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第14話/初めての金づる/Limited_RISA.pov


翌日、リサはナギに誘われ砂浜に来ていた。

草がなく一面砂というのは新鮮だった。

ブーツ、靴下を脱ぎ捨てて素足で歩くのは気持ちがいい。


頭にハイビスカスをつけて思いのままに過ごす二人の勇者。

〝顔を腫らした少年〟は魔法の練習。

〝ギャル勇者〟はストレッチ。

リサが切り出す。


「ナギ、ブローチに勝てると思う?」


「いや~無理でしょ。そういう奴じゃないんじゃない?」


ナギは何やら砂浜に手をつけて砂を眺めている。

顔の腫れは少しだけ引いていた。


「動きがさ、速過ぎるんだって、ブローチ。すぐ掴んでくるじゃんあいつ。」


ボコボコにされた相手を〝あいつ〟呼ばわりである、ナギ強気。


「ゴビポップもすごい強かったよ。もう気づいたら吹っ飛んでた。猫になられたら攻撃できないし。」


猫が好きなリサ弱気。


「でかくなるの反則だよね~。」


緊張感なく言う少年は砂を手から落としたり指でなぞってみたりしている。


(あれ魔法の練習になってんの…?)


ナギの奇行をよそにリサが続ける。


「なんであたし達が勇者だって知ってたんだろ。」


「わかんないけど、ラグナロクじゃない?僕たちは勇者じゃないって嘘ついたらラグナロクってバレてたよ。」


「有名なのかもね。」


一応手元に持ってきたラグナロクを眺めるギャル勇者。


「勇者の剣売っといてよかった。」


「ナギ、ブローチに聞かれまくってたよね。」


「うん、ずっと掴まれてくるくる回ってた。確かめてたんだろうね、フライパンでよかった~。」


「あんたブローチになんか攻撃したの?」


「〝いやすね〟した。」


「だめじゃん。」


「〝だまれ〟」


凍結された二股の枝を掴みながら少年はブローチの真似をした。

前屈をしながら吹くリサ。

優しい気持ちになっていた。


「あんたそんな事言ってるとそのうちまた出てくるよ。」


「そうなったらおわり。」


二股の枝を様々な距離で砂に差し直し、手を翳し〝こおれ〟をかけまくっている。

不思議に思った〝ギャル勇者〟は堪らず探る。


「それ何してんの?」


「いや、なんで魔法を使う時に手を(かざ)すんだろうと思って。」


「どういう事?」


「多分、位置をつかむイメージなんだろうね。」


話が見えない。

リサは思っている事を口にする。


「魔法だから手を翳すんじゃないの?」


「たぶん練習しまくれば相手を見なくても魔法発動できるよ。」


ナギには相手にされず別の話が返ってきた。

リサはアネットが直視されずに魔法をかけられた瞬間を思い出しながら話す。


「ブローチ、見てない時あったよね。」


「ドラゴンの時でしょ?アネットの。」


ナギも気づいていたようだ。

この少年、勇者の剣の封印を解いた時とは打って変わって冷静だ。

ブローチ戦、よく見えているように感じる。

リサには不思議で仕方なかった。

少年は手を翳さずに唱えるが何も起こらない。

肩甲骨を動かし、脇腹、鎖骨当たりの筋を伸ばしながら吐息交じりでリサは返す。


「そうそう。何百年練習したんだろうね。ブローチ。」


「意外と早いと思う。」


「なんで?どれくらい早いの?」


「それはわからないけど…。こういうのって気づいたら早いと思う。気づくまでがとても長く感じるだけで。」


ナギはうつ伏せになり、砂に顔を突っ伏したまま籠った声でそう言った。


(何してるの?ナギ…。)


目を細める〝ギャル勇者〟。


「ねえ、リサ。ゴビポップいるじゃん?」


「うん。」


「あれね、たぶんそのうち〝本文ポップ〟になるよ。」


態勢から繰り出されたシュールさにリサは吹きだす。

ナギが顔を砂だらけにして起き上がったその時だった。

近くで声がした。


「あんたたち、強くなりたいの?ワシ、強くできるよ。」


ふたつのハイビスカスが声の方向に動く。

赤いシャツで緑のズボン。

ピンク髪の老人男性が手を後ろで組んで立っていた。


「ワシのとこ、来る?」


(怪しすぎ…)


ナギもそういう顔をしていた。


「ワシのとこ、来る?」


意外にもナギが対応した。


「あの…すいません、意味わかんないです…。」


「じゃあこうしよう。ワシに一発でも攻撃当てたら、その瞬間から一日二千エンテずつあげる。

一人でも当てたらいいよ。ワシ強いから。」


「ほんとに!?」


「うん。ほんと。ワシね、道場やっとるの。もし日没までに当てられなかったら、入会して。

三十日で一人千エンテ。自動更新。

ちなみに友達誘ってくれたらポイントついてランクが上がっていくの。

でランクが上がると収入発生してそれだけで生活でk――――」


「日没?!やるやる!」


「ちょっと!」


リサが止める。


「怪しすぎでしょこんなの。」


「アネットに伝えていけば大丈夫だよ。」


二人は近づいて〝ピンク髪の老人〟に聞こえぬよう、囁くように話した。

道場に向かう際、宿屋の前を通ってもらう。

ナギがアネットに報告した。

アネットは笑っていたが心配していたらしい。

そりゃそうである。

この辺はエーテルゾーンの中でも治安が悪いとされる地域だと

アルセナでアネットに教わったばかりだ。


「うちの師匠、強いから、もし詐欺とかだったら

おじいちゃん大変な事になっちゃいますからね。」


ほほほと笑う〝派手な老人〟。


「ご新規様ご入会~。」


ナギを相手にしない。

相当自信があるようだ。


「おじいちゃん、名前はなんていうの?」


ナギが質問する。


(知らない人にこんなに話す奴だったっけ?)


リサはボサボサ頭のハイビスカスをじっと見つめていた。


「うん、ワシ、〝ドーゲン〟ね。」





ミトハロの中心街を経由し、

ゆるい坂を下ったり上ったりしながら道場に到着する。


「ミライ君~、ご新規様ご入会~。ほほほ。」


「あっすいません!こんにちは!対応が僕で本当にごめんなさい!

すいません!ほんとごめんなさい!ミライです!ごめんなさいすいません!」


道場に入ると〝ミライ君〟と呼ばれた男性が近寄ってくる。

両唇の端から頬にかけて一筋ずつ傷跡がある。

男性だ。

二十代だろうか。

ショートカットで金髪。

少しこわい。

しかし二枚目(イケメン)である。


(なんか雰囲気がナギに似てる…でも謝りすぎ…。なんで?)


「ミライ君~、今からその二人とワシ、対決するの。

二人のどちらかが攻撃当てたらワシが一日二千エンテずつ払う。

日没までに当てられなかったらご入会~。ほほほ。ってことは入会確定~。っほほっほ。」


道場は決して豪勢とは言えない造りだった。

年季が入っている。

縦長の平屋だった。

正面には「一日一善」と大きく書初められていた。


「どちらからくる~?二人同時でもいいよ~?ほほほ。」


「リサお願い!大体こういうのはほんと強いから真剣に本気でいった方がいいよ。

遠慮せずに殺す気でいって良いと思う!」


(殺す気って…。)


「わかった。じゃああたし行きます。おじいちゃん、ほんとに本気でいいんですか?」


「お嬢ちゃんからね。いいよ~。あっでも真剣はやめて。木刀貸すから。」


ナギに渡したラグナロクを〝顔に二筋の傷があるミライ君〟は見つめていた。

リサはドーゲンから木刀を受け取る。


「魔法アリですか?」


屈伸しながら聞くリサ。


「アリアリ~。ほほほ。」


「リサがんばれ!エンテ!」


ナギが声を張る。

リサは嬉しかった。

自分の強さがナギに引かれるのではと心配する機会が多かった。

強さは残忍さも兼ね備えている事を

戦闘中に時折現れる黒い感情からなんとなく感じていた。

自分が相手よりも強くあってほしいという事を

ナギが応援してくれているという事実に心が躍った。


「〝つよくなれ〟」


リサはドーゲンを真っ直ぐ視線に捉えながら唱えた。


「ほほほ。〝弱い人が唱える魔法〟ね。ほほほ。ご新規会員さん、いつでもおいで~。」


「いきます!」


わざわざ宣言しなくてもよかったかと深呼吸しながらリサは後悔する。


〝ドーゲン〟の胸元目掛けて突く。

ひらりとかわし木刀を掴みながら〝派手な老人〟は口を開く。


「おっそ~。よくチャレンジしt―――――――――」


リサの右拳が〝ドーゲン〟の顔面にめり込んだ。

拳に伝わる不快な感覚。

場内をバウンドする事なくおじいちゃんは壁を突き破り吹っ飛んでいった。


(おじいちゃん…おっそ…。)


「やったーー!リサナイス!一日二千エンテ!!!うわー!!!」


頭にハイビスカスを付けた〝サイコパス少年〟。

穴の開いた壁を潜り抜けて〝一日二千エンテ〟を追いかけていった。

リサも後を追う。


ドーゲンの手が木刀に伸びた瞬間、リサはすでに手から放していた。

〝派手なおじいちゃん〟がリサを向いた時、拳は眼前にあった。

よくある緩急である。

突きは遅く、踏み込みが速いというやつだった。

だが緩急は〝おまけ〟。


リサはゴビポップとの戦いで痛感していた。

戦いにおいて〝全ての動作は連動している〟。

回避は次の攻撃のための移動を兼ね、攻撃は次の攻撃の布石。

リサもリサでただ負けたわけではない。

しかし本気ではなかった。

さすがに相手はおじいちゃん。気を使った。


「一日二千エン…じゃないや、おじいちゃーん!」


声をかけるナギ。

おじいちゃんの意識がない。

ぐったりした血みどろのおじいちゃんを引きずりながら

〝いやすね〟もかけずに〝無邪気なハイビスカス達〟は道場に戻ってきた。

この二人の無邪気さ、ミトハロの治安の悪さに合っている可能性がある。


(勝ったけど…。こんなもん十中八九詐欺だよなあ…。)


リサはおじいちゃんからすぐにナギに目を移す。

あまりにも嬉しそうに血塗れの肉塊を引きずるナギの横顔に見惚れて

〝いやすね〟しないという非人道的行為は継続された。


「〝ミライさん〟!契約書みたいのってありますか!?」


わくわくナギ。

逃がさない気だ。


「あっすいませんすいません!作ります!すいませんごめんなさい。あっあと〝さん〟じゃなくていいです!すいません!こんな!自分なんて呼び捨てで!すいません!ごめんなさいすいません!」



〝金髪の謝罪癖ミライ君〟が作った契約書をナギはよく読み、問題ない事を確認する。

気絶したおじいちゃんの人差し指を取り、彼の顔面から流れる血をすくって無理やり押印した。


(ナギ、アクティブ過ぎない?…。指紋って意味あるのかな…。)


息はあった。

二人は道場の外で〝金づる〟が目を覚ますのを待つ。

〝いやすね〟の存在は頭にあったが唱えない事にした。

情けは無用。

仕掛けられたのだから。勝負を。


「働かなくていいんだ~。よかった~。」


そう言って笑顔のナギ。

リサはその横顔をじっと眺めていた。


「リサ、あれも持って帰っていいのかな?」


少年が〝ドーゲンミライ道場〟と書いてある看板を指さした。

冗談か本気かはわからない。


「すいません!ほんとこの度はすいませんごめんなさい!

起きました!ドーゲンさん起きました!!ごめんなさい!」


二人は声の方向を向く。


「よかった~!二千エンテください!あっ四千か!」


ハイビスカス少年、容赦ない。

一応勇者である。

〝ドーゲン〟は泣いていた。


「ううっぐすんぐすん、勝手に契約書まで作ってえ…ぐすんぐすん。約束だから四千エンテあげる。ぐすん。」


「あの、〝ドーゲン〟さん、涙。出てないです。」


リサは低い声で指摘する。

ナギは負傷した老人からこの上ない笑顔でお金を受け取った。

千年越しの勇者は大豊作。


「え~ん、ぐすんぐすん。なんか買ってってよ~。すぐ覚えられるものばかりだから~。ぐすんぐすん。」


〝ドーゲン〟は二人の勇者にスキルのメニュー表を差し出した。

流れるような所作。


++++++++++++++++++++++


・スクランブル交差剣:通常攻撃多段ヒット(当たるかはキミ次第)

・黒:闇に紛れるならコレ

・白:まばゆい光につつまれる

・ずっとも:相手が笑顔になる

・てんあげ:ごきげん状態の時に魔法攻撃力めっちゃアップ

・ばくそく:目にもとまらぬ速さ

・げきおこ:怒ったらめっちゃ攻撃力強化


++++++++++++++++++++++


「おじいちゃん、これってやっぱり魔法みたいに使うときに叫ぶの?」


メニュー表を目で追いながらナギが聞く。


「そうだよ~。叫ぶの。ほh…」「ぐすん。」


思い出したように〝ドーゲン〟は泣いた。


「僕、いらないです。本気で怒った時に〝げきおこ〟って叫ばないですよね。」


ナギはストレートに言い放つ。

言葉を重ねる。


「なんでおじいちゃんはリサとの勝負に〝ばくそく〟を使わなかったの?」


(なんかナギ性格変わった?)


黙ってメニュー表を見つめたまま動かないドーゲン。

少年に問いただされる動かない老人というのは怖い絵面だった。


「あたし、〝ずっとも〟買うよ。ドーゲンさん、いくらですか?」


リサは自分の暴力によりナギが笑顔になった事に

満足していたので値段次第で買うことに。


「五千エンテ。」


「辞めます。」


「二千エンテ。」


「八〇〇だったら買います。ずっとも。」


九五〇エンテで購入した。

別にキャンディとかではなく〝ちょっとした講習〟を少ししただけだった。

帰り道、ナギは鼻が高い。


「あれ絶対に詐欺だね~。気をつけよっと。」


「だから怪しいって言ったじゃん。」


「〝スクランブル交差剣〟とか、絶対にうそだよ。

ほんとだとしても、ブローチに会ったら〝スクラ〟辺りであの世行き。」


勝ったのはリサでこの少年は何もしていない。

得意げなのはおかしい。

しかし発言は一理あった。

全て叫ぶ前に殺されるだろう。

ブローチと接敵した事により、少年の基準が大きく世の中と変わっていた。


「それにさあ。あのミライ君って人も謝る割には止めなかったよね。

うさんくさかったね~。」


「ナギ。」


「何?」


「ずっとも。」


ナギの口角がフフッと上がる。

リサは買ってよかったと思った。





宿に戻るとカウンターに〝キュー〟がいた。

ちょうど仕事上がりらしく、軽食を摘まみながら話す事に。

宿屋のフリースペースでナギと座って待つと

大きな皿を器用に運びながらキューがやってくる。


「今カウンターにいるのがウチのおにいちゃん、〝ドレン〟ね。」


キューは大皿を円状のテーブルに並べながら顎でカウンターを指す。

二人が会釈すると笑顔の爽やかな男性から会釈が返ってきた。

茶髪のショート。

体格が良い。

〝ハドワン・キュー〟その兄の〝ドレン〟主に兄妹で営んでいるらしい。

キューは二十歳くらいだろうか、ドレンは三十前といった感じだ。


皿にはそれぞれサンドイッチ、小さい海老の素揚げ、フルーツが乗っていた。

リヴェル村(ナギリサの出身)では魚介類を食べる機会が少なかった。

海老のフリットをキューに紹介されたナギの目が輝いている。


「リサ、アネット呼んでくる。」


階段に走り出そうとするナギの服を強く掴んで止めるリサ。


「急だしやめときなよ。疲れてたら迷惑になるよ。」


「食べて食べて~。無料なので安心してね~。お腹空いた~。」


サンドイッチに視線を落とし、

一口大に切りながら言うキューの口調は軽やかだった。

仕事終わりだからだろう。

それでも気怠そうに感じるのはきっとそういう話し方なのだ。

ナギは座り直して海老のフリットに手を伸ばす。


「二人のそのハイビスカスかわいいね~。どこで買ったの?」


「露店で売ってましたよ。これ珍しいんですか?」


うまっ。と少年から聞こえる中、リサが答えた。


「うん、あんま見ないね~。ウチも買いに行こっと。っていうか、丁寧に話すのやめて~。」


「街でぴょんぴょん跳ねたり建物の壁滑ったりしてる人いるんですけどあれってなんですか?魔法?」


遠慮なく海老のフリットを摘まみながら質問するナギ。


(なんかブローチからナギって積極的になった気がする。)


「〝シューズ〟の事?」


キューは聞き返しながらナイフをしまう。


「〝シューズ〟?」


目を輝かせながら会話する少年。

リサはその表情をちらりと見る。


「そうそう。地中に流れてる魔力を大きいノードで建物の壁とかに這わせてんの。

その上を〝エーテルシューズ〟って専用の靴で滑ってるんよ。」


「大きいノード?」


「〝エテカ(エーテルカード)(かざ)すやつあんじゃん?あの大きいバージョンがミトハロにあんのよ。」


リサも海老を摘まみながら二人の話を聞く。

口に運ぶ途中、脇から木の器とフォークが出てきてぎょっとしたがドレンだった。

御礼を言って二人に配るリサ。

キューの白いデコ付きネイルに視線が吸い寄せられる。


「ウチの店は中心街じゃないから大丈夫なんだけどさ。

夜とか煩くて眠れない宿もあるらしいよ。

シューズ禁止の張り紙とかほとんど意味ないしね~。」


(ネイルかわいい。やっぱオトナは淡い色だよね。)


「別に街は煩くなかったですよ?」


視線をネイルから顔に移して〝ギャル見習いのリサ〟が会話に参加する。

サンドイッチを飲み込むキュー。


「魔法で壁を〝つかんで〟〝引っ張って〟その力で滑ってんのよ。その衝突音がけっこうすごい。」


〝つかむ〟という言葉でナギの視線が少し鋭くなる。

何かを考えているようだった。


「〝つかんで〟滑って飛んで、また別の場所〝つかんで〟の繰り返しだからさ~、アレ。

そんなに長距離つかめる人は少ないから、でかい音はしないんだけど、

さすがに住んでる人からしたら鬱陶しいよ。夜は特に。」


「普通の靴だと滑れないの?」


少年が聞く。

なぜか頭のハイビスカスが消失していた。


「シューズにもノード入ってんの。たぶんエテカ(支払いの時に使う)でさわるやつと同じサイズじゃん?なんで滑るのかは謎~。」


ふーんとサンドイッチを頬張るナギ。

少し良くなったとはいえ怪我の腫れと相まってパンパンだ。

リサは少年のハイビスカスを探す。


「〝レイル〟すっか~。って感じのノリでやってる人多いからさ、

ぶつかんないように気を付けてね~。中には血の気多い奴もいるし。」


「レイル?」


「ナギ、食べてから喋って。」


〝顔パンパン勇者〟は無視。


「滑る?走る?それを〝レイル〟っていうんだよね~。」


「あの…キューさん。」


リサに拾ってもらったハイビスカスを受け取りながら、

ナギは言い淀む。


「ねえ、〝さん〟付けないでいいよ~。次付けたら〝ナギナギ〟って呼ぶよ。」


目が開くナギナギ。

やはり嫌なのだろうか。


(あたしはリサリサって呼ばれてみたい…。)


「キュー、あの…レイルって何が楽しいの?」


「言うねナギナギ~。」


爆笑するキュー。


「なんか技みたいな?遊び方?それで競ったりしてる。

空中で何回転できるかとか、なんかそんなんじゃん?詳しくは知らんけど。」


「キューさんもやるんですか?」


リサリサと呼ばれたい〝ギャル見習い〟。

あえて〝さん〟を付ける。


「ウチはやんないね~。でもシューズは乗れるよ。

ほんとたま~~にある配達の時とか使う。

食材の仕入れ先があるからさ。

ミトハロって前は漁業が盛んだったんよ。」


「けっこう海に出る人多いんですか?」


漁業と言うからには船だろうか。

アルセナに戻れるかもしれない。

リサは食いついた。


「最近はもうたいして動いてないと思う。

ノードを使った配達の方が早いしお金になるからそっちがメインになっちゃったね~。

魔王も復活したらしいし、今海に出ようって人少ないと思う。

釣りとか、網使ったりとかしてる人はいるかもしんない。」


口角を上げてキューは続ける。


「勇者様、泊りに来ないかな~。ウチ、ソッコー近づくと思う。かっこいいんだろうな~。

男だったらミトハロいる間だけでいいから結婚してほしい。」


ふと横を通り過ぎるドワンに話を聞かれ頭をはたかれるキュー。

リサは即座に話題を変える。


「配達がメインって、大きいノードっていろんな街にあるの?」


焦って丁寧な口調ではなくなってしまった。

ドワンに軽く悪態をついた後、ころりと表情を変えてキューは顔を戻す。


「いや、ここの街だけ。ひとつでかなりカバーできるらしいんだよねあれ。

ノードがあるミトハロが一番魔力が強いってわけね。」


「キューは宿だけじゃなくて配達もやらないの?」


話題が戻らぬよう掘り下げるリサ。

キューは海老のフリットを口にしていた。


「ドワンに止められたー。あれさー。違法じゃないんだけど、ちょっと複雑らしいんだよね~。」


「〝クラックラン王国〟がよくない顔してるんだよ。」


低い声。

ドワンがキューのすぐ横に座りながらフルーツをひょいと摘まむ。

仕事しろよと兄の肩を軽く殴る妹。

ナギの表情は戻り、ドワンを見つめていた。


「この辺の〝ウィキアーク〟とか〝セグイド〟はすんごく推奨してるんだけどね。

金になるから。クラックランはよく思ってないからさ。巻き込まれたくないんだよな。」


言い終わるや否やドワンはキューからどやされまくっていた。

ものすごい勢いでフリットとフルーツを口に放り込み、

ナギの顔の怪我を心配しながらサンドイッチ片手にカウンターに戻っていく。

気さくな男性だ。


「そんな感じで、ウチはレイルはナシ。

〝クラックラン〟も嫌な顔してるだけで別に揉めるわけじゃないと思うんだけどね~。

ノードってあれ、壊せないんよ。ミトハロ独り勝ちってわけ。

独り勝ちって言っても他の町でもやってると思うけど。

まぁ宿に集中したいっていうドワンの考えもわかるしね~。」


ドワンを立てるキュー。

仲がいい兄妹なんだろう。


「ナギナギ~、やってみたかったら言いな~。いつでもシューズ貸すし教えるよ~。」


「えっいいの?やるやる。今度教えて。」


リサはトマトとチーズのサンドイッチに目一杯噛り付く。


「あ、そう言えばナギナギ、〝ルント〟のお店行った?」


焦るナギナギ。

リサはサンドイッチを咀嚼しながら二人の表情を見る。


(は?ルント?誰?)


「あ、まだです…。」


「えー!早く行って。今日行って。明日行って。約束ね。明日。

なんか良いものあったらでいいから、たくさん買ってあげて。」


「うん、わかっt…わかりました。」


萎縮してしまったナギナギ。

キューが場を和ませるような口調で話す。


「行かないとサンドイッチ、お金とるよ。」


「いくらですか…??」


「五万エンテ。」


ころころと笑う二人を、リサは〝ドーゲンミライ道場〟の時とは違う表情で眺める。

その後、他愛のない雑談をしてキューは宿を出て行った。


カウンターでドワンとナギは何かを話していたが

リサは一人で部屋に戻って行った。




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