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第20話/初めての体術/Limited_NAGI



ミトハロ到着から八日目、日が昇る頃。

ハイビスカスを頭につけた少年は砂浜に膝と手をつき、むせながら吐き気に耐えている。

細身のパンツを膝まで捲ったしなやかな脛が少し先に見えた。

朝のアネットとの特訓に〝はなれて〟が追加された。


厳密に言うと追加されたのは〝体術の特訓〟だった。

〝つかみ合い〟で倒された後に体術の訓練として続行する事になった。

突っ伏した状態から横に飛び跳ねなくては一撃もらうので、

実質次の動きに〝はなれて〟をせねばならないのだ。


「勝てないのが悪い事じゃないから、よく考えてね。」


むせながら立ち上がるナギに冷やかに言い放つ。

二、三回その場でジャンプするアネットのポニーテールが遅れて跳ねる。

緑の髪にハイビスカスはついていない。


〝つかむ〟の後、アネットは〝はなれて〟一回だけというルール。

ナギは魔法無制限。

双方武器はなし。

アネットも腕輪を外していた。


最初の〝つかむ〟の引き合いでナギは絶対に勝てない。

実質〝はなれて〟を温存された状態のアネットとの体術訓練となる。


体の動かし方など基本的な事は教えてもらえず、ナギにはただの殴り合いに見えた。

特訓となると容赦ない〝ポニーテール師匠〟。

四つん這いのナギに平然と本気の蹴りが飛んでくる。

〝どっか骨折するくらいが丁度いいよ〟それがアネットの口癖だった。

狂ったポニーテールがハイビスカス少年を虐めている絵にも見えなくはない。

体の動かし方を請うても時間がないという理由で拒否された。


アネットの体術の鋭さ、体幹の強さにも目を丸くしたが〝はなれて〟の多彩さに驚いた。

自分に撃って加速、詰めてきたアネットに撃って間合いをリセットするだけのナギに対し、師は違ったのだ。


砂浜に暴発し、師も失敗するのだと思いきゃ舞い上がった砂でアネットが一瞬消えていたり、

ナギの魔法をアネットがジャンプで回避した際に距離を詰めようものなら〝はなれて〟をポニーテール付近に撃つ事で無理やり着地し蹴りが迫ってきた。

闇雲に突っ込むナギの背中に魔法を撃たれ、アネットの膝がみぞおちに刺さっていた時が一番痛かった。


加速で使う癖を読まれ、同時に撃たれて想定外の方向に体が吹っ飛んでいった時は笑うしかなかった。

下から突き上げてくる拳も、避けたと思うと即座に拳が開かれナギの後頭部に〝はなれて〟を撃たれる。

気づけば顔面にアネットの掌底がめり込んでいた。

想定していない痛みは想像以上だった。


〝はなれて〟は離れるそれではなかった。

巧みに使う事で些細な間合いを制圧できるのだとナギは体で覚えていく。


傍から見たらコマ送りでナギがアネットの攻撃に飛び込んでいるように見えるだろう。

顔に腫れが残る少年に対して普段とは別人のようなポニーテール。

気づかねば特訓中に死んでもおかしくない。

そういった師の容赦のなさから、スムーズな吸収を余儀なくされた。

生死の境界が曖昧になっているナギはそんな自分が少し可笑しかった。


日が昇り、特訓を終わらせ最後にしっかりと視線を合わせお互いの手を握り締める。

アネットに笑顔はなく精悍な顔つき。

宿に戻る道中で会話を交わす。


「アネット、僕、握手の意味わかったよ。」


「ね?いいでしょ。あれ。」


「僕はアネットの事信頼してるし、僕は僕が弱い事を知ってるからあそこまでボコボコにされても、

黒いような、ねばねばしたような感情はアネットに湧かない。」


石ころを蹴りながら進むナギ。


「でも少しでも〝強くなったら〟。攻撃が届きそうだったのに負けたとか。

もしも自分が許せないミスをして負けたら。アネットを恨むかもしれない。」


焦って付け加える。


「恨まないと思うけど!そういう瞬間が来ないって言い切れない。」


優しく微笑むアネット。

いつもの表情だった。


「そう、それが執着の状態。

執着っていうとちょっと広義…、意味が広過ぎるかな。

簡単に言っちゃえば八つ当たりとか、逆恨みになるんだろうけど。

まあ特訓後の握手って執着に入るキッカケの予防みたいなもんだね。」


そう言いながらアネットはポニーテールを解く。

言い表せない雰囲気の変化を遂げた師匠にナギの頬は紅潮した。


「握手って言いながらタッチして誤魔化す人とかもいるみたいだけど、それじゃ意味ない。しない方がマシ。

どっかの国では相手を尊重する行為にお辞儀って作法が主なんだって聞いた事あるけど、

魔法学において相手から〝目を背ける礼〟が私にはピンと来なかったなあ。

お辞儀も静けさがあって素敵だけどね。」


蹴り進んでいた小石を見失う。

アネットが続ける。


「しっかり相手の目を見て握手した瞬間の。その瞬間の自分の心を見るのが一番揺らぎにくい。」


「相手を見てるはずなのに、面白いね。」


ナギが呟く。


「ね。ほんとそう。別にタッチで誤魔化したくなってもいいの。

握手したくない日があってもいい。しちゃいけないのは―――」


「自分の気持ちを誤魔化す事。」


自称弟子が遮る。

弟子はゆっくりと、しかしたしかに師の教えを吸収していた。


「そうだね。だから相手を尊重するって結局、自分を大事にする行為と同じなの。

相手を大事にできない状態ってのは、自傷行為をしているのと変わらない。

逆に自傷行為、自己嫌悪をしてしまう状態で送る他人への優しさって、

優しさじゃなくて依存に向かっていくものだと私は思う。」


白目気味の弟子を見て噴き出すアネット。


「難しいよね。でも、今日ナギ君はたしかに私との握手で自分の心を見た。その感覚は忘れないでね。」


「うん。わかった。」


宿に着くと看板だけでなく出入り口の扉までハイビスカスが侵食していた。

キューだろう。


「この宿、急にハイビスカス増えたよね。」


アネットは屈託のない笑顔をナギに向けた。



宿で一休みした後、パルに回復をかけにいく。

痛みは徐々に引いているようだ。

レイルをしようと服を引っ張られる。

逃げるように退散した。


ルントに教わった森林に向かう。

昨日立ち寄っただけだが、お気に入りの場所となった。

マナフィルムを奥歯と頬の間に捻じ込む際、自分のグローブが視界に入る。

ルントの顔が浮かんだ。


(ルントにキューの事聞いてこいって言われてたの忘れてた…。今度聞かなくちゃ。)


森林は期待を裏切らない静寂に包まれていた。

〝つかむ〟の特訓だけでなく考え事をするのにも最適だ。

昨日はぶらさがるだけであったが、今日は色々試してみよう。

そう思って魔法で掴んだ後に振り子のような重心移動をする。

木々を飛び回っていた。

一度目の〝つかむ〟に集中し過ぎて何回も落下した。

ぶらさがった後に次の枝を探していると間に合わない。

何かの練習になりそうだとナギは感じた。


落下すると焦るが土が柔らかい。

場所によっては心地よいまである。

自分で練習を色々試すのは楽しくてしょうがなかった。

心の中でルントに御礼を言った。


(良い装備ももらって、こんな良いところまで紹介してくれて、何もしないわけにはいかないよな…。)


そう考えていると森林の奥まで来ていた。

視界の四方が木々になる。

いや、街で囲まれているような場所だ、奥ではなく中心と表現するのが正しいだろうか。

掴んだ後に体を捻らせ太い木の枝に乗るナギ。

木漏れ日が幻想的だった。

耳を澄ます少年。

鳥が鳴き、草木が風でざわめいていた。


(こういう所にいるんだよ、魔女が。)


ブローチとの邂逅で木漏れ日すらトラウマになりかけているナギ。

条件反射で警戒する。

遠くない離れた距離で何かすすり泣くような声が聞こえてきた。

心臓が内側から胸を叩く。

その場を離れようかと思ったが近すぎる。

魔女なら気配や逃げる足音でもう無理だと悟り、腹を括った。


(女の声ではない気がする…。)


きっと魔女ではないと言い聞かせながら〝つかむ〟を何回か囁きゆっくりと地上に足をつける。

草や枝を勢いよく踏まぬように、破砕音に注意しながら声の方向へそろりと向かう。

少し開けた、木々の間隔が広い場所に少年が俯いて座っているのが見えた。

泣き声の正体だ。

ナギの方に体を向けている。


(〝しずかに〟とかあればいいのに。)


余計な思考をしながら少し体の向きを変える。

微細な足の位置の調節にも神経を使った。

少年を見るナギ。


おそらく履いているものはエーテルシューズだろう。

黒いズボン。

ベージュの半袖シャツ。

金髪だ。

ナギと同じようなフィンガーレスグローブを付け、首に赤いバンダナのようなものを巻いている。

正対の状態では武器は見えないが腰にあるかもしれない。


(ルントもなんか首に巻いてたな…。流行ってんのかな。)


木の陰から様子を窺っていると、座っていた少年は天を仰いで声を上げ泣き出した。

魔女ならばもう見つかっているだろう。

話しかけてみる事にした。

ナギ自身、村にいた頃とは考えられない行動だった。

不安とは別の跳ね方をする心臓。

木から体を出し近づくナギ。


「あの…大丈夫…ですか?怪我した?」


「誰だ!」


金髪の少年は素早く立ち上がり、ナギに両手を翳す。

身長は同じくらい。

〝魔法持ち〟である事を察し近づく歩幅を狭めるナギ。


「大丈夫?泣いてるのが聞こえてきたから怪我したのかなって思って。」


「泣いてねえよ!早くどっか行け!」


泣きながら金髪のバンダナ少年は言った。


「うん、わかった。急にごめんね。」


素直に踵を返す。

近くの木に〝つかむ〟をした瞬間、背中から叫び声が聞こえる。


「おい!待て!」


混乱したナギは振り返るが右手から出た〝魔法の帯〟そのままに木の裏に半身を隠す。


「おい!待てったら!なんもしないから!」


手を下げて近寄ってくる金髪少年。


「そこはよ!あっち行けって言われても〝大丈夫?〟って近寄ってくる所だろうが!どう見ても泣いてんだろ!」


(えぇ…。)


ミトハロがおかしいのか、自分がおかしいのか。

少し苛立ち、視線が鋭くなるナギ。


「いや!睨むなよ!なんもしないって!ほら!」


目を擦った後、手を背中にやりさらに近づいてくるバンダナ少年。

ナギも木から体を出す。


「おまえ、同い年くらいだろ!?一緒に干しフルーツ食べようぜ!ナッツもある!意地張ってごめんて!

泣いてた!泣いてたのはたしかだから!」


(こいつ何言ってんだ…)


無言で近づくナギ。


「おれ、アエスね。〝テシペオーラ・アエス〟!アースって呼んでくれていいぜ!おまえは?」


バンダナ少年の涙は止まっており笑顔になっていた。


「ナギ。」


「いい名前じゃん!まあ座れよ!」


そう言うと、木に寄り掛かり座るアエス。

ナギはかなり離れて座る。


(飛び掛かってくるかもしれない。)


すぐさま立てるよう尻を地面に付けずに木に体重を預けながら腰を落とす。


「遠いって!警戒しすぎだろ!ナギ、おまえ年いくつ!?」


「十二だけど。」


「やあっぱりね!そんくらいだと思ったんだよ!おれと一緒じゃん!おれも十二!」


そう言うとアエスはナッツを投げてくる。

受け取るナギ。


「普段おれ、ここで練習してるから、おれの場所なのよ!だからさっきはつい!ごめんな!」


意味不明な論調はリサで慣れていた。

アエスと名乗る少年の腕は小さな擦り傷がかなりある。

出血はないが赤みがかっていた。

いなすように聞きたい事を聞く。


「うん、いいけど、その腕の傷大丈夫なの?」


無関心に聞くと手に持ったままのナッツに視線を落とす。

このナギという少年、本人は無自覚だが〝はやく〟よりもスピード感を持って心が離れる。

さらに一度離れたそれは〝こおれ〟より冷たい態度だった。

決して〝いやすね〟なんてしない。


「ああ!全然大丈夫!レイル練習してたんだよな!おれ下手だからさ!」


「ここで?」


ナギはナッツからアエスに視線を移動させる。

向く頃には怪訝な顔になっていた。

〝つかむ〟はともかく、レイルの練習にはならないだろう。

木々はあれど滑る空間がない。


「滑る所がここしかないんだよ!他は埋まってる!ドミヌスいるとあぶねえし!」


(またドミヌスか…。)


辟易したナギに向かってアエスは干しフルーツを放り投げてきた。

まるで餌付けされているようだ。

キャッチできずに零す。


「ナギ、おまえはここで何やってんの?シューズも履いてねえし。」


「散歩だよ。最近ミトハロ来たんだ。旅してて。」


「旅!?すげえー!どっから来たのよ!?」


「ニルディーノ。」


「海渡ってきたのか!それとも大陸!?おれ旅してる年の近い奴って初めてみたよ!」


質問には応えない。

具体性を伏せた返事にアエスは盛り上がっていた。

同じ年の少年相手に胸が痛むナギ。

風で木々がざわめいた。


「ナギはレイルできんの?」


「全然できない。立つのがやっとだよ。」


「難しいよな、これ。」


前方の離れた木に視線を置きながら呟くアエス。


「うん。力を入れたり入れなかったりで混乱するよね。」


「そうそう。わかる。なあんもうまくいかなくて、もう嫌になっちゃっててよ~。」


アエスはナッツを口に放り込んでいる。

もらった物をアイテムポーチに入れるナギ。


「僕、行くよ。」


「えっ!もう行くのかよ!」


「うん。」


そう言いながら離れた枝を〝つかむ〟。

ナギの魔法を見てアエスは目を丸くしていた。


「お、おい!ナギ!おれの縄張りとか言っちゃったけどよ!おまえまた来ていいからな!」


「うん、ありがとう。」


少しだけ笑うとナギは〝つかむ〟を引っ張り木々を縫って帰路に就く。


(変わってる人だったな。悪い人ではなさそうだけど…。)


ルントに教わった穴場の練習スポットを抜け、歩きながらそう考えた。

アイテムポーチからナッツを取り出し口に放り込んだ。





宿の目の前についた少年、胸が嫌な感じで鳴っていた。

ルントとの約束を果たさねばならない。

言語で想起するのは簡単だった。

行動に移そうとすると難易度は何倍も跳ね上がる事に気づく。


〝キューには果たして恋人がいるのか〟


どうやって聞き出せばいいのだろうか。

これはもしや相当ハードルが高いのではないか。

背中を汗がつたう。

キューを何かに誘う必要があるのではないか。

キッカケというか、出来事を作らねば誤解されるのではないか。

思考が止まらない。

宿に入った瞬間に両手を挙げて笑顔で駆け寄り〝キューは恋人いるの?〟とでも叫ぼうか。

ナギは自暴自棄気味に考える。


(女性を気軽に誘うってどうすればいいんだろ…。)


拳を握ったり緩めたりして現実感を確かめる。

特訓をアネットに依頼するのだって少し緊張する。

ナギは心の中でジョージに八つ当たりした。


(そう言えばおじさんっていっつもふんわりした話しかしないよな。もっと使える事教えてほしかった。)


宿の前のハイビスカスの個数を数えて気を紛らわせようとしたその時だった。


「あれ?ナギナギじゃーん。」


心臓が飛び出たかと思ったナギナギ。

口から出たのは情けない声だった。

慌てて振り返る。

ハイビスカスを付けた二人の女性。

リサとキューがこちらに歩いてきていた。


「ん?何してんの?」


リサが聞く。


「い、いや、外の空気吸おうと思ってハイビスカスの数を数えていまして。」


壊れるナギナギ。

何か言いたそうで怪訝な表情をするリサ。

キューは爆笑する。

二人のギャルは宿屋に入って行った。


突然の出来事による瞬間的なストレス。

シャットダウンの閾値に迫るナギナギ。


(そもそも、なんで僕がこんなに緊張しているんだ?キューの事が好きなのはルントだろ?

タダで装備品をもらったのは本当に感謝してる。

リュックサックなくなったのは焦ったから本当に助かった。

ルントが良い人だってのもわかってる。

だけど親友って呼ばれてるくらいの仲なら自分で聞けばいいんだ!

僕は親友じゃないリサにすぐに聞けるよ。

フルーツ串を露店で頼んで手にする内に八回は聞けるね。)


親友って何だ?と自問し思考が止まるナギナギ。

そんな事はいいかと思考を滑らせる。


幸か不幸か。

その逡巡がシャットダウン一歩手前でナギを現実に括り付ける。

強気に宿屋の扉を開けるとカウンターでキューとリサが話していた。

ドワンが奥の部屋に引っ込んでいくのが見えた。


足を前に出す度に跳ねる心臓。

消失する顔の皮膚の感触。

体が自分のものではないみたいだった。

自分は一体誰の感覚で歩いているのだろうと頭に浮かぶ。

一歩ずつ壊れていく少年。


(僕って誰なんだろう…。)


何故か涙が出そうになるがそれが誰の感覚すらかもわからない。

キューが近づく少年に気づく。

何かを言っているのが〝見えた〟。

ナギは聴覚が消失していた。

水中にいるかのように籠って聞こえる。

リサがこちらを見ていた。

スローモーションだ。

足を動かす。

口から泡を吹きそうだ。

砂浜にいた蟹を思い出す。

キューの形をした人間が目の前に迫る。


「あの…、キュー!明日夕方、お暇?エーテルシューズ教えてくれまさい。」


時が止まる。

いや、元々止まって見えていた。

自分の発声で一瞬進んだのだ。

しかしまた現実が遅い。

もう何がなんだかわからないナギ。

自分の眼球だけが動く気がする。

あっけにとられるリサが映る。

ドワンが扉を閉めた。

あらゆる事実だけがゆっくりと映る。

キューの柔らかそうな唇がフォーカスされた。


(唇光ってる!?)


瑞々しい艶のある唇の両端が上がったのが見えた。

気づいたら次の瞬間に吐いていそうな程、胃の感覚がない。

あの世と現実を行ったり来たりしているようなナギナギ。

一瞬目の前が真っ白になるがキューの弾んだ声で現実世界が進むように動く。

気絶した錯覚と同時に唐突に戻る五感。


「あはは!耳真っ赤だよナギナギ!明日夕方いいよ!じゃあここ来て~!靴ある~?」


「ありゃあやす!」


ナギは溜らず走り出し、階段を上り切った所にある手すりを〝つかむ〟で引っ張る。

手すりと床の隙間をスライディングするように体を通す。


「あっ!室内で魔法はダメ!治安維持の人きちゃうよ!」


キューが声を張る。


「すいあせん!」


振り返り謝罪する際にキューではない何か鋭い視線が刺さったのを感じた。

視線をかわすように自室に向かって走り抜けるナギナギ。

扉を閉める時にキューの爆笑が遠くに聞こえた。


その日少年の〝同調〟は精彩を欠いていた。

ブローチの接敵も二十回ほど反芻し殺される。

しかし、そんな事せずともすでに生きた心地がしなかった。


眠っていると扉が鳴った。

その日の扉は強く、けたたましいように聞こえた。

かなり長く鳴っていたような気もした。

その日ナギのヒットポイントはゼロだった。

夢の中から出る事が出来なかった。





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