第118話/気づいた地点がゴールじゃなくてスタートなのって、グロすぎでしょ。/Limited_NAGI
砂浜に座り、呆然としていた。
久しぶりなはずはないのだが、波の音を久しぶりに聞いた気がした。
何故か砂が少ないような気もする。
小石や貝殻が散乱しており、所々掘り返されたように色合いが異なっている。
まるで砂浜の上を巨大なほうきが雑に通り抜けたかのように、散らかっていた。
カニの数も多かった。
いつもなら、目を凝らしてようやく一匹二匹見つけられる程度だ。
それが今日は、目を向けるたびに数匹が砂の上を這っていた。
〝これは現実だよ〟ブローチがそう言った瞬間。
目の前で無遠慮な願いを叫んでいた大人達が全員死んだ。
もう会う事は出来ない。それぞれの過去や想いなど、ナギには知る事はできない。
興味もなかったが、どうしてもふたつ疑問が浮かんでいた。
ドーゲンはなぜ壁を修理しなかったのか。
金がなかったのだろうか。
しかし、サファとミライで配達業の人間を出来る限りコントロールしようとしていたのではないか。
それならば、キノピッピはかなり重要だろう。
空き巣に入ってくれと言わんばかりの大きさの穴、なぜ塞がなかったのだろうか。
さらに、マヤはなぜ、わざわざ〝道端〟に自分を案内したのか。
〝道端〟が口を滑らせでもしたら、ナギがこれから捕まる事がバレるリスクがあった。
あの場にナギを連れていくメリットは薄いように思えた。
寄せて返す波のリズムに合わせて、ゆっくりと考えていた。
ミトハロで、特に抗争で様々な人間の反応を見る事が出来た事で、今までにない考えが浮かぶ。
(二人とも。止めてほしかったのかもしれないな。なんかバレてほしかったのかも。)
まったく理解が出来なかったが、そう考えると中途半端な広場での行動なども辻褄が合ったのだった。
〝意見を言う勇気〟と書いてある本を布の袋から取り出す。
(ドーゲンは、意見を言いたかったのかもしれない。)
ナギは嘘はつくが、ドーゲン程ではない。年をとっても彼と自分は全く別の人生になるだろう。
だが、勇者の剣を抜いた時の自分のまま、何も成長せずに過ごしてしまっていたら、ドーゲンのようになっていたかもしれなかった。
本をぱらぱらとめくっていると、腹がぐぅと鳴った。
興味なさそうに本を閉じて砂浜に置くと、布の袋に顔を突っ込んだ。何やら甘い臭いがしたのだ。
見た事のない衣服がいくつか見える。
明らかに女性ものの下着が入っていた。
手に取ると、小さい紙が砂浜に落ちる。
胸を覆う布には〝吸っていい〟履くものには〝嗅いでいい〟そう書かれていた。
ウォッチの狂った顔が浮かぶ。
マヤの可能性も考えたが、布に目をやると、ウォッチの狂った顔が浮かんだ。
赤色とカラフルなもの。
信じられない事に、それぞれ上下でワンセットずつあった。
あとで燃やそうと思い、砂浜にひとまとめに下着を放り投げる。
布の袋に頭を突っ込んでいると、携帯食が見えた。
飲み物もある。
ナギは目を剥いた。
木の筒に引っかかる布の袋を強引に引き剥がし、無理やり木の筒の蓋をとる。
中に入っている水を一気に飲み干した。
体全体に染み渡るのがわかった。
水を飲んで、気持ちいいと感じたのは初めての経験かもしれない。そう思った。
携帯食の包みを雑に破き、干し肉に齧り付く。
早朝から何も食べていない。涙が出そうになる程おいしかった。
目を瞑り、鼻息が荒くなっている事にも気づかずに夢中で飲み込んだ。
小さな紙が落ちる。
口をもぐもぐと動かしながら見てみると〝食べていい〟そう書かれていた。
変わった文体だ。そう思い、紙を投げ捨てる。
干し肉をあっという間にぺろりと平らげて硬いパンに手を伸ばす。
ウォッチはかなり狂っているが、会話は出来る。
だが、特段、何か迷惑をかけてこようとは考えてなさそうだった。
〝迷惑という概念がある狂人〟ナギにはそう映っていた。
思い返せば、ウォッチは言葉遣いが悪い事が多い。
少し直情的でもある。
しかし、かなり丁寧なのだ。
彼女が嫌々だったのは最初に低い蹴りを教えてもらった時くらいではなかったか。
それ以外は、後ろ向きでもない気がした。
砂浜に纏めて置いた下着を見てため息をつく。
もしも今度会う機会があったら返そう。そう思って布の袋に突っ込んだ。
グローブ・Kのアジトへ来いと言われていたが、少しだけナギは疲れていた。
一人になりたかった。
携帯食を食べ終わると、物足りなさそうな顔で布の袋をまさぐる。
他に食べ物はないようだ。
顔を上げ、砂浜に視線を這わせる。
普段の場所とは違い、今いる砂浜が特別なのだろうか、やはり貝殻や小石が散乱しているように見える。
目の前を横切るカニが目に止まる。
〝もえろ〟を買っておいてよかった。
腰のフライパンに手をかけた時だった。
雑木林から草が揺れる音。
顔を向けると、女が一人出てきていた。
目に手を当て、唇を歪ませている。
泣いているようだ。
リサである。
ナギは目を逸らした。
すすり泣きながらナギの隣に座るリサ。
人間三人分くらい、距離があった。
「ナギ、ごめん、ね。」
嗚咽交じりの声が隣からした。
「本当に、ごめん、なさ、い。」
その言葉を聞く度に、ナギの目から光が抜け落ちた。
瞳が暗くなっていく。
「許して、ください、ま、た一緒に、旅をさ、せてください。」
ひっくひっくと嗚咽が漏れる度、リサの肩が跳ねた。
手の甲と目に当てており、歪んだ唇しか見えない。
顔は紅潮しているようだった。
ラグナロク以外の荷物は、何も持っていなかった。
「ねぇ、なんか言、って、ごめ、んね、本、当ごめん、もう、しないから!」
何を、もうしないのか。少年はそう思った。
ブローチは〝なにもしない〟のが悪いと言っていたが、ナギはそこまで思っていなかった。
会話をしなかったのが悪い。ただそれだけだと思っていた。
〝もうしないから〟
何が起きているのかわかっていない事を示すには充分な言葉だった。
ラグナロクを振り上げちゃってごめんね。
殺しかけちゃってごめんね。
一刀両断にしかけちゃってごめんね。
そういうわけだろうか。
「あのさあ…。」
ナギが話しかけると、リサが一層泣き声交じりの声を上げた。
ひたすら謝罪を叫んでいる。言葉を挟む隙がない。
いい加減にしろ。そう思ったナギは、頭に血が昇ったのがわかった。
「なんか言って!って言う癖に喋らせてくれないし!ミライと一緒じゃないか!うざったいんだよ!なんか喋ってって!違うだろ!何か喋って欲しいんじゃないんだろ!おまえが求めている事以外、喋ってほしくないんだろ!ああいいですよ!許しますよ!って言葉を喋って!って事だろ!ふざけんなよ!」
砂を握り締め、思いっ切りリサに投げつける。
「じゃあ僕だってもうおまえらとは会話しないからな!好き勝手喋ってやる!」
ナギは好き勝手に喋り出した。
「おまえはどうでもいいよ!なんなんだ僕は!なんで今回の抗争に参加したんだ!参加しなくてもよかったじゃないか!キューも最初から無事みたいだったし!」
足を蹴り上げると砂がばさっと舞う。
リサが悲鳴と共に顔を腕で覆った。
「どうしたらいいんだよ僕は!弱いままでも!おまえは強いってなぜか言われるし!強くなったら一人ぼっちで虚しいし!仲間と一緒に戦いたいって思ってたらみんな裏切ってきてやっぱり一人になるし!」
膝をついて、砂浜に拳を叩きつけた。
「一人になろうと思ったらおまえみたいなバケモンがついてきて!なんなんだよおまえは!」
両手で砂を投げつける。
手をぶんぶん振っているだけで、飛んでいく砂に力は伝わらなかった。
「わかんないわかんないってそればっか言いやがって!僕もわかんないよ!どうやって生きたらいいんだ!」
指に激痛が走る。
振り回すと少し大きめのカニが飛んでいったのが見えた。
リサは膝を抱え、顔を突っ伏して泣いていた。
「一番弱い僕も一番強い僕も経験しちゃったんだ!これから僕はなんのために強くなればいいんだ!世界平和っていったって別に魔王関係なく、平和じゃないじゃないか!おまえみたいなぶっ壊れてる人間が!自分から平和をぶっ壊してるだけだろ!魔王に滅ぼされた方がいいんじゃないか!おまえらなんか!」
フライパンを腰から解く。
「いいよなおまえは!わかんないわかんないって言ってればいいんだから!楽だよ!ら!く!僕だって自分を誤魔化して生きたいよ!どうやって誤魔化せばいい!教えてよリサ!サファみたいに権力で自分を誤魔化して生きる!?なんだ!?勇者の権力か!?勇者ビジネスに乗ればいいのか!偉ぶればいいのか!」
フライパンで砂をすくう。
歯を食いしばった。
ぐらぐら揺れるフライパンの柄をしっかり握り、両手で持ち上げる。
「そんなのめんどくさいだけだろ!権力を実感してないのに!もう抗争に巻き込まれてるんだぞ!実感したらもっとめんどくさいに決まってる!権力なんてただの権力なのに!にゃ!」
噛んだ。
フライパンを振り回す。
すくった砂を、リサにぶちまけた。
「なんで権力〝で〟考えを止められるんだ!なんで権力と自分を結び付けて偉ぶれるんだ!なんで〝強くなったら〟考えを止められるんだよ!気づくだろ普通!権力は権力。強さは強さ!それだけなんだって気づくだろ!気づかずに人をバカにするなんて!自分はバカですって自己紹介してるようなもんじゃないか!」
ノードを吸収していない自分の力はとてつもなく貧弱に思えた。
フライパンをリサに向かって振り翳す。
しばらく止まっていると、砂浜に叩きつけた。
「挙句の果てに!みんなみたいにお金を言い訳にして生きようかなって!〝人生お金稼ぎだ〟って言い聞かせて生きようかなって!〝お金のためなら仕方ない〟って思ってたら楽だもんな!悪い事もできちゃうんだから!そうやって自分の事を誤魔化そうかなって思ってた途端!五千万エンテだって!大金持ちだ!ははは!ばかが!」
膝に手をつき、砂浜に向かって悪態をつく。
自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
「八方塞がりなんだ僕は!どうやって生きればいいんだ!教えてくれよ!僕だってみんなみたいに執着にまみれたい!おまえみたいに!自分を誤魔化して適当に死んでいければ幸せだったんだ!それをなんだ!もう気づいちゃったから無理じゃないか!これからどうしたらいいんだ!なんで僕はずっと一人なんだ!」
ナギは大きめの貝殻を拾うと海に投げつけて出した。
「強くなるって言っても虚しいだけだ!なんでおまえらは〝強いだけ〟でドヤ顔できるんだ!頭の病気なんじゃないのか!」
リサは突っ伏している。
目が合わない。
「強くなってもずっと独りだし!みんな僕に怯えてるんだ!〝はやく〟ってなんだよ!時間停止魔法じゃないかあんなの!なんかの物語だったら終盤に出てくるやつだ!最初の街だぞ!ミトハロは!サファってなんだ!攻撃されたら入れ替わるって面白すぎだろ!あいつが勇者でいいだろ!なんで僕が勇者なんだよお!もうぉぉ!」
砂浜に転がり出す。
リサは泣き止んで、心配そうにそれを見つめていた。
「ああいう!普段から〝我が強い奴〟が勇者やればいいんだよ!勝手にやってくれよ!」
ちらりとリサが視界に入る。
「おまえはなんで犯罪者集団なんだよ!タトゥーしやがって!」
カニを何匹か体で踏みつけた気がした。
「これタ、トゥー、じゃ、ない!シールだもん!」
リサが右腕を捲る。
見る気がないナギは、ひたすら砂の上を転がった。
「なんでもいいよ!犯罪者集団と一緒に旅なんて出来るわけないだろ!」
ぐるぐると、砂と空が視界に現れては消える。
「犯、罪して、ないもん!」
リサの涙声が聞こえてきた。
「じゃあ何してたんだよ!」
「トマト太郎!」
「ああ!?」
「ト マ ト 太 郎 !」
「ええ!?」
「だ か ら!」
リサが口を開こうとした時、ナギの体がぴたりと止まる。
砂だらけの顔をリサに向けた。
膝をつき、正座の格好で目を丸くして震えた声を出す。
「トマト太郎、読んでたの…?毎日…?」
目に涙を溜め、ナギを見つめて頷くリサ。
〝ゲシュタリーゼ〟と〝配達の極意〟もちょっとだけ読んだ。そう意味の分からない事を言っていた。
「僕がグローブ・Kにボコられている時、おまえはトマト太郎読んでたっていうの…?」
リサは再び泣き出すだけで返事をしなかった。
頭が熱くなる。
強く握り締めた砂が、拳の両脇から零れていった。
わずかに拳の中に残った砂を投げつけるのを我慢する。
「リサ、僕たちの生活が、もし物語だったとしたら。」
気づけば意味不明な事を口走っていた。
頭が熱い。
指先がびりびりとする。
このままリサを殺してしまいそうだ。
ナギの言葉に泣きながら頷くリサ。
それを死んだ瞳に映しながら、淡々と尋ねる。
「おまえの執着のせいで、何文字使ってると思う。」
「執 着って 何…五。万字、く、らい…。」
嗚咽交じりでそう答えた。
「多分、三十万文字から四十万文字くらいは、いってると思う。おまえがハッキリしていれば。僕はグローブ・Kに行く事もないし、抗争に参加する事もない。ミトハロのみなさん。頑張ってくださいね。それじゃあさようなら。ではアネット、行きましょう。それで終わりなんだ。」
ナギは立ち上がり、潰してしまったカニを拾い上げる。
フライパンに投げ置きながら言う。
カニがフライパンを跳ねる甲高い音がした。
「僕たちの生活が何かの物語なんだとしたら、おまえが素直にならないせいで、たった数文字の会話から逃げたせいで。それだけ使ってるかもしれないんだ。僕はもう、そういうの嫌なんだ。自分の人生を一生懸命に過ごしたい。僕の前から姿を消してほしいんだ。」
ナギは真剣な眼差しで言った。
人に何かをしっかりと依頼するのは初めてかもしれなかった。
「でも、これ、は物、語じゃあ、あり、ませんか、ら・・・」
鳴き声交じりでリサは言う。
「リサ。」
「ふぅぁい…。」
返事すらまともに言えないほど、ぐしゃぐしゃの顔のリサ。
死んだ顔のナギ。
「もし。誰かひとりの意味わからない執着で三十万字使ってる物語があるとしたら。キミは読むかい?」
「読、み ま、せ ん…。」
嗚咽が激しくなった。
ナギは出来る限り冷静に、しかし容赦なく言い放つ。
「そう。読まない。ちなみに僕達が今いる世界は物語じゃない。ちゃんとした現実だ。でも、物語と同じだよリサ。僕だってそんなめんどくさい物語読みたくない。つまりだよ。おまえのめんどくさい〝なんかの執着〟に付き合いたくないんだ。僕は僕の人生を過ごしたいんだ。」
言葉が止まらない。
叫び出しそうだった。
「全部おまえのせいにするのは違うかもしれないけど。おまえが宿に帰って来なくなってから、魔法の練習だって集中できてないし、もっと色々考えたかった事を全然考えられてないんだ。僕は僕の物語を一生懸命生きたい。だから、リサはもう適当にどっかで一人で暮らしてよ。五千万エンテは本当にあげるから。村にも戻れるはず。別にバカにしたりとかもしないよ。」
なんかの物語みたいに、スローライフでもしなよ。鼻で笑って言ったのがよくなかった。
リサが興奮してしまった。
「いや…!いや!いっ、しょ、がい、い!」
ナギのこめかみがぴくついた。
目を細くして考える。
こいつはなんなのだろう。
ナギがブローチにかけられた呪いの事など、まったくわからないのだろう。
リサ自身が楽になるために、その時に彼女が不安にならない方にひたすら進んでいるのだろう。
ブローチもなんかそんな事を言っていた気がする。
めんどくさくなっちゃった。そう思って声を張り上げる。
「じゃあもういい!僕が死ぬ!おまえがどこにも行かないなら僕が死ぬ!それでいい!さようなら!」
ナギは一目散に海に走り出す。
貝殻が刺さってよろける。
砂に足をとられて走りにくい。
お構いなしに、ばしゃばしゃと浅瀬に入っていく。どんどん海面が顔に迫った。
胸の下あたりまで海に浸かった時だった。
黒い背びれがふたつ。
目の前に現れた。
水しぶきと同時に笑っているかのような口の鮫が顔を出す。
目が赤い。
(にっこりシャーク!)
命名が流暢になるくらい、特徴的な顔の鮫がざばっと海面から出てきた。
笑っているように見えた。
初めて見る水中の魔物。大きい。
ナギは踵を返し、手で水を掻いて走り出す。
足をとられて進みにくい。
咄嗟に自分の背中へ手をくっつけると〝はなれて〟を連発する。
撃ち始めは威力がなかったが、海面から体が飛び出ると、威力が噴き出るように増した。
砂浜に転がるように着地する。
痛い。やはり砂が少なくなっている。地面が固い。
肘をついて顔を上げる。
背びれを海面から出し、ゆらゆら回遊している〝にっこりシャーク〟を息荒く眺めていた。
泣いているリサが目に入る。
苛立ちを抑えられなかった。
リサに顔を向け、鮫を指差して怒鳴る。
「ああいうのだって!今までいなかったのに急に出てきた!ミトハロに魔物は出ないって言われてたのに!さっきだって今回たくさん出た!でも街には全然いない!ここにもいない!」
辺りを念のため見回した。
大丈夫だ、いない。
「こういうのも!色々考えなくちゃいけないんだ!いろんな可能性を考えないとすぐ死ぬんだ!僕はさっきの抗争でいつ死んでてもおかしくなかったんだ!それをおまえはわかんないわかんないって泣いてるばっかで!戦力にならないんだよ!僕は一人で旅をする!」
「いや、、いやぁぁあ。」
口を大きく開け、顔を上げてリサが叫ぶ。
ぶん殴りたかった。
後頭部が熱くなる。
祈るように掌を合わせ、目を閉じる。
大きな声で叫び返した。
「サファなんて!あんなに面白い設定の人間!いや!魔女だったけど!あんな変わった人間!すぐ死ぬわけがない!絶対に別の世界線がある!ぞっとする!目の前のバケモンとサファと一緒に旅をしなくちゃいけないなんて!考えるだけで吐きそうだ!そんなの死ぬに決まってる!」
僕は頭がおかしくなっちゃった。ナギはそう思った。
リサの口からトマト太郎が飛び出したのがよくなかったのかもしれない。
ピーマン侍編だったか、パプリカガンマン編だったか。世界線ワープの話がトマト太郎にはあるのだ。
村でよく言われていた〝十四歳病〟のような事を初めて口走る。
しかし、もう別に、目の前の人間とまともに会話する必要はない。
意味の分からない事をナギ自身も喚けばいい。
そういう風に、目の前で泣き喚く人間に対して諦めていた。
掌同士を力強く押し付ける。
さらに声を張り上げた。
「別の世界線の僕!負けちゃだめだ!こんなバケモノ放っておいて!自分の人生を生きて!絶対に僕なら大丈夫!こんな奴らのために絶対に死んじゃだめだ!生きて!」
なぜか涙ぐんでいた。そう思った時だった。
くっつけていた掌が暖かくなる。
目を開けると、ぼんやりとした光がどんどん力強くなっていた。
たちまち膨らむと、光の柱となり、空高くに昇って消えていった。
驚いたナギは尻もちをつき、すぐに空を見上げた。
口が半開きだったが、開いている事すら忘れていた。
目元に手の甲をつけて泣いているリサと上空へ、交互に視線をやっていた。




