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第0話/理不尽な出発の前日/RISA.pov


少しの息切れと落ち葉を踏む音を小気味よいリズムで感じていた。

枝を避けて土から顔を出している根を飛んで

たまにある花をなるべく踏まないように。


ちょっとした枝とあたしの頭が衝突した時、

少し遠くに、木の幹に寄りかかって座っている一人の少年が見えた。

木陰で呼吸を整えてから音を立てないようにゆっくり近づいて声をかける。


「よ、となり座っていい?」


ボサボサの黒髪の男の子がこちらを見上げてきた。

木の陰になっているからか、やたら表情が暗い。

ナギだ。

それなりにあたしの足音はしていたはずだけど、

声をかけるまで顔を上げないなんて、彼は相当絶望していたように見えた。

ボサボサ頭が黙って池に視線を向けたので、了承と見做して隣に座る事にした。


「明日出発だね。」


「うん。」


その無表情からは百点満点の、消え入りそうな語気だった。

絶望確定。明日からの事だろう。

〝勇者の剣抜けた人が勇者〟って今思えば、雑なイベント。


そういえば、ナギとは小さい頃にそれなりに遊んだ記憶があるけれど

いつからか一人で過ごしてるのを見る機会が多くなっていった。

こないだ、村が行ってくれたちょっとしたパーティで久しぶりに話した気がする。


「僕、勇者になんかならないよ。」


今までの自問自答が溢れたかのような一言に笑ってしまった。

あたしはまだ何も言っていない。


「剣が抜けちゃったらどうすんの。」


自答途中の独り言だったのか、出鼻を挫きにきたのか、ナギは黙った。

あたしこれ、どうすりゃいいの。


「なんであたし達なんだろうね。」


「ちっちゃいころ僕、占いおばばの庭にある果物を盗んでた事があってさ、

それを根に持ってるから僕なのかなと思ってこないだ聞いてみたんだけど、そもそも盗んでたのバレてなかった。」


つい吹いてしまった。

村の占い師のレナーシア・サディナにナギが食い下がっていたのを思い出した。

怒鳴られていたけど、そういう事か。


過去に言われたサディナのしゃがれた声が耳の奥で震えた気がした。

〝リサ、おまえさん今日いい事あるよ〟

あれ、外れたなあ。


「なんでなりたくないの?かっこいいじゃん。勇者。」


「嫌だから。リサはなりたいの?」


「なりたくはない。」


「ほら。」


「でも、なったらモテるかも。」


少年の全身をボサボサ髪が包みそうなくらい

陰気が充満したのを感じて話題を変えた。


「ナギ、普段何してんの?」


「お昼くらいに起きて、母さんにドヤされなかったら散歩したりその辺の小さい子と遊んだりしてる。」


「つまりなんもしてないじゃん、ドヤされたら?」


「木登りとか。」


ぜったい嘘。


「あんた、家の手伝いとかはしてないわけ?」


溜息と同時にボサボサ髪にとじこもってしまった。


「もし勇者になったら、ほんとに世界を救わないといけないのかな。」


虫かと思って自分の頭を撫でたら葉っぱがついていた。

さっき枝と衝突した時だ。

ちなみに目の前の男子との会話は諦め気味。


「そりゃそうでしょ。パーティ組んで特訓とか、街の人の手助けとかするんじゃん?いろんなモンスターと戦ったりとかさ。」


「うわぁ…リサはモンスター見たことある?」


「普通にあるでしょ、ネズミみたいなやつとか。」


「それただのネズミじゃない?」


今日の晩御飯、なんだろうな。

明日出発だからいつもより豪勢だってお母さん言ってたけど。

そういや、なんで占い師って晩御飯当てられないんだろう。


ナギがお構いなしに不安をぶつけてくる。


「もし勇者になったらそのまま旅に出ないといけないのかな。」


「そうなんじゃん?」


「一人で?」


「知らないよ、さすがに護衛みたいのいるんじゃない?」


「勇者が守ってもらうのおかしくない?それなら護衛が世界救えばいいじゃん。」


「たしかに。」


今日の晩御飯、大好きなシチューかも。

早めに帰ろ。


「お金はどうすんだろ。」


「くれるんじゃん?」


「誰が?」


「お城の人が。」


「それはいいね。リサはそれで何買う?」


「ネイルしてみたいんだよね、この村ないし。あっても家の手伝いでできないから。」


ナギの馬鹿にしたような笑い声で意識のピントが会話に戻る。

本気で言ってるわけないでしょ。

さっきまで絶望していたクセに。

あたしよりも二つも年下のクセに。

あれ?三つだっけ?ナギって十二歳?十一?

勇者ってネイルできないの?ほんと?


「じゃあ、あんたは何買うの?」


「大盛の果物かなあ。」


たしかにネイルしてる勇者って想像つかない。

そもそも勇者っていつ辞められるんだろう。


「勇者って、いつ辞められるんだろうね。」


「そりゃ、魔王倒すまでじゃないの?」


「おじいちゃんおばあちゃんになっても?」


「世界がそれまであればね。」


ネイルを諦めかけたのと同じタイミングでナギも世界を諦めたようだった。

珍事である男子の挙動不審ぶりを二度見していたら

早口で矛盾を放ってきたのはさすがに少し心配になった。


「い、いや、きっと辞められるよ。無理そうなら。」


「お金返せって言われるかも。」


「死んだ事にすれば…」


男子のパニックって初めて見たかも。

さすがにその言い分は苦しいだろう。



***



その後、どうでも良いやりとりをさらにして

ボサボサ頭の手元のガサガサ音が止んだ所で帰路が浮かぶ。

ナギがぽつりと聞いてきた。


「明日、出発の時ジョージおじさんが送ってくれるって?」


「らしいよ、なんで?」


「いや、なんとなく。」


ジョージおじさんとナギが話していたのを何回か見た事がある。

感慨深いんだろう。


「じゃあ、あたしそろそろ帰る。」


「うん。」


「まだいるの?」


「うん。」


「そう、じゃあまた明日ね。」


「うん、また明日。」


帰り道、木の根っこに足をとられて軽く転んだのは彼の事が心配とかではなくて

ネイルの件が脳みそを占拠していたから。

割とまじめに、そういう事なのだ。


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