが昇ってこない事をひたすら祈る。
下から声がした。
「おい!おまえナギだろ!?おーい!!」
下を見ると少年がいた。
(あっ、あーっと、あれは…。)
黒のシャツ。
赤いバンダナに見覚えがあった。
落下途中に魔法で掴んで降りるナギ。
「久しぶりだなナギ!もうどっか行っちまったのかと思ってたよ!覚えてる?」
「あーえー。あのー。テスパニョ…あー。えー。」
白目ナギ。
「テシペオーラ・アエス!忘れんなよ!アースって呼んでくれていいからな!」
「ごめん!本当ごめん!泣いてた子だ。元気?」
(最近の僕は全然人の事言えないな。)
「泣いてた子って!同い年だろ!」
「ごめんごめん。」
爆笑するアエスにナギも笑いながら言った。
木の幹にもたれかかって座る二人。
ナギはお詫びに干しフルーツをあげた。
「おまえ、この干しフルーツどこの店で買った?」
「西の大通り出た辺り。露店がたくさんあるところ。」
「ふーん。やっぱナギみたいな〝よそ者〟はダメだな。マズイね。」
ナギは眉間に皺を寄せ、目を細めながら下唇を突き出した。
(こいつたしか前回も変な奴だったよな。)
「じゃあ食べないでいいよ。僕はこれ好きだよ。」
「いや食べるよ!せっかくくれたんだしな。じゃあよ…。」
そう言うとアエスはショルダーカバンから布の袋を取り出した。
「お礼にこれやる。レアだから二つまで。」
リンゴだろうか。
受け取って口に放り込む。
ナギ電撃。
脳内からリサが吹っ飛んだ。
「なんだこれ!?あんまい!あまい!これ干しフルーツなの!?」
あらゆる食べ物を即行ガリゴリ噛み砕く派のナギ。
口の中で転がした。
アエスが眉と口角を上げ、雄弁に話し出した。
「だろ!?これすげーんだよ!作り方が違う。普通のは天日干しで完全に乾燥させてる。日が経ってるものも売られてんじゃねえか?半生はその時間が短い。半生もすんげえうまいぞ!保存できないけどな。今あげたのは果汁煮。干した後に果汁で煮込んでる。」
口に広がる甘みに脳みそを支配され詳しい事はわからない。
うますぎて入手経路だけ聞き出そうとするナギ。
「アエス、キミ、干しフルーツ博士じゃないか…。どこのお店?」
「東の大通りの先っちょの方。そこに道具屋があんだけど、食べるものも売ってんだよ。」
「歓楽街まで行く?」
「いや、行かない。」
胸を撫でおろす。
ルントの道具屋の少し先だろう。
「今度買いに行くよ。」
「すげえ高いぜ。」
「いくら?」
アエスに視線を向ける。
「百七十エンテ。」
「百七十!?たっか!フルーツ串、十本くらい買えるじゃん!今食べてる僕の干しフルーツ、三十エンテだよ!?」
「そう、高いよな~。でもうますぎだろ。そこの店の人と仲良くなって店の周りの掃除とかなんか適当に頼み事聞いてたらタダでもらった。もちろんこれが目的だけどな。」
アエスも果汁煮の干しフルーツを口に入れた。
顔がほころんでいる。
「いいね。道具屋の人って色々くれるよね。」
「ああ、寂しいんじゃねえの?ずっと部屋の中にいるじゃん。」
「ありえる。」
ナギはルントを思い出して笑った。
「ナギが言うフルーツ串、ちょっと高いな。おまえの出身ではそんくらいなの?ミトハロだともう少し安いよ。十?忘れた。」
「ミトハロにフルーツ串あんの!?」
マークに体を向ける。
「ああ。あるよ。一軒だけ。」
「どこ!?」
「北の大通りの先っちょ。」
(マークにフライパンを奪われた辺りか…)
「もうあそこバシナリーじゃん。」
寝っ転がるナギ。
「そうなんだよなああ、あそこほとんどもうドミヌスだよなあああ。」
マークが目を瞑って声を張る。
「おまえなんでフルーツ串好きなの?丸ごとの方がよくね?」
「んー。アタリとハズレが激しいところかな。アタリの時はすんごい甘い。ハズレでもまあ食べれなくはないし。そういうのがなんか面白い。」
ナギは起きて自分の干しフルーツを口に放り込む。
物足りない。
まずいまであった。
アエス大先生の言う通りだ。
ナギは舌が肥えた。
「ナギおもしれー事言うな~。俺はまるごと噛り付くのが好きだな。」
「それもいいね。でも僕はハズレだった時しんどいから丸ごとならジュースがいいかな。アエス、半生ってどこに売ってるの?」
「うまい店はみんな北の大通りの先っちょ。」
ナギはため息をつくと鷲掴みした干しフルーツを口にねじ込んだ。
個別に食べるよりも少し甘く感じたのだった。
*
「あのさ。」
ナギが口を開く。
「なに?」
アエスがナギを向いた。
「すごい意地っ張りな人がいるとして、その人怒っててさ、怒ってるっていうか、まあ、もうほんと話とかしてくんないの。」
「うん。」
「でも話さないといけないのよ。」
「うんうん。」
「アエスだったらどうする?怒ってる理由もわからないの。理由を聞くと怒られる。原因を当てても怒られる。」
まずい干しフルーツをあげた。
アエスナイスキャッチ。
「めんどくせ〜。女?」
「ね。しんどい。女。どうする?でも話さないはダメなの。」
アエスは頭を抱えてしまった。
「ミトハロ統一よりも難しくね?俺、統一したいからミトハロ。」
「ほんとほんと。統一より難しいよ。」
「それどうしような〜、見捨てるとかダメなんでしょ?」
ナギを見て助けを求めている。
「うん。絶対だめ。」
横目で逃がさないナギ。
「なんか物あげるとか?媚びるとか」
「媚びるのは無理そう。拒絶半端ないから。物あげるのはいいかも。なんか買ってあげようかな。」
「拒否されんのかあ。うぇぇ。考えたらきもすぎてやばい。それ年上?逆にナギが話さないは?」
アエスは片側の口角だけひきつらせている。
「年上。そのまま距離ができそうで怖いんだよね」
「もういいじゃんよ〜。見捨てようぜ~むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり。」
あまりの首振りスピードに笑っちゃったナギ。
「そんなめんどくせえ奴、今仲直りできてもこれからずっとそれやるぜ?あ、ナギ好きなの?付き合いたいとか?」
「それはない。ほんとしんどい。放置してどっか行きたいなってたまに考えるよ。でもまあ気持ちもわかる。少しだけね。」
穏やかな視線で目の前の草むらをなんとなく見ながら言った。
「仮にさ、付き合ってもさ、なんか急に黙り込んで不機嫌になりそうだよな。大人のそういうのたまに見るぜ。」
意外と話せる奴、アエス。
「げー。」
アエスを見てふざけて吐瀉のフリをする。
「なんかさ、嘘つかないとダメそうだし。」
「うそ?どんな?」
「相手にじゃなくてさ、自分に。そんな事思ってないけど相手のために言うみたいな?」
「あぁ〜!あぁぁぁぁ〜!あああああああ!あるかも。だる~!」
声が段々と大きくなるにつれて目を剥いた。
思い当たるフシを思い出すナギ。
(あいつ絶対に二十歳越えてるよなあ。)
「な。それきついよな。そうやって大人になっていくんじゃね?」
アエスは嘲笑しながら言った。
「なんで僕達より大人が子供みたいにいじけて、僕達年下が大人みたいになんなくちゃいけないの?おかしくない?」
自分の回復魔法でリサが大人になった件を棚に上げるナギ。
「ほんとだよ。実際それおかしいと思うぜ。意見の食い違いとか、年齢で頭ごなしに色々言われんのはもう別にいいけどな。なんかナギのその悩みは辛すぎな。意地っ張りの人が甘えてるだけじゃね?」
「うんうんうん!」
眉間に皺を寄せ大きく頷く。
「もうさ、言わなきゃわかんねえよ!みたいに体当たりして終わりでいいよ。俺だったらそうするね。もうそれで言わなかったらさよなら。見捨てられないって言っても限界あるぜ?」
(アネットみたいな事言うねアエスは。)
「やっぱそのルートだよねえ。」
「だって言わなきゃわかんねえじゃん。言わない方が悪い。聞いても怒られるのはさすがにおかしいぜ。当てても怒られるとか。」
アエスは我慢しきれずに笑い出した。
「で、無視とかしてくんだろ?どうせ。」
「そろそろ増えそう。なんでわかんの?」
「いじめとかする奴ってそんな感じじゃね?」
静かな声だった。
「うわあ、そうなの?それは嫌だなあ。」
「もし俺がナギにそれやったらどうする?」
ナギを横目で見るアエス。
「二度とここには来ない。めんどくさすぎる。」
アエス爆笑。
「じゃあ。大事って事なんじゃね?俺はなんつーか、おまえとこないだ会ったばっかだしよ。気軽に話せるのは嬉しいけど。逆におまえがそういう事しても俺ソッコーどっか行くし。だるすぎんだよなそういう奴。どこで諦めるか考えればいいんじゃね?うまくいえねーけど。」
話せる男、アエス。
話を纏めた。
(ミトハロの人たちってなんか大人なとこあるよなあ。)
グアポリとパルが浮かぶ。
「まあそうだよねえ。」
「そうだろ〜。いや、ナギ、無理なもんは無理だって。ほんと。それ諦めても誰も責めないぜ?」
「うん、そうだね。やるだけやってみるよ。」
ものすごく気が安らいだナギ。
元気出せよと果汁煮の干しフルーツを一つ差し出すアエス。
味の薄い干しフルーツしか差し出せないのが申し訳なかったのでナギは三つあげた。
心地よい風が笑う二人の少年の頬を撫でた。




