第15話/初めてのカツアゲ/Limited_NAGI
空気はひんやり、しかし体に纏わりつく光は生暖かい。
ミトハロに来てから四日目の早朝。
ナギはいつもの浜辺にいた。
半袖のシャツで海の風を感じるのは気持ちが良い。
ハイビスカスを頭につけ、胡坐をかいてぼんやりと波を見る。
目の前を通り過ぎていく小さい蟹を見て昨日食べた海老のフリットを一瞬思い出す。
小気味よい食感、鼻に抜ける風味、癖になる後味。
生きるってのはなんて素晴らしいんだと早朝から黄昏れていた。
今のナギは生きる事を半ば諦めている。
〝どうせ死ぬしなあ〟という事が腑に落ちると気が楽にはなる。
その高揚感に一時的に身を任せると、自分は周囲の人間とけっこう話せる事も知った。
しかし完全に前向きになれるものではなかった。
この砂浜に救われていると言っても過言ではない。
ブローチがほぼ最強。おそらく最強。多分最強。どうか最強であってほしい。
アイツに会っちゃったらしょうがいないよね~。ナギはそう思いたかった。
だが、アネットはそうではなかった。
そんな彼女と会話した上で接敵を反芻すると、
突き付けられるものが〝生死〟の他にもうひとつ増えた。
自分の弱さである。
ブローチ接敵の反芻が日課となっている中で、自分の弱さが胸に刺さる。
結果としては勇者パーティは誰も歯が立たずに壊滅である。
ボコボコ。
ボロ負け。
一方のブローチはノーダメージ。
全員が実力不足。
劣っている。
しかし、そのプロセス、内容はどうだろうか。
リサは一撃入れようとしていた。
果敢に攻めていた。
きっと成長した影響もあるのだろう。
本人は聞かれたくなさそうだが、とても速かった。
アネットに関しては〝お荷物〟の救出活動をしていたにも関わらず一撃入れていた。
ブローチの頬にアネットの拳が当たるのをたしかに見た。
ひょっとしたらこの数百年で拳が届いたのはアネットくらいかもしれない。
おそらくブローチは本気ではないだろう。
しかし一撃は一撃だ。
その後、地を這いながらも、死の直前まで顔を上げ魔法を唱えようとしていた。
ナギはその時、突っ伏して諦めていた自分を思い出す。
寄せる波に合わせるかのように視界が滲む。
〝死〟を突き付けられた癖に〝願い〟が言えなかった。
そういった抽象的な問題で悩むのも必要だろう。
ブローチがどうせ最強だから思いのままに生きる。
それもいいだろう。
ただ、それらは逃げの理由にはならない。
アネットとの会話で少年はそう感じていた。
誤魔化してはいけない。
自分は弱い。
自分だけが弱い。
自分がいなければ二人はもっと動きやすい。
初めての感情に嗚咽が漏れそうになる。
塩気がある水が口に滑り込んできた。
蟹は遠くの方を歩いていた。
シャツの袖で顔を拭い、少年は砂浜に手を近づけ魔法を唱え始めた。
*
日が完全に昇った頃、宿屋に戻る。
キューの知り合いである〝ルントの道具屋〟に行く事にした。
ごり押しで宣伝してくるにも関わらず店の場所を教えないキューを思い返し、
〝ギャルの生態〟として括りそうになる。
ついでに〝デカいノード〟とやらも見たかった。
部屋に行く前に宿のカウンターにいたドワンに詳しい場所を聞く。
ミトハロは中心街がゆるやかな盆地状になっており、大通りが四本通っている。
中心から東に延びる大通りは酒場などの歓楽街方面に出る。
西はドーゲンミライ道場方面。
北は〝バシナリー広場〟方面との事だった。
南方面がキューの宿屋。
デカいエーテルノードはバシナリー広場にあるらしいが
歓楽街とバシナリー広場に関しては夜は絶対に近づかない方がいいらしい。
それならとまずはバシナリー広場に行く事にするナギ。
早い時間に行っておきたかった。
部屋に戻りリュックサックの中の物を適当に出し入れして背負う。
腰のアイテムポーチは外していく事にした。
念のためフライパンは腰に装着する。
宿を飛び出し中心街を経由しバシナリー広場に向かう。
足元はアルセナのような石造りではなく土が続いている。
風が吹くと砂埃が時折舞う。
煉瓦や木材で建てられた多様な形状の建物が密集している。
きちんと清掃されている建物や、窓が壊れてそのままになっている建物など様々だった。
色々事情があるのだろう。
ドーゲンミライ道場へ向かう途中は〝一日二千エンテ〟に頭が占拠されていたが
一人で歩いてみると中心に向かうにつれてたしかに店の数なども多くなる。
露店などがまだ出ていないから猶更そう感じるのかもしれない。
下り坂を駆け足で降りると風が気持ちよかった。
中心地はど真ん中に柱があり、周囲は店で埋め尽くされている。
太陽が昇り切っていない時間帯でも賑やかだった。
適当に衣服屋に入って店を見るナギ。
服を選ぶなんて初めての体験で胸が躍る。
村育ちのナギには見たこともない独特の服が多く新鮮だった。
リサが好きそうな洋服がいくつかあった。
せっかくなら何か買おうか迷っていると宿にエーテルカードを忘れてきた事に気が付いた。
(そういや、アイテムポーチの中に入れっぱなしだ…。)
お金をリュックサックから出すのがどこか億劫に感じたナギは店を後にする。
面倒だが、バシナリー広場を見た後でルントの道具屋の前に一度宿に戻らなければならなかった。
頭を切り替えて中心街の広場を見渡す。
中央にそびえ立つ柱の根元には座るスペースもあり思いのままに人が過ごしていた。
きっと待ち合わせにも使われているのだろう。
アルセナの噴水広場よりも落ち着きがない雰囲気。
ナギはここで時間を過ごそうとは思えなかった。
何がそうさせるのか首を左右に振り探っていると
エーテルシューズを履いた人間の元気良い〝転んだり跳んだり〟が目に入る。
何かを試しているようだ。
一喜一憂して騒いでいた。
転んで楽しそうにしている姿がナギには理解ができなく、
中心街を駆け足で離れる事にした。
緩い登り坂を北方向に駆け足で上がっていると
徐々に人気がなくなってきたように思えた。
徒歩の人間は姿を消した。
その代わり滑る人、跳びながら移動する人間が増えた。
警戒しながら大通りを外れ、木々を抜けると広場に出る。
ここがバシナリー広場だ。と言われたわけではないが一目瞭然だった。
いくつかの建物に囲まれている広場では左右上下に飛び回る人間で溢れかえっている。
人々は楽しそうだが異様な雰囲気。
ナギはお目当てのノードを見ようと、四方の建物の上に視線を移動させる。
すぐに異様さが目に飛び込んできた。
白色に朱色が走っている四角い物体。
縦に長い。
一番大きな建物にある。屋敷と言った方がいいかもしれない。
屋根が破壊された広いバルコニーのような、せり出した踊り場のような部分にそれはあった。
あれがデカいノードだろう。
エーテルカードを翳すノードには朱色はない。
屋敷の上に鎮座するノードはナギには禍々しくも見えた。
アルセナの噴水から比べると少し低いくらい。
いや、同じ高さかもしれない。
そう考えるとかなり大きい。
見た事もない四角い物体は異様さを醸し出していた。
視線を広場に漂わせる。
異様な雰囲気の正体は独特なノードだけではない事に気づいた。
広場にある周囲の建物の窓が全て板で塞がれているのである。
人は住んでいないのだろうか。
その上を色彩豊かなシューズを履いた人間達が滑る跳ぶを繰り返している。
バランスを崩した人間があわや落下すると息をのんだ瞬間、近くの壁を〝つかんで〟落下を回避していた。
地上に滑らかに着地した人間はそのまま広場を恍惚とした表情で滑っている。
地上に視線を下すと、広場の中心は滑っている人々がほとんどだった。
端や隅の方では歓談している人や、座り込んで跳ぶ様子を眺める人がいた。
衝突しそうなのでナギはその場から眺める事にした。
広場の一画には階段状の空間があった。
地上から伸びた手すりのような棒が階段とは直角に固定されている。
付近の壁で勢いをつけ、その棒の上をバランスを取りながら滑る人がいた。
中心街と同じように、惜しくも転んだり、成功した時にはわっと歓声が上がる。
賑やかだった。
シューズを履けばそれなりに滑るのかもしれない。
魔法を使っていない人もそれなりのスピードで楽しんでいるように見えた。
(何が楽しいんだこれ…。)
ナギがそう思った時だった。
少し遠くから声がした。
「おい、てめぇ、そこのガキ。」
聞こえるや否や声がした方を向かずに早歩きで遠ざかるナギ。
動悸が早くなる。
「てめぇだよ、フライパンの。おい。止まれ。」
(うわあ、僕だ。)
声が近づいてくる。
ナギが走り出そうとつま先に力を入れると手で肩を掴まれた。
「おい、何逃げてんだよてめぇ。」
顔を向けると、ミディアムヘアの黒髪の女が目に入った。
ナギの肩に伸びた手首にはブレスレットをつけている、半袖のシャツだ。
掴む二の腕には宝石の模様のタトゥー。
その後ろに少し離れている男が二人、こちらに近づいてくる。
底が少し厚いシューズを履いている。
女も同様だった。
「今、ずっとノード見てたよな。シューズも履かないで何しに来た?てめぇ〝ダガヤ〟か?」
「いやいやなんでもないです!ちょっと珍しかったから!」
女の腕を振り払った瞬間。
後方の男達に目をやる女。
顎でナギを指すと男二人が飛び出してくる。
両腕を掴まれるナギ。
「えっ何!?やめろ!」
左右の男へ交互に顔を向け、腕にかかる力を振り払おうとする。
腹に一発衝撃があった。
正面を見ると女が近い。
殴られていた。
ブローチ程の強さではないがむせる。
腹を抑えて膝をつくナギ。
呼吸がしにくい。
されるがままにリュックサックを取られると乱暴に逆さにされたそれから中身が零れ落ちる。
セーフポイントが転がった。
「〝さっちゃん〟!こいつ結構持ってる!」
金が入った袋を一人の男が拾い、感嘆の声を上げた。
「おいコラ、てめぇ、エーテルカードは?」
女に頭髪を掴まれナギの顔が強引に上がる。
「持ってない…。作ってない…。」
むせながら嘘をつく。
ため息をつく女。
「フライパンは見逃してやるよ。掴まれたらすぐやり返さねえとな、クソガキ。」
そう言うと女は蹲るナギの肩を思い切り蹴り飛ばし、男と共に離れていった。
去り際に弱っ。と女の声で聞こえてきたのが耳に入る。
呻きながら顔を上げると広場の三分の一くらいの視線を独占していた。
物珍しそうにこちらを見る人間や、にやついている人間が映る。
対角線上の広場の端に、女と増えた取り巻きが見えた。
よろよろと立ち上がり腹に〝いやすね〟をする。
一度で痛みが引いていく。
急な事に驚いたが、ブローチの一撃を経験していたのが大きかった。
少年の頭は冷静だった。
(エーテルカード持ってなくてよかった…。)
お金も全て持ってきていたわけではない。
取られたのは二万エンテとセーフポイント二つ、あとはリュックサックだろうか。
黒々とした感情が少しだけ、しかし幾度も顔を出す。
(揺らぐな…揺らぐな…。)
歩きながら怪我のない事を入念に確認し、大通りに出る。
黒い感情を紛らわせようと腰で揺れるフライパンに視線を固定する。
(別にフライパン見逃されてもなあ…。)
そう思いながら、大通りを中心街に向かおうとした時だった。
にゅっとフライパンの柄に小さな手が伸びてきたと同時に背中に衝撃。
堪らず突っ伏して前に転ぶと腰が瞬間的に引っ張られ、そのまま断裂する感覚があった。
すかさず顔を上げると自分よりも小さな少年がこちらを見て立っていた。
腕にオレンジ色のアンクルをしている。
フライパンを片手に建物に〝つかむ〟をして飛んでいった。
(えぇ…。)
あっけにとられる。
ナギドン引き。
遅い時間でもない。
急に大声で喚くとか、周囲を挑発するとか、偉そうに歩くとか、レイルを邪魔するとか。
そういった事をナギは何もしていない。
しかし、バシナリー広場に着いて戻ってくる間に全アイテムのロストである。
洗礼を受けた。
一気にミトハロの住人全てが嫌いになりそうだった。
黒い感情を少しでも受け入れると
〝いつか絶対にこの街を滅ぼそう〟という言語が頭を占拠した。
何故かアネットの顔が浮かぶ。
(揺らぐな…揺らぐな…。)
そう自分に言い聞かせ、ナギはとぼとぼと宿屋に向かって歩き出す。
*
何回深呼吸をしただろうか。
宿屋で目を瞑りながらナギは思い返す。
考えてみると別にフライパンは特に必要ない。
オウ・サマにもおそらく二度と会う事はないだろう。
取られた二万エンテは惜しいが、自分には金づるの〝ドーゲンミライ道場〟がある。
リサの分と合わせると五日で取り返せる。
心が軽くなっていった。
気を取り直し、エーテルカードをアイテムポーチに入れて宿を出る。
まだ日は高かった。
ルントの道具屋は東の大通りの途中に位置しているらしい。
うまいこと路地を通ればショートカットできるのかもしれない。
怖かったので一度街の中心に出てから大通沿いに迂回する事にした。
ドワンに言われた通りに進むと、
ご丁寧に〝ルントの道具屋〟と書いてある看板を見つけた。
扉を開けておそるおそる店内を覗き込む。
広くない空間に籠った空気感。
嗅いだことのない甘ったるい匂い。
すぐ傍にあるカウンターで壁の棚を整理している男がいる。
ツンツン頭の後ろ姿だった。
(キューの名前出したほうがいいのかな…。)
店内に入り扉を閉めると
〝ツンツン頭〟が振り向き、手に持った容器を見つめながら怠そうに声をかけてきた。
二十歳くらいの男。
「しゃせー。」
「あっ、あの…キューの紹介で来たんですけど。ルントさんですか?」
男は視線を上げてナギを見るなり柔和な顔つきになる。
「えっ!キューの紹介?そう、俺、俺ルント!」
長袖のシャツを肘まで捲り、ズボンからサスペンダーが肩まで伸びている。
首元に巻いているのはスカーフ、あるいはマフラー。
片耳に黒いイヤリングをしている。
気候外れの布を巻いた男の言葉は勢いを増す。
「えっ!うそ!?あいつの紹介なんて珍し~!仕事仲間とか?」
ルントは目を丸くしていた。
手に持っていた容器をカウンターに置き、ナギに視線を固定した。
「いや、キューの宿に泊まってて…。」
「あっそうなの!へぇ!わざわざありがと~!最近ミトハロに?」
第一声の気怠さとは一転、軽やかな口調だ。
「そうなんです。ちょっと旅を…。」
ツンツン頭の勢いに気圧されながらも、
名前を聞かれたので簡単に自己紹介をするナギ。
出身の話題になったがアルセナの名を出すと勇者の話題が出るかもと大陸の名前だけ答えた。
とりとめのない話をすると、ルントが営業モードに切り替わる。
匂いに慣れたのか、その頃には甘ったるさは感じなくなっていた。
「へー!各地を回ってるんだ。なんか見たいものある?」
「魔法!魔法が見たい!です!」
待ってましたと考えるよりも先に言葉が出る。
魔法が使える事に少し驚いた様子のルントから説明を受けた。
+++++++++
・もえろ
・こがせ
・こおれ
・おちろ
・つかむ
・はやく
・いやすね
・もえないよ
・こげないよ
+++++++++
値段はアルセナよりも五千エンテ~八千エンテ安かった。
〝もえないよ〟〝こげないよ〟は耐性が少し上がる魔法らしい。
もっと種類が多いと思っていたがそうでもなかった。
とりあえず〝つかむ〟は買う事にする。
魔法を見ても特に表情が変化しない少年。
お目当ての命令形、依頼系以外の魔法がなかったのだ。
察したようにルントが狭い店内を移動する。
「ナギ、こういうのはどう?」
そう言うと木箱を棚から引き出して、カウンターの上にどかっと置く。
埃が少し舞った。
+++++++++
マナソール/二枚入り
マナフィルム/五枚入り
マナガム/七枚入り
マナシール/五枚入り
マナステーション
マナリキッド/三本セット
マナリーフ
ルーピア
魔法ふうせん/三コ入り
魔法筒/五コ入り
++++++++++
「レイル…エーテルシューズが盛んだからさ、魔力の回復系けっこう揃えてんだよね。見たことないっしょこういうの。」
数回頷きながら木箱を覗き込むナギ。
顔が明るくなる。
木箱に注がれる踊るような少年の視線に気を良くしたのかルントの表情も一気に華やぐ。
意味不明なジェスチャー激しく言葉を連ねる。
「気になるものがあったらなんでも聞いてよ、手軽に回復できるやつが超人気。魔王復活なんて言われてるけど、この街はガンギマリで人ん家の壁蹴って飛びまわる迷惑行為に夢中ってわけ!
配達業で街を支えてるなんて態度デケえ連中増えたけどさ、偶々の利権に守られて気が大きくなっただけの連中よ!」
段々語気が強くなっていく。
自分の言葉に自分で笑うルント。
見にくいだろうとルントは踏み台を用意してくれた。
悪い人ではないのだろう。
しかし発言に対しおまえもそう思うだろ?と聞かれそうな勢いだったので話題を変える。
ナギには大人特有の街のイザコザには興味はないので後半は流していた。
エーテルシューズの人間の事はあまり考えたくなかった。
「すごいねルント!…さん!見た事ないのがたくさんある!僕アイテムとか魔法マニアなんだよ!
ルントさんここまで揃えるの大変だったでしょう!色々教えてほしいです!」
顔をルントに向け、少し声を張るナギ。
半分本当で半分嘘だ。
効果は知りたいが疑問を持たれたくない。
さらに、敷き詰められたアイテム達でカラフルになった木箱を眺めるのは楽しかった。
「わかる!?この街、アイテム屋多いから色々揃えないと生き残っていけないの!ほんっと大変なんだよ!ナギわかる奴だな~!」
ジョージから授かった真理〝近づきたい時は褒めろ〟が勝手に発動する。
「ガムとソールしか売れないんだよ!も~!口にモノ入れてくちゃくちゃ動かして何が魔法詠唱だよな~!
人の家の壁つかんで何が楽しいんだよって話!あ、そこにあるソールはエーテルシューズに入れるやつね、あんま効果ないよ!」
話題が変わらないルントに噴き出すナギ。
強制的に変える。
「ルントさんのおすすめは?」
「王道の〝リーフ〟もいいけど、やっぱ〝リキッド〟でしょ!
リキッドは超おすすめよ!ちゃちゃっと吸うだけ!
回復量ならやっぱリーフ!魔力回復草の事ね!効率とスピードならリキッドだな!」
「この〝マナステーション〟ってのは?」
「ああそれね!設置型!つけると近くにいる人が同時に回復できんの!
おもしれーからとりあえず仕入れたけど、あんまお勧めはしてないね~!」
「どうして?」
一拍置いてにやりと笑うルント。
「まだまだだなー!ナギ!戦う時に仲間と固まったらソッコー全滅でしょ!
まあ回復はそこそこするから大人数で交代で戦う人達にとってはいいかもね!
ぴょんぴょんしたいだけのミトハ――――」
「ねえこれ、〝ルーピア〟ってのは?」
ナギは遮る。
「それはイヤリング型!ここが柔らかくなってて、押し潰すと回復できんの!
回復量はどうだろうな~!ちょっと物足りないかもね!
使った後は色が変わる。今俺がしてるのが使用後のやつね。
服の上からは効果がめっちゃくちゃ低くなるから要注意だな!
ファッション感覚で買ってく奴にたまーに売れる!」
ルントは自分の耳を指さして説明する。
「それ、落とさない?」
即座にはっとした。
いくらルントが戦いに視点を置いているとはいえ店の商品だ。
いい気はしないかもしれない。
「ナギー!おまえわかってるなああ!そうなんだよ!落とす!!
っていうかさあ!ファッションってなんだよな!生きるか死ぬかだっつーの!
かっこ悪くても最後に立ってた奴が勝ちだよな!」
杞憂だった。
〝生きるか死ぬか〟と聞いて少しナギは嬉しかった。
今の自分の感覚は誰にも共感されないと思っていたからだ。
「うん…。わかるよルントさん。本当に一瞬なんだよ。死ぬのって。」
「一回死んだ事あるような口ぶりだなあ!ナギ!でもそうだよなあ。ほんの気の緩みで終わるよなあ。」
聞くと、ルントは仕入れなどで周辺国に足を運んだ際、商人を狙った盗賊と遭遇するようだ。
危機意識はそこから来ているらしい。
〝マナフィルム〟について聞いてみると、飲み込まずに奥歯と頬の間に挟み粘膜吸収するもののようだった。
飲み込んでも問題ないとの事で安全設計だ。
一通りの説明を終えるとルントは棚の整理に戻りナギはアイテムを吟味する。
棚の整理が落ち着いた〝ツンツン頭〟は改めて話し始めた。
「魔物が攻めてきたらこの街は一瞬で壊滅するね。配達したりレイル楽しむのも大事だと思うけどさ、
もう少し魔王復活を真剣に考えた方がいいと思うね。俺は。」
「ルントさんは、シューズ履いて飛び回ってる人達の事嫌いなの?」
あらかた使い方や効果を聞き出せたのでナギは核心に触れる。
「嫌いってわけじゃないんだけどな!ちょっと大きくなり過ぎじゃね?派閥までできちゃって。
各国にガンガン仕入れに行けるから道具屋がバンバンできちゃうし!
まあそれは今に始まった事じゃないけどな!
マナステーション支給してる宿屋もあるんだぜ?信じられる?
宿泊以外にも休憩できますって売り文句だってよ!笑っちゃうよなあ。」
競合が増えるという事だろうか。
笑っちゃうと言いつつルントはどこか残念そうな顔をしていた。
ナギはルントの発言にどうしても引っかかる事があり掘り下げずにはいられない。
「派閥?」
「そうそう!配達してる人間に派閥があんのよ!ざっくり三つに分けられてる。
ひとつは〝ダガヤ・クルー〟ってとこ。もうひとつは〝ヤマカミ〟。三つ目が〝ドミヌスネーター〟」
黒髪の女に聞かれた事を思い出す。
(ダガヤ・クルーの人だと思われたのか…。)
考え込むナギをよそにルントは続ける。
「シンボルなんて作っちゃってさ~!自己顕示欲ムンッムン!ダガヤ・クルーは爪のマークで、
ヤマカミは双子のマーク、リーダーが双子なんだよ。単純でウケるよな。で、ドミヌスが宝石。」
「あ…。僕さっき…ドミヌスの人達に会ったよ…。」
一気に元気がなくなるナギに心配そうなルント。
「げ!もしかしてその顔の怪我って…!大丈夫か!?」
カウンターから身を乗り出す。
両手を出しやや仰け反る少年。
「いや、この顔は違うよ。特に怪我はないんだ。でもバシナリー広場で持ってたものとお金全部持ってかれた。」
「うわ~。そういうとこよナギ。俺が嫌いなのは。
配達で街を支えるって言ってもさ~。そこで過ごす人襲っちゃ意味ないよな~。
治安維持隊ってのも今じゃあんま機能しなくなっちまったし。」
「ダガヤってとこと、ドミヌスは揉めてるの?」
「揉めてるって事はないと思う。一時期は全部のグループが揉めてたけどな。今は落ち着いてんじゃね?」
「ふーん。」
「バシナリー広場、落ち着いてると思ったけどな。
なんかあったんかね。縄張り争いみたいのだったらダルいな~。」
ルントの言い方から、揉め事が頻発しているような印象は持たなかった。
偶々だったのだろうか。
ナギは二度とバシナリー広場に近づかないと自分に誓った。
早速アイテムを買おうと話を戻す。
回復系は全部試してみたかったので一通り買う事にした。
マナソールは専用のシューズじゃないと合わないらしく、
〝つかむ〟と魔力回復アイテム一式、ふうせんと魔法筒を買った。
ガムとルーピアは意味ないだろうと購入しなかった。
約七万エンテが吹き飛んだ。
エーテルカードを使用するとルントに見つめられていた気がした。
「たくさん買ってくれたな~!ナギ!ありがとな!戦ったりすんの?」
「いや、ほんとマニアなだけだから。」
苦しかった。
「あ、そういやおまえ持ち物全部盗られたんだろ?ちょっと待ってな。」
そういうとカウンターの奥の壁にかけてあるカーテンをくぐるルント。
何かを探しているようだ。
あったあったと呟きながら出てくる。
「ナギ、これやるよ。」
そう言うとルントは〝手袋〟と〝ベルト〟を差し出した。
「これ、俺が仕入れの時とかちょっとした放浪する時に使ってたんだけどさ、もう新調したからやるよ。
マナグローブとマナベルト。マナっつってもこれ自体に回復機能はナシ。
グローブは手の甲にリキッド差し込める。戦闘中に吸えるぜ。
フィルムも差し込んどける。ベルトの方は(魔法)筒でも差し込んどきな。」
「ほんとに!?いいの!?」
もらえる物はなんでも嬉しい。
「ああいいよ!その代わりなんだけどさ…。」
ルントは小声になる。
「キューに今恋人がいるのか、聞いてきてくんね?聞いてきてくれたら次なんか安くするから。」
くすくす笑うナギ。
スパイのような事をするのに抵抗があったが、
まあ別に恋人がいるかどうかくらいならいいだろうと了承する。
「そういえば、キューはルントの事、親友って言ってたよ。」
目の前で大きなガッツポーズ。
御礼を言って店を出ようとするがルントは自分の世界に入ってしまった。
微笑みながらナギは扉を開ける。
店を出ようとするとルントが話しかけてきた。
「あ、ナギ!〝つかむ〟練習するならさ!キューんとこのすぐ東に
手頃な木が生えてるとこあるから、そこでしろよ!ドミヌスからも遠いし多分魔物もいないと思う!」
有益な情報だ。
中心街で〝つかむ〟をするわけにもいかない。
御礼を言って店を出る。
扉を閉めても尚、ルントの雄たけびが聞こえた。
〝つかむ〟をガリゴリと口から鳴らして食べる。
帰り道、中心街に出るとシューズを履いた男女が高いところから
盛大に着地を失敗していた。
(ざまあみろ!)
少年は揺らいでいた。
その後、リサとアネットから夕飯に誘われたが疲れたと告げ部屋に戻る。
その日はブローチに三十五回くらい殺されてから寝た。




